間話、イクォール国の婚約申し入れ
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イクォール国、サティリア姫は美しい少女だ。
黒髪黒目。艶やかな髪は背中まで伸ばされており、光にあたると髪に天使の輪を作り出す。
目はぱっちりとして大きく、小顔で身体の部品が全て細く小さい。
性格は穏やかで他者の気持ちを組む優しさがある。
頭も同年代の女性の中では抜群に頭が良い。
兄、サファド王子はイクォールの至宝と呼ばれ、数々の発明を行い、国の生産性を向上させてきた。
それらの実績からすると霞むが、サティリアもまた、いくらかの発明に関わっている。
サファドはそんな妹、サティリアを誇りに思っていた。
妹以上の女性はいない。そのように思っていた。
「サティリア姫は相変わらずお美しいですね」
他国の外交官から絶賛の言葉を浴びるサティリア。
サティリアの魅力は、この美貌だけではない。賢く、優しさも持っている。
我儘は言った事もなく、王女という権力を使う事もしない。
「クーロン国のフェリス姫程ではありませんが、近隣では屈指の美姫でしょう」
サファドは何を言われたのか良く解らなかった。
「何だ、そのフェリス姫というのは」
「クーロン国の至宝、フェリス姫ですね」
遠目に見ただけの大国の王子を骨抜きにして、自国に帰ってから執務をしなくなった、とか。
急に表れたフェリス姫を見た警備兵が、あまりの美しさにで心臓が停止して死亡した、とか。
信じられないようなエピソードを語る外交官。
サファドはサティリアを、そのフェリス姫とやらの下だと言う所が気にくわず、苛立ちを露わにする。
「滅多に表には出てこない姫です。私も一度お会いしただけですが、あれはもう人間離れした容姿ですな」
そろそろ婚約をすればいかがか?そのように回りから言われ始めていた。
サファドは、十九歳になる。
婚約していてもおかしくないのだが、どれだけ女性に会っても、サティ以上の女性は居なかった。
もちろんサティへの感情は妹に対する物であるが、サティ以上で無ければ恋をする事も出来ないだろうとサファドは考えていた。
いくつもの女性の写真を持ってくる宰相に対して、サファドは必要ないと言いかけて、ふと一人の話を思い出した。
サティ以上の美姫、フェリス姫……か。
サティ以上の美しさを持った姫なんて居るわけがない。フェリスとやらを見て、大した事が無ければ笑ってやろう、と。
劣化フェリスと言われているサティへの会話のネタになるかもしれない、と。
写真は無かった。
「よし、決めた。クーロン王国のフェリス姫だ。フェリス姫となら婚約してやってもいい」
周囲がざわめく。
「フェリス姫には姉上が居るため、そちらの方に申し入れる方が問題は無いのですが、そちらでは?」
外交に顔を出し、人柄も良く、頭も良く、見目も麗しく、武勇もある。
フェリスの姉でも、手をあげて喜ぶ程の姫なのだ。
「ダメだ。フェリス姫以外なら、俺は婚約しない」
クーロンの至宝、フェリス姫。だが、婚約の申し込みはイクォールの至宝、サファド王子。
両方共に釣り合いが取れる……がしかし、表にはあまり出てこない絶世の美姫。
クーロンの王族が、猫可愛がりしている秘蔵の姫を簡単に出してくれるだろうか。
王と宰相は考える。クーロン側とはクーロンに有利な同盟を結んだ直後だった。その同盟の見返りとして、関税の引き下げが半分決まっているような状態であった。
関税の引き下げ申し入れを引き、フェリス姫との婚約を持ち出せばもしかしたら通るかもしれない。
噂でしかない美しいとされるフェリス姫との婚約。
それも外交の表には出てこず、頭脳も武勇も人柄も解らない謎の姫との婚約。
そんな姫のために、今後長く続くであろうクーロンとの貿易での関税を比べると、もったいない、と思う。
しかし……サファド王子の言う婚約条件、サティリア姫以上の姫となると、かなり絞られるのは確かであった。
フェリス姫の姉、クーロンの第一王女は、確かに美しいがサティリアよりも美しい、という程ではない。
サティリア姫は、近隣諸国稀にみる美姫なのだ。
王と宰相は、サティリア姫を、劣化フェリス姫と称した外交官の事を恨んだ。
「とりあえず、申し入れるだけ申し入れてみよう……」
フェリス姫を出すのを拒めば、それはそれで仕方がない。
断った面目もあり、関税をもう少し有利な形で結べるかもしれない。
そう決断した王と宰相が、隣国クーロンの至宝、フェリス姫と会うのは、この会議から一カ月後の事となる。