フェリスと風邪
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「フェリス様が風邪を引かれました」
フェリス付きの侍女は症状は軽いのですが、と言う。食欲が無いらしく、朝食も今日は不要らしいです。
サファドとサティはすぐに、麻薬であるサマの葉を知らせるために、夜中に出歩いていた事に思い当たる。
身体が弱いのかもしれない、という王と王妃の誤解を解き、サティはサマの葉の事件について告げる。
「サファド、婚約者が風邪を引いたのだ。きちんと様子を見るようにな」
「病気の時は誰も不安になるもの。その不安を埋める人には好意を持つわよ」
「……解ってますよ」
王と王妃の言葉に、サファドは頷いた。
フェリスは部屋の布団で転がっていた。寝間着は自国から持ってきた物で、薄い生地の物だ。
「フェリス、入るぞ」
コンコンとノックされ、サファドの声が聞こえる。直後、フェリスの部屋のドアが開けられる。
サファドとサティが入り、二人は布団に入ったままのフェリスを見て、心配そうな顔を浮かべる。
「フェリス姉様、大丈夫?」
サティがフェリスを伺う様に顔を出す。
「うん、大丈夫」
サティはフェリスの横に座り、覆いかぶさるようにおでこをくっつけて体温を測る。
サティの綺麗な顔を身近で見て、フェリスが顔を赤くする。
「少し熱があるみたい。顔も真っ赤だわ」
フェリスの様子を少し離れた所から見るサファド。
「今日は休んだ方がいいだろう。それと、昨日はサティが世話になったな」
サファドがサマの葉の事を言ったつもりだった。
夜中に男装して外から声をかけた事を言っているのか、とフェリスは青ざめる。
「大変、顔が青くなってるわ。相当苦しいのね」
そこへ、部屋がノックされ一人の女性が入ってくる。
「王宮医師のリズです」
「ああ、早く見てくれ……」
フェリスは熱のある頭でリズを眺めながら考える。
医者?すごい美人さん。こんな医者ならいくらでも診察されたい。って、医者!?
バレる!バレちゃう!!
「あ、あああ、あの、医者、大丈夫」
片言で医者はいらない、大丈夫だから、と言ったつもりだった。
「そうよ、フェリス姉様。リズは名医だからもう大丈夫よ!」
そして、伝わっていない事に絶望の表情を浮かべ、諦めた。
もうどうとでもなってしまえ……。
リズは、フェリスのおでこに手を乗せる。
「……この吸い付くようでいてサラサラな肌質は、凄いわ」
リズは興奮したように、フェリスのおでこを撫でまわした。
「えっと、これ。体温計。口に咥えてね」
消毒した体温計をはむっと咥えるフェリス。この場にいる男女問わずを魅了する表情で。
しばらくして、体温計から音が鳴り、リズは体温計を抜き取った。
「フェリス様、熱は少し高いみたいですね」
「リズ先生、私も熱があるかもしれません」
そう言って、フェリスの体温計を見つめながら口を開けるサティ。
「そう」
若干表情が赤いサティを、リズは新しい体温計をサティに咥えさせる。
舌打ちするサティ。
フェリスの目を広げて、舌を出させて、と診察は続く。
「では、触診をしますので、フェリス様は前をはだけてください」
そしてリズはチラチラとサファドの方へと目をやる。
「あ、ああ……わ、私は出ていよう」
「私は残るわ!」
そして室内には、サティ、リズ、フェリスの三人が残される。
いくら女性のような顔立ちをしているとはいえ、性別は男。
服を脱げば身体つきで絶対バレてしまう、とフェリスは青い顔になる。
「上半身だけだから。脱がしてあげましょうか?」
「い、いい、です。自分で」
そう言うフェリスを二人の女性が剥いていく。
どこか気まずそうに、目を逸らす二人。
バレた、絶対バレた……。胸も無いし……絶対バレた。
「……はい、いいですよ。食後にこの薬を飲んでくださいね」
そう言って、リズは部屋を出ていく。
「ごめんなさい、フェリス姉様……」
「……いい、いいです」
どっちにしろ、いつかはバレていたのだから、と拗ねるような顔で言うフェリス。
「フェリス姉様、私は絶対言わないから!」
そう言ってサティは外に飛び出していく。
「ありがと……サティ」
しかし、女性の振りをしている変態だというのに、男性だと解っても黙っていてくれるという。
サティは容姿だけではなく、心も優しいんだな、とますます好きになったフェリスだった。
部屋から外で待っていたサファドは、サティが焦って飛び出してくるのを捕まえて言った。
「どうしたんだ?」
きまずそうに顔を逸らすサティ。
不安になり、サティに詰め寄るサファド。
「一体何があった?フェリスの身体に何かあったのか?」
黙っているサティにサファドは、何があった?と問いただす。
「絶対に言わないんだから!。綺麗な身体をしていたのに残念なくらい絶壁だなんて!」
フェリスの予想は外れ、男性である事は全くバレていなかった。
女性にはありえないくらいの絶壁である胸部も、フェリスとして見ると男性という発想は一切出てこない。
それは何人もの男女の身体を見てきた医師……リズにとっても同様であった。
ありえない絶壁の胸と、ありえない程の綺麗な裸体を持つ女性、という認識であった。
フェリスの性別がバレるのはまだまだ先になりそうであった。
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