フェリスの作戦
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フェリスが到着して二日目になる。フェリスは部屋の中で今後の事を考えていた。
サファドの妹、サティ。一目ぼれだった。
劣化フェリスと呼ばれているだけの事はあり、その姿は可愛らしかった。
フェリスが居なければ、イクォールのサティリアが一番の美姫だっただろう。
もっとも、フェリスは姫ではないため、実際はサティリアが一番の美姫となる。
そしてフェリスは自分の目的を定めなおす。
当初は、婚約破棄という目標だったが、新しい目標、サティが追加されたのだ。
兄の嫁だと思っていた隣国の王女が実は王子で一目ぼれした姫の身体を狙っている。
サティ視点で一言に並べると、凄いタイトルになった。
フェリスは、サティに少しばかり同情した後、目標を達成するためにすべき事をまとめていく。
まず、自分から婚約破棄はできないだろう。サファドによほどの問題があっても、国の力関係から難しい。
やはり、サファドから婚約破棄をして貰う方がいいだろう、とフェリスは考え、なすべき事をまとめていく。
婚約破棄条件……サファドに嫌われる。
次にサティ。現状、姉様と慕われてはいるが、異性に対する好意と同性に対する好意は違うだろう。
まず、サティに男性として好かれる必要がある。
サティ獲得条件……サティに男性だと解ってもらう。好意を持ってもらう。
では、サティに正直に打ち明けてはどうだろうか、とフェリスは空想する。
『サティ、私、男だった』
『変態!?変態!!変態!!!』
フェリスには冷たい視線で変態と罵られる絵しか浮かばなかった。
それはそれでご褒美では、と思いながらも他の案を考える。
男だと言い出すのが既に難関である。
さらに、婚約、結婚してもいいくらいの好感度にもっていかないといけないのだ。
フェリスは自分の場合に当てはめて考えていく。
こういう時は、他の視点から考えると、案外と簡単にいい答えが見つかったりするものだろう、と。
姉にイケメン男性が婿入りしてきた。
→ はい。
そのイケメン男性がフェリスに良くしてくれる
→ まあ、義の兄になるんだし、気を使ってくれるよね。
やがてフェリスは彼を認めお義兄さんと呼び始めるだろう
→ うん、お義兄さんだしね。
そんな彼が実は女性だった。
→ ……は?
フェリスと結婚するために忍び込んでいた。
→ ないわ……ドン引きだわ。なに、それ気持ち悪い
さて、その人がフェリスと結婚するためにはどうすればいい?
→ ……
無理だった。どう考えても無理だとしかフェリスには思えなかった。
「無理、最悪」
自分を別人男性として紹介するのはどうか?
姉の婿(女性)はフェリスに、人を紹介される。
その紹介された子はとても可愛い子で親密になる。
正体を隠したまま、フェリスとその女性は付き合い始める。
姉の旦那は、姉の身勝手で婚約破棄。
その後に、フェリスとその女性が結婚。
「ありえな……くも、無いか?よし、これで行こう」
思い立ったら行動だ!とフェリスはサティの部屋へと向かった。
「サティ、サティ!」
「どうしたの、フェリス姉様」
「サティ、私、サティに、人を、紹介する」
「王宮の人はフェリス姉様よりも私の方が詳しいと思うんだけど……」
何も言えなくなって部屋に戻るフェリス。
「フェリス姉様、何だったのかしら……」
どうするかフェリスはもう一度考えてみる。
いっそ女装をやめて、サティにだけ目撃されれば……。
フェリスは自分の場合に当てはめて考えていく。
姉の旦那(男装の女性)が、男装をやめている所を発見。
フェリスはその謎な女性に一目ぼれする。
姉と婚約破棄後、姉の旦那に、実は女性だったんだと言われる。
「……無理ありすぎだろ、姉の旦那」
架空の姉の旦那の事を考えるのをやめ、フェリスはとりあえず女装をやめてサティの前に出てみよう、と服を身に着ける。
そして、フェリスは部屋から出て、サティの部屋を眺める。
「……顔、出してくれない」
夏とはいえ、夜中に外で待つのは辛い。
フェリスは仕方なく、そのあたりの雑草をまるめて、サティの部屋の窓へぶつけてみる事にした。
「あ、これ、丁度いい」
草が一面に広げられているシートがあった。それらを適当に丸めながら、サティの部屋の窓にぶつける。
ポサ。ポサ。
「少し、小さい?」
シートから草をもう少し大きめに集めて、もう一度サティの部屋の窓にぶつける。
ポサ、ポサ。
ポサ、ポサ。
窓へ草の塊が当たる事で、外に出てくるサティ。
「何だかベランダに草が飛んでくるわね。何なのかしら……あら?」
サティと目が合う。男性服を着たフェリスは、サティをじっと見つめた。
女装を辞めたフェリスに、サティは一目ぼれをするフラグを信じて。
「フェリス姉様、男装なんかしてどうしたの?」
「……あ」
一発でフェリスだとバレた事に動揺するフェリスに追い打ちの一言が加えられる。
「フェリス姉様は可愛らしい感じだから男装はやっぱり似合わないわね」
「……お休み、サティ」
作戦を考え直さなければ、とフェリスはブツブツと呟きながら部屋へ戻った。
「フェリス姉様、本当に何だったのかしら……」
翌日、明るくなってサティは窓に投げられた草の正体に気付く。
サマの葉、麻薬の原料であった。
サマの葉は数日間、乾燥させた葉を挽く事で、麻薬の原料となる。
良く見ると、シートに固められて干されていた。サティはフェリスが立っていた位置へと向かう。
そこには怯えた様子の庭師がいた。
「サ、サティリア姫様……。も、申しわけありません。つい、つい出来心で……」
所持するだけで違法となるサマの葉が、庭師の手により王宮の庭で栽培されていたのだった。
「お手柄だったな、サティ。国が法で禁止している麻薬を王宮で作っていた、というのは下手をすれば大きな傷になっていた」
庭師はある日、干していたサマの葉がごっそりと消えている事に気づき、誰かに気付かれたと怯えていたのだった。
「お兄様、……実はフェリス姉様が気付いて教えてくれたの」
そして、サティは昨日の事を話しはじめる。
言葉に不慣れなフェリスだ。紹介したい人、と言っていたのは、悪い事をしている人がいる、と言いたかったのだろう。
それに気付けなかったので、次に気付くように、と現物を部屋に投げ入れたのだ。
もし見つかった時に危害を加えられたり、口止めされないように、と男装までして。
「そんな事があったのか……。」
「あとね、フェリス姉様の男装は面白かったわ」
「どう面白かったんだ?」
「全然似合って無かったの。仕草や動作は女性のままだったから滑稽だったの」
くすくすと笑うサティ。
「……風邪、引いた、かも?」
フェリスは、朝から止まらないくしゃみを、ハンカチで抑えながら、夜に出歩くのはもう辞めよう、と心に誓った。
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