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フェリスとイクォール国

//*** 3 ***//


 部屋から出たサファドは握られた手の感触を思い出しながら、赤くなった。

「なんだアレは……反則。美醜という物を逸脱している」


 こちらを見て赤くなったフェリスの顔が、俺の頭から消えない。


 フェリスの物憂げなぼんやりと遠くを見るような視線。

 心臓を止められるかと思えるくらい美しい微笑み。


 魔性という言葉が浮かぶ。人ならざる美貌だ。


 フェリスが赤くなったのはサティに対してであり、ぼんやりと遠くを見る視線も、サファドの後ろのサティの方へと視点があっていたためだった。


 考え込んで歩くサファドに、サティは追いつき言った。


「兄様、フェリス姉様に対して態度悪いわよ。あんな勝手に出たら気を悪くするわ」


「サティ?」


 サティがサファドに批判するのは滅多にない。

 さらに、その批判が今日あったばかりのフェリスの為である事にサファドは気まずそうな顔をする。


「隣国とは言え、フェリス姉様は兄様に嫁ぐために来たの。あんな態度を取ったら不安になると思うわ」


「サティは、いつの間にかフェリスを姉様扱いなんだな」


「当然!何なの、あのフェリス様のチートな愛らしさは!私が男なら間違いなくさらってるわよ!」


 サティがどこかをもみしだくように、グーパーさせながら言う。


「フェリス様は今までの人とは全然違うわ」


 どこが違うんだ、とサティに尋ねるサファド。何かが違う。それは解るのだが、具体的に何が違うのかが解らない。


「まず、たどたどしくもこちらの国の言葉を喋ろうとしてくれていたわ。隣国だから簡単な言葉を聞き取るだけならできるのにね」

 母国語で男言葉を滑らせてしまわないように、考えられながら話せるイクォール語を使っていただけだったりする。


「次に、婚約者である兄様への挨拶よりも、まず私に挨拶をしたわ」


「それは違うんじゃないか?まず婚約者である俺に挨拶をするべきだろう」


 その返事にサティは顔を顰めた。最初から最後まで、サティは一瞥もされず、居ないように扱う女性を何人も知っている。

 婚約者の妹という存在は、サファドに群がる女性からすればただの邪魔者である。


「兄様の妹としてではなく、私をじっと見て友達になりたいって言われたのは初めてよ。嬉しかったわ」


 本当に嬉しそうに笑うサティに、サファドも顔を綻ばせた。


「天使か、精霊かって容姿に、性格まで良いの。さすがクーロン国の至宝と言われるだけの事はあるわ。イクォールの至宝の兄様とお似合い。一年経ったら本当に結婚したらどう?」


 結婚か、とサファドは今日あったフェリスに思いを馳せる。


 窓の外を見ると、フェリスは皆が蕩けるような笑顔で、サファドの部屋に向けて手を振っていた。


「彼女なら、本当に結婚してもいいかもしれないな」


 フェリスが手を振っていたのは、サファドの隣のサティに対してである。

 フェリスにとってサファドは全く眼中に無かっただけだった。



 翌日、フェリスはサティとサファドに付き添われ、王宮内を案内されていた。


「本当は兄様と二人っきりが良かったかもしれないだったのに邪魔してごめんね」


 そういうサティに、フェリスは笑顔で答えた。

「サティと一緒、楽しい」


 本当に楽しそうに言うフェリスに、サティは恥ずかしそうに眼を伏せた。

 案内され、フェリスはこれから一年住む部屋へと案内される。


「フェリス姉様、兄様のお部屋は、この先をまっすぐ行って一つ目の角を右に入った最初の部屋です」

「……はい」

 フェリスの興味はゼロだ。


「私の部屋は隣。うるさかったらごめんね、フェリス姉様」

「え!は、はい!!」

 隣の部屋がサティだと聞き、全力で喰いつき嬉しそうにするフェリス。


「……」

 フェリスの様子を見ていたサファドは、何とも言えない違和感を説明できないまま、自室へと戻るのであった。


「サティが好かれている」

 数々のサティに言い寄る男達を追い払ったサファドである。サティに対する好意については、敏感であった。


「フェリスの目は、俺と一緒になった時の義妹に対する目なのだろうか」

 友達に対する態度、とも少し違う。熱っぽい視線。


 サファドは違和感を探ろうと布団の中でフェリスの様子を思い返してみる。


『綺麗な庭、ですね』

 庭を見て笑いかけてくるフェリスの顔が浮かぶ。


 紅茶を飲みながら、庭で風にのせて歌うフェリス。透き通るような綺麗な声だった。


 手でクッキーをつまみ、サティに与えるフェリスの愛らしい仕草。


 あった事も無かった隣国の王女。政略結婚とも言えるような状態で、王宮に笑顔を振りまくフェリス。


 何が違和感になっているのか。俺は何にひっかかりを覚えているのだろうか。


「これ以上は無理だ……」

 サファドは違和感の原因を探す事すらできず、これ以上は危ない、と頭にこびりつくフェリスを振り払い強引に目を閉じた。


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