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8話 共依存

 俺は三つ目の村を訪れた。

 亜里亜の話によると、ここの“長”も女性らしい。

 しかし、彼女は馬場に求められるまま、自ら進んで資源を提供しているという。


(一体なに考えてるんだか……。)


 前の集落で矢を射かけられた俺は、今度は亜里亜の集落の時のように身を隠し、少し離れた所から町の中心の様子を伺っていた。

 しかし“自ら進んで資源を提供している”とは、亜里亜の口を通して聞いた馬場の言である。

 実際の所は馬場に脅されて無理矢理従わされているのかも知れない。

 もしそうなら、馬場と戦うに当たって仲間になってくれる可能性があるのだが……。


(うぅ~ん……それにしてもどうやって接触を図るべきか……不用意に近付いて攻撃されるのはもう沢山だしなぁ……。)


 そんな事を考えていたため、周囲への気配りが疎かになっていたのだろう。

 不意に後ろから声を掛けられ、俺は驚いて飛び上がった。


「…あーのぉー…。」

「うわあぁっ!!!?」


 振り向くと、一人の女性と三人の労働者ユニットが不思議そうな顔で俺を見つめている。

 女性は20代半ばくらいで、長い髪を背中に流し、眼鏡を掛けていた。

 タートルネックのトレーナーにズボンという中性的な服装も相まって、一見すると地味な印象を受けるが、よく見ると結構美人である。


「あ…その……失礼しました。」

「いえいえ……で、どちら様ですか…?」


 俺は彼女に名前と目的を告げた。

 ただし“馬場と戦いたいので仲間になって欲しい”という事だけは伏せておいた。

 この女性が本当に馬場の仲間である可能性も充分あるからだ。

 それはこれからの会話で見極めるつもりだ。


「佐倉 士苑さん…ですか。ふふ…可愛らしいお名前ですね。」

「はあ、どうも…。」

「私、刈谷かりや れいと言います。どうぞよろしく…。」


 そう言って玲さんは丁寧に頭を下げた。

 この人が馬場の仲間とは思えないが……。

 俺は思い切って訊いてみる事にした。


「あの…馬場という少年に資源を分け与えていると聞いたんですが……。」

「はい。…佐倉さん、馬場君を知っているんですか?」

「ええ、まぁ……。刈谷さんこそ、彼を知ってるんですか? アイツがどういうヤツで、何をやってるのか……。」

「はい、全て知っています。本人から聞きましたから……他の人達を襲って資源を奪っているそうですね。栗田さんという方の所からは女性も一人さらって来たと言っていました。」

「え…っ!!?」


 労働者ユニットをさらっただって……?

 確かにゲーム時には、他人の労働者ユニットや民間施設を“奪取”して自分の物にする事が出来た。

 奪取の方法は簡単で、その対象の周囲を自分の軍事ユニットで“制圧”すれば良いのだ。

 ちなみに対象の周囲に一体でも相手のユニットがいる状態であれば奪取は成立しない。

 本来であれば、もっと後の時代になってから……少なくとも軍事ユニットが生産可能な段階に至り、テリトリーが拡大して互いに衝突するようになってから発生する行為である。

 こんな初期段階でやる事ではない(まあ馬場という男は最初から常識外れなヤツだが…)。

 栗田というのは恐らく、あの、俺に矢を射かけて来た、前の集落の男性であろう。

 何となくそんな気がして、彼女に訊いてみると、やはりそうだった。

 そう考えれば、あの異常なまでの警戒も納得がいく。

 まさか資源のみならず女も一人さらわれていたとは……。


「それにしても刈谷さん、あなたはそこまで知っていて、どうして馬場に資源を提供してるんです? 彼のやってる事は強盗じゃないですか!」

「……確かに…彼のしている事は、正しい事ではないわね……。」


 彼女は苦々しげな表情を浮かべながら語る。


「……でもね、あの子は本当は可哀想な子なのよ。人とどう接したら良いのかが解らないの……。まだ子供だし……。心の底では本当はみんなと仲良くしたいと思ってるけど、自分の気持ちを素直に表せないだけなのよ……。」

「……いや、俺にはとてもそんな風には見えませんでしたけど……。」


 何を言ってるんだ? この人は……。


「あの子は、今はまだ、自分が何をしているのかが解ってないだけだから……でも、いつかきっと解ってくれると思うの……。」

「……。」


 ずいぶん広い心の持ち主のようだ。

 ……いや待て。

 だとしても資源を提供する理由にはならないだろう。

 見たところ彼女の集落も、それほど余裕があるようには見えないのだが……。


(まさか……。)


 俺は思った。

 彼女は“駄目な年下の男の面倒を見る健気な自分”に酔っているのではないだろうか……?

 いや、そうする事で自分を保っているのではないだろうか……?


 ※


 彼女の集落を後にした俺は、歩きながら思った……。

 ……考えてみれば俺達は、ある日とつぜんゲームの世界に飛ばされて、帰る方法も判らない……とんでもない状況に置かれているのだ。

 誰もがすんなり受け入れられる訳が無い。

 これから一体どうなるのか……不安に思うのが当然だ。

 してみると、あの馬場だって、あんな暴挙に出たのは、本当は不安と恐怖からなのかも……。


 ……と、そこまで考えて俺は思った。

 どんな状況下でも悪は悪、罪は罪だ。

 それに俺達には、民を導く長としての責任があるではないか。

 民を幸せにするためには資源が必要だ。

 それを他人から奪うだなんて、やはり許される事ではないのだ。

 俺は最後の集落を目指した。

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