6話 出会い
……。
チュン…チュン…
「…うぅ……ん…?」
顔に照りつける眩しい朝日と小鳥のさえずりで俺は目覚めた。
「…あ!おはようございます、お兄さん。」
……一人の少女が俺の顔を覗き込んでいた。
歳は…おそらく16~17くらいだ。
「…お…おはようございます…。」
俺はそれだけ言うのが精一杯だった。
改めて彼女を見る。
高校生くらいだろうか…。
髪型は黒のセミロング、服装はブレザーにスカート…学校の制服のようだ。
ちなみにかなりの美少女だ。
アーモンド型のパッチリとした瞳が可愛い。
えっと……俺、どうしたんだっけ…?
頭の中で必死に状況を整理していると、彼女が説明してくれた。
「お兄さん、町の中心の近くの森の中に倒れてたんですよ。」
「あぁ…!そうだった、そうだった…!」
言われて思い出した。
誰の集落かを確かめようとして、隠れて様子を伺ってたんだった。
そのまま眠ってしまったらしい。
そして今いる場所は町の中心の中だ。
「俺を見つけて連れて来てくれたんだね…いやぁ、ありがとう。」
「いえいえ、どういたしまして♪」
少女は微笑む。
「俺は佐倉 士苑。森の向こうから来たんだ。…君は?」
「私は美波 亜里亜って言います。よろしくお願いしますね。」
「“アリア”か…変わった名前だね。」
「やだなぁ~、“シオン”さんに言われたくないですよ~。」
そう言って、また楽しそうに微笑む亜里亜。
飾らない明るい子だな…と俺は思った(ちなみに彼女がブスか男だったら全く違う感想を抱いていただろう…)。
そして名前に関しては「仰る通りです」としか言いようが無い。
「…ところで美波さん。ちょっと訊きたい事があるんだけど…。」
「あ、亜里亜で良いですよ。その代わり私も士苑さんって呼んで良いですか?」
「うん、じゃあ亜里亜ちゃん…。」
「何でしょう?」
「…なぜ俺は拘束されてるの?」
そう、俺は手足を縛られていて、まったく身動き出来ない状態だったのだ。
「え~? だって士苑さんが私の立場だったらどうします? 茂みに隠れて自分の村の様子を観察してた人を捕まえたら…自由にしときますか?」
「…はい、すいません。……で…でもね!これには理由があるんだよ…!」
俺はこれまでの経緯を亜里亜に話した。
中学生くらいの少年にいきなり襲われた事…この集落がその少年の物なのかどうかを確かめたかっただけで他意は無い事…。 俺の話を聞いた彼女は何かに納得したように言った。
「あぁ…その中学生くらいの子っていうのは、たぶん“馬場くん”ですねぇ…。」
「馬場…!? アイツの名前は馬場っていうのか!? …ていうか君はアイツと知り合いなの!? まさか仲間とか…!?」
「う~ん…仲間…ではないですね。少なくとも私の方はそうは思ってないんですけど…。」
彼女によると、ヤツの名前は馬場 理音。
歳は14(中二)。
自分ではロクに資源採集せず、この近辺の集落を荒らし回って他人が集めた資源を奪っているらしい。
まるで盗賊……とんでもないヤロウだ。
ただ、亜里亜だけは特別扱いしてるらしく、よく奪った資源を手土産にやって来ては、曰わく「俺と一緒に天下取ろう」とか「俺達が組めば絶対最強」と言い寄って来てるらしい…。
「…そんな訳で正直、困ってるっていうか…ああいうやり方(略奪)って上手くいくのは最初だけで、いずれ行き詰まるのは目に見えてるじゃないですか…。」
「うん、まったくその通りだ…。」
被害に遭った集落は警戒し、防備を固める(防護柵や哨戒塔などで守りを固めて)。
そうなれば必然的に略奪はより困難かつ危険となり、いずれ立ち行かなくなる。
誰彼かまわずケンカをふっかけていたのでは、そうなった時に助けてくれる者もいないだろう。
その程度の事も考えられないガキなのだ。
「その…馬場は君の言う事なら聞くの? ちゃんと道理を説明して略奪を止めさせる事は出来ない?」
俺の質問に亜里亜は首を横に振り、溜め息混じりに答えた。
「もう何度も言いましたよ…でもあの子、こっちの話は全然聞いてくれなくて…いくら『もう略奪なんて止めた方が良い』って忠告しても聞かないんですよ。まぁ、もらった資源は使わせてもらいましたけど…。」
「いや、使うなよ…。最悪、君も仲間だと思われるぞ?」
「それは困ります!」
「なら馬場とは手を切った方が良いよ。」
「でも彼、駄目な意味で純粋な子だから…なんか彼の中では私、もう彼の恋人って設定になってるみたいなんですよね…。」
「マジかよ…。」
他人の迷惑を考えない、他人の話を聞かない、そして思い込みが激しい……こりゃ典型的なストーカー予備軍だな。
いや、もう現役か…。
というか略奪品だと知った上で資源を受け取ったり、何だかんだで相手しちゃう亜里亜も悪い。
俺は忠告も兼ねて彼女に言った。
「…一度、馬場にハッキリ伝えた方が良いと思うよ。『もし略奪を止めないなら今後の付き合いは止めさせてくれ』ってね。もしこのまま中途半端な関係をズルズル続けてたら、周囲の集落が馬場の排除に動いた時……そう遠くない将来だと思うけど……君も彼の仲間と見なされて排除の対象にされちゃうよ。それが嫌なら…悪い事は言わない。馬場とはキッパリ手を切るべきだ。」
「…は…はい…!」
亜里亜は顔を青くして震えながら頷いた。
ちょっと脅かしすぎたかとも思ったが、俺が今言った事は決して口から出任せではなく、将来的に充分あり得る可能性だ。
この子は少し危機感が無さすぎるような気がするので、これくらい脅しといた方が良いかも…。
あとは彼女の問題である。
※
その後、亜里亜は俺を解放してくれた。
「なんか士苑さんって微妙に頼りになりそうですよね。これからも困った事があったら色々ご相談に乗ってもらって良いですか?」
「もちろん。…てゆうか“微妙に”なのかよ…。まあ良い。それより、君んとこの他には、この辺に集落ってあるの?」
「ええ、彼(馬場)が話してました。」
馬場は心を許した相手(一方的に)には、何でも喋るタイプで、聞かれもしない事をベラベラと、のべつまくなし、ひっきりなしに喋りまくるらしい。
基本的に自分の話ばかりなので、聞き役の亜里亜は適当に相槌を打ちながら聞き流しているが、その無駄話の中には時たま有益な情報も含まれており、結果、彼女は一度も探索に出ずして、既にこの辺りの地理と勢力分布図を把握していた。
それによると、この辺りには馬場の集落の他にも三つの集落があるらしい。
あっちこっち駆け回って略奪行為を繰り返している馬場も、把握しているのはそこまでだという。
俺はとりあえず亜里亜に教えてもらった集落を順番に訪問してみる事にした。




