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55話 二人の重臣②

「よぉ!セリナンティウスじゃないかぁ!」


 そう言いながら近付いて来たのは小太りの中年男だった。

 血色の良い赤ら顔をしている。

 先程のオクタヴィウスよりは少し年下……50代くらいに見えた。


「…あっ!アンドニウス様!」

「…おう!お前の後ろにいるのは…あれか? ひょっとしてこの間の会議で話題に上がっていた…あの…シオニカの…!」

「シオニアです!アンドニウス様!」


 男と受け答えするセリナンティウスの口調は明らかに今までと違ってハキハキとしていた。

 それもそうだろう。

 このアンドニウスと呼ばれた男、非常に明朗快活で、何というか“天性の陽気さ”とでもいったものが備わっているような男なのだ。

 彼と話しているだけで、いや、側にいるだけで自然とこちらまで元気が湧いてきて気持ちが高揚してくるような……そんな愉快な男であった。

 セリナンティウスはアンドニウスを三人に紹介した。


「皆さん!こちらはその名も尊きアンドニウス様と申されましてですね!正真正銘!このユーマ帝国で最も皇帝陛下の信任篤い、陛下の第一の臣下にして、陛下より殆んど全ての権限を移譲された、事実上ユーマ帝国の全てを取り仕切る帝国の屋台骨!アンドニウス様であらせられます!」

「バカヤロ~!セリナンティウス!お前、誉めすぎだぞぉ~!照れるだろ~!そんなに褒めても何も出んぞぉ~!このこのぉ~!」


 何とも仰々しい紹介にアンドニウスは嬉しそうに顔をほころばせながらセリナンティウスの肩をバンバンと叩いた。

 それからアンドニウスは士苑達に朗らかな笑顔を向けて言う。


「いやぁ、しかし…そうかそうかぁ~!君達がなぁ~!いや話は聞いていたよ!南の大山脈の向こう側にシオニアという豊かな地域があるってなぁ!その君達が我が帝国の傘下に加わってくれたとあれば、これは実に頼もしい限りだ!いやぁ~めでたい!嬉しい!今日は実に素晴らしい日だぁ~!」


 そう良いながら今度は士苑の肩をバンバンと叩くセリナンティウス。

 それはかなり遠慮無く、ぶっちゃけ痛かったが、それでも士苑は良い気分だった。

 皇帝に次ぐユーマ帝国の大物からこんなに認められ褒められるなんて……。


 その後、アンドニウスはまた士苑達をひとしきり褒めちぎってから去っていった。

 去り際に彼は言った。


「…じゃあな!シオン君!アリアちゃん!レイちゃん!……あっ!そうだ!陛下との謁見が終わったら私の屋敷に来ないか? 君らが我が帝国へ来てくれた記念に、ささやかながら酒宴の席を設けたいんだ!歓迎するぞ!」

「…えっ!? 良いんですか!?」


 帝国の重鎮からの思わぬお誘いに士苑の心は舞い上がった。


「ああ!ぜひとも来てくれ!」

「では、お言葉に甘えさせていただきます!」

「おう!待ってるからな!はっはっはっはっはっ!!」


 アンドニウスは豪快に笑いながら去っていった……。


 ※


「はぁ~、疲れたぁ……ったく相変わらずやかましいったらありゃしない……」


 アンドニウスの姿が見えなくなった途端、セリナンティウスは脱力したように肩を落として深い溜め息をつきながら、何と先程まで散々誉めちぎっていたアンドニウスに対して悪態をつき始めた。

 そんな彼の態度の豹変に、士苑は物凄く嫌な印象を受けた。


(何だコイツ? 本人の前ではあんなにペコペコして媚びまくってたクセに、いなくなった途端に陰口かよ……)


 先程のオクタヴィウスという男といい、ユーマ帝国はこんなヤツばかりなのだろうか?

 だとしたらあまり良い雰囲気の国とは言えなさそうだ。

 もちろんアンドニウスのような気持ちの良い人間もいるのだろうけれど……。


 ※


 そんな事もあり、一行はようやく皇帝の待つ謁見の間に到着した。

 天井の高い大広間だった。

 古代ローマ風の鎧兜に身を包んだ何十という兵士達がズラリと並び、その奥に黄金の玉座が置かれ、そこに一人の男が腰掛けていた。


(あれが……ユーマ帝国の皇帝……!!)


 士苑は目を見張った。

 皇帝はかなり長身で大柄な壮年の男だった。

 金の糸で刺繍された豪奢な衣服をまとい、ガッシリとした筋肉質な体型をしている。

 その眼光は力強く、精悍な顔立ちをしていた。

 士苑は思う。


(これが……数百にも及ぶ国主プレイヤー達とその民をまとめ上げ、強大なユーマ帝国を築き上げた……この世界の頂点に君臨する男なのか!!)


 皇帝はまさに“威風堂々”という言葉を体言しているかのような人物だった。

 セリナンティウスが士苑達に小声でささやく。


「…良いですか? 陛下の御前まで進んだら名前を名乗ってから床に片ひざを付いて頭を下げてください。名前は現在の物で構いません。陛下がお声をお掛けくださるまで頭を上げてはいけません。もちろん自分から話し掛けるなんてもっての他です。口を利いて良いのはただ陛下からのご下問があった時だけ……良いですね?」


 士苑、亜里亜、玲は黙って頷いた。

 三人は歩き出す……。

 士苑が前、その両側の斜め後ろに亜里亜と玲が続く。

 皇帝の前まで来ると言われた通りにこうべを垂れ、名を名乗った。


「皇帝陛下!シオニア国主、佐倉さくら 士苑しおんと申します!」

「私は美波みなみ 亜里亜ありあです!よろしく!」

「…か、か、か…刈谷かりや れいと言ふ者れふ…!!」

「うむ…」


 皇帝が口を開いた。


「…おもてを上げよ…!」


 低く、重々しい声だ。

 三人は顔を上げた。


「…()がユーマ帝国皇帝、ユーマである!」


 ユーマってお前の名前だったのかよ!……と士苑は思ったが、もちろん今ここでそんな事をツッコミはしない。

 皇帝ユーマは三人に尋ねた。


「サクラ・シオン、ミナミ・アリア、カリヤ・レイ、そなた達は余に忠誠を尽くすと誓うか?」

「は、はい!もちろん誓います!……な!二人も誓うよな?」

「ははは、はい!ちちち、誓わせていたらきまふ!!!」

「……」


 亜里亜は答えなかった。

 代わりにこんな事を言い出した。


「皇帝陛下!私、美波 亜里亜は陛下への忠誠の証として本日、贈り物を持参いたしました!」

「…あ、亜里亜…!?」


 突然の事に士苑は戸惑った。

 贈り物? 何だそりゃ? そんな話まったく聞いていない。

 玲も同様に困惑している。

 そんな二人を尻目に亜里亜は懐中から何かを取り出した。

 良く見るとそれは装飾の施された小さな小箱だった。

 何か貴重な物が入っているように思える。


(えぇ……何だよそれ……一人だけプレゼント持参とか……抜け駆けじゃん亜里亜ぁ……)


 士苑がそんな事を思いながら眺めている中、亜里亜はうやうやしく小箱を捧げ持ったまま皇帝の方へと歩み寄って行った。


「待て…」


 兵士が彼女の行く手に立ち塞がる。

 亜里亜は言った。


「退いてください。私が自ら陛下にお渡ししたいのです」

「構わん、持って来い」


 ユーマが言った。

 亜里亜はニコッと微笑んでユーマの前まで歩み寄ると、箱の蓋を開いた。


 中に入っていたのは短剣だった。


 あっ……とユーマは気付いて短く言ったが、もうその次の瞬間には亜里亜が彼の喉を切り裂いており、深紅の鮮血がプシャアアァァァァァ…ッと勢い良く噴き出していた。

「うぐぅ……」と一声うめいて皇帝はバッタリと崩れ落ちた。

 あまりにも突然の、そして呆気ない最期であった。


「やったあぁぁっ!!!!ユーマ帝国の皇帝、討ち取ったりいぃぃぃっ!!!!」


 亜里亜は高らかに宣言した。

 士苑は叫んだ。


「えええぇぇぇぇぇぇっ!!!?」

「いやあああぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 玲も悲鳴を上げた。

 セリナンティウスが叫ぶ。


「その者達を捕らえよおおおぉぉっ!!!!」


 たちまち兵士達が三人を取り囲む。


「…え!? 何で!? 皇帝プレイヤーを倒したら勝ちなんじゃないの…!?」


 キョトンとした顔で疑問を口にする亜里亜。


「…んな訳あるかボケえぇ!!!!」

「この馬鹿アンタ何て事してくれたのよおぉ!!!!」


 士苑と玲がキレた。

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