53話 ユーマ帝国へ(※地図あり)
シオニア(仮)諸国を治める国主達が一堂に会しての緊急会議(…と言うには余りにもお粗末な話し合い)から約ひと月半が経った……。
ここはユーマ帝国、その帝都“ユーマ”。
巨大国家ユーマ帝国発祥の地であり、今やこの世界の中心と言っても過言ではない大都市である。
そこに佐倉 士苑、美波 亜里亜、刈谷 玲の三人の姿があった。
ユーマ市街のほぼ中央に位置する小高い丘の上に建つ建物……これこそ強大にして広大なる大国ユーマの政治の中枢であると共に、その頂点に君臨し全てを支配する皇帝の住居……すなわち皇宮である。
彼ら三人はそこにいた。
理由はユーマ帝国の皇帝に謁見するためだ。
これから彼らの親玉となる人物に挨拶に来た訳である。
だがただ一人、水野 優柳の姿だけはここには無かった。
やはり…というべきか、彼はユーマ帝国への服属を拒んだのだ。
士苑達は帝都への出立に先立って優柳に使者を送り「自分らと一緒に帝国に行って欲しい」という旨を伝えたのだが優柳からの返事は「NO」だった。
それを聞いた士苑は優柳の頑なな態度と、また己の人望の無さにも滅入ってしまい深く嘆息したが、優柳にしてみれば(それこそ最初に士苑に出会った時に明言した)“誰とも手を組まない”という当初の立場を今も貫いているだけに過ぎなかった。
……このユーマの都へ一歩足を踏み入れてからというもの、士苑達一行はその巨大さ、壮麗さに目を奪われっぱなしだった。
かつて田中の国を訪れた時にも驚いたものだが、この都市の規模はその十倍を優に超えている。
超巨大都市であった。
人の数もまた物凄い。
中には明らかに毛色や肌色の違う、遠方の地域から来たと思われる人間もいた。
皇宮へ向かう途中に通った市場では、士苑達が今まで見た事も無いような珍しい品々が並べられていた。
この都市は世界中の人間や物が集まる国際都市でもあったのだ。
(この国と戦わなくて良かった……)
士苑は心の底からそう思った。
この都市の繁栄ぶりを見ていると、このユーマという帝国がいかに強大であるかを嫌というほど思い知らされる。
やはり自分の(帝国に逆らわずに服属するという)選択は正しかったのだという事を改めて理解させられた。
一時期は、もしユーマ軍が攻めて来ても全力で立ち向かえば退けられるのではないか……窮鼠猫を噛むという事もある……そんな風にも考えていた。
だが今やそんな事は夢にも思わない。
まったく愚かな考えであった。
もしこんな国と戦う事になったら……おそらくネズミがネコに立ち向かうなんてものじゃあない……アリがゾウに向かって行くようなものだ。
自分達の国などたちまち踏み潰されてしまうだろう……。
さらにこのユーマの都にはもう一つ特筆すべき事柄があった。
それは都市のテイスト……というのか、または全体的な雰囲気とでもいうのか……すなわち、道行く人々の服装や建物の建築様式……その全てが前にいた世界でいう所の古代ローマ風に統一されていたという点である。
これは意図的にそういう風にしようと思って都市建設を行っていったのか、それとも自然にそういう文化になっていったのか……今の士苑達には知りようも無い事であった。
彼らはまだこの帝国について殆んど何も知らないのだ。
もちろん宮殿の建物も古代ローマ風であった。
都市の城門を通過する際に身分を問われていたため、士苑達が来る事はもう皇宮側も承知の事だったらしい。
宮殿の前で彼らを出迎えたのは大勢の兵士達を従えた若い男であった。
彼は鎧兜の兵士達の中、一人だけトーガという古代ローマ時代の衣服を身にまとっていた。
「初めまして。ええと…サクラ・シオン殿、ミナミ・アリア殿、カリヤ・レイ殿、及びそのお供の方々で…?」
「そうです。あなたは?」
「自分は皇帝陛下の臣下で、セリナンティウスという者です。遠路はるばる良く参られました。陛下の元へ案内いたしましょう。ついて来てください」
セリナンティウスと名乗った彼は(肉体年齢が)20歳の士苑より少し歳上に見えた。
おそらく30はいっていまい。
だが士苑は彼の年齢よりも気になる事があった。
「あの、つかぬ事をお伺いいたしますが……」
「何でしょう?」
「あなたは日本人……つまり俺達と同じプレイヤーではありませんか?」
「そうですよ」
セリナンティウスはあっさり答えた。
「私もあなた方と同じプレイヤーです……ああ、それにしては名前が変だと思われましたか?」
「はい、ひょっとしてこの国では皆そういう名前を名乗るものなんでしょうか?」
「はい、ユーマ帝国の臣民となった者は皆、プレイヤー、ユニットに関わり無く古代ローマ風の名前に改める決まりです。あなた方も自分の名前を考えておいてくださいね。これは皇帝陛下の絶対命令で例外は認められません。逆らえば死罪です。まあローマ風でさえあれば何だって良いですから……」
(うへぇ……マジかよ……)
士苑はちょっと嫌になった。




