46話 脅威
敵の軍勢が城壁を破壊して街に攻め込んで来た時、最期を覚悟した田中は宮殿に火を放って自害したという……。
そもそも敵国は地域一帯でも最大を誇る勢力であり、その国力差は歴然……初めから勝ち目の無い戦いだったそうだ。
それでも田中は無抵抗の服従ではなく徹底抗戦を選んだ。
田中と接した期間は約一週間程度と短いものだったが、彼は冷静に状況を判断できる人間だったと記憶している。
少なくとも無意味なプライドや一時の感情に流されるようなタイプでは決して無かった。
そんな彼が負けると解っていて破滅への道を選んだのは一体どういう訳なのか……全く理解に苦しむ所だが、それは彼にも彼なりの考えがあっての事だったのだろう。
一概に“愚か”と言う事は出来ない……。
そして、いずれ地域が一つの国家によって統一される、と言った田中の予想は当たった。
彼の国を攻め滅ぼしたその国は名を“ユーマ国”といい、地域一帯を支配下に治めて“帝国”と号した。
(この世界における)史上初の“領域国家”である“ユーマ帝国”の成立である。
皮肉な事にユーマ帝国への最後の大規模な抵抗者となったのは田中の国であった。
金品は略奪され、囚われた民は全て奴隷として帝国へ連行され、焼失を免れた市街も徹底的に破壊されたという。
ユーマ帝国の軍は容赦無く田中の国が存在した証すら消し去っていったのだ。
彼の言葉が思い出される……。
『悲惨ですよ、負けた国は……。何もかも奪われ、破壊され、やがて風化し、この地上に存在していた事さえ忘れ去られ、人々の記憶からも消えて行く……』
まあ田中だって今まで滅ぼしてきた国々に対して似たような事をしてきたのだろう。
だが俺達にとっての田中はあの気の良い青年で、その国と命を奪ったユーマ帝国に対しては当然ながら良い感情など抱けるはずが無かった。
そして田中が遺したもう一つの予言……即ち、帝国は俺達の国がある地域にも手を伸ばしてくるだろう、という予測も次第に現実味を帯びて来た。
北の帝国領と南の俺達の地域とを結ぶ街道上の要地に帝国軍が砦を築き少なからぬ兵を駐留させ始めたのだ。
帝国領と俺達の地域とは一応巨大な山脈によって隔てられている。
高く険しい山々が天然の要害となり今まで北方の国々から俺達を守ってくれていたのだ。
というか向こう側にしてみれば同じ地域内での潰し合いに必死で山の向こうの俺達にまで手が回らなかったというのが実情だろうが……。
だがそれも今や過去の話、巨大な一つの国家となった彼らはそのエネルギーを今度は外へ……つまり(俺達を含む)隣接する他地域へと向け始めたのだ。
もちろん俺達だってただ黙って侵略されてやる気など更々無い。
俺は国に帰るやさっそく軍の強化に着手した。
田中国から学んできた各種戦法や様々な技術を俺は惜し気も無く自国に投入していった。
もっともそれらを実践する職人達はかなり難儀したようだったが……。
特にあの戦車の製造には高度に洗練された木工技術、革細工技術が必要とされた。
ただ形だけの車を作って馬に引かせれば良いというものではない。
機能性の高い物でなければ意味が無いのだ。
だが職人達はやってのけてくれた。
そもそもいかに向こうの国々の技術が優れているとはいえ基本的な技術のノウハウは変わらない。
これまでに蓄積して来た知識と技能がしっかりしたものであれば応用を利かせる事は可能なのだ。
青銅制の武器・防具についても同じ事が言えた。
一方、戦車を引く馬の方は以前から我が国でも農耕用家畜として飼育していた。
馬は実に良い生き物である。
大人しく従順で馬力がありエサは草だけだ。
そして足が速い。
だがその速さは家畜にしておく限りあまり活用する機会は無い。
単純に家畜としてなら牛の方が有用だろう。
肉が多く取れるし牛乳は美味しい。
馬は軍事転用という段階に至って初めて人間にとって最も重要な動物となったのである。
さらに俺は国を囲む城壁を木造から石積に変える工事に着手した。
変える、というよりは今ある城壁の更に外側にもう一つ新たな城壁を築くというのが正しい。
市街地の面積を広げるためだ。
実は我が国では少し以前から人口増加による市街地の人口過密が問題となっていた。
かつて農地だった土地を潰して住宅地にしても間に合わず一部の貧しい者達は城壁の外側に掘っ立て小屋を立てて暮らしていた。
彼らは蛮族達が襲撃して来る度に身一つで城壁内へと避難し家財(そんなに無いのだが)の一切を失うのだった。
新城壁建設は外敵への備えであると同時にそのような貧しい人々への配慮でもあるのだ。
※
このように我が国(や周りの国々)は着々と防備を整えていった訳だがそれは当然の事ながら帝国側も知る所となっていた。
やはり帝国はいずれ(そう遠くない未来)この地域を支配下に置こうという考えらしく、俺達(俺、亜里亜、水野、刈谷)の国々の動向に注意しているようだった。
そんなある日の事だった。
ユーマ帝国“皇帝”からの使者を名乗る一行が突如として我が国を訪れたのは……。




