43話 王
この国は俺達の国と比べて何もかもが大規模だった。
例えば市街の大きさはもちろん、街を囲む城壁の高さ、道行く人々の数(人口密度)……全てが倍以上なのである。
建物の高さにしても、俺達の国では頑張って三階建てか四階建てが限度なのに、ここではそれが普通……中には五階建て、六階建てなんてのまである。
しかもそれらのほとんどが木造ではなく石造りなのだ。
この国が優れた建築技術を持っているという証拠である。
さらに道行く人々の中には目にも鮮やかな色付きの服を着ている者達もいた。
それも裕福な者や地位の高い者というのではなく、庶民レベルの人達がちょっとオシャレしているような感じなのだ。
良く見ると石造りの建物にも繊細な彫刻が施されている。
それらは技術水準とは直接の関係は無いが、この国の文化レベルの高さを物語っていた。
やがて俺達は街の中心にある王宮に着いた。
その大きさと壮麗さに、俺達はただただ圧倒されるばかりだ。
全員が中庭のような所に通され、兵士達が周りをぐるりと取り囲んだ。
「今、王が参られる」
隊長格の男が言う。
亜里亜が今さら不安そうに訊いてきた。
「し、士苑さん、私達どうなっちゃうんでしょうか……?」
「さあ……? それは王様次第じゃないか……?」
まさか他国のプレイヤーをいきなり殺すような真似はしないと思うが……いや、だが確実に大丈夫という保証も無い……。
そんな事を考えていると、バルコニーのように高く張り出した所に王の臣下と思しき男が現れ、大声で告げた。
「王のぉーおなぁーりいぃー!!」
そして王が現れる。
恐らく側近達を伴って来たのだろう、複数人で現れたが、誰が王なのかはすぐに判った。
一人だけ鮮やかな紫の服を身にまとい、頭に黄金の王冠を載せている。
何より彼は周りの連中に比べて明らかに若かった。
二十代半ば程だろうか……パッと見た感じは“若き王と老獪な重臣たち”といった所だ。
実際は真逆なのだが……。
王らしき青年は厳かな口調で言った。
「プレイヤーを名乗る者らを捕らえたとの事であったが、その者らがそうか?」
臣下が応える。
「はい、王よ」
「春先は多いんだがなぁ……」
隊長が言った。
「王よ、恐れながら申し上げます。この者達はそういうのではなく、本物のプレイヤアであると私は見受けます」
「何!? 本物と申すか?」
「はっ!私はこの者が自らの手首を傷付け、その傷口が見る間に塞がっていくのを見ました。奇術の類いとも思えませんでしたし……」
「マ、マジかよ……!? うああぁぁ~……!!!」
いきなり王の口調が変わった。
彼の顔は見る間に真っ赤になり、何やら身悶えているようだった。
「そ、そのプレイヤーの方々を客間にお通ししておきなさい!家来の人達も丁重にもてなすように!」
そう言うと王は逃げるように中に引っ込んでしまった。
※
俺と亜里亜は若い女性(恐らく王に仕える女官であろう)に案内されて王宮の中の一部屋へと連れて来られた。
王宮は内部も装飾をふんだんに施した豪奢な造りになっていた。
部屋は池のある中庭に面しており、一方の壁が無かった。
そこには人一人が横たわれるぐらいの長椅子が三つ、間を開けて置かれており、俺と亜里亜は促されるままそれぞれの長椅子に腰掛ける。
それを合図に豪華な料理の数々が載った膳を持った女官達が続々と入って来て、俺達の目の前に並べられていった。
その豪華さたるや、料理の中身は違うが、まるで中華の満漢全席のようだ。
肉あり、魚あり、野菜あり、スープあり、果物あり……それに銀の杯に酒まで注いでくれた。
「わぁ……大歓迎だぁ♪」
ご馳走を前に亜里亜は表情をほころばせる。
俺は訳が解らず、女官の一人に尋ねた。
「あ、あの……なぜ我々をここまでもてなしてくれるのですか?」
「それは王のご命令ですので……。それにお二方は我らが王と同じプレイヤアであらせられます。貴い存在であらせられます。なればこそ我々としてもこうして歓待するのは極めて自然な事……」
「なるほど」
どうもこの国ではプレイヤーは特に高貴な存在とされているらしい。
女官は言った。
「さぁ、お二人とも、これは我らが王の気持ちです。お好きなだけお飲みになり、お召し上がりくださいませ」
「いただきまぁ~す♪」
亜里亜は喜んで目の前のご馳走に手を伸ばし、パクパクと食べ始めた。
どうやら毒は無いようだ。
俺も食べてみた。
うん、美味い。
少しして先程の王が現れた。
「お、お待たせしました……」
だが彼の服装はグッと地味なものになっており、王冠もかぶっていなかった。
どことなくばつ悪そうに王は言った。
「いやぁ、しかし驚きましたぁ……まさか他の地域の方がお見えになるなんて……恥ずかしい所をお見せしてしまいましたね……あ!でもね、この辺じゃあ別に珍しくもない普通の事なんですよ? 周りの皆もやってますし……」
……俺は彼が一体何を言いたいのか、いまいち要領を得なかった。
「……あの、失礼ですが、一体なにが“恥ずかしい”のですか?」
「えぇ!? それを私に言わせるんですかぁ……!?」
王は真っ赤になって、それからボソボソと呟くように答えた。
「いや、だって……自分の事を“王”とか呼ばせたり、あまつさえ国民に神聖視させるなんて……その……おかしくないですか? 他の地域の方々から見ると……」
「あぁ、そんな事……いや、ぜんぜん変じゃありませんよ。むしろ国がここまで大きくなれば、ある程度そういうのは必要ですよ」
「……あ、そう? ですよねぇ!? 解ってもらえます!? いやホント……この辺って国同士の戦争も激しいから強い国家としてまとまるためにはどうしてもっていう感じがあるんですよぉ~……あ、そうそう、まだ名前も名乗ってなかったですよね……僕、田中 肇と言います」
理解を示した途端、王こと田中は急に打ち解けた態度で接して来た。
どうやらコイツは悪いヤツではなさそうだ。
「田中さん……俺は佐倉 士苑です。で、こっちが……おい、亜里亜」
俺はさっきから会話そっちのけで飲み食いに夢中だった亜里亜を促した。
「……へ? なんれふか?」
「何ですか、じゃないだろぉ。こちら、この国のプレイヤーの田中さん。お前も自己紹介しろよ」
「あぁ!あの……私、美波 亜里亜です。田中さん、ここは料理が美味しい良い国ですねぇ」
「あはは……良かったらたまに遊びに来てください。美波さんのような綺麗な方が来てくれればウチの国も潤いますよ」
「やだ、綺麗だなんて……そんなぁ……♪」
ポッと頬を赤らめる亜里亜。
何をちょっと褒められたくらいでのぼせてるんだコイツは……俺は少しからかってやる事にした。
「亜里亜、お前まさかお世辞と本音の区別も付かない訳じゃないよなぁ?」
「あ~、士苑さんってばカンジ悪ぅ~い。それに比べて田中さんは女心が解ってるなぁ~。私、惚れちゃうかも……」
「え……っ!!!?」
その一瞬、俺はマジで反応してしまった。
ハッと気付いて我に返ると亜里亜がニヤニヤ笑いながら見ている。
はめられた……!
不覚である!
実に不覚である!
「ははは……いやぁ、残念ながらお二人の間に僕なんかが入り込む余地は無さそうですねぇ」
田中が笑いながら言った。
「「いやそんな仲じゃないですから!!」」
俺達は同時にツッコんだ。




