42話 他国
この世界に来てから二百年近くになるが、俺達(つまり俺、亜里亜、刈谷、水野)の誰も山脈の北へ行った事が無かった。
必要が無かったからだ。
北の地方の様子は交易のために各地を行き来している行商人に聞いて知っていたに過ぎない。
つまり自分の目で確かめた訳ではないのだ。
だからこの旅は俺達にとって非常に重要な試みとなるだろう。
やがて俺達は山脈の手前まで来たが、山は高く険しく、とても越えられそうに無かった。
北から来る商人達も山脈を迂回して来ると言うから、今回は俺達もそれに倣う事にした。
かなり遠回りになるが安全性を考えれば妥当な選択だ。
今回の旅の目的は新ルート開拓ではない。
亜里亜も賛成してくれた。
※
……山脈の北側に出ると一気に気候が変わった。
肌に感じる空気も温かい……というより暑い。
良く見ると植物も違うようだ。
俺達の所は主に針葉樹だが、この地域は主に落葉樹らしい。
植生(どんな植物が生えているか)が異なるという事は、そこに育まれる文化にも大きく影響する。
人が生きるために必要な衣、食、住……どれも植物と関係している。
例えば西日本と東日本の文化・価値観の差だって、元を辿れば植生に由来すると言われているのだ。
何せ大陸から渡来人が渡って来る以前の縄文時代から東西の微妙な文化差があったというから、まことに文化とは人種ではなく自然環境に起因する物なのだろう。
……何が言いたかったのかというと、つまりこの地域の人達は俺達とは価値観や思考……物の考え方が微妙に異なる可能性が高いという事だ。
その点は注意して接しなければならないと思う。
※
やがて俺達の行く手に一つの都市国家が見えて来た。
その街は石造りの堅牢な城壁を持っており、大きさも俺達の街の倍はある。
「おっきい……!」
亜里亜も目を見開いて驚いていた。
もちろん俺もだ。
更に驚いた点がもう1つあった。
街から出入りしている人々の中に車輪の付いた馬車を引いている人達がいたのだ。
車輪……この文明の利器はまだ俺達の地域では取り入れられていなかった。
これだけでも充分わかる。
俺達の地域がいかに文化的に遅れているかという事が……。
俺達は城門をくぐって街に入ろうとしたが、槍を持った兵士達に行く手を塞がれてしまった。
彼らは布の服の上に胴だけを守れる金属製の鎧を着て、頭には同じく金属製の兜もかぶっている。
(う~む……かなり高度な金属加工技術を持っているようだな……)
俺が興味津々といった様子で見ていたので、兵士達は変な顔をした。
その中でも特に立派な鎧を着て腰に剣を下げた男(恐らく隊長格だろう)が尋ねてきた。
「お前達は一体何者だ?」
そりゃあこんな大人数で、中には武装したヤツもいれば怪しまれて当然だろう。
俺は少し迷った末、正体を明かさない事にした。
「我々は南から来た行商人の一団で……」
ところが、亜里亜がしゃしゃり出て来て……
「……あ、私と彼、プレイヤーなんですよ~♪ 山の向こうから国作りの参考にしようと思って視察に来ましたぁ~」
「亜里亜あああぁぁぁっ!!!?」
この馬鹿ああぁぁ!!
あっさり正体バラしやがった!
この国の国主が俺達に対して好意的である保証なんてどこにも無いのに!
ほんっとコイツは昔っから危機感無かったからなぁ!
……まあ、そこが可愛くもあるんだけど……。
いや、今はそんな事どうでもいい!
「プ、プレイヤアだって!?」
「証拠はあるのか!?」
案の定、兵士達は動揺している。
せっかく穏便に済ませようと思ったのに……。
こうなったら亜里亜は頭が可哀想な娘という事にして……などと思っていたら、彼女は俺の手首を掴んで兵士達に向かって宣言した。
「では今から私達がプレイヤーであると証明してみせます!」
彼女の片手には銅製のナイフが握られていた。
ま、まさか……!?
……と思った時にはもう手遅れ。
亜里亜は俺の手首にその刃を当てると「すいません、ちょっと痛いですけど我慢してくださいね……」と注射前の看護師さんみたいな事を言ってスッと引いた。
「うわああああああああ……っ!!!?」
俺の手首から鮮血が吹き出した。
「亜里亜ぁ!!テメェ何しやがんだコノヤロウ!!?」
「何って……プレイヤーの最大の特徴である驚異的な治癒力を見せようと思って……」
「だったら自分でやれぇ!!」
まあ、どうせすぐ治るのだが……。
案の定、傷口は見る間に塞がっていった。
それを見た兵士達は目を皿のように見開いて驚愕した。
「ほ、本物だあ!!」
「本当に本物のプレイヤアだあ!!」
それだけではない。
「え!? プレイヤアだって!?」
「うそ!? あたし初めて間近で見る」
「あれが? 外見は案外普通だなぁ……」
「でも女の子の方はけっこう可愛いぞ!」
騒ぎを聞き付けた街の人達まで集まって来てしまったのだ。
亜里亜は他人事のように言った。
「うわぁ……なんか予想以上に大事になっちゃいましたねぇ」
「確実にお前のせいだろ……」
兵士達は俺達を取り囲んだ。
「我々と共に来ていただこう。王に判断を仰ぐ……!」
そして俺達は街の中心にそびえ立つこの国の王宮へと連行されたのだった……。




