41話 北へ
俺は自国に常備軍を設立するに当たって、既に軍を有している他国を参考にしようと考えた。
……と言っても今現在、俺達の地域でそれに該当する国は無い。
つまりちょっと遠出しなきゃいけないという事だ。
目指すは北……俺達のいるここら一帯よりも人口過密で、都市国家同士の戦争が盛んに行われている地方である。
ところでここで一つ“方位”に関して説明しておかねばならない事がある。
この世界では(というか俺達が今現在把握している範囲内では)北に行くほど暖かく、南に行くほど寒い。
つまりここは南半球という事になる(もちろん世界が球形の惑星だと仮定すればだ)。
ちなみに俺達の住む地域と北の戦争が盛んな地域とは、大きな山脈によって隔てられている。
だから戦乱の余波がここまで及んで来る事も無いという訳だ。
俺は二、三人の供を連れて北へと旅立った。
そう言えば初めて旅立った時も北を目指したっけ……懐かしいものだ。
あの時は自分の村の周りがどうなっているのかを探るためだった。
それで亜里亜や刈谷や水野……それに栗田や馬場の存在を知った。
もう二百年も前の事だ……。
※
北を目指す俺達は途中、亜里亜の国に立ち寄った。
「士苑さん!いらっしゃい」
「やぁ、亜里亜。久しぶり」
亜里亜は俺達を歓迎してくれた。
事前に知らせた訳でもなく、しかも着いたのが夕刻だったのに、その晩は急きょ簡素ながら宴を催してくれたのだ。
「……へぇ~、軍隊作りの手本にするために北の山の向こうの街に視察に行くんですかぁ……!」
「ああ、往復と滞在で約一ヶ月って所かな……長いこと自分の国を空ける事になっちゃうけど、やっぱ直接この目で見て学びたいと思ってね」
「なるほどぉ~、やっぱり士苑さんですねぇ。誰か適当な信頼出来る人を派遣すれば済む話なのに、いちいち自分で出向く……さすがです!」
「……ほ、ほめ言葉として受け取っておくよ……」
「ところで留守中、国政の方はどうするんですか?」
「それこそ信頼出来る連中に任せて来たよ。今のところ内外に深刻な問題は起きてないし、俺がいない間に何かあってもある程度は彼らが自分で判断して対応出来るようにしてあるからね。……あ、くれぐれも俺の不在中に攻め落とそうなんて考えるなよ?」
「あはははは……そんな事しませんって。士苑さんの国、何気に守り固そうですもん。むしろ懸念すべきは内部からのクーデターとかじゃないですか? ほら、王様の長期不在中に反抗心を抱く勢力が決起して国を制圧……な~んて良くある話だと思いません?」
「……し、失礼な!俺はそんな不興を買うような事はしてないぞ?」
「まあ、もし士苑さんが国を逐われた時は私の所で面倒見てあげますよ」
「そいつぁどうも、ご恩情痛み入ります亜里亜様……」
「あはは……冗談ですよ、冗談♪ そんなにむくれないでください」
そう言って亜里亜は笑った。
※
翌朝、俺達は身支度を整えて発とうとしていた……。
だが亜里亜の姿がどこにも見当たらない。
見送りにぐらい来てくれると思っていたんだが……まあ良いか。
俺は供の三人に声を掛けた。
「じゃあ、行こうか……」
「はい、シオン様」
その時だった。
「まってぇ~!士苑さぁ~ん!」
背後から亜里亜の声がした。
俺は振り返る。
「……って、お前! 何なんだ、その出で立ちは!?」
俺の前に現れた亜里亜は旅姿だったのだ。
それだけではない、荷物を抱えた三十人前後から成る男女の集団も後から付いて来るではないか。
「何って……私も士苑さん達の旅に同行させてもらおうかなぁ~……な~んて……?」
「何で疑問形なんだよ!? ていうか後ろの集団は何だ!?」
「身の回りの世話をする侍女達、警護の戦士達、料理人、理容師、あと交易目的の商人、あと、あと……」
「……OK、解った。もう良いよ……」
こうして、図らずも“一大使節団”と化した俺たち旅の一行は、再び北を目指して旅立ったのであった……。




