40話 蛮族と常備軍
銅の精製の過程で発生する有毒ガスによって緑を失ってしまった俺達の都市国家。
だがここで疑問を感じた方もおられるのではないだろうか……
銅の採掘場所って街から離れた場所にあるんじゃなかったっけ?
掘り出した鉱石をわざわざ街まで運んで来てから精製してたの?
採掘場所のすぐ側に精製作業を行う設備を作っていれば、結果的に街周辺の緑も失われずに済んだのでは?
……もっともな意見で、それは俺も効率の面から一時、真剣に考えていた。
採掘現場の隣に精錬所と銅の保管庫、それに作業員達の寝起きする小屋も建て、商取引もそこで行う……全ての設備をそなえた“出先機関”のような一大施設を作ろうと構想していたのだが……結局それは無理だと断念せざるを得なかった。
その原因は“蛮族”と呼ばれる者達の存在だった。
彼らは(当人達の望むと望まざるとに関わらず)文明社会と距離を置き、森の中で原始的な生活を送っていた。
男だけではなく女子供もいる。
その正体は、プレイヤーが死亡、あるいはプレイヤーの元から逃亡、もしくは追放され……理由は様々だがプレイヤーの支配下から解放された“野良ユニット”達であった。
彼らは時おり徒党を組んで文明社会に牙を剥き襲いかかって来た。
目的は略奪……彼らにとって文明社会が生み出す様々な産物は非常に魅力的な物らしい。
まさに“アウトロー”である。
俺達は文明の発展に力を注ぐ一方で常に戦力の増強に努めてきたが、それは何も都市国家同士の戦争だけを想定しての事ではない。
半分以上は蛮族の襲撃に対する備えなのだ。
このようなアウトロー野良ユニット達は俺達の地域に限らず各地で同様に問題となっていたが、当の本人達は自らの事を誇りを持って“ババ=リオンの民”と称した。
ちなみに“ババ=リオン”とは“何者にも支配されない”、“自由”、“反文明”といった意味の言葉らしいが、語源については不明である……。
話が逸れたが、とにかくこの蛮族達のために俺達は銅山への出先機関の設置を諦めざるを得なくなってしまった。
精錬済みの銅の山は彼らにしてみれば宝の山のような物だ。
もっとも彼らは金属加工技術を持っていないので、武器や農具などに加工して利用するのではなく、別の都市国家との取り引き材料として利用する。
蛮族達の暮らしは、ほぼ自給自足で成り立っているので、取り引きによって手に入れるのは主に武具や嗜好品である。
これらの物は都市国家でなければ生み出せないし、都市国家側も蛮族達の持って来る品物を求める。
略奪品だと知った上で、だ。
よその都市国家の資源を巡り巡って得ている形だが、そもそも自分達以外の都市国家は皆ライバルなのだ。
他国が損をするのは別に構わない。
……となれば、あとは自分達の所が奪われる対象にならないよう、軍備を整える事である。
“常備軍”……ついに俺達の国もこれを設置する段階に至ったのだ。
今までにも“軍”と呼ばれる集団がいなかった訳ではない。
それぞれ別の仕事を持った市民達が戦いの時にだけ武器を取って組織される一時的な軍だ。
だがこれから作る“常備軍”はそれとは違い、“職業軍人”……すなわち戦う事を仕事とする者達によって構成される、いわば戦闘プロ集団だ。
相応の常備軍を持つには相当な社会的余裕が必要である。
なぜなら彼らは生産・流通に全く携わらない集団だからだ。
だがその生産・流通を敵から守るために必要な存在だ。
そして幸いな事に現在、俺達の国にはそれなりの(つまり一都市国家として存続していくために必要な利権を守るために充分な数の)常備軍を養えるだけの社会的余裕はあった。
俺はさっそく軍隊作りに着手した。
まずは構成員となる軍人集めだが、これは町で暇そうにしている男達に片っ端から声を掛けていったところ、けっこうな数が集まった。
その数ざっと五十人弱といったところ……予想していた以上で、充分すぎるくらいだ。
ところが、基礎体力作りとして少し厳しめの運動と戦闘訓練を課した結果、たった一日で半数以上が辞退を申し出て来た。
どうも“軍に入れば衣食住が保証されて遊んで暮らせる”と勘違いして集まって来た連中が多かったらしい……。




