4話 遭遇
“ヤツ”との遭遇は、何の前触れも無く、唐突であり、そして(特に俺にとっては本当に)衝撃的な出来事だった。
経緯はこうだ…。
その日、俺はいつものように、アダムと共に森の中で木を集めていた(イヴとリリスには、町の中心の近くで果実を集めてもらって…)。
当面の目標は“狩猟社会から農耕社会への転換”である。
農耕は少人数による耕作で、狩猟よりも遥かに豊富、かつ安定して食料を得る事が出来る手段だ。
“畑”は、ゲーム時には建造物の一つとして扱われていたが、これを建造するには、まず“穀倉”という建物を建てねばならない。
建造物の建築には一定のルールがあって…あの建物を建てるためには、まず先にこの建物を建てなければならない…とか、まあ色々と面倒くさい。
※ちなみに“石器時代”である現在は、必要な資源と言えば“食料”と“木”と“石”くらいしか無いが、文明が進むにつれて必要となる資源の種類も増えて来る物で、最終的には…
・食料
・木
・石
・金属(金/銅/鉄)
・化石燃料(石炭/石油/天然ガス)
…以上、9種類となる。
金属や化石燃料などは、現在は採掘する技術すら無い。
……話を戻そう。
それは、石斧を手に木の伐採を行っていた時である。
先に気付いたのはアダムの方だった。
「……シオンさん、むこうから人が来ます。」
「……えっ!?」
俺は驚いてアダムの指差す方を見る。
森の茂みの中……そこには確かに四人の人影があった。
俺の心臓が激しく高鳴った。
この世界に来て約一ヶ月……初めて出会った“自分たち以外の人間”だ。
それだけではない。
四人の中に一人だけ、いたのだ。
そう、俺と同じく現代人の服装をした人物が!
それは俺より5~6歳は年下…まだ中学生くらいの少年だった。
男にしては少し長めの髪、そしてTシャツにジャージのズボンというラフな格好をしていた。
かく言う俺もパーカーにジーンズだから人の事は言えない(ちなみに室内にいた時に飛ばされて来たはずなのに、なぜか靴は履いていた)。
「や…やあ、こんにちは!俺は佐倉 士苑!君もこの世界に飛ばされて来たの?」
俺は少年の方に歩み寄りながら、おっかなびっくり挨拶する。
たかが中学生相手に何を…と思うかも知れないが、俺も相当動揺していたのだ。
まさか自分以外にも現代人がいたなんて……。
「……。」
ところが、その中学生らしき少年は何も答えず、ただ黙って俺とアダムを見て、目を細めて薄ら笑いを浮かべた。
どこか不気味な印象のその微笑みから、俺は何となく嫌な予感がした……。
次の瞬間、予感は的中した!
少年がサッと右手を上げると、残り三人(向こうの労働者ユニット)が、持っていた石槍をこちらに向けて構えたのである。
「…っ!?」
俺は我が目を疑った……と同時に心底後悔した。
そう、これは“他の民族(国)と争い、競い合いながら、文明を発展させて覇権を目指すゲーム”であった事をすっかり忘れていた。
つまり彼らはライバル……将来的には敵にもなり得る存在なのだ。
ライバルは可能なら早めに叩いておくに越した事は無い。
別に全滅させられなくても良いのだ。
作業を妨害して文明の発達を遅らせるだけでも相当な損害を与える事が出来るのだから。
文明の進歩に差が開けば開くほど、後々、優劣が覆し難い物となってくる。
だから敵は早い段階で叩いておこう……強力になる前に……コイツはそういう風に考えたようだ。
それを俺は……自分と同じ境遇の人間に出会えた嬉しさで、何の警戒心も抱かずノコノコ近付いたりして……自分の人の良さに心底後悔していると、少年が初めて口を開いた。
「…動くんじゃねえ!!動いたらマジでぶっ殺すからな!」
「く…っ!」
声を聞くと本当に子供のようだ。
こんなガキに…と思ったが、俺は仕方無く両手を上げて降参の意を示した。
「…よぉし!大人しく俺に従えば命だけは助けてやる!まずお前の集落に案内しろ!そしてお前が今まで集めた資源を全部よこせ!」
……まるで盗賊である。
殺さないと言いつつ、食料まで全部持って行かれたら飢えて死ぬしか無いじゃないか。
そんな無茶苦茶な要求に屈してたまるか!
俺は斜め後ろに立つアダムに向かって叫んだ。
「おい、逃げるぞ!!」
「はい…!」
俺達は町の中心を目指して一目散に走った。
集めた木は惜しいが、諦めるしかあるまい。
「ちょ…っ!!? 待てやあぁぁ!!クソがあぁぁ!!」
背後から少年の叫び声が聞こえる。
誰が待つか馬鹿。
アイツは抜け目ないようでいて、やっぱりガキだ……詰めが甘い。
こうなる(俺達が逃げる)事を想定して、槍ではなく弓矢を持って来るべきだったのだ(いや、実際そうされていたら俺達は終わりだったが…)。
息を切らした俺達が町の中心に辿り着くと、イヴとリリスが不思議そうな顔で尋ねてきた。
「シオンさん、どうかしましたか?」
「二人とも早く“町の中心”の中に逃げろ!敵だ!」
“町の中心”は敵が町に攻め込んで来た際、籠城して戦う拠点にもなる。
避難完了と同時にヤツラが追い付いて来た。
結果的に俺とアダムは敵を案内して来てしまった訳だが、どうせ見つかるのも時間の問題だったろう。
今は命が最優先だ。
俺達は弓矢を手に取り、戦う事にした。
……だが、本格的な戦いにはならなかった。
矢を二~三本ほど打ちかけてやると、ヤツラはアッサリ引き上げたのだ。
飛び道具で武装して籠城した敵と戦っても不利だと判断したのだろう。
俺達はホッと胸を撫で下ろした。
だが油断は禁物。
ああいうヤツは、また襲って来るに違い無い。
恐らく今度は弓矢を持って…。
……いや、もっと恐ろしいケースも予想される。
考えたくもない事だが、ヤツに仲間がいた場合だ。
このゲームは他の民族(国)との間に“同盟”を結ぶ事も出来るのだ。
ヤツが仲間の勢力を引き連れて再び襲撃して来たら……今度こそ一巻の終わりだ。
俺は決意した。
文明を進歩させる事も重要だが、それと平行して戦力も備えていかねば……。
※
ヤツラとの遭遇は非常に衝撃的だったし、本当に肝が冷えたが、俺達に“自分達のテリトリーの外”について意識するキッカケを与えてくれた。
とりあえず自分達の周辺に幾つの勢力が存在していて、どう分布しているのか……それを把握する必要があると思った。
そして、出来れば、この世界その物に関する事も……。




