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37話 血脈

※ 今回からまた士苑の語りに戻ります。

 不特定多数の異性と(公然と)性的関係を持つ婚姻形態の事を“乱婚制”という(※乱交ではない)。

 また母方の系譜を嫡流とし、母親を中心とする家族を“母系家族”という。

 現在、俺達の集落ではこれらが常識とされている。

 だが読者諸氏はご存知の事と思うが、これらは現代(俺達が生まれ育った世界の、特に日本などの先進諸国)の家族のあり方とは違う。

 つまりあっちの世界の各文明社会は、その発達段階のどこかでこの二つの形態を放棄し、一夫一妻の父系家族へと移行したのである。

 まったく余計な事しやがっt……じゃない、これも人類が高度な社会を築く上で必要な過程だと理解している。

 いや、ほんと……。

 そしてこの世界においても人類は同様の愚行……もとい、社会進化の過程を辿ろうとしていた。

 しかし予想外だったのは、その兆候が意外にも早く見られ始めた事だ。

 俺の予想としては、社会が複雑化し、階層が生まれ、戦争が頻繁になって男性の地位が向上する事によって起こると思っていた。

 少なくとも金属器時代に入ってからだろうと踏んでいたのだが……まあ、まだあくまで兆候に過ぎない。

 まだまだレト達のようなケースは珍しい部類だろう。

 逆らっても仕方の無い流れのような物だし、逆らう道理も無い……俺は許可を出す事にし、翌日、レトを呼んで伝えた。


「レト、話は解った。新しく家を建てる事を許す」

「あ、ありがとうございます……!」


 レトは喜んだ。

 村長(むらおさ)である俺の許可が下りたとなれば、皆もぶつぶつ言わず、万事やりやすくなる。

 だが一つ気になる点があった。


「しかし、レト……本当にノアと一緒に暮らすのか?」

「はい、何か問題でも……?」

「いや……ノアは何て言ってるんだ?」

「もちろん彼女も賛成してくれました。今まで誰もやった事の無い事をやるのには不安もあるけど、二人で力を合わせればきっと何とかなると……」

「そうか……ノアがそう言っていたなら良いんだけどな……」


 どうにも彼女の考えが解らない。

 俺はノアを呼んで直に()いてみる事にした……。


 ※


「レトから聞いたよ。君は彼と共に生きる事を選んだそうだな」

「はい、シオン様……」

「俺にはそれが理解出来ない……だって君は栗田さんの娘だろう?」


 そう、彼女は栗田があるユニットの女性との間にもうけた娘なのであった。

 俺も彼女の存在を知ったのは戦いが終わってからの事だった。


「……君にとってレトは父親の(かたき)だ。まさかとは思うが、いつでも仇が討てるよう、常に(そば)にいて隙を伺おう……なんて考えてやしないだろうな?」

「まさか……」


 ノアは笑って言った。


「あぁ……でも復讐というのなら、私は復讐をしているのかも知れないです。いいえ、復讐というよりは戦いと言った方がいいかも……」

「……どういう事だ?」

「私にとっては、このお腹に宿った命を無事に産み育てる事が戦いなんです。この子はシオンの民の子であると共に、戦いに敗れて消えたクリタの民の血も受け継いでいるのですから……。シオン様、よく覚えていてください。もしこの先、また戦いがあったとして、勝者と敗者が生まれたとしても、戦いに敗れた民の血が根絶やしになる事はまず無いでしょう。敗れた民の女は勝った民の男に抱かれて子を成します。名は消えても、血は勝者となった民の中に入って脈々と続いていくでしょう……」

「……なるほど、それが君たち女の戦いなんだな……」

「ええ……ですから私は、どうせなら、いっそのこと、父を殺めた人の子を産もうと思ったんです……」


 ……確かに彼女の言う通りだった。

 何でよりによって親の仇の妻になんて……と思っていたが、まさかそんな腹積もりだったとは……。

 最後に俺は言った。


「まあ、とりあえず君がレトを殺す気じゃないと解って良かったよ。だがこれだけは言っておく。共に暮らすからには幸せになれ。なんたって君達は我が民族最初の“夫婦”なんだからな。後の時代の子孫達に“二人は死ぬまで幸せに暮らしましたとさ”と語れるようにさ……」

「……もちろん、そのつもりです」


 そう言ってノアは微笑んだのだった……。

※ ちなみに最新の学説によれば、原始乱婚制は無かった可能性が高いそうです……。

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