36話 男と女②
その日を境にノアは皆に心を開くようになったかと言えば、別にそんな事も無く……。
ただ僕達は時おり人目を忍んで会い、愛し合った。
それは誰も知らない二人だけの秘密……なんて事は無く、村の者は皆、僕らの関係に気付いていた。
狭い村の中で各人の秘密なんて、あって無いような物だ。
ところで彼女は僕意外の男と“そういう事”をしている様子は無かった。
これは正直かなり珍しい事で、普通は男も女も多数の異性と関係を持つものだ。
かく言う僕も、そっち方面にはあまり積極的ではないにもかかわらず、自分の母と姉妹を除く村の女たち全員と経験があった。
それは普通の事だった。
僕は僕の母に僕を身ごもらせた子種の持ち主の男(※父親という概念がまだ無い)を知らない。
たぶん村の誰かだろう。
顔付きや性格から『この人かな?』と思う人は何人か居るが、特定は不可能だ。
確かめようが無いし、特に知りたいとも思わない。
言ってしまえば村の全員が血の繋がった一族だし、一つ屋根の下で共に暮らす家族は同じ母から生まれた兄弟姉妹達(それと姉妹達が産んだ誰の種とも知れぬ甥や姪たち)……それで何の問題も無い。
その兄弟姉妹達も同じ母の腹から生まれたのは確かだが、おそらく種は皆それぞれ違うはずだ。
それに僕だって自分で気付いていないだけで、もう誰かを身ごもらせているかも知れないのだ。
だがノアは(なぜかは解らないが)僕としかヤらないのである。
つまり彼女が身ごもった時は、それは確実に僕の子だという事だ。
それは特に悪い事ではないが、確実に自分の子が生まれるというのは何とも言えない妙な気分だった。
※
ある日、いつものように“事”が終わった後、地面に寝転んで余韻に浸っていた僕にノアは言った。
「子供が出来たわ」
「……えっ!?」
予想された当然の結果だが、僕は妙に驚いて動揺してしまった。
ただ、同時にとても嬉しかった。
何という気分なのだろう。
好きな人が自分の子を身ごもってくれたという事は……。
翌日、僕は家族にノアが僕の子を身ごもった事実を伝え、ある提案をした。
「ノアに家の家族に加わってもらおうと思うんだけど、どうかな……?」
もちろん本人も快く了承してくれていた。
そもそも彼女には家族がいないので、僕の家族が良いと言えば問題は無いはずだった。
ところが、母や兄姉達は何やら難しい表情をして顔を見合せてから僕に言った。
「やめた方がいいよ……」
それは僕にとっては予想外の答えだった。
理由を問いただしたが、はっきり答えない。
煮え切らない家族に愛想を尽かした僕は、家を飛び出してシオンさんの所に行った。
何としてもノアと暮らしたい……その一心だった。
「やあ、レト。どうした?」
「実は、自分の家を持ちたいので、村の中に新しい家を建てる許可をください」
「はあ!?」
これにはシオンさんも驚いた。
当然だろう……普通、家は家長である女とその子や孫から成る物だ。
対になる男と女が中心となる家など聞いた事が無い。
ましてや男である僕が『家を持ちたい』だなんて……我ながらおかしな提案だと思う。
だが僕はノアと共に新しい家族を作っていきたいと思っていた。
あっても良いはずだ、そういう家のあり方も……。
「そうか……」
僕の考えを聞いたシオンさんは言った。
「……いつかお前のような考えを持つ者が現れると思っていたよ」




