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35話 男と女①

 元“クリタの民”が僕達の村に来てから一月(ひとつき)が経った。

 僕達の村は意外にうまくいっている。

 当初懸念された村人同士のいさかいは殆ど起こらなかった。

 どうやらクリタの人々はこの村で生きていく覚悟を決めたようで一生懸命この村に馴染もうとしたし、その真摯な気持ちは僕達にも伝わり両者は次第に打ち解けていった……。

 シオンさんも両者の間がなるべく親和的になるよう努めていた。

 彼は約束した事は守った。

 クリタの民を僕達と同等に扱い僕達と同様に接した。

 また衣食住においてもいっさいの差別をしなかった。

 もちろん労働も僕達と同様に課した。

 クリタの人達がこの村で生きていこうと決めた理由は、敵だった自分達を分け隔て無く扱ってくれるシオンさんへの尊敬と感謝の念が大きいと思う。


 だが当然の事ながら全員が全員、割り切れている訳では無かった。

 未だに心を開かない者達は少数ながら双方にいる。

 その中の一人にノアという少女がいた。

 あの黒い髪の綺麗な女の子だ。

 彼女は僕達どころか同じクリタの村の人々とも距離を取っていた。

 戦いの後でそうなったのか、それとも前からそうだったのかは知らないが、とにかく彼女は一人でいる事が多かった。

 聞いた所によるとノアはこの戦いで唯一の家族だった父親を失ったそうだ。

 母親は彼女を産んだ時に難産で死んだという。

 ……はっきり言ってしまおう、僕は彼女が気になっていた。

 彼女の事をもっと知りたいと思う。

 だが誰に聞いても大した事は解らなかった。

 しかしクリタの人達は彼女に関して何かを隠しているようだった……。

 彼女には何かおおっぴらにはできない秘密があるのだ。

 僕はどうしてもそれが知りたいと思った。

 例えそれを知ってしまったら取り返しの付かない事になるとしても……。


 ※


 ある日、僕は獲物のイノシシを追って森の中を進んでいた。


「確かにこっちの方に逃げて来たはずなんだけどなぁ……」


 イノシシを見失ってブツブツ言いながら歩いている内に森の中にある泉が見えてきた。


「……!!!!」


 そこで僕は信じられない光景を目にした!

 ……と言っても別に超常現象などの(たぐ)いではない。

 だが僕にとっては本当に奇跡のような光景だったのだ。

 なぜなら泉でノアが水浴びしていたのだから!

 もちろん“生まれたままの姿”で。

 僕は隠れる事も忘れて彼女を見ていた……いや、見入っていた。

 結果、すぐ見つかってしまった。


「!!……誰!?」

「ご、ごめん!!!……覗き見する気は無かったんだけど……」


 言い訳しても覗き見していた事は紛れもない事実である。


「……」


 ノアは手で体を隠し、何も言わずに黙って僕を見ていた。

 その表情から彼女の内心を察する事は出来なかったけれど……いや、怒ってますよね……常識的に考えて……。

 僕は悟った。


(嫌われた――――!!!!)


 こうして僕の短い恋は終わった……


 ……と思いきや、彼女の口から出て来たのは意外な言葉だった。


「見たい?」

「……え?」

「私の裸、見たい?」

「……え、ええと……」


 予想外の展開に僕は頭がついていかなかった。


「そんなに見たいならいくらでも見せてあげるわ。あなたも服を脱いでこっちにいらっしゃいよ」

「……」


 僕は素直に従った。

 だか服を脱ぐのは少し躊躇った。

 彼女の魅力的な肢体を前にして、僕の身体に“健康な男子の生理現象”が起こっていたからだ。


「どうしたの? 早くあなたも裸になりなさいよ」


 ノアが促す。

 ええい、こうなったらもうどうにでもなれだ!

 僕は服を脱ぎ捨てて泉へと入っていった。

 彼女は僕の“そこ”を見て一瞬すこし驚いたが、やがて僕の顔を見てにっこりと微笑んだ。

 それは僕が初めて見た彼女の笑顔だった。

 僕は思わず彼女を抱きしめた……。


 ……それからどのくらいの時間が経っただろうか。

 めくるめく甘い一時ひとときを過ごした僕らが、ふと我に返った時、空は既に夕焼けに染まっていた。

 時間も忘れるほど夢中だった。

 ただ一つはっきりしている事は、僕は彼女に強要はしなかった。

 自然な流れだった。

  


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