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34話 勝者と敗者

※ 今回も少年レトの語りが続きます。

 翌日、僕達は戦いで死んだ者達の埋葬を済ませた後、捕虜にした連中を伴ってクリタの村へと向かった……。


 村の門は固く閉ざされていた。

 シオンさんは門前に立ち、中に立てこもっている連中に向かって告げた。


「聞け!!お前達の長、クリタ=サブロウは死んだ!!この上は無駄な抵抗は止めて大人しく降伏しろ!!そうすれば命までは取らない!!」


 ……門は開いた。

 クリタの村の防備は堅いので正直、抵抗されると厄介だった。

 シオンさんの表情にも、どこかホッとした感があった。


 集落に残っていたのは女子供と年寄りばかりだった。

 誰もが皆そろって、不安、恐怖、そして絶望に打ちひしがれたような顔をしていた。

 もし僕達が負けていたら……その時は僕達の村の女子供達がこんな立場に立たされていたのだ。

 そう思うと胸が締め付けられるような思いがした。

 ……ふと視線を感じた。

 僕と同い年くらいの女の子がジッとこちらを睨んでいた。

 黒い髪をした綺麗な女の子だった。

 僕は一瞬見とれかけて慌てて目を逸らした。


「シオンさん、この者達はどうするのですか?」


 仲間の一人が尋ねた。

 シオンさんの答えを待たずして血の気の多い連中はいきり立って言う。


「そんなの決まってる!皆殺しだ!」

「そうだ!コイツらは敵だ!生かしておけば後で必ず復讐してくる!」

「どうせ殺すなら女どもにはその前にたっぷり楽しませてもらおうぜぇ……!」


 その言葉に女達は顔をひきつらせて震え上がった。


「馬鹿な事を言うな!!」


 シオンさんが彼らを一喝した。


「降伏すれば命までは取らない……そういう約束で降伏を受け入れたからには、その約束は守られなければならない!もちろん傷つけるような事もあってはならない!戦いはもう終わったんだ!したがってこの人々も敵ではない!もし今後彼女らに乱暴する者があれば、その時は俺達の村の仲間を傷つけた場合と同じように裁くので覚悟しておけ!」

「「「は、はい!!!」」」


 シオンさんの言葉は(特に若い世代にとっては)絶対だった。

 だが一人の年配の男が意見する。


「ですがシオンさん、彼らの言う事も一理あります。この者達を放置しておけば復讐の可能性が……もちろん戦力となる男達の大部分が死んでしまった今は無理でしょうが、例えば今の子供達が大人になったら……?」

「ああ、確かにその心配はある。だからこの人々を放置はしない。俺達の村に取り込んでしまう」

「と、取り込む……!?」

「敵だった者達を……!?」


 皆その言葉に耳を疑った。


「もちろん俺だってな……一度は刃を交えた者同士でも戦いが終われば恨みを忘れて解り合える……なんて頭の中がお花畑みたいな事は考えてないさ。これは双方にとって益となる選択だ……」


 シオンさんは説いた。


「……まずクリタ村の生き残った人々だが、働き手となる男手がほぼ全滅してしまった今、集落を維持していく事も大変だろう。弱味に付け入って無理難題を押し付けてきたり攻めて来る集落もあるかも知れない。俺達と一緒なら少なくともそれらの災難は避けられる……」

「「「……」」」


 皆は黙ってシオンさんの話に耳を傾けていた。


「……そして俺達の村だが、こっちはいうまでも無いだろう。労働力が得られる。人口の問題なら心配いらない。金属器時代に進化すれば、この増加分なんて補って有り余る程の社会的余裕が生まれる……」

「「「……」」」

「……まあ、そういう感じなんだけど……どうかな? あとは皆の感情面の問題なんだけど……」

「「「……うぅ~~ん……」」」


 皆そろって難しい顔をしていた。

 確かにシオンさんの言う理屈は解らないでもないのだが……。


「サクラ=シオン殿、あなたのお話は解りました……」


 クリタの村の長老が歩み出て来て言った。


「我々は本来ならば皆殺しにされても文句は言えぬ身……それをこのご温情……正直とても有難く思います」

「じゃあそっちはOKという事で……?」

「しかし一つ、どうしても拭い去れない不安があります。あなた方の村に行ったら我々は、拘束されて逃げる事も逆らう事も許されぬ身分となって完全に支配下に置かれ、死ぬまで過酷な労働に従事させられるような事にはなりますまいか? 現に戦いの盛んな北の地方では勝者が敗者をそのように扱うのが当たり前だとか……そんな事になるくらいなら、今、まだ少しでも人としての尊厳を保ったまま死んだ方がマシです」


 なるほど長老の言う事はもっともだった。

 僕もそんな事になるくらいなら死んだ方が良いと思うかも知れない。

 だがそれに対するシオンさんの答えは意外なものだった。


「……それに関しては何とも言えないな」


 てっきり『そんな事には絶対にならない!俺がさせない!!』とか言うかと思っていたのに……。


「もちろん今現在の俺の心情としては奴隷なんて望まないし、集落内に格差や身分が出来て差別が始まるのも嫌だと思ってる。だからそうならないように出来る限りの努力はするつもりだ。ただし未来永劫とはいかない。俺も一応、人間なんだ。考えが変わる事は充分あり得る。そこを考慮した上で決めてくれ」

「なるほど……自信満々に『大丈夫だ』と言われるより少しは信用できそうだ。……皆の者、どうだろう? ワシはシオン殿の事を信じてみても良いと思うのだが……」


 長老はそう言ってクリタの村の皆に呼び掛けた。

 他の者達も概ね長老と同意見のようだ。

 もちろんこっちの村も……。


 こうして、かつての敵との奇妙な同居生活が僕達の村で始まった。

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