33話 ユニットとプレイヤー
※ 今回は主人公・士苑ではなく、士苑の村の一人の少年の語りになります。
この世界には二種類の人間が存在している。
一方は導く者……強靭な肉体と半永久的な寿命を与えられ悠久の時を生きる“プレイヤア”。
もう一方は導かれる者……プレイヤアに比べれば遥かに脆弱な肉体と限りある寿命しか与えられていない……そう、僕達“ユニット”だ。
その代わりと言ってはなんだが僕達ユニットには子孫を残す能力が備わっている。
プレイヤアも子供を作る能力が無い訳ではないが、それで生まれて来る子供は僕達と同じユニット……つまりプレイヤアはプレイヤアの子孫を生む事は出来ないのだ。
なぜ世界がこういう風になっているのかは解らないけれど、そう出来ているのだから仕方がない。
ただ僕達ユニットにとってプレイヤアというのは自分達を遥かに超越した絶対的な存在(そういう者を何と呼べば良いのか僕には解らないのだが)である事だけは確かだった……。
「レト、敵のプレイヤアを殺ったの……あれ、お前の矢だったよな……?」
「うん……たぶんそうだと思う」
僕達の村にとって初めての戦いが終わった日の夜、僕は仲間の一人に言われた。
「つまりお前はプレイヤアを殺したって事だ!これは大変な事だぞ!」
そいつはちょっと大袈裟なくらいに驚いた様子で言う。
でもこいつの言う通りだ。
僕は“プレイヤア殺し”という、この世界の秩序を根底から揺るがす事をやった……のだと思う。
実感は無いのだが……。
そいつは自分の事でもないのに顔面蒼白になって震えながら続けた。
「レト、お前本当に恐ろしい事しちまったなぁ!だってユニットがプレイヤアを殺すなんて普通なら有り得ない事じゃないか!俺はこれからお前に一体どんな罰が下るか心配でならねえ!」
「ば、罰……?」
僕は罰が下されるような事をしたのだろうか……?
ただ、いつも獣を射るのと同じ要領で、あのクリタ=サブロウというプレイヤアを射た。
その時は背中を向けて逃げていく彼が他のユニット達と特に何か違うようには見えなかったのだけれど……。
そこへ村の長老連中がやって来て言った。
「レト、シオンさんがお前をお呼びだ。お前に大事な話があるそうだ。早く行け」
「そら来た!きっとシオンさんはお前を殺す気だよ!だってシオンさんもプレイヤアだからな!同じプレイヤアを殺したお前を生かしておくはずが無いよ!あぁ、可哀想なレト!何も悪い事をした訳でもないのに!なんて哀れなんだ!」
またも大騒ぎするそいつを長老の一人が一喝した。
「こら!ザギ、勝手な事を言うでない!シオンさんはそんな事でレトを呼び出した訳ではないわ!」
「……うぅ、すいません……」
「じゃあ僕、ちょっと行ってきます」
僕はシオンさんの元へと向かった……。
※
「シオンさん、レトです」
「ああレト……来たか」
シオンさんは一本の矢を僕の前に突き出して尋ねた。
「これは栗田さん……クリタ=サブロウの命を奪った矢だ。お前の物で間違い無いな?」
「はい、間違いありません」
「そうか……お前は普段はのんびりしてるが弓だけは村の誰にも負けない腕前だったからなぁ……そうか、お前がやったのか……」
シオンさんは何とも言えない表情をして目を細める。
彼が何を考えているのか僕には全く解らなかった。
当たり前だ。
その外見だけならば僕よりも3つか4つほど年上にしか見えないにも関わらず、実は百年を超える月日を生きている彼の思考など、僕なんかに理解できるはずがなかった。
だから僕は思いきって訊いてみた。
「シオンさん、僕は罰せられるでしょうか?」
「はあ?」
シオンさんは不思議そうな顔をする。
「なぜお前が罰せられなきゃならないんだ?」
「それは……プレイヤアを殺したから……」
「なるほど……で、一体誰がお前を罰するんだ?」
「それは……シオンさんか……そうでなければ、たぶんこの世界の法則を司る……何と言えば良いのか解りませんが……そういう存在がプレイヤアを殺した僕の存在を許さないはずです」
「ふむ……それはお前の考えじゃないな? ザギ辺りか? そういうどうしようもない事をお前に吹き込んだのは……」
「……」
さすがはシオンさん、全てお見通しのようだ。
僕は黙ってうなずいた。
「ハァ……あいつは悪いヤツじゃないんだが、どうも変な方向に想像力が働きすぎていけないな。……安心しろ、少なくとも俺はお前を罰したりはしないよ。お前も、他の皆も、俺の命令に従っただけだ。罪なんてある訳ない。むしろ誇って良い。お前は今度の戦いの戦功第一だ。大将首を挙げたんだからな」
「たい…しょう…首?」
「そうだよ。戦いではね、敵の親玉を討ち取ったヤツが一番のお手柄って決まってるのさ……」
そう言ってシオンさんは微笑んだ。
その笑顔が僕を安心させるための物である事は僕にも解った。
彼は心の内ではクリタの死を悲しんでいるという事を僕も皆も知っていた。
本当は笑顔なんて出て来るような心境ではないはず……それなのにこの人は……。
その時、僕は胸の深い奥底で何か熱く疼く物の存在に気付いた。
この人の約に立ちたい……尽くしたいと思った。
それは彼がプレイヤアで僕がユニットだからなんかじゃない。
間違いなく僕という一人の人間の気持ちだった。




