表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/58

28話 達観

 出会いがあれば必ず別れもある。

 当たり前の事だ。

 どんな人でも出会った以上、いつかは必ず別れなければならない。

 その別れ方は様々だが、中でも最も悲しく切ないのは“死による別れ”だろう。

 どんな人でもいずれは死んで去っていくのだ。

 そしていつかは自分が人々の前から去る番も回って来る……。

 だが俺達プレイヤーは違う。

 滅多な事では死なないのだ。

 親しい人々が自分の前から去っていくのを何十年…何百年…何千年…と見続ける事になる。

 そんなの、とても耐えられない。

 辛すぎるじゃないか……。


 ……なぁ~んて事を思って感傷に浸っていたもんだよ、当時は……。

 あれから百年が経った。

 アダム、イヴ、リリス、その子供世代……もう皆死んだ。

 石器時代の人間というのは本当に寿命が短い。

 

 第一世代で最初に死んだのはリリス、何人目かの子を産んだ後、産後の肥立ちが悪くて弱って死んだ。

 三十前後だった。

 アダムは四十代半ばくらいまで生きた。

 これでも石器人にしては充分すぎる程だ。

 ちなみに死因は……何と“風邪”だった。

 イヴが一番長生きした。

 彼女は多くの子を産んで五十近くまで生きて人生を全うした。

(ちなみに三人とも正確な年齢が判らないから、とりあえずゲーム開始時点で二十歳として計算してみた。)


 実際に彼女達の死を経験してみて判った事は、確かに身近な者の死はとても悲しいが受け入れられない程ではない、という事だ。

 それに命は去っていくばかりじゃない。

 常に新しい命が誕生し続けているのだ。

 ちなみに死ぬ者よりも新たに生まれる者の方が多いので、我が集落の人口は着実に増え続け……。


 ……いや、増え続けていくはずだったのだが……そうはならなかった。

 正確には、人口がおおよそ五十人に達するまでは順調に増加していた。

 ところが五十人を超えた辺りで、急に増加に歯止めが掛かったのである。

 どうやら生まれる人の数と死ぬ人の数が拮抗し、それで全体の人口が変わっていないようだ。

 とはいえ生まれる人数は減っていない。

 何せ娯楽という物が殆ど無いに等しいから、皆“それ”ばかりやっている。

 特に若い世代などは健康な肉体と気力と体力と精力を持て余しているから、日々懸命に“それ”に励んでいる。

 すなわち原因は出生率の低下にあらず。

 どうやら死ぬ人数が増えているらしいのだ。

 死因は事故、病気など様々だ。


 ごく稀に殺人というのもあった。

 犯行の動機は様々だったが、大体は“異性の奪い合い”または“物の貸し借りでトラブルに発展して…”であった。

 稀に他の理由もあったが、なぜか殆どのケースがこの二つのいずれかだった。

 ……もちろん犯人には罰が与えられた。

 被害者の方に絶対的に非があった場合や、犯人によほど同情すべき理由が無い限り、大抵は死刑になった。

 その裁量は俺と長老達による話し合いで決定された。

 処刑方は“石打ち”……すなわち石で頭を叩き割って殺すのである。

 俺が前にいた世界の価値観から見れば、一人殺しただけで死刑だなんて少し酷すぎるのではないか、と思うかも知れない。

 だがここは甘えなど許されない石器時代だ。

 厳しい自然の中にあって、か弱い人類は集団を形成し、協力し合いながら生きている。

 ゆえに集落内の秩序の維持は最も重要な課題である。

 他人の命を奪った者は己の命をもって償う……当たり前の事だ。

 更正の可能性?……そんな物は寝言だ。

 私情で同胞の命を奪った者に生きる資格など無い。


 それよりも彼らにも他者への嫉妬や憎悪といった負の感情が芽生えた……その事実の方が俺にとっては悲しかった。

 四人から始まった最初から見てきた俺は(基本的には)集落の者は全員が一つの家族のような物だと思っていたからだ。

 だが世代が下るにつれて、誰々の子だ孫だ曾孫だと分かれていき、今では集落内に四~五の血族による集団……つまり“家族”が存在している。

 そして各々が各々の家族への帰属意識を持って生きていた。


 ……話が少し脇に逸れたようだ。

 人々の死因で最も多いのが(これも悲しい事に)乳幼児の死亡率であった。

 その殆ど多くが怪我・病気である。

 医者もいない、薬も無い……呪術的な治療を施すシャーマンのような者がいるのみだ。

 もちろんこのシャーマンの行う呪術的治療には科学的根拠など全く無い。

 単なる気休めに過ぎない。

 だが俺はそれを否定したり禁じたりする事はしなかった。

 気休めでも強く信じる事によって本当に治ってしまうケースも多少は見受けられたからである。

 生物本来の治癒力を呼び起こすのだろう。

 本当に人間の“思い込み”は馬鹿に出来ないと思う。

 ただし、傷口に泥を塗り込めるとか、家畜の糞を飲ませて体内の悪い精霊を一緒に吐き出させるとか、そういう明らかに有害そうなインチキ民間療法が登場した時だけはすぐさま止めさせた。

 しかし実際問題、怪我に対しても病気に対しても、殆ど全く手の施しようが無い状態だ。

 もう出来る事が病魔退散の祈祷くらいしか無いのなら、やらせておいてやればいい。


 ※


 このように色々な問題が発生してきている。

 いずれもコミュニティーが大きくなったために起きている事だから仕方ない事なのかも知れない……。

 だが俺は考えていた。

 これらの問題、意外と単純な方法で解決する事が出来るのではないだろうか、と……。

 ある日、俺は長老達に告げた。


「集落の全員に召集を掛けてくれ」

「一体何ですか、シオンさん?」

「何か伝えたい事があるのなら、いつものように我々から各家族に伝えておきますよ」

「いや、とても大事な話……俺達全員の未来に関わる事だから、直接皆に話したいんだ」

「そういう事なら、解りました」


 その晩、集落の中央にある広場に我が集落の老若男女……約五十人全員が集まった。


「みんな、聞いてくれ!」


 俺は宣言した。


「俺達はこの石器時代を脱し、文明を次の段階に進めるべき時が来たと思うんだ!……いや、進めようじゃないか!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ