25話 三年後
それから三年が経った……。
俺の集落は復興を遂げ、むしろ以前よりも大きくなっていた。
これには俺とアダム、イヴ、リリスの頑張りもさる事ながら、周辺集落の援助による所も大きかった。
亜里亜、刈谷、それに水野は、復興に必要な資源・労働力の提供・貸与という形で支援してくれた。
本当に有り難い事である。
栗田はあの一件以来、再び皆と距離を置くようになってしまった。
誰も彼を責めた訳ではないのだが、やはり“人を殺めてしまった”という事実は彼自身に重くのしかかり、自然と俺達から遠のかせてしまった。
せっかく一度は心を開いてくれたのに……残念な事である。
ただ、この世界……元になったゲームのルールからすれば、近隣の集落と仲良くしたり馴れ合ったりする事が必ずしもプラスにのみ作用する訳ではない。
以前にも述べた通り、このゲームは他の民族と争いながら覇権を目指すゲーム……つまり他の民族を全滅させる事がクリアの条件なのである。
すなわち、今は仲の良い相手でも、将来的には争わなければならない事態が訪れるかも知れないのだ。
俺の子供達が水野や刈谷、それに亜里亜の子供達と争い、殺し合う……そんな日がいつか来るかも知れない。
もちろんそんな日は永遠に来て欲しくないと思うが……。
今、俺達の住む集落は馬場によって破壊される前の倍近い大きさを誇っている。
木製の城壁と環壕によって囲まれ、その中に住居はじめ様々な建物や畑が建ち並ぶ。
始めての軍事施設……“歩兵育成所”も建造した。
石器時代に建築可能な唯一の軍事施設で、これはゲーム時代には軍事ユニット(歩兵)を生産する施設であったが、この世界ではユニット達が軍事教練を行う場として扱われた。
そう、ここに至ってゲーム時代との最大の違い……“生産を担う労働者ユニットと、戦闘を担う軍事ユニットとの区別が無い”という点が明らかとなったのである。
これは考えてみれば当然の事で、平時は生産作業に従事する労働者達が戦時には農具を武器に持ち替えて兵士となる。
この先もっと社会が拡大・発展して“職業軍人”と呼ばれる連中が登場するまでは、恐らくずっとこの状態なのだろう。
何せ今は人口が少なすぎる。
何もしないで食料だけを消費する兵隊を養う余裕は無いのだ。
※
もっとも重要な事を話さねばなるまい。
それは次代を担う世代の登場……そう、子供達の誕生である。
あの馬場との一件があって、それから一週間もしない内にイヴとリリスは無事に元気な赤ん坊を産んだ。
出産は亜里亜の集落で行われた。
その当時、俺達の集落はまだ居住に必要な最低限の設備すら整っていなかったのだ。
なのでイヴとリリスの出産に前後して約一ヶ月ほどの間、俺達は亜里亜の好意に甘えて、彼女の集落に滞在させてもらっていた(俺達が最も世話になったのは間違い無く亜里亜だろう)。
ちょうど良い具合にイヴは女の子、リリスは男の子を産んだ。
それだけではない。
亜里亜の所の女性ユニットも、ほぼ時を同じくして出産を迎えたのだ。
まあ皆が同時にスタートしたと考えれば、自ずと第二世代の誕生時期も重なってくるだろう。
自分の子供達の面倒を甲斐甲斐しく見る女達を見た亜里亜はこんな事を言いだした。
「な~んか良いですよねぇ……ねえ、士苑さん?」
「そうだなぁ……」
「みんな母親になって、大変ながらも幸せそうにしてる顔を見てると、私も赤ちゃん欲しくなっちゃいますよ……」
「……(あれ? そう言えば亜里亜って……)」
その時、ふと俺は気付いた。
亜里亜は妊娠していない……それはつまり、彼女はあの“生産”の行為に参加していない、という事を意味していた。
なぜならこの世界は俺達がいた現代日本とは異なり“行為”の“結果”を回避する手段がいっさい無いからだ。
ぶっちゃけて言うと、ヤったらデキてしまうのだ(彼女が健康な女子である限り)。
(あ……そう言えば刈谷さんも……え? ちょっと待ってよ……?)
俺の中で“ある仮説”が急速に頭をもたげてきた……すなわち、ユニット同士の生産の作業にプレイヤーが参加するなんて事、普通はやらない事なのではないのだろうか、という事である。
もちろん参加しない亜里亜の方が特殊であるというケースも考えられるし、実は彼女も参加してはいたが、ただ結果が伴わなかっただけ、というケースも有り得ない訳ではない。
確認したいが、そんな事訊く訳にいかない。
「…あぁー……」
「……? どうしたんですか、士苑さん? 急に変な唸り声あげたりして……?」
「……い…いや、何でも無いよ……」
後に恥を忍んで、この問題を水野に打ち明けて尋ねてみたところ、実は僕も疑問に思っていた、という言葉が返ってきた。
つまり彼も立場は同じという事だ。
俺は少し安心した。
ちなみにその後も“生産”は引き続き行われ、イヴとリリスは腹を休める間も無く子を産み続けている。
最初に生まれた子供達も今や三歳になって可愛い盛りである。




