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23話 戦後処理

 栗田は馬場の集落を破壊する前に機転を利かせていた。


「馬場のやつ、資源をずいぶん溜め込んでいたようなので、火を放つ前に持ち出しておきました。みんなで山分けしましょう。」

「やったぁ~~!」


 露骨に喜ぶ亜里亜。

 だが、そこへ水野が一つの提案する。


「我々は良いから、馬場の被害を特に受けた士苑君と栗田さんで分けてくれ。」

「「……。」」


 亜里亜と刈谷は物凄く何か言いたそうな顔をした。

 栗田は配分案を提示する。


「それなら士苑君が七、僕が三……という事でどうかな?」

「え!? そういう訳にはいきませんよ。ここは五分五分でいきましょう。」

「いやいや、君は一から集落を再建しなきゃいけないんだから……。」

「じゃあ少しお言葉に甘えさせてもらって……俺が六、栗田さんが四では……。」

「そんな遠慮しないで。僕は大丈夫だから……。」

「いやいや……。」


 俺と栗田は日本人の美徳である《謙譲の精神》を互いに発揮し始めた。

 このままでは永久に収集がつかない。

 業を煮やした水野が強引に決定を下した。


「……では士苑君が七、栗田さんが三だ。異論は認めない。女性陣もそれで良いね?」

「ええ、まあ……。」

「それで良いです。」

「ま…待ってください!」


 俺は言った。


「今回は水野さん、刈谷さん、亜里亜ちゃんの三人にも助けられました。ですから俺の七の内の三を三人に……。」

「いや、いらん。」


 俺の《こころざし》は水野に一蹴された。

 一瞬目を輝かせた亜里亜と刈谷は、また物凄く何か言いたそうな顔をした。


「テメェらぁ!!!俺が集めた資源だぞ!!? なに勝手に山分けしてんだ!!? ナメんじゃねえぞコラァー!!?」


 ちなみに馬場がずっと叫んでいたが、もう誰も聞いていなかった。


 ※


 ふと、栗田が馬場に歩み寄って行った。


「!?……な…何だテメェ!!?」


 馬場は復讐されるとでも思ったのか、一瞬ビクッと身を強ばらせたが、栗田が何もしないと判ると虚勢を張り始めた。


「あぁ!? 何だコラ!!? 何か文句あんのかぁ!!? あぁん!!?」

「……君は……。」


 栗田が口を開く。


「……君は何も知らない子供だ。感情のままに生きる幼児と変わらない……。でも、悪いのは君じゃあない。世の中がどうやって回っているのか、人を傷付けたり、人のものを奪ったり壊したりするという事がどういう事なのか……それをちゃんと教えてくれる大人が今まで君の周りにいなかっただけなんだ……。」


 彼の表情に怒りや憎しみは無かった。

 慈愛に満ちた優しげな微笑みを浮かべている。


「ハ…ハァ!? な…なに言ってんだテメェ!? い…い…意味解んねえし!ば…ば…馬っ鹿じゃねえの!?」


 馬場は明らかに動揺している。

 恐らく、久しく……ともすれば、初めて人の優しさに触れて、戸惑っているのかも知れない。

 そう考えると、俺は馬場が哀れに思えて、少しだけ同情した。

 馬場は栗田に喰ってかかる。


「お…俺が何も知らねえっつったなぁ!!? な…なら、テ…テメェが教えてくれるっていうのかよぉ!? あぁん!!? ど…ど…どうなんだよぉ!!?」


 その言葉は挑発的だが、内心では期待しているのがバレバレだ。

 栗田は、うなずいて答えた。


「ああ、良いとも……僕が人として大切な事をな……色々と教えてやるぜぇ!!!このガキいぃぃーーっ!!!!」


 次の瞬間、栗田がブチキレた。

 彼は馬場の顔面に思いっきり蹴りを入れた。

 俺達は一瞬、何が起きたのか理解出来なかった。

 それほど栗田の変貌は突然だったのだ。


「ぐほおおあぁ…っ!!!!!?」


 だが一番驚いたのは馬場本人だろう。

 何か白い小さな物がコロコロと地面に転がった。

 良く見ると、それは馬場の歯だった。

 栗田は吼えた。


「イイィ~ヤッハアァ~ッ!!!!」


 ……そして壮絶なリンチが始まった。

 栗田は何かに取り憑かれたように馬場に殴る蹴るの暴行を加える。

 その凄まじい有り様は、あたかも今まで溜めに溜めた恨みを一気に解消してやろうとでも言わんばかりで、鬼気迫る物すら感じさせた。


「く…栗田さん!その辺で止めといた方が……!!」


 俺は見かねて栗田を制止しようとする。

 確かに馬場は腹立たしいヤツではあるが、これはやり過ぎだ。

 亜里亜と刈谷は栗田の豹変に、すっかり怖じ気づいて及び腰になっている。

 変な話だが、ここは馬場の一番の被害者である俺が止めに入るしか無かった。

 だが、そこに水野が口を挟んだ。


「……いや、士苑君、構わないで放っておけ。」

「み…水野さん!? 本気ですか!?」

「ああ、本気だ。栗田さんには“報復する権利”がある。それにあの少年も……彼は人の痛みを知る必要があるよ。“他人を害すれば己自身に返って来る”……それを身をもって学ぶ良い機会だ。」

「で…でも、このままじゃあ……ヘタしたらアイツ、死んじゃいますよ……!?」


 栗田はトランス状態に陥っている。

 もはや彼には容赦も慈悲も無い。

 本当に殺す勢いだ。

 すると水野は言った。


「いや、死にはしない……と思う。」

「どういう事です?」

「士苑君、君は彼に矢で足を射抜かれたな。その傷は今どうなっている……?」

「……っ!!」


 言われて俺はハッとした。

 足の傷には負傷した直後、肌着のシャツを裂いて巻く応急処置を施しただけだった。

 たったそれだけの事しかしていないはずなのに、もう既にかなり楽になっているのだ。

 もちろん痛みが無い訳ではない。

 まだ歩くのには足を引きずらねばならないが、それだけだ。

 確かに負傷直後は、のた打ち回る程の激痛に襲われたはずだった。

 簡単な手当てをして、焼け落ちた自分の集落跡に向かっていた時は、もう本当に必死だったので、あまり良く覚えていない……。

 だが亜里亜の集落に辿り着いた時には、支えてもらえば歩けるまでに回復していた。

 つまり、この事実が意味する所は……。


「……ど…どういう事ですか?」


 俺は水野に訊いた。


「……つまり、僕達は超人的な回復力を備えているという事だ。栗田さんに射られた僕の肩の傷も驚異的な速度で回復している。これは普通の人間では有り得ない。もちろん僕は宇宙人でもエイリアンでもない。普通の人間だ。君だってそうだろう?」

「はい。……きっとこの世界に来てから備わった能力なんでしょうね……。」

「そうだ。そして恐らく、他の全員にも同じ能力が備わっていると思われる……。」

「つまり俺達プレイヤーは無敵という事ですか。」

「無敵とは少し違う。回復力が優れているだけで、他の身体能力は普通の人間と変わらない。それに負傷すれば相応の“痛み”も感じるだろう。」


 なるほど、つまり……戦場で並み居る敵兵を薙ぎ倒し、天下無双の大活躍……などという事にはならないという訳だ。

 ただ回復力だけが、ずば抜けて優れているというだけ……。

 まぁ、そう上手くはいかないようだな。

 もちろん、この超人的な回復力だけでも物凄い能力である事は間違い無い。


「……あのぉ~……。」

「……。」


 俺達の話を聞いていた亜里亜と刈谷が、恐る恐るといった様子で尋ねてきた。


「つまり“アレ”は、放っておいても問題無いという事で……?」


 亜里亜は栗田と馬場を指した。

 水野が答える。


「ああ、全く問題無い。どんなにボコボコにやられても一日か二日もあれば回復してしまうんだからね。」

「……ああ!そうなんですかぁ~。」

「良かったぁ~。じゃあ心配しなくても良いんですね。」


 途端に二人の表情はパッと明るくなる。

 良いのかよ……。

 亜里亜はともかく、刈谷は馬場を可愛がっていたんじゃないのか?

 ……やはり現実逃避の手段に過ぎなかったという事なのだろうか……。

 う~む、解らん……。


「……それじゃあ、辛気臭い話はここまでにして、みんなで勝利を祝って打ち上げパーティーやりましょうよ!お肉しかありませんけどね。」


 亜里亜が提案した。


「で…でもぉ……佐倉君は村を焼かれちゃった訳だし……打ち上げっていう気分じゃあ……。」

「いえ、刈谷さん。俺なら大丈夫ですよ。みんなの無事と新しい出発を祝って、俺もパーッと盛り上がりたいです。」

「そう? なら良いんだけど……。」

「決まり~♪水野さんも参加しますよね?」

「……し…仕方ない。馴れ合いはあまり好きじゃないんだが……今回だけだぞ……。」


 水野はまたツンデレっぷりを発揮し始めた。


「じゃあ、ここじゃあ場所も良くないんで、ここから一番近い私の村に行きませんか?」

「賛成。」

「そうですね。」

「うむ。」


 亜里亜は未だに馬場に暴行を加え続けている栗田に声をかけた。


「栗田さ~ん!そんなの止めて、もう行きましょうよ~!」


 ところが……。


「イヒイィ~~ッ!!!!」


 栗田の耳には届かない。


「……ありゃダメね。聞こえてないわ。」

「じゃあ書き置きして行こうか。リンチに飽きたら来るだろう。」

「それが良いですね。」


 そして俺達は栗田と馬場を残し、連れ立って亜里亜の集落へと向かったのであった……。


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