15話 万事休す
「あいたたたぁ…っ!!!?」
「シ…シオンさん!!大丈夫ですか!?」
「ア…アダム!もっと優しく……ゆっくり歩いてくれぇ……!!」
片足を矢で射抜かれた俺は、アダムに肩を貸してもらって支えられながら、自分の集落を目指していた。
「シオンさん、少し休みましょうか!?」
「いや、急いで戻ろう!村が心配だ!…ゆっくり急げ!!」
「えぇ…!?!?」
ふと俺は天を仰いだ。
集落の方から黒い煙が上がっていた……。
俺達が集落に辿り着いた時には、もう全ての建物が焼け落ちていた。
町の中心…穀倉…家畜小屋…監視塔…何もかもだ……。
柵の一部が辛うじて燃え残っていたが、あとはほぼ廃墟だ。
初めて収穫した穀物と野菜の備蓄分も全て灰となり、イノシシ達は焼け死んでいた。
だが俺はそれよりも気掛かりな事があった。
「リリスはどこに行った!?」
「シオンさん!!あそこ…!」
アダムが指差す方に目をやる。
焼け跡から少し離れた場所にリリスが倒れていた。
彼女もまた服を着ていなかった……。
「リリス!しっかりしろ!」
俺はアダムに支えてもらいながら彼女に駆け寄り、抱き起こして呼び掛ける。
だが反応が無い。
まさか……そんな事無いよな……!?
「……リリス!リリス!!」
俺は彼女の頬を叩きながら大声で名を叫んだ。
すると……
「……う…うぅ…ん……。」
……リリスが気付いた。
俺達は揃って安堵の溜め息を吐く。
彼女は体の何ヶ所かに掠り傷はあったが、他に目立った外傷は無かった。
……だが、その様子から察するに、馬場達から“陵辱”を受けた事は明らかであった……。
「……チ…チクショウ……あいつらぁ……っ!!!」
俺はグッと拳を握り締める。
「……シオン…さん……。」
リリスが弱々しげに口を開いた。
「……私…謝らなければならない事があります……。」
「?……何だ!?」
「……私達…彼らを村の中に入れてしまいました……彼らは『反省した』と……『もう心を入れ替えて生まれ変わった。二度と悪い事はしない。友達になろう』と言って来て……私もイヴも疑いませんでした……。」
「……そうか……あいつら、そんな嘘を吐いて……。」
なぜ馬場達はこうも簡単に集落を攻め落とせたのか……その理由が解った。
労働者ユニット達は基本的に人の言う事を疑わない……馬場はそこに付け込んだという訳だ。
「リリス……お前達は悪くない……何も悪くない……。」
俺はリリスを抱き締めて言う。
「……お前と…お腹の子が無事で良かった……。」
「……シオン…さん……。」
その言葉を聞いたリリスは俺の腕の中で再び気を失ったのだった。
「辛かっただろう……今は少し休め……。」
※
しばらくの間、俺は焼け落ちた集落を前に茫然と立ち尽くしていた。
苦労して作った村は破壊され、イヴはさらわれ、オマケに俺は足に負傷……。
「……ボロボロだな……俺達……。」
思わずポツリと呟く。
「はい……。」
アダムが応えた。
「……でも生きています。」
「…………そうだな……。」
生きている……その通りだ。
まだゲームオーバーじゃない。
俺は二人の方に振り返って言った。
「作戦を練ろう……反撃だ!!」