無題
自分でもよくわからない短いお話を詰め合わせてみました。
わしらは生きるために住居をつくり、作物を栽培している。この集落は俺が主導となって作り上げた理想郷だ。皆が毛皮を着て肉をたらふく食え、安定した生活を送れている。
・・・何?海の近くの奴等が攻めてきただと?若い者をかき集めろ。わしらの理想郷を守るんだ。
天子様に逆らう物は皆殺しにしろ。俺はそういって何人もの人間を叩き切ってきた。かつての俺のなかでは天子様が全てだったんだ。だが、その天子様のせいで民衆が苦しんでいる光景をみて俺は不信感を抱き、夜中に俺は何人もの人間の血を吸った剣を下げて警備をかいくぐり、寝ている天子様の寝首をかこうとしたんだ。
そっぽをむいて熟睡する天子様めがけて剣を降り下ろそうとしたところまでは完璧だった。だが、俺の心に迷いがあったのか、降り下ろした剣は天子様の上腕を切り落としただけであった。
そうして結局は捕らわれた俺は目を潰され両手両足を切られ、都の広場に晒されたんだ。
だが民たちは俺を英雄扱いして優しく労ってくれた。お前たちの仲間を散々殺してきた俺を・・・そう思うと涙がくりぬかれた目の窪みから涌き出てきた。
おのれ朝廷、今に日本一の大天狗になって貴様らを呪い殺してやるわ。
ならぬ。既に勝敗は決した。なるようになったのだ。
頭の中を異なる事を叫ぶ二人の儂が駆け回っている。怒りか、諦めか。儂を讃岐に流した朝廷を呪わねば討死した武士たちに申し訳ない。いや、儂の為に無惨に命を散らした武士の供養を行うべきか・・・
馬鹿馬鹿しい。呪いなどやめだやめだ。神社でも開いて供養を行うべきだ。
そういって儂は短刀を鞘に収め、落とした小指の血で書いた写経を火中に投じたのだった。
ひょう、と風を切る音が聞こえたかと思うと、となりの足軽の額から矢が生えていた。ここは戦場。攻め落とすべき敵の城は連結櫓がついた四重五階の黒ぬりの城で、城を取り囲む塀の穴から矢が飛ぶ。
よりによって辺りが見えずらい夜戦である。だが、百足衆が突入して本丸御殿を蹴散らす為に門を叩き破る兵器を死しても守らなければならぬ。ふと、闇の中から槍が伸び、腹に刺さる。刺した相手の姿は見えぬ。血が次々垂れる。
おのれ、なんでこのような所で犬死にせねばならぬのだ。
私の住む村では物部という名字は忌み嫌われている。私は村人に満足に接してもらったことがない。私の父母兄弟も私と同じように避けられているようだ。なので村人で私と顔見知りの人など三本の指に収まる。なぜだろう。
ある日、非人と呼ばれている頭がおかしいらしいおばあさんの世話をさせられている父に聞いてみた。すると、私たちは物部氏というかつて栄華を誇ったが宗教上の対立で蘇我氏に敗北して没落し、死刑執行人になり下がった人間たちの末裔なのだそうだ。
何故だろう。何故何も悪いことをしていない私たちは嫌われるんだろう。そう思うと怒りが沸いてきた。そして私は月のない夜に鎌を細い手に握り、村の長の屋敷へと赴くのだった。
玉鋼の鎧を愛馬と共に纏った騎士達が赤い旗を持った奴等に突撃していく。彼らは世界一と吟われてきた。その中には俺も含まれている。五百を越える騎士達が突撃していくその光景は鉄の津波の如くだ。俺達が突撃すれば島国の赤い奴等は震え上がって逃げていく筈だ・・・
そんな俺の愚かな予想に反し、ノルマンディーとフランドルに上陸してきた島国の奴等は身一つ震わせずに火のついた矢を弓につがえた。俺達に雨のような火矢が飛んでくる。たちまち火炎の雨に打たれた騎士達は馬と共に焼かれながら地べたを這いずり回る。騎士達が恥も外聞もなくなき叫ぶその光景は俺のプライドを一瞬にしてずたずたに切り裂いてしまった。
アングロどもめ。そんな罵り言葉が口から出ていた。ふと、開けた口が物凄く熱く感じた。喉の感覚がない。
しまった。俺も火矢を喰らってしまったのか。
ラプラプ王だと?ふざけた名前の奴だ。そんなふざけた名前の筋骨隆々の大男がどでかい鉈を持って俺と一騎討ちをやろうとしていた。俺とラプラプの周りは屈強な現地民が取り囲んでいる。
部下達とぱさついて喉を乾かせるだけのパンと黄色い水で食い繋いでやっと島にたどりついたと思えばこの扱いだ。現地の住民の態度は冷たい。イエスキリストの偉大なる教えを受け付けないとは馬鹿な奴等だ。思わず持っているレイピアを砂に何度もつきたてた。
ああ、望遠鏡で見た二つの雲は星で埋め尽くされていたな。色々な星があるのだろう。こんな奴等がいなくて飯と水に一生困らない天国のような星にいきたい。
すると、ラプラプ王が鉈をふりかぶって俺を真っ二つにせんと大声を上げながら突進してきた。それに呼応して他の奴等も俺に向かってくる。すると甲冑を捨てた俺の部下たちも走ってくる。だが俺の握るレイピアは木の枝のように細く、とてもあの鉈を止めることはできまい。
これは一騎討ちじゃあなかったのか?まあ、こんな奴等が公約を守る筈がないな。
世界一周の夢は潰えるのか?
銀や工業製品を綿花のとれる植民地に渡して綿花を手にいれ、アジアの有色人種国には阿片を渡して銀をもらう。そして有色国家と植民地の間では我々の流した銀で取引をするんた。すると、我が国に有利なようにうまく事が進み、銀と綿花、香辛料を手に入れられる。どうだ、素晴らしいだろう?
もう不自由することはない。我々はこの植民地の楽園で五百代に渡っての安泰な暮らしが保証されているんだ。
ん?清が阿片の輸入停止を求めているだって?
鏨ごうの中には雨水が溜まり、ふやけた足の裏の皮は既に剥がれきっている。ライフルの遊底も錆び付いてきており、俺も心身共に削がれている。だが、鏨ごうから出てはいけない。たちまち撃たれてしまう。ひどい話だ。耐えかねて突撃していった部隊は機関銃で撃たれて壊滅した。同じく耐えかねて飛び出してきた敵の部隊を味方の機関銃兵が蹴散らす。いったいいつまでこんな泥仕合を続けているんだ、俺たちは。
日の丸を付けた彼らは蛭が落ちてくる湿度百パーセントの密林の中、マラリアやアメーバ赤痢に苦しみながらも歩き続ける。その背中には六十キロもの装備を背負っていたが、度重なる戦闘の末に放棄してきた。次々味方の兵士が倒れていく。そこに容赦なく敵の砲撃が降る。
むちゃくちゃだ。三週間以内に六十キロの装備を背負って山脈を越え、インパールを占領せよだなんて狂気の沙汰だ。第十五軍司令官は何でこんな命令を出すんだ。
俺達の事を駒としか思っていない証拠だろう。そして俺達の無念の叫びはインパールの密林の露と消え去るのだろうか・・・
ジャングルの中の前線基地で、日の丸をつけた兵士たちの亡骸の山が築かれ、ユニオンフラグを掲げた兵士たちがその死体にガソリンを撒いていく。
そして火が放たれると、死体の山は燃え盛りながら黒い炭へと変貌していった。その光景を仲間たちと笑いながら眺め、ダーティジャップと叫ぶ彼は日の沈まない国の兵士だ。彼はカングラトンビの前線基地で多数の仲間を敵兵に刺殺され、精神を病んでいる。狂っているのは彼だけではないが・・・
ついに歓声を浴びながら味方戦車が現れ、炭になった死体を踏みつぶし、人の形ではなくなったかれらを見て大笑いする。ふと、日の沈まない国の彼は敵兵の家族と思しき写真を見つけた。
猿どもが。彼はそう呟いてにやけると赤ん坊を抱いてほほえむ女性の写真をぐしゃぐしゃに踏みつぶした。
連中は艦砲射撃で焼き払われた孤島で必死の持久戦を展開する俺達に火炎放射器なんてものを使ってきやがった。戦友が火葬されるところなんて一生見たくなかったんだ。だから火炎放射器を持っていた敵兵を木に縛り付けて恨みを晴らしただけだ。それの何が悪いんだ。お前らは俺に虜囚の辱しめを与えるだけ与えやがって。
そういって俺は舌を噛んで死のうとしたが、敵の軍医に歯を全部抜かれてしまった。
やめてくれ。何でこんな姿にしてまで俺を生かそうとするんだ。
誰か俺を殺してくれ。
戦争が終わると、関東軍にいた俺たちは赤軍の捕虜となって僻地へと送られ、地獄のような強制労働を強いられた。鼠でも苔でも口に放り込んでなんとか生きのびる。ゲテモノを食わないやつは死んでいった。
故郷の土を踏みたい。俺はそう思って労働をし続けた。ひたすらに・・・
数年後、共産主義の魔法をかけられてしまった俺は故郷の町中で街頭演説をしていた。大陸からきた共産主義者と東方紅を熱唱することもしばしば。かつての仲間は俺のことをアクチブと呼ぶ。戦中の大和魂など極寒の地で過ごすうちに忘却し、赤い共産主義思想だけがただひたすらに俺の頭を駆け回っている。
枯葉剤やナパームをばらまくな、だと?地上ではベトコンどもがうじゃついている。赤ん坊が泣いているからと近寄ったらガキが後ろから斬りつけてくる。日用品に偽装した爆弾や落とし穴があったりベトコンどもが住民に化けて破壊活動を行ってくる。どこに敵が潜んでいるか分からん。つまり、奴等の住処ごと上から焼き払うのが一番ってことよ。そう思うだろ?なあ?
中国大陸を爆撃したジャップの奴等も同じことを言うと思うぜ。
夜空には赤いオーロラがかかっている。
べーリングの荒い海を航行するこの艦には我がソ連邦の最新技術が詰め込まれているのだ。
戦艦の艦橋より大きい艦橋には巨大なレーダーやミサイル誘導装置が乗せられ、敵機を逃さない。この艦は敵の空母艦隊後方三百キロ地点にいる。戦争が始まれば資本主義の奴等の空母艦隊に十六発の対艦ミサイルを撃ち込んであっという間に壊滅されられるのだ。
たとえ潜水艦に狙われても、搭載する対潜ヘリが直ぐ様探知し、この艦の対潜ロケットで葬れる。戦闘機がきてもこの艦が搭載するVTOL戦闘機を上げて迎撃可能なのだ。ミサイルが来ても八基も装備されたCIWSが猛烈な弾幕を張って撃墜する。
随伴艦?すまないが必要ない。なにせこの艦はソ連邦が誇る対空対艦対潜すべてに対応した向かうところ敵無しの要塞空母なのだからな。
姑息なハマスめ。何人もの無垢の人間を殺したんだ。六棒星を象徴とする軍にいる俺はそう言ってパレスチナのガザ地区にむけて自走砲の砲身を指向し、何発も砲弾を撃ち込んだ。海外の報道では泣き叫ぶパレスチナ人が出てくるが、あいつらは民間人という名のテロリストだ。やつらは絶滅するべきなんだ。
今日またしてもユダヤ人の攻撃が行われ、罪なき人々の生活が破壊された。すぐさま報復を行わなければならない。アイアンドームが何だ。俺たちのロケット砲はソドムとゴモラを焼きつくした神の火の末裔となって六棒星を打ち砕くんだ。
同時多発テロ以来、テロの歯止めが効かなくなっている気がするな。ISを名乗る武装集団まで現れ、平和であるはずの場所までテロの危険に晒されている。まさか平和主義を貫くこの国にも及ぶとは・・・
NGC5194或いはM51。伴銀河をくっつかせた子持ちの渦巻き銀河だ。あれには色んな惑星があるんだろうな。電離水素の紅い光は見えないが・・・宇宙は奥が深い。無限大の希望を感じさせてくれる。
これからはテロと戦う時代だ。だがテロの危険が世界中に及んでいる最中、望遠鏡を覗いて夢想に耽り、現実逃避を計るのが日常になってしまった。
ここは宇宙。我々は火星と木星の間の小惑星帯にあるコロニス族の一つ、ラクリモサに吸い付くようにしてステーションを設営している。
目的は資源採取。枯渇するであろう地球の資源を温存するため、我が国は先手を打ってこの小惑星ラクリモサに降り立ったのだ。埋蔵資源確認のためのボーリング調査の結果は我々の胸を踊らせてくれた。ラクリモサの九十二パーセントは鉄とニッケル、それにウランだそうだ。鉄だけでもこれまで人類が使ってきた鉄の量の十分の一もある。ニッケルも豊富だし、ウランもウラニウム崩壊系列で鉛に変わっているのが多少あるが、十分な量が埋蔵されている。
ラクリモサは直径四十一キロ、太陽からの距離は二.八天文単位、光の速さで約二十四分の宇宙に浮かぶ宝島だ。しかも、小惑星帯にはこのような小惑星がごまんといる。我々がラクリモサに辿りつくのに二年半かかるのは少々面倒くさいけどな。
宇宙を形作ってきた幾千もの恒星たちの核融合過程で水素、ヘリウム、酸素や炭素、ケイ素、有機物や重金属を含むそれらの物質が生成されて恒星が死ぬとき大宇宙にばらまかれ、太陽系の揺りかごにもそれらの物質が大量に贈られてきたのだろう。それが地球の生命を生み出したとも言えるかもしれない。我々は全天を埋め尽くす星々に生んでもらったのだ。なんとも素晴らしい話じゃないか。
・・・なんだ?
突然ステーションのハッチが開けられ、黄色い五つの星が描かれた紅い旗をもった奴等が宇宙服を来て殺到してきた。奴等は宇宙でも発射可能な銃を俺に対して撃ち込んでくる。仲間が撃たれると、俺はMP-25拳銃を抜いた。
くそっ・・・何でここの存在が分かったんだ?何故ここを襲うんだ。他にもたくさん小惑星はあるというのに。
・・・しかし、我々とその母、地球や太陽を育んだ大宇宙の中でも殺しあいをするというのは悲しいものだ・・・