第九章 再スタート
◆◆◇◇ 視点継続◇ソーヤ ◇◇◆◆
それから暫くしたある日のこと。
「ねえソーヤ、そろそろリハビリもいいんじゃない?」
な、なんのことかね?
「迷宮に「うおぉっっと、今日はいい日だねえ、こんな時はどう?街にデートにでも出かけないか?」」
「えっ?いいわねー。ソーヤから誘って来るなんて珍しいわねー」
ええ、すっかりトラウマですよ。
なんせ1回目は餓死。2回目はモンスターにパックンチョですよ?そりゃートラウマにもなるわ!
「ふむー、このままではまずいな。まあこのまま平凡な道をいってくれるなら、それに越したこともないのか?」
メリ姉が呟いている。
平凡カー、いいねー平凡。人生平凡こそが一番なのかもしれないなー。
「じゃあ迷宮デートと出かけましょーか」
「空気よめよ!」
街って言ってるだろ!?おい、引っ張るなおいって!
「ソーヤ、女の子に腕力で負けるなんて情けないぞ」
「いや無理だって、もうそこらの剣士よりバカ力だぞこいつ」
「誰がバカ力ですって?」
いででで・・、最近電撃が威力高すぎだぞ!魔力すげーんだから気ーつけろよ!
「そういやユーリはどこ行ってるの」
「…こないだのことが堪えたらしくてな。毎日殿下と猛特訓だ。ソーヤの事守れなかったってずいぶん落ち込んでたぞ」
「えっ、そうなのか。別に無事だったんだし、気にすることないのになあ」
「無事だと言うなら迷宮も大丈夫よね」
…そうだな、せっかく助けてもらったんだ。うじうじしてると回りも迷惑だな。
「よし、明日からにしよう!」
ええ、引き連られて行きましたとも。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「たった3人で迷宮など!聖女様、ぜひ私がお供いたします!」
「いえいえ、私こそが!」
「さっ、どうぞ聖女様、この御輿にお乗りください」
御輿とかー、迷宮で何する気なのこのお方?
迷宮に着いたとたん、冒険者?共が殺到してくる。
「なんなのこれ?」
「これはまた…ちょっとアーチェ、魔法でぶっとばす?」
えっ!メリ姉なに言ってるの?
「大丈夫よ、冒険者なら多少の事には耐えられなきゃね」
いやいや、こないだまでとはアーチェの魔力まったく違いますよ?きっと死ぬよ?
「有名人はつらいわねー」
全然つらそうじゃないけどなー、むしろ緩みまくってるぞ。
「まあまあ、せっかくお供するってんだからしてもらったら?」
そう言うとオレは御輿に乗り込んだ。
「ほら、アーチェも来いよ。いい眺めだぜ?」
「いいわねー、よっこらしょっと」
「はぁ、じゃあ私も上がらせてもらおうかね」
そのまま迷宮探索をスタートした。いやー楽チン楽チン、これなら迷宮探索も楽でいいな。
敵が出ると冒険者共が殺到する。ケガすりゃアーチェが回復かける。
「おお、これが聖女様の補助魔法か!今なら空も飛べそうだ!!」
「こっちの剣には雷の補助魔法だ!おおーすげーバチバチいってカッコイイィ!!」
「あああ、俺の古傷が消えている!せっかく気をつけて自分でつけたのに!!」
おいおい…
みんなが騒ぐもんだから、アーチェが調子に乗って色々補助魔法をかけている。すっかり上機嫌だ。オレもう寝てていいかな?ゆらゆら揺られて眠たくなってきた。
「こ、これほどの力…求心力もとんでもない…これはもう…しかしあの脳筋に取り入るなど…」
若干変な事言ってる人も居るがな。
「ねえソーヤ、今日はソーヤのリハビリに来たのに何もしなくていいの?」
「何言ってんだ?5人で居てもオレのやることって何もないぞ?」
「…そう言えばそうね」
おい、切なげな眼差しを向けてくるなよ!ほんとに泣けてくるだろ!!
「ちょっと見てみろよ、あの聖女様の切なげな目」
「まさしく恋する乙女だな」
「くそっ、この後、食事にでも誘おうと思っていたのに!」
「アホかお前は。聖女様が俺達なんて相手すると思うのか」
「だってアレだぜ?アレより俺の方がましじゃねえか」
なんかひどい誤解と、ひどいことを言われてるような気がする。
というかこいつらロリコンか?
「まあしかし、この分ならトラウマなんて大丈夫みたいだな。ほんとにトラウマになってたら迷宮に入るなんてできないしな」
メリ姉が聞いてくる。
「そりゃーこんな状況ならなあ、気にするのがバカバカしくなってくるわー」
「よかったわねー」
「アーチェも素直に心配してるって言えばいいのにな」
「ちょ、メリ姉なに言ってるのよ!」
そうか、アーチェにも心配掛けていたのか。それで強引に連れて来たのか。だが、電撃はやめてくれ!照れ隠しに飛ばすなよ、しかもオレに!
「おい、ちょっと見てみろよ。あのガキ、聖女様にちょっかいかけて反撃されてるぞ」
「なに?聖女様にちょっかいかけているだとぉ!」
「きっと悪い男に引っかかっているんだ。あのガキ亡き者にせねば」
おい、物騒な事言うなよ!このままではオレの身が危うい。
「アーチェ、こいつらにちゃんとオレとの関係の誤解を解いとけよ」
「ん?そうね」
アーチェは立ち上がり、
「みんな聞いて、ソーヤは私のこと自分の一部だって言ってるの!だから私もソーヤのこと私の一部だと思ってるわ!」
違うだろ!そうじゃないだろ!ほらみんな親の敵のような目を向けて来てるだろ!!…オレ明日から生きていけるかな?
◇◆◇◆◇◆◇◆
迷宮から戻り宿屋に辿り着くと、入り口に小学生ぐらいの女の子が腕組みして立っていた。
「お主が聖女とか名乗っておるばか者なのかえ?」
なにこのちびっ子、ちょーかわええ。
十二単衣とか、このファンタジーの世界で始めて見たよ。和服なんてこの世界にあったんだな。
「なに?いきなりばか者呼ばわり?」
「まあまあ、ちっこい子なんだし、多めに見てやれよ。よしよし嬢ちゃんどこから来たんだい?迷子かい?」
「麻呂を子ども扱いするなでおじゃる!ちょっ気軽に触るなでおじゃるぅ!」
随分沸点の低いお子様だな。だが、オレはおかまいなしになでなでしている。うむ、かわえーな。
「無礼!無礼でおじゃる!打ち首でおじゃるぞ!!」
「それはなしの約束だぞ?なにせこやつらを無礼打しておったら、いくら首があってもたらんからなあ!がっはっは」
そこに宿屋からフィフス殿下が出てきた。
何この子、殿下のお知り合いで?
「我の妹姫だ!」
何連れて来てんのぉ!まあ、なでなではやめないが。
「またなんで?」
「いや、聖女とやらをぜひ見たいと言うのでな」
「ふんっ、この汚い兄上が見つけて来たという、贋作を見に来てやったでおじゃる」
「こらこら、お兄さんを汚いなんて言っちゃだめだぞう」
「なにこやつ、なにゆえこんなに馴れ馴れしいでおじゃるか?」
しかし言葉遣いといい、服装といい、
「妹姫は東国のファンでな、この服もそこから取り寄せたのだ」
「麻呂は麻呂の好きなように生きるでおじゃる!誰にも文句は言わせぬでおじゃる!」
「こらこら、そんなこと言ってるとアーチェみたいになっちゃうぞう」
「ちょっと、それどういう意味?」
おっと、今はちびっ子抱えてるからな。電撃はあたらないぞ。
「くっ、いつにもましてちょこまかと」
「お主、名はなんと言うのじゃ?」
「オレの名はソーヤだ。まあ一応冒険者?寄生しかしてねーがな」
麻呂姫はオレの方に向き、
「お主も東国のファンなのかえ?」
「ん?そーだな。色々知ってるのか?刺身とかお寿司とか?」
「何!知っておるのか!?城では東国の事を知っておる者がおらんでのう。ぜひお主の知っておることを聞かせるでおじゃる」
「いやーオレの知ってることはちょっと違うかもなー。まあ近い感じでいいならいいぞ」
そう言って部屋に連れて行った。アレ?オレもしかして変質者みたいじゃね?
「ちょっとあれなに?いきなり現われてなんなのよ」
「妹姫があんなに懐くとはなあ。気難しいので有名なのだがなあ。どんな修羅場になるかひやひやであったが」
「そう思うなら連れて来ないでよ!」
◆◆◇◇ 視点変更◇リーシュ ◇◇◆◆
「確か十二単衣だっけ?東国のお姫様が着ている?」
「そうでおじゃる。東国の姫のみが着ることを許されておる着物でおじゃる」
うむ、ソーヤとか言ったかこやつ。なかなか見所があるでおじゃるな。
麻呂の名はリーシュフェール。この国の第1王女でおじゃる。
此度は、下の兄上が聖女などと馬鹿げたことを言い出したので、それを確かめに来たでおじゃる。なんか他国の者まで巻き込んでおるようでおじゃるしな。
下で見たが大したことはなさそうでおじゃった。
だが、その聖女と一緒におったこやつ、やけに麻呂に馴れ馴れしくしおって。よく聞けば、この服装や麻呂のしゃべり方などが気に入った様子。
麻呂はしぶしぶと話しに付き合うことにしてやったでおじゃる。
「ふむー、平安か?いや刀があったから戦国ぐらいはいってるんじゃないか?」
なんか変わったこと言う奴でおじゃるな。もっと麻呂に分かるように説明せぬか。
「まあ、江戸時代ぐらいでいいか。あの時代なら…」
おおっこれは!
「これがお城かな。着物ならほら、他にこんな種類もあったみたいだよ」
「こ、こ、これは何でおじゃるか?何が起こってこんなものができておるでおじゃるか」
「立体映像という魔法だよ」
「これが、魔法…こんなのは見たことないでおじゃる」
「まあ一応オリジナルだしね」
おお、もしかしてこのソーヤとやら、大した奴なのでは?
おー、すごいでおじゃる。城の中まできちんと見えるでおじゃる。
む?触ろうとしたら突き抜けたでおじゃる?
「蜃気楼なようなもんだから、触る事はできないよ」
「残念でおじゃる」
ん?城の奥に、なんか飾っているでおじゃるな?お、お、これは鎧?この鎧欲しいでおじゃる!
「ちょっとこの鎧、麻呂に作ってたもれ!」
「えー、鎧の作り方なんか分からないよー。でも姫武将ってのはいいかもねー」
姫武将…なんと響きのよい…
「なんとかならぬかのう…」
「くっ、そんな風におねだりされたら…よし、ちょっと待ってろ。イリュージョンを駆使すれば…」
おお、なんとかしてくれるでおじゃるか。
「とりあえずここで着てみた風にするだけだけどいいか?」
「いいでおじゃる!」
「じゃあとりあえずその着物は脱ぐか。体にフィットした服に変えよう」
「分かったでおじゃる!」
そう言ってソーヤが用意した服に着替えたら、
「おおお、服が変わっていく」
「見た目だけだからな、触るとダメだぞ」
「おおー、しかしこれでは麻呂は全体が見れぬでおじゃるな」
「そうだなー、よし、写真に撮ろう」
ん?なんに撮るでおじゃるか?
「えーとたしか構造はと、おっと紙がねえな。そこらの木片を加工するか?後で直しとけばいいよな?」
そう言うとソーヤはなんだか、麻呂に向かって紙をかざしてくるでおじゃる。
「ほらできたぞ」
「ん?なんでおじゃるか?これは!」
そこには麻呂が写った紙が!
「こ、これは!やり直しでおじゃる!もっとカッコよく撮るでおじゃるぅ!」
「おーどんどんいこーか。どうせならもっといろんな服にもしてみるか」
「してみるでおじゃるぅ!」
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
ハァハァかわええなあ。ハッ、小さな子を連れ込んで着せ替えして楽しんで、ハァハァしてるってマジ変質者じゃね?
ヤベエ、オレ変な扉を開きかけてる!
「き、今日はこの辺で終わりにしとこうか」
「えー、もう終わりでおじゃるかー」
「もう日も暮れてきたしね」
よく見るとあたりは薄暗くなってきている。いったい何時間やってたんだこれ?
「ほんに楽しい時間はあっというまじゃのう」
麻呂姫は悲しげな顔をして呟いている。
ふと顔を上げて、
「のう、お主もフィフス兄上の配下でおじゃるか?」
「ん?オレは別にだれの配下でもないよ」
「なら、麻呂の…いやだめでおじゃるな…。フィフス兄上はお主を配下に望んでおらぬのか?」
「いやいや、殿下はオレだけじゃなくて、アーチェ、ああ聖女も配下になんてしようとしてないよ」
「そうなのでおじゃるか?」
やはりこの子も政争なんて望んでないんだろうな。
「殿下は政治には関わりたくないと、頑なに拒否しているよ。兄弟で政争などバカバカしいってね」
「バカバカしくとも、やらねばならぬことなのじゃ…」
なんだか様子が変だな。それにやらねばならぬなんて…
「まあ今日の事は良き思い出として、おいておくでおじゃる」
そう言うと麻呂姫は立ち上がって出て行こうとした。
「おい、服着替えていかないと」
「良いのじゃ、今日はこのままで帰りたい気分なのでおじゃる。この服は麻呂が貰い受けるでおじゃる」
「まあ、いいけど」
ついでだから保護の魔法でもかけとくか。
「おお、やっと終わったであるか。随分楽しそうであったな。ここに連れて来た甲斐があった」
下では殿下達が待っていた。
「妹姫の笑い声など、ここ数年聞いたこともなかったな。うむ、良い日となった」
「兄上は、王位を目指さぬでおじゃるか?」
「当然だ!自分の器は重々承知しておる。剣を振るしか脳のない者だしな!」
「は、ハンっ。麻呂は諦めぬでおじゃるぞ!王となり贅沢の極みを尽くすでおじゃる」
なんだか虚勢を張ってるように見えるな。
「もし、そうなればソーヤ、そなたを麻呂の配下に加えてやっても良いぞ。光栄に思うと良い」
「ちょっと何言ってんのよ、ソーヤは私のだからね、あげないわよ?」
「なんじゃお主は?」
「ええ?私に会いに来たんじゃないの?ちょっと殿下何こいつ!」
おい、喧嘩するなよ。
「ソーヤは自分で誰の物でもない、と言っておったでおじゃるぞ」
「ちょっとソーヤ、私にアレだけのことしといてそれはないんじゃない」
「ん?アレだけのこととな?どういうことでおじゃるかソーヤ!」
おい、こっちに振るなよ。つーか言い方が悪いぞ!人聞きの悪い。
「ふっふーん。お子様には分からないことよねー」
「な、なんでおじゃるか!麻呂はこう見えても8歳であるぞ」
「ふっ、お子様じゃないー」
「なにおう!」
麻呂姫は顔を真っ赤にしてプンプンしている。うむ、お子様だな。
「麻呂と勝負をするでおじゃる!これからソーヤをかけて麻呂と決闘を行うでおじゃる!」
ああ、やっぱり兄妹だなあ…
「ほら、バカなことを言っておらんと帰るぞ」
殿下がそれを言う。
「アーチェもからかうのはそれくらいにしろって」
「別にからかっていないわよ!」
「ソーヤ」
ん?殿下がいつになく真面目な顔で、
「我が妹のこと、今後ともよろしく頼む」
「ちょ、兄上なにを!王族ともあろうものが、平民に頭を下げるなどと!」
殿下は麻呂姫を見やり、
「お前のことならいくらでも下げよう。なーに、我にはもうそんなに張る見得もないしな!がーはっは」
「馬鹿な兄上でおじゃる…」
麻呂姫は顔を伏せて歩き出した。
「おい、また来いよな。今度はもっといっぱい写真撮ってやるよ」
「楽しみにしておくでおじゃる!」
「我は妹姫と一緒に戻る。ソーヤ、今日は良き日であった、礼を言う」
「いやいや、あんなかわえー子なら大歓迎さ」
そうか、ならいずれと言い殿下達は帰って行った。
「さてと飯にでも…」
と言いかけたとこで、ガシッとアーチェに掴まれた。
「ちょっと隙間から除いたんだけど、アレ、私見たことない魔法だったのよね」
「………………」
「もちろん教えてくれるわよね?乱入しなかったんだしー」
教えていいんだろうかー…