第43話
「痛いのは最初だけだから!」
「やめろっ!どうせこうなると思ったよ!」
テンコとリューシアがオレに攻撃魔法を放ってくる。
クラリッサは突然オレを攻撃しだしたテンコを呆然と見つめている。
「つーか、その道連れ?ってのやりかたしらねーぞ!」
「大丈夫、あんたが一旦消滅するのに合わせて私が手続きしとくから!」
「全然大丈夫じゃねえ!」
くそっ、コレしか方法がないのか?
そりゃテンコやクラリッサがどうこうよりもオレがやられんのが一番かもしれないが…
つーかなんであいつら痛そうな攻撃魔法ばっか撃ってきやがんだ?
オレそんなに憎まれるようなことしたっけ?
「仕方ないのよ?魂をずたずたにして、心から負けを認めさせないとだめだから」
「おいっ、痛いのは最初だけじゃねえのかよ!」
もうオレ、テンコの言葉は金輪際信用しねえ!
「私だって辛いのよ?愛するソーヤをこの手にかけなければならないなんて」
そう言って涙を流すテンコ。だったらお前が変わってくれよう。
「私もです…蘇生した暁には一晩中添い寝して差し上げますわ」
そう言って涙を流すリューシア。それ、お前がしたいだけだろ?
泣きたいのはこっちだよ!
しかし、いつまでも逃げ回ってる訳にはいかないか。
いい加減覚悟を決めないとな。
しかし…痛そうだなあ…
ええい、ままよ!
オレはテンコとリューシアの魔法の前に身を投げ出す。ちゃんと蘇らしてくれよ!
だがいつまで経っても衝撃がやってこない。
薄目を開けてみたオレの前には…クラリッサが身を削りながらも盾となってくれていた!
クラリッサ…!オレを守ってくれているのか!!
そうか、さっきテンコとの撃ち合いで射線に入ったときも、オレに当たらないように攻撃を止めてくれたのか!
そうだよな、クラリッサはいつだってオレのことを考えてくれている。
他の女の名前を出したときも、威力は怖かったがオレには傷一つつけていない。
クラリッサ…!オレ間違ってたよ!オレ、オレ…
「クラリッサ、オレ…この世界でお前と…二人っきりで生きて行くよ!」
そうだよ!良く考えてみろよ!元に戻ったらどんな焦土がひろがってるかも知れないんだぜ?
この世界はたしかに退屈かもしれない、だが、なにもよりもかけがえのない『平穏』というものが存在しているではないか!
「えっ、ちょっとソーヤ何言ってるの?」
「そうですわお兄様!バカな考えはおよし下さい」
「いいんだよ!どうせ何日もアーチェたちが好き勝手やってんだろ?戻っても地獄の日々しか予想できねえ」
「えっ、それはちが・」
「クラリッサ!世界が終わるまで共に過ごそう!」
クラリッサはゆっくりとオレに振り返る。
「ほん、とう、に?」
「ああ、本当だ!」
そのとき、クラリッサの体が強く輝いていく。
「不味いですわ、クラリッサの力がどんどん上昇していきます」
「戦闘力1000、2000・・なんだこいつは、どんどん跳ね上がっていく!」
「ちょと遊んでいる場合じゃありませんわよ!」
「あ、私、いーちぬけた」
「へ?」
テンコはオレが作り出した召喚魔法陣に飛び込んでいく。
なんて奴だ…引っ掻くだけ引っ掻き回して行きやがって。
クラリッサの体から幾筋もの光の筋が零れはじめる。
「お兄様、私、お兄様が居ないと困ります!必ず帰ってくると信じてますから!」
そう言ってリューシアも魔方陣へ飛び込んでいく。
クラリッサから放たれた光を受け、オレが作った魔法陣を中心として地面にヒビが入っていく…そうして、世界が崩壊していった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
(どうする?もう一回作る?)
ううん、もういいの。
(どうして?お兄ちゃんもせっかく了承してくれたのに)
だからです。私はずっと不安でした、これは私の一方的な片思いなんじゃないかって。
でも違ってました。ソーヤ様は私を選んでくれたのです。
(でもお兄ちゃんと他の人が居るのを見ると辛いんでしょ)
その辛さも私の想いの一部です。
割り切っていける、とはいいません、それでも、やはりソーヤ様には自由に生きて欲しい。
あの生活でどこか無理をしてるような、そんなソーヤ様はそれこそ私の見たくない姿です。
(うん、それじゃあしかたがないよね)
ありがとう、あなたのおかげでソーヤ様の気持ちを知ることができました。
ありがとう、あなたのおかげで私の想いを知ることができました。
ありがとう、小さな神様。
(お別れだ、少しの間だったけど楽しかったよ)
それなんですが…もしよろしければ私と一緒に来ませんか?
(え…)
私とあなたの繋がった心、それはソーヤ様に対してだけじゃない、寂しい、独りぼっちは嫌だ、そんな気持ちもあったような気がします。
ごめんなさい。私がほったらかしにしたせいで、冷たい地面にずっと一人だったのでしょう?
ごめんなさい。あたなを独りぼっちにして。
ですから、一緒にいきましょう。
(僕と一緒だと、また同じことをしてしまうかもしれないよ)
ふふ、そのときはまたソーヤ様に助けてもらいますわ。
女の子はいつだって夢見ているのです。白馬の王子様が助けにきてくれることを。




