第40話 お約束入ります
はぁ…、私今、山の中腹、以前土砂崩れがあった場所に来ています。
あのときはまだ、この世界には私とソーヤ様二人っきり。
あのときはこんなふうに思い悩むだなんて思ってもみなかった。
あのときはただ、ソーヤ様に想いを伝えられたことだけで十分だった。
なのに今…
続々と異世界からソーヤ様の関係者が来られるたびに胸を締め付けられます。
あの方達には、私にはないソーヤ様との時間があった。
あの方達には、私にはないソーヤ様との絆があった。
ソーヤ様と笑いあうあの方達を見るたびに思います、私はただの他人なのだと。
「なんだか戻りたくないなぁ…」
家に帰ればきっとアーチェ様たちがまた来てる筈。
ううん、アーチェ様はぜんぜん悪くない、むしろあれほどの器量のいいお方も居ない。
だけど私は…
「はぁ…」
私は何度目か分からないため息をつきます。
そろそろ帰らなくては日も暮れてきています。
また心配をかけてしまうかもしれません。いえ、心配してくれるでしょうか?
ソーヤ様は今も私などを気にかけてくれているのでしょうか?
「アーチェ様は奪えるものなら奪ってみなさいって言ってたけど…」
私は実際、何も行動できていません。
それどころか最近は、お話をすることすら少なくなってきてる気がします。
私は再び、土砂崩れの後を見やります。
もう一度、あの頃に戻れたなら…私はソーヤ様と二人きりで…
と、その時、地面がぽこりを浮き上がります。
そこに現れたのは…モグラ?
これは…あのとき召喚したモグラですか!そういえば戻すのを忘れていましたね。
えっ、でも…魔力が尽きれば戻るはず?なぜ未だに?
「キュイ」
私が差し出した手に一声鳴いて飛び乗ります。
「ごめんなさいね。あなたも一人ぼっちで寂しかったでしょ?すぐに戻してさしあげますから」
「キュイ?」(泣いてるの?)
えっ、今なんか、この子に話しかけられたような気がします。
「キュイ!」(僕が二人っきりにしてあげる!)
と、突然モグラから強い光が発せられ、私はその光に包まれていきました。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ソーヤ様、ご飯の支度が出来ましたわよ」
「ん?ここは…」
「寝ぼけているのですか?私達はこないだ式を挙げ、今は無人島で暮らしているんですよ」
そうそう、オレとクラリッサは籍を入れ、すべてのしがらみから逃げるように無人島へ脱出したんだったか。
…………そんな訳あるかっ!
いくらなんでもこの設定は無理があるだろ?
そもそも、そんな状況であいつらがじっとしてるはずが無い。
最初の頃はオレも今のクラリッサと同じでぽややんってした感じで、ああ、そうだった、ああ、そうったっけって感じで流されていたのだが。
日々が経つにつれだんだんあいつらがなにやらかしてるか怖くなってきて。
そうしてある日、ついに我に帰ったわけだが。
やばい、やばいぞ!ここに来て何日経った!?あいつら地球でとんでもないことしでかしてないだろうな?
帰ったらフェニックスとバハムートが怪獣大決戦とかやってないだろな?
アーチェのことだ、万が一異世界人だとばれたら…
「それではあなた方は異世界から来たと!?」
「そうよ!」
「証拠はありますか?」
『メテオバースト!』
「うわあ、街が火の海だぁ」
なんてことになりかねない。
ブルブル…いかん、悪い事は考えないでおこう。
とにかくここを脱出する方法を考えねば。
オレはあちこち駆け回ってみるが、さすが無人島、海しかねえ。
一旦全体なぜこんなことに?
あの陰陽師の兄ちゃんが地球侵略を言いふらした所為で、地球の魔術師によって捕らえられたとか?
いやでも、あの迷宮幼女やシュリを出し抜くのは余程のことがないと無理だろうし。
それともオレが知らないだけで、あっちの世界を凌ぐ魔術があるとか?
途方にくれて黄昏ていたところ、クラリッサが近寄ってきて、
「どうされたのですか?何か私に不満でもあったのでしょうか?」
そう聞いてくる。
「いや、クラリッサには何の不満もないよ」
クラリッサはそれこそメイドさんかというくらい尽くしてくれる。
朝昼晩のご飯は勿論のこと、何をするにも付きっ切りで、オレは重介護者かと思うほどなんでも手伝ってくれようとする。
「ただなあ、アーチェ達が・」
そう言った瞬間オレの頬を何かが掠める。
そして遠くの方で爆音が鳴り響いた。
オレは恐る恐る後ろを振り返ると、海の向こうの方で数十メーターはあろうかという水柱が立ち上っていた。
…今、クラリッサの目が光らなかったか?
もうちょっとでオレ、消し炭になってた?
「どうかしましたかソーヤ様?」
クラリッサは何事もなかったのように聞いてくる。
ああ、このパターンはきっとお約束って奴なんだろうな…
本作はこれよりクライマックスに入ります!
『めがたま。』もよろしくお願い致します!ぜひ読んでいって下さい。
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