第36話
「あだだだ・」
「また女の子増やしてくるってどういうことなのよ!」
「そうでおじゃる!いついつも、麻呂を置いて他所の女と浮気ばかりでおじゃる!」
「違うって!」
オレのリザだけだと心配だからアーチェの元に連れて来たのはいいが、なぜか、浮気していることにされてしまった。
なにせ妹さん、自分の足で歩いたことがないってんでお姫様抱っこして連れて来たのだが、なぜかその際に随分懐かれてしまい、ぎゅっとオレにしがみ付いて離れない。
「未来は生まれてかずっと病院のベットで暮らしていたからね、医者、家族以外でそんなに触れられていることがなかったから人恋しかったのだろう」
「そんな分析はいいから、あんたも弁明してよ!」
1時間ほどかけてなんとか誤解を解いて、アーチェにリザレクションを掛けてもらう。
もうオレ眠いよ。今晩徹夜だぜ?
ちなみにここにくる道中お兄さんが語ってくれたことには、妹は生まれたときから寝たきりで、現在の医療では治療できない不治の病だったんだと。
そこで、医術がダメなら超常的な力に頼るしかないと陰陽道の道に進んだらしい。
幸か不幸か自分には才能があり、死んだ直後の妹の体を呪術を使い、現世に繋ぎとめていたとのこと。
その維持には多量の魔力が必要なので、他人の依り代を盗んで使っていたようなのだ。
今回はその為にたまたま張り込んでいた場所にオレ達と鉢合わせしたとのこと。
「未来は…妹は…これからどうなるのでしょうか?」
お兄さんが、アーチェの説教の途中に寝てしまった妹さんを見ながらそう聞いてくる。
「どうなるとは?」
「人の血や肉を欲するようになるのでしょうか?そうであるのなら、僕は…」
なんでそんなもの欲するのよ?
「キョンシー、グール、ヴァンパイア…人が蘇るということは存在が変質するということ、死した人が人として…蘇った例は歴史上存在しない」
「ふむ、ちなみにその歴史上にあんなのはいたか?」
オレはリザレクションを使った為に元の虹色の髪に戻っているアーチェを指差す。
「彼女は妖魔なのか・あべし!」
「だれが魔物だって!?」
手加減してやれよ、入り口まで吹っ飛んで行ったぞ。
「心配しなくても妹さんは普通の人として蘇っている。今まではなくともこれからもないとは限らないだろ?」
「そ、そうなのか?」
未だ半信半疑のお兄さんだ。
「天羽々斬って知ってっか。神器の一つだ、そこにいるファが持っている剣、それがそうだ」
嘘は言っていない。誰も神話で出てくるものとは一言もいってないし。
「伝説の神剣…だと!?」
「オレ達はみな、神の加護を受けている、人ならざる力、それを持っているんだよ」
「………………」
ようやく納得してくれたようだ。
「襲い掛かった僕を見逃してくれたばかりか、妹の命まで救ってくれた。その上不躾なお願いになるのだが…妹を匿ってもらえないでしょうか。僕の持つ全てのものを差し出します、どうか…お願いします」
そう言って深々と頭を下げてくる。
話を聞くと、自分はいろいろ悪い事をやらかしていて、周り中敵だらけなんだと。
力を失ったことがバレれば命を狙われることは必須。
自分はどうなってもいいが、妹だけは助けて欲しいと。
「力を返そうか?」
「いえ…妹が助かった今、その力はもう僕には必要ありません。すぎた力は…僕には持て余すだけだったのです」
と、アーチェがそのお兄様の頭をガツンと殴りつける。
「っつ!いったいなにを!?」
「あなたはこの子の傷になりたいの?はんっ、自己犠牲?大変結構!でもね、それはこの子の顔から笑顔を奪うってことなのよ」
「それは…!?」
まあまあ、そんなに興奮するなって。そうだな…
「ちょっとそこのお兄様、オレ達に雇われるつもりはないですか?」
「え…」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「こ、これは…!?地面が遥か下に見える、しかも動いている?まさか!浮いているのか!」
とりあえずオレ達の事情を知ってもらう為に異世界にご招待申し上げた。
オレ達はなんだかんだいって向こうの事情が良く分からない。
対してこのお兄さんは裏の事情も良くご存知のようだ。
なので、色々教えてもらって協力してもらおうと。
「異世界…だと!そうか…そうなのか…!?」
何か一人で納得しているもよう。
「あなた方は…異世界である僕達の世界を支配しようと、下見にやってきたのですね!それで僕を尖兵として雇おうと!」
どんな解釈したらそうなるんだよ?
ああ、そういえばこのお方、医術がダメなら呪術でおkって感じの人だったな。
これが生粋の厨二病というお人なのかもしれない。
「分かりました、妹を見捨てた家族はすでに他人だと思っています。地球を裏切るのになんの躊躇いもありません!」
おい、誰かこのお兄様に分かるように説明を!
「まあ、そのうち収まるんじゃない?」
「だといいんだがなあ」




