第八章 聖女のち国王?
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
目が覚めたら、アーチェが聖女と呼ばれていた。いやふりじゃなくマジで。
なんでも殿下が迷宮でのことを言いふらしたらしい。
オレは死んでたんで詳しい事は知らないが、結構な状況だったらしい。
で、その所業が聖女の所業だとなんだかと殿下が回り中に言うもんで、あちこちから怪我や病気を治して欲しいと殺到したらしい。
バカなアーチェは、頼まれるままにリザレクションで片っ端から回復していったらしい。
らしいらしいと連発してるが、今聞いた話だから仕方がない。
つーかおまえら何してんのぉ!ダメだろ言いふらしちゃ!大事になるだろ、ほら目の前に、
「なにとぞ!なにとぞ!このお方を蘇らせてください!!」
死体持って来ちゃってるだろ!
◇◆◇◆◇◆◇◆
どうやらオレは一週間以上眠ってたみたいだ。起きたときは何事かと思ったよ。回りがお花畑だったんだからな。
一瞬、葬式の棺桶の中かと思ったよ。
どうやらクラスのみんなが心配して見舞いに来てくれてたらしい。ちゃんとお礼言っとかないとな。
「というと、その人はあなたの…」
「はい、愛しい人です」
しかし、それ以外にもびっくりしたよなあ。宿屋の一階の食堂に降りたら、アーチェが拝まれてんだからなあ。
「わかりました!必ず蘇らせてみせます。私もソーヤの心臓が止まってた時は…」
「うっ、そうですよね…分かります、分かりますともぉ!」
…無理だからな?死人は蘇らないからな?死後数分ならともかく、いくらなんでも魔法を併用しても無理だからな!
「そこをなんとか。ソーヤならできるでしょ」
「どうしてオレだとできると思えるんだよ!」
「よく見て下さい、死後すぐに魔法で凍結させております。状態も神帝国の聖女の元まで赴き、リザレクションにてまっさらの状態です」
確かに、死人とは思えないほど状態はいいな。
「しかし、神帝国の聖女では蘇生は叶いませんでした…もはや最も魔法が栄えているここ、アステリア・バームしかないと訪れたところ、ちょうど蘇生の魔法を使われた聖女が居ると!」
ちょっとコワイ。身を乗り出して絶叫してくる。
「もはやこれは運命です!お金ならいくらでも出します。国が欲しいなら差し上げます!!是非にぃ!是非にぃぃ!!」
おいちょっと今なんつった。国とか言ってなかったか?これヤベエやつか?
「ちなみに断ったら?」
「戦争ですね」
いい笑顔でそう答えやがった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「愛は人を狂気に変えるのですね」
ほんとにな。
「失敗しても恨むなよ?マジでだぞ?」
「大丈夫、私、今は正気ですから」
…失敗したら、正気じゃなくなるんだろ?あれ?これ詰んでないか?
「ユーリ、部屋の温度設定を頼む。アーチェ、オレが言ったら凍結の魔法解除を頼む。で、そこの狂気の人、人工呼吸は分かったか?」
「ええ、ばっちりですわ」
「オレが、ハイッと言ったらその都度頼む。あと外の野次馬うるさい」
オレ達の蘇生魔法を見ようと野次馬が詰め掛けている。ちょっと静かにしてくれないかな。
と思ってたら、狂気の人がバンっと外に向かって銃をぶっ放した。
「あら、手元が狂ってしまいましたわ。うるさくするともっと狂ってしまいますわね」
野次馬達はとたん静まりかえった。さすが狂気のお方だ。マジこええ。
「よしいくぞ。アーチェ解除だ!」
「分かったわ」
サッと凍結が解除される。オレはすぐ心臓マッサージと電気ショックを行い、狂気の人へ人工呼吸を指示した。
………………
くっ、やはり無理か?
5分くらい繰り返してるが動き出す気配がない。
こうなったら一か八か…
「アーチェ、リザレクションの準備だ!」
「うん!」
「ユーリ、こいつに…」
オレは決断する。
「アポカリプスをかけてくれ」
『アポカリプス!』
ユーリが魔法をかける、オレはありったけの魔力をつぎ込み、
『サンダー!』
バリバリバリと死体に直撃し、死体が生きているように跳ねる。
「今だアーチェ!」
『リザレクション!!』
多少こげていた皮膚が元通りになる、そして、
「あばばばば・・・ぐはっ、ごほっ」
おおお、成功だ!
「ここは?…ぐっ、体が…一体…」
狂気の人は、感無量な表情で、元死体さんを抱きしめている。
いやー良かった良かった、ほんとに。
◇◆◇◆◇◆◇◆
狂気の人は、狂気じゃなくなってもはた迷惑だった。
どうやらそこそこ大きな国のお姫様だったらしく、
「私と、私の国はあなたを、アステリアの聖女として認めます!」
認めなくていいから!
ほんとあれから大変だった。回りは大騒ぎだし、二人は盛り上がってキスまでして、回りがキッスキッス言うもんだから。
もう十分やっただろ!人工呼吸で!
そのあと身分を明かし、そう言いやがる。いいからはよ帰れ。
「どうソーヤ?」
アーチェがどや顔でこっちを見てくる。
どうもこうもあるか。これから面倒ごとが増えそうな予感しかしないよ!?
「あ、後、私も迷宮でのこと、ファーストキスだったの。ちゃんと責任はとってよね」
なんの責任だよ?怖いから聞かないけど。
「おお、聖女…聖女様!ワシの呪いも解いてもらうことはできませぬか!」
ぼろぼろのフードを頭からかぶった、いかにも怪しい人が言う。
「あなたは?」
「ワシもそこの方と同じく、神帝国の聖女に呪いを解いてもらいに行ったのですが、どう手をつくても、この通り…」
そういってフードから手をだした。その手は…肉球?
「ちょっと失礼します」
そう言ってオレは、フードの中を覗き込んだ。おお、これは…よし、見なかったことにしよう。
オレはそっとフードを元に戻した
「ちなみに断ったら?」
「戦争ですな」
なんでそんなんばっか居るんだよ!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「なんでそのままにしとかないの?とってもかわいいじゃない?」
「ワシはこう見えても一国の王であるのだぞ。それがかわいいなどと…威厳も減ったくれもないではないか」
「なあ、ユーリ、オレが眠ってる間に、どうしてえらもんさんが集まってんの?」
「え?ボクも分からないよ。まあ殿下が大層言いふらしてたからなあ…」
「何で止めないのよ?」
「ねえ、ちょっとにゃーって言ってみて、ねえ」
「こ、こら何をする」
「そういやこの世界って獣人とか居ないの?」
「獣人?」
「そこにいるにゃーって人みたいな獣っぽい人」
「魔族のこと?」
「お、おい早くしてくれぬか。いつまでも国を空けとく訳にもいかんのだ」
「えーどうしようかなー」
「魔族って獣っぽいのか?」
「うん、獣の耳が付いてたり、角が生えてたりするらしいよ。魔境の向こうのことだから良く知らないけど」
「ちょ、やめ、ちょっとそこの人からも言ってくれぬか!」
「もふもふねー」
…いいかげん、からかうのやめてやれよ。ねこじゃらしはいくらなんでもかわいそうだろ!
「仕方ないわね」『サンクチュアリ!』
とたん部屋中にまばゆいばかりの光が!オレは咄嗟に机の下に隠れた。
「うおい!何やってんの!!その魔法使うなっつっただろ!」
「目がぁー、目がぁぁー!」
にゃーって人は目を押さえて、床を転げまわってる。
「「目がぁー、目がぁぁー!」」
あ、その他の人達もだ。
「あのな、アーチェ。その魔法な、なんか知らんが、街ひとつ浄化する規模らしいんだぞ」
「大丈夫よ!ちゃんと手加減したから!!」
オレは地面に転げ回っている連中を指差した。
「…大丈夫、あとでリザレクションで直しとくから」
オレは粉々に砕けた、宿の窓ガラスを指差した。
「…大丈夫、きっとこの人が弁償するわ!なんせ王様だし」
オレは遠くから駆けて来る衛兵さんを指差した。
「…なんかあれよね。ソーヤから「やるなよ?ほんとにやるなよ?」って言われると、やらなくちゃならない気がするから不思議よねー」
おまえは大阪の芸人かっ!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ワシと、ワシの国はそなたを、アステリアの聖女として認めよう!」
もうそれはいいから!
「しかし、あの呪いは目から入っておったのか。もの凄い激痛であったな」
違うと思うけどなあ、オレ。
「なんだか肩が軽くなった気がする。さすが聖女様だ。回りの人まで回復なさるとは」
回りにいた野次馬の人が言う。
…背後霊まで昇天させてないよね?
「しかしまた、なんで呪われたの?」
オレは元にゃーな人にそう聞いた。
「うむ、ワシは壷を集めるのが趣味でな。なんでも、願いが叶う壷とやらを手に入れてな、この強持ての顔が少しでもましになるように願ったのだ」
よく見ると、ちょー怖い顔してるなこのお方。さすが王様、目つきが犯罪者だ。
「そうしたら、あんなことに…」
「確かにかわいかったわね」
アーチェがそう言う。
「その壷はどうしたので?」
「そのまま叩き壊してやったわ!」
「その壷に、元に戻るよう願えば良かったのでは?」
「………………」
ちょっ、顔が怖いっスよ?オレ悪くないっスよ?
「それよりアーチェ、もう衛兵さんはいいのか?」
「ん?なんかいつものことだから、慣れたもんよ」
「…あんま迷惑かけんなよ?」
「あ、それと宿の窓だけど、すぐ取り替えるって、なんかスペアいっぱい用意してるみたいよ?」
「なんでいっぱい用意してんだろうなあ…」
後で宿屋の人にちゃんと謝っとけよ。
「もうここは聖地になりそうね!」
変なこと言うな!フラグになるだろ!!
◇◆◇◆◇◆◇◆
はい、フラグになりました。
なんかここに来ると傷が少しずつ治るらしい。迷宮の3階のボス部屋も、じっとしてれば傷が治るそうだ。
回復フロアを作るなんて、スゲーなサンクチュアリ。
そんな訳で、この宿は聖地だとか呼ばれるようになった。
宿はいつもいっぱいだ。
もちろん、アーチェに傷や病気を治して欲しいと殺到したが、
「聖女は、この国の第二王子が保護されている!聖女に治療が受けたければ、フィフス王子に申し立てを行った後とする!」
ってことにした。いいよなこれくらい?
「なに?我に聖女への取り成しをして欲しい?ふむ、ならば我と闘え!その力を示せば取り成そう!」
ああ、脳筋にまかすとこうなるのかー。
「ちょ、ちょっと殿下。病人やけが人に闘えってのはちょっと厳しいのでは?」
ユーリがそう言う。うむ、ユーリは優しいな。
「なら代理の者でもかまわん!その者を大切に思っておるなら、その力見せてみろ!!」
ああ、脳筋はとりあえず闘えれば満足みたいだなー。
まあ、金をつんだ人が受けれるというよりましだろ。
「そいやアーチェ、もう聖女と呼ばれたんだし、冒険はもういいのか?」
「は?何言ってるのよ?私は別に、聖女になりたくて冒険者になったんじゃないわよ」
アーチェはこいつバカかって顔でオレに言ってくる。
「冒険者の頂点を目指す先にただ聖女があっただけよ。冒険やめたら本末転倒じゃない?」
そういやそう言ってたな。
「聖女なんてただの飾りよ!私は冒険者の頂点こそを目指すのよ!!」
「聖女を飾りだなんて、ほんとアーチェは考えがよそと違うな」
メリ姉が呆れたように言ってこう続けた。
「普通は聖女などと呼ばれれば増長して、傲慢になってもおかしくはないのだがな。なにせ世界最大級の称号の一つだからなあ」
そこがアーチェのいいとこじゃねーの。たぶん。
それから幾度もアーチェを尋ねてくる人はいた。
さすがに蘇生は無理だがな。
リザレクションが効くかどうかで変わってくる。
リザレクションはアンデットにはダメージ、生物には回復、無機物には反応無し。すなわち、リザレクションかけても反応がない場合は諦めてもらった。
ゾンビとして蘇っても意味ないだろ?
サンクチュアリはどうすっかな、どうしてあんなのアーチェに教えたんだろ。今考えたら普通のターンアンデットで良かったんじゃね?今更だが…
つーか、聖女と呼ばれだしてからの、アーチェのパラメータの伸びが半端ない。
戦闘なんてまったくしてないのに、迷宮探索時の数倍のスピードで数値が上がっておる。
魔力なんて、もう王都に来た時の10倍近いんじゃね?オレが見てきた人の中で一番数値がたけえよ。
いったい何が起こってるのやら…
そんなことを考えながら学校から帰ると、メリ姉と殿下が頭を抱えてテーブルを囲んでいた。
「どうしたの?」
「まずいことになった…」
「何が?」
「我が!我が王位をおぉぉぉぉ!!」
いきなり立ち上がってそう叫びだした!なにごとぉ!?
◆◆◇◇ 視点変更◇おかみ ◇◇◆◆
あらやだ、また叫んでいるわね。ほんとこの宿、壁薄いんだから重要な話をここでしないでもらいたいもんだね。
私?私はここの宿を営んでいるおかみですよ。
私は最初から分かってましたよ。きっとこの方はいずれ高名な人となると!ええ、決して、最大級に変なのがキタ!ヤバイどうやって追い出そうなんて、思った事なんてありませんよ?
今じゃ聖女様効果で、いくら値上げしても泊まりたいって客が後を絶ちませんわね。おほほのほ。
なんせ一晩寝ればどんな腰痛もすっきりですものねー。私もすっかり健康体で、旦那の水虫も直り、夫婦円満、感謝感謝ですわね。窓の修理代など屁でもないわねえ。
でも、ソーヤとかいう子は要チェックですわね。聖女様も、なんだかあの子には特別な感情を抱いているようですし、悪い男に引っかかってる、なんてことになってなければいいのですけど。
せっかく、お姫様が報酬をくれるというのに、
「さあ、望みをなんでも言いなさい!金銀財宝ですか?伝説の聖剣とか?それとも国とか?」
「いや、いらねーし!そんなのどうしろと?いいからはよ帰れ」
ですものねー。
聖女様も聖女様で、
「ふっ、聖女といえば無償の愛よね。報酬なんていらないわよ。なんせ大した事してないしねー」
などと、アレだけの事をしておきながら、大した事はしてないと。どれほど心の大きな方なのでしょう。
ああ、あの蘇生の瞬間。まるで雷が落ちたような感じでしたわね。
「まあ、ほんとに雷落としたんだけどな」
それに、あれ程の人相の悪い王様に対してもタメ口ですものね。
「ワシからは伝説の壷でも」
「やめて!そんな怪しいのはいらない!」
「むう、こすると中から魔人が「だから、やばいって!」」
「魔人はアーチェで十分…」
「ちょっとそれどういう意味?」
聖女様を魔人などと、ソーヤさんはバチバチいわせた聖女様にお仕置きされてるわね。
「それでは…」
「いいわよ別に、ちょっとやりすぎちゃったしね」
「ちょっとじゃないだろ?」
聖女様はとても謙虚なお方ね。あれほどの輝きを発しておきながらちょっとなどと。
ああ、あのまばゆいばかりの光、とても直視できない聖なる輝きでしたわね。
「そりゃ、まばゆい光は直視できないと思うよ?」
ちょっと人のモノローグに割り込まないの!
それにしても、聖女様はその後もお優しい対応で、お金をいくら積まれても、
「だからフィフス殿下に認めてもらってからねー」
などと言って取り合わない。逆に、
「え?この子を治療するの」
「うむ、力はない、体力もない、だがしかし、弟を助けたいと思うその心はしかと届いた!」
「え?お金?いいわよそんなの。ちゃちゃっと終わらせるから待っててねー。あ、お姉ちゃんの方も治療するから一緒に座ってね」
などと言って一銭も貰わずに治療してしまう。まさしく聖女の鏡ですわね。神帝国では莫大な金額を要求されるようですし。
ここ外場では聖女ファンがいっぱいですわね。
「我が!我が王位をおぉぉぉぉ!!」
おや?まだ叫んでますわねえ。
「だから何事なの?」
ソーヤさんが殿下に伺う。
「王位継承権が戻ってきた。しかも第1位らしい」
「え?良かったじゃない?」
「バカを言うな!我が王様になどなってみろ、想像できぬか?」
「……脳筋政策かー、マッスル城になったりして」
フィフス殿下が王様ねえ…王城の中が筋肉マンであふれかえ…ブルブル……
「まだ、それならばましだろうな。我など貴族どもの飾りにしかならんだろう。なにせ政策などさっぱりだからな!」
「胸張って言う事じゃないかと」
貴族政策ねえ。私達平民にゃ碌なことになりそうにないわね。
「しかも優秀な貴族は大抵兄上に付いておる。あぶれものの貴族が政権など握ってみろ、碌な事にならんにも程がある」
「殿下のとこにはあぶれものしか寄って来ないの?」
「…我も少しは傷つくのだぞ?」
あいかわらずメリンダさんは言う事がきついねえ。
「というかどうして継承権が戻ってきたの?しかも1位なんて」
「…どこの誰かか知らぬが、聖女が我の保護下におると吹聴しておる奴がおってな」
「………………」
「いやまだ、それだけならまだ良かったのだ」
「というと」
「聖女が保護下におるなどと言っても、誰もそんなこと信じないだろ」
確かにそうですわねえ。アレを見た今じゃともかく、聞いただけならこんな下町の宿屋に聖女が居るだなんて、誰が思うもんですか。
「またぞろ、放蕩王子のほら吹きが始まったぐらいにしか思われん。妹姫もそう王城で吹聴しておったしな」
「苦労してますねえ」
「だがしかし!こないだ、西の大国ファンレーシアと、隣国ベルガンディアより、正式にアーチェを聖女として認める通知が届いた」
おお、あの方達は本物でしたのね。
「これはどういうことかな?」
「……やむにやまれぬ事情がありまして…」
「ただいまー。あーまたお母さん壁に耳をつけて盗み聞きしてるー」
ちょ、ちょっとこの子は何言うの!
「ほ、ほら!帰って来たらちゃんと外で泥落として来なさいって言ってるでしょ」
「あ、忘れてたー『ファインリフレッシュ!』」
えっ?今何したのこの子?それまで汚れてた泥が綺麗にとれている。
「ああ、ここでしちゃ泥が下に落ちちゃう!」
下に泥が溜まっている…どういうことなの?
「ごめんなさいー、すぐ掃除するー」
「いやいやちょっと待ちなさい。今何したの?」
「え?何って?魔法で汚れを落としただけだよ?」
は?魔法?うちの子こないだまで普通の子だったわよね?
「魔法?」
「うん、こないだソーヤ兄ちゃんに教えて貰ったのー。とりあえずヒールとこれだけは覚えとけって」
は?ソーヤさん?聖女様じゃなくて?
「聖女様はソーヤ兄ちゃんに聞けばいいって言うしね。それにライバルだし!」
なんの?
「いずれ私はソーヤ兄ちゃんのお嫁さんになるんだ!」
そう嬉しそうに言う。どういうこと?ちょっとソーヤさんどういうことかしら!?
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
ブルブル…なんだ急に寒気が?
壁のほうからすごいプレッシャーが?いったいなんなの?
「おい、聞いておるのか?」
「え?聞いてるよ。というかそんなことになりそうなら事前に言ってくれればいいのに」
「なに、ソーヤならなんとかするだろうと思ってな」
「だから、なんでオレだとなんとかできると思えるんだよ!」
聞いたことない事までどうしろと?期待が怖いというより、ワケワカランよ!
「でも、聖女が保護下に居るってだけで、王様になれるもんなの?」
「…はぁ、ソーヤ。いやアーチェもか。聖女の称号ってどんだけ重いかほんとに認識してないんだな」
メリ姉が呆れたように言ってくる。
「あれでしょ?冒険者の頂点なのでしょ?ちょっと早いけど別にいいじゃない」
「…違うからな。それアーチェの中でだけだからな」
メリ姉は頭を抱えながら、
「聖女とは、今まで神帝国のみにしか存在しないものだ。皇帝とて聖女を自由に扱うことはできない。ある意味国のトップだな」
「うむ、別に政策に関わることはないが、国の象徴として誰からも敬われる存在だ」
「それが自国に居る。しかも王族の庇護下に。聖女を従えたとなると、もう王様と言われても不思議ではない」
でも神帝国の聖女とはまた違うんじゃないかなあ?
「確かに教会などとは関わりはない。だがしかし、ほぼ同じ事ができるとしたらどうだ?というか、2国からは、神帝国の聖女より優秀だと書かれていたぞ?」
殿下は腕を組んで難しい顔をしながら、
「いらんのならくれとも書かれていた。もちろんソーヤ付でな」
なんでオレも付くの?付録じゃねえぞ。
「付録より取説じゃないか?」
なるほどー、さすがメリ姉だ。的確な…
「そこで、父王が慌て出してだな。調べれば、若干10歳で迷宮の50階層を突破しているとキタ。しかもワンアリゲーターを倒してだ。そこは迷宮から持ち帰った魔石ではっきりしておるからな」
「それもたった5人でね。50階層なんて10人以上のパーティで挑むのが普通だからね」
「うむ、もちろんそこに我も居る。たった5人で50階層突破の指揮!そして聖女を扱いこなす器!今までの放蕩ぶりは回りを欺くための芝居であったのだ!」
…それはオモローございますな。
「そんなワケなかろう!!マジドウシヨウ…」
そう言って殿下は頭を抱えて座り込んだ。
「そんなことになってるなら、アーチェの身柄も危ないんじゃない?」
「そうだね。まあそこはソーヤが対策とってんだろ?」
まあ確かに、以前の生徒会長の一件からどこで恨み買ってるか分からないから、アーチェにはオレ達に悪意がある連中はここに来れないよう、結界を張ってもらってる。
「そういえば、貴族連中がアーチェにちょっかいかけには来なかったか?」
「ん?札束を持った偉そうな連中のこと?」
「そうじゃないかな?」
「そんな連中は全部、殿下に回したわよ。ソーヤがそうしとけば間違いないって言ってたから」
「ほう、ソーヤがか…」
殿下がこっちに視線を投げかけてくる。
「そ、そんなことより、今後の対策を考えなくちゃね!まあ、たちまち王様になれとかそんなことじゃないんでしょ?」
オレは咄嗟に話を挿げ替えた。
「そうだが、また妹姫に小言を言われるとなるとなあ。それに兄弟で政争などと、ばかばかしいにも程がある」
「自分から辞退は?」
「無理だな。さっそく貴族連中が寄って来ておるわ」
ふむー、ようは寄って来てる貴族をなんとかすればいいのか。
「じゃあ、いつものアレでなんとかすれば」
「アレとはなんだ?」
「我に認めてもらいたければ、我と戦え!しかし代理はなしだ!当主のみ挑戦権を与えようとか言って」
「なるほど!名案だな!!たとえ我と戦い、我を凌ぐ力があったとしても、そのような者なら話も通じよう」
筋肉語でか?
「そうと決まれば、悩むのもばかばかしいな。なーにいざとなればソーヤがなんとかするのだろ?」
だからどうしてそう思うんだよ!