第32話
「いやー、良く来てくれたねー。おや、後ろの子は始めてみる顔だね、お友達かい?」
「はい、えーと、私の国の友人です」
「此度は麻呂達の旅費を提供して頂いたということで、お礼を申し上げるでおじゃる」
とりあえず東京についてすぐにデパートの本社に行き社長さんに挨拶に行くことにした。
まずは今回のお礼を言っとかないとね。
「良くできた子供達だね。それにしても…」
社長さんがアーチェと麻呂姫をじろじろ眺める。
「どうだい君達も一緒にモデルをやってみる気はないかな?お給料ははずむよ」
そうしてそう言ってくる。
「やるやるー!」
「ダメに決まってるだろ。すいません、オレ達は就業ピザをもっていませんので」
「それなら問題ないよ。ギャラは全てヴァレリーさんにお支払いすることになってるからね。あとは、君達どうして配分を決めてくれればいいから」
そりゃそうか。クラリッサや花梨が直接もらうのは問題あるしな。
アーチェと麻呂姫は随分乗り気だ。大丈夫かなあ。
「シュリも!シュリもモデルやるよー!」
と、そこへ妖精さんが登場。一気に場の空気が凍りつきました。
うおぉおい!何出てきてるのぉ!
「あねさん、ちょっとそこの戸閉めて!」
「え、ええ!」
オレは急いでシュリをとっ掴む。
ヴァレリー姉さんは開いていた戸を閉じ、窓のブラインドを降ろしていく。
「何やってんのお前!出てきちゃダメだろ!」
「パパくるしいよー」
「そ、それはいったい…パパとはどういう…」
社長さんは驚愕の表情で聞いてくる。
デパートの店長は、大口をあけてあわあわと声のならない声を上げているでござる。
「え、えー、オレの国では妖精伝説というものがありまして…」
オレは苦し紛れの言い訳を考える。
とある森で彷徨ったとき、足をすべらせて泉に落ちてしまう。
死を覚悟したその時、泉の底に宮殿が見える。
オレは死に物狂いでそこへ向かったところ、一つの卵を見つける。
それを持ち帰り温めたところ、なんと!妖精さんが生まれたではないか!
という、設定で。
「お、おお、まさかこのような存在が、本当に実在しておったとは…おおお、感動して声も出ない」
結構しゃべってると思うのですが。
むしろ店長さんの方が声が出ない状態?
「しゃ、写真をとらせてもらっても構わないかね?もちろん、他言無用とする!私だけのプライベートだ!」
「いいよー」
良くねえよ。とはいえ聞かないだろうし。
まあ、人に見られても合成としか思われないか。
社長さんは机からカメラを取り出して、シュリをひたすら写真に収めておいでだ。
店長さんと秘書さんらしい人も必死でスマホで写真を撮っている。
「社長、すぐにでもこのお方の服飾の作成にかかりたいのですが」
秘書さんらしき人が興奮して社長に迫っておいでだ。
「ん、いやさすがにこれを公表はできないだろう?」
「大丈夫です、この写真は合成ですって注釈をつければ問題はありません」
「なるほど!」
なるほどじゃないよ。ほんとに大丈夫なの?
「ああ、じゃあこっちも大丈夫よね!」
アーチェの髪が虹色に輝きだす。またもや場が凍りつく。
え、えー、実は虹色伝説というものがありましてね…
◇◆◇◆◇◆◇◆
「やんなって言ったよね?オレ」
「シュリちゃんよりましでしょ?」
そりゃ妖精さんよりはインパクトは欠けるだろうが、言い訳するこっちの身にもなってほしい。
撮影についてはちょっと準備があるので、2・3日置いてからになる予定だとか。
その間の滞在費としていくらかお小遣いをもらった。
「それにしてもあの社長さん信用できますの?バラされたらことですが」
「大丈夫じゃないかな?その兆候はなかった思う。だよなシュリ」
「うん、大丈夫だよー」
花梨ちゃんは家に電話をかけている。
学校にも休みの連絡をいれないとな。
「ねえねえ、そんな事より早く東京案内してよ!」
「ちょっと待てって、もうすぐ店長さんが降りてくるから」
緊急会議とやらで、少しだけ待ってほしいとのこと。
多分、シュリとアーチェの件だろう。
「シュリもなー、人前でその姿見せたらダメだぞ」
「ごめんなさいー」
ずっと姿消していて、相手にしてもらえてなかっから我慢できなかったそうだ。
「とりあえず、鳥にでもなっとくか?」
すると何もないところからポンと鳥が現れた。
「虹色はやめろな…そうだ、ほら向こうに居るだろ、あの鳥に姿を似せておくといい」
「うん、分かったー」
「いやー、遅くなってごめんねー、みんな年がいもなく興奮しちゃってね」
そこへ店長さんが降りてきた。
「あれ、その鳥は?」
「シュリだよー」
「変身までできるんだ…」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふう…」
「大丈夫ですかソーヤ様」
「疲れた…」
オレ、あと2・3日も持たないよコレ。
あいつらほんと好き勝手しやがって。
「もう転移魔法であいつら戻すか」
「さすがにそれは…」
「やあねえ、今度から気をつけるわよ」
「ほんとか、ほんとだな?おい、ちょっとこっち向けよう」




