第29話 異世界編奴がくる~きっとくる~、の巻
「あーちぇママ、こっち、こっちー」
「でかしたわシュリちゃん!」
最近、いつもお昼ごはんが終わるとソーヤが行方をくらますのよね。それも私がサーチできない範囲に。
またぞろ一人で抜け駆けして迷宮いってるのかと思ってたのだけど…
「転移の魔方陣でおじゃるか?」
シュリちゃんにソーヤの気配のあとを辿ってもらったところ、一つの魔方陣を指差していた。
「む、乗っても起動せぬでおじゃる」
「んー、なんか細工してるのかも?」
きっとソーヤの魔力にだけ反応するように作られているのね。
ふっ、私を見くびらないで欲しい、ソーヤの魔力なんて小さい頃からずっと見てきたのよ!
マネをするなんて造作もない!
「ちょっ、なんか輝きだしたでおじゃる!アーチェ、どこに行くか調べてからの方がいいでおじゃるぞ!」
「なあに、偉い人はみんな言うわ!『行けば分かる』とね!」
「それは行き先を知ってる人がいうセリフでおじゃる!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
うっわー、なんかものすごく大変な人が居るー。
髪が虹色に輝いているよ。あれほんとに人間なのかな?
もう一人の子もすごく派手な衣装。
外国の人なのに着物というか、七五三?
あれきっとソーヤの知り合いじゃないかなあ。
というかソーヤ、こっちに向こうの人連れて来ないってクラリッサに約束させられてなかったっけ?
あ、目があっちゃった。
「は、はろー?」
こ、言葉通じるかな?通じないんだったかな?
「こんにちわー」
えっ、と、突然目の前に…妖精?
手のひらサイズの小さな羽根が生えた人が飛んでいた。
「あれ?シュリの言葉分からない?分かるようにしたつもりだけど」
「わ、分かるって、ええっ、妖精なんているの!?」
すごい!かわいい!思わず手を伸ばして触ろうとする。
するとその妖精さんはひょいっとかわして、私の手の甲に腰掛ける。
「ふふっ、シュリはね、シュリっていうんだよー、よろしくね」
「私花梨、よろしくねっ!」
うわー、私今、妖精さんとお話しているー、うわー!ソーヤもこんな子いるならちゃんと紹介してよ!
「あー、あー、テステス、言葉分かるかな?」
「うん、分かるよ、どうして?」
虹色の髪の女の子が話しかけてくる。
なんでもこの妖精さんの能力で私達の言葉を理解できるようにしてもらったとか?
そんなことできるんだすごいなー。…ねえ、私に英語理解できるようにしてくれないかな?そうすれば英語のテストも…
「ズルは良くないよ?」
「ダヨネ」
「ここはどこなのでおじゃるか?随分変わった風景でおじゃる」
もう一人の女の子が聞いてくる。
私はソーヤが言ってたことをそのまま伝えてみた。
「へえ、ここがねえ…以前見せてもらった映像と随分違うわね」
「どんな映像なの?」
その子が手を差し出すと立体的な映像がうつる。
あれ?こっちの世界じゃ普通に魔法が使えないんじゃなかったっけ?
「あーちぇママは特別なの。十分な魔力を体に蓄えてるから」
「麻呂もこの指輪を使えば魔法は使えるでおじゃる」
「へえ、二人ともすごいのねー。うーん、その映像はもっと都会の方の場面だね。ここは田舎だからねー」
すると二人はその都会とやらに行ってみたいと言い出してきた。
どうしようか、今、ソーヤとクラリッサは大地兄ちゃんと一緒にヴァレリーさんの実家に行ってるんだよね。
「ようし!私が案内してあげる!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「むう、なんか渋滞になっているな?どっかで事故でもあったのか?」
…先ほどから嫌な汗が止まらない。いったいどうしたというのだろうか?
「どうした?気分でも悪いのか?」
「いやなんか暫く前から寒気がして…」
「風邪でもひいたんじゃないのか」
どうだろう。いや、風邪じゃないな。サーチしても病気反応はでない。
「なんかあちらのほうですごい人だかりがありますね」
クラリッサが指を指す。
なんか人の隙間からどっかで見たかのような虹色がちらほらとするのだが…気のせいだ!きっと気のせいに決まっている!
今日はヴァレリー姉さんの実家に向かう日だった。
せっかく養子になったのだからと、週に一度は顔をみせにきなさいということで、来週から始まる学校についてもお話があったので昼過ぎから向かったのだが。
その帰り道、渋滞に捕まって、車がまったく動かない状況に。
そしてその渋滞の先には…道路を埋め尽くすほどの人々がぎっしりと詰まっていた。
「大地兄ちゃん、ほら、ここはどうやら無理そうだよ、どっか別の道を…」
「そうだな、どっかで脇道に入るか」
と、人の群れがだんだんこっちに近づいてくる。
オレは車の座席の下に隠れる。
「どうしましたのソーヤ?」
前に座っているヴァレリー姉さんが覗き込んでくる。
「しー、しー、嫌な予感がするんだよ。ソーヤって呼ばないで」
「ん、ありゃ花梨じゃねえか…………なんか大変な人が居るな」
なんだよ大変な人って。
「ソーヤ様…」
あっ、クラリッサの声がなんかとても冷たい。
「お約束、頂いたはずですよね?」
おお、笑ってない笑顔ってこういうのをいうんだろうなあ…




