第七章 フラグ回収
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
「ハッ、今なんか音がしたような」
オレは夜中に跳ね起きた。なんかやな予感がする…
「まあ、いいか」
オレは2度寝した。明日の事は明日考えよう。
次の日、起きたときにはそんなことはすっかり忘れていました。
「とりあえずの目標は50階層ね」
「そうだな」
「のこり20階層張り切ってイコー」
「オー!」
オレとアーチェは今日もハイテンションだ。
「うるさい、早く学校いけ」
「はーい」
◇◆◇◆◇◆◇◆
オレ達は今日も勉学に励む。といってもオレはなぜか教える側だ。魔法以外も…
「ほんとソーヤ君は便利ですわね」
そうワタクシ先生は言う、授業しろよ!
「なんせワタクシより物知りですものねー。ワタクシが教える事といえば、歴史ぐらいですワネー」
「いやちゃんと授業しないと」
「…ソーヤ君、すでにワタクシの手の届かないとこまでみなさんきているんですが。つーか今じゃワタクシが生徒ですわよ!」
なぜかそうなっていた。
「何もしなくてもワタクシの株が上がる。ニートの気持ちが良く分かりますわね」
先生が分かったらダメだろ。
オレだって博識じゃない、博識じゃないが…ここは魔法がある世界。人は一度見たものは大抵脳に刻まれる。後は思い出せるかどうかだ。とか偉い人は言っていたような。
そこで、魔法で記憶が蘇らせないか試してみた。脳のしわ、脳のしわとか言ってたら意外といけた。
しかし、よく考えたら、前世の記憶って脳に刻まれてんのか?まあ、いけたからいいけど。
ちなみにこれ、アーチェ達にやらしてみたけどさっぱりだった。脳とか電気信号とかはまだ難しすぎたようだ。
「ソーヤ様、迷宮の30階層を突破されたって本当でしょうか?」
ん?この子はクラスで一番かわいい子だ。たしか、爵位も一番いいとか言ってたような。
「私がそう言っているでしょ」
アーチェが横入りしてくる。
「あなたでは信用できませんもの!私はソーヤ様に聞いているんです!」
ぷりぷりして言ってくる。うむ、怒った顔もかわいいな。いででで・・だから電撃はやめろ!
「ちょっと私のソーヤ様に何してますの!」
「誰が、誰のよ!」
ちょ、二人でバチバチすんなよ。こいつらマジでバチバチいわしてんだぜ、電撃で。オレが死んだらどうすんだ!
「それを教えたのはソーヤ君ですがねえ」
と、ワタクシ先生は言う。こんなことに使えとは言ってないですよ?
「とりあえず落ち着けって。迷宮30階層は突破した。結構余裕だったよ」
「…30階層が余裕?こないだまで、10階層って言ってませんでしたっけ?」
「ああ、なんかフィフス殿下が「あっ!ワタクシ用事を思い出しました!何も聞いてません!ええ何も聞いてませんともぉ!!」」
なんかワタクシ先生は、慌て出して、耳に手を当てたまま走って行った。
なんだろな?
「あれなに?」
「さあ?」
「ソーヤ様、今度はアーチェさんではなく、ぜひ私を連れて行って頂けませんか!」
「なんでよ!」
「私の方がきっとお役に立てます!」
「だからなんでなのよ!」
「アーチェさんだと全然言う事を聞きませんでしょ?その分私なら…な・ん・で・も、言うことをお聞き致しますわ」
としなだれかかってくる。うむかわいいな。もう少し育てば…
「そうなんでも!」
と、アーチェに挑戦するような目を向ける。
「うぐぐ、」
アーチェは悔しそうな顔をしながら、それでも言う事は聞く気がないらしい。ある意味スゲーな。
「フッ、ソーヤは私の事、オレの一部だなんて言ってるのよ。置いていく訳がないじゃない。バカねー」
だが、ふと思い出したようにそう勝ち誇った。
「えっ、そんな…ソーヤ様、私もぜひあなた様の一部として、魅て頂けませんでしょうか」
悲しそうな顔をしてオレを見てくる、すでに女を武器としてるってスゲーな。まだ8歳だろ?あとその漢字やめろよな。
「それに私はこう見えても、爵位はとても高いのですの。ソーヤ様に不自由はさせませんわ」
「くっ、何言ってんのよ!私はいずれ聖女と呼ばれるのよ!たとえ王様だろうと屁でもないわ!」
「い・ず・れ、でしょ?」
「やぁってやろうじゃないのよ!」
あまりうちのアーチェを焚き付けないでくれ、オレが苦労する。いやマジで!
◇◆◇◆◇◆◇◆
いやマジで!アレ以来アーチェの張り切りようがハンパない。
「ちょ、ちょっとアーチェ、ペース速すぎじゃない?」
ユーリが慌てたように言ってくる。
「大丈夫よ。この迷宮さえ突破すれば、私も晴れて聖女よ!」
いや、そんなことを聞いてるんじゃないよ。あと迷宮突破しても聖女とは呼ばれないと思うぞ。
「それよりもソーヤあいつどうやって倒すのよ!」
「あーあれはミスリルゴーレムか」
オレ達の目の前には48階層のボス、ミスリルゴーレムが立っていた。
「うむ、あれは魔法も効かん。以前のように腐食もせん。ある意味50階層のボスよりやっかいだぞ」
「殿下はどうやって倒したの?」
「持久戦だ。魔術師どもの回復頼りに、剣士がひたすら殴る。少しずつ削っていけばいずれ倒せる」
ふむー、たしかミスリルって魔法を通し、増幅すんだっけ。
「よし、アーチェ、ユーリ、奴にありったけの魔力を通せ!」
「ん?分かったわ!」
「これでいいの?」
そう言うと二人はミスリルゴーレムに向かって、魔力の放出を始めた。
「何をする気だ?」
「よし、そのまま、いけるとこまでいったら、その魔力で、奴の体をばらばらにしろ!普通の土魔法だ!」
お、うまいこといったようだな。ミスリルゴーレムは轟音と共に砕け散った。
「ど、ど、ど、どういうことだ!?」
どが多いな。
「ミスリルって魔法を増幅すんでしょ?その増幅した魔力で直接攻撃すればいいじゃないですか」
「???」
殿下はメリ姉に向かって、
「我が脳筋だからか?なんかありえないことを言われてるような。理解がおいつかん」
「別に脳筋関係ないかと」
メリ姉はそう言って、
「考えるな!感じろ!昔の偉い人はそう言ったわ!」
すでに考えることを諦めているようだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
そうこうしている内に50階層ボス前。
「…我の11年はなんだったのだろうな……」
なんか殿下が遠い目をしている。
「そんなこといったら私の…」
二人とも遠い目をしておる。つーか超しんどいんだが。アーチェ飛ばしすぎ。まあ、オレ走ってただけだけどな。
「とりあえず休憩しよーぜ。このまま入っても厳しいだろ?」
そう言うとオレは近くの岩場に腰掛けた。ん?岩場?
すると、扉が開きだした。
「ソーヤそこには扉のスイッチがあったのだがな」
「ソーヤ、スカウトはちゃんと見る事が大切って言ったよね?」
「ソーヤもやる気まんまんね!」
「ソーヤたまにポカするね」
ソーヤ、ソーヤうるさいよ!分かってるよ!ごめんなさい。
「とにかく、扉を開けたなら敵を倒さなくてはな。敵はミノタウロスだ。確かに強いが、癖のないただの脳筋だ」
殿下がそれを言う。
とりあえず中に入り辺りを見渡したのだが、どこにもミノさん居ないぞ。
「おかしい…誰かが倒した後なのか?それにしてはしばらく開かれていなかったようだが…」
「なあ、なんか奥の方で、ぺちゃぺちゃ言ってないか?」
『ライト!』
アーチェがライトの魔法を奥に飛ばした。そこには…ミノさんを食べてるワニのような何かが…
「馬鹿な!ワンアリゲーターだ!」
「強いの?」
「強いなんてもんじゃない!81階層以下のモンスターだ!逃げるぞ!!」
とその時、背後の扉がバタンと閉まった。そこに居たのは、泥人形?
「くっ、マッドゴーレムの団体まで!」
「どうしてこんな敵が?」
例のスキルが発動したのか?それにしては種族が違うぞ?レアモンスターじゃないよな?
「あそこで食われてる奴、たぶんレアモンスターのバイソンミノタウルスだろうな。バイソンは一応81階層以降に出るが、中では最弱に位置するレベルだ」
「ふむふむ」
「ただ一点、特徴があってなあ。81階層以下でも上位にいる、ワンアリゲーターの好物なのだ!」
「な、なんだってえぇ!」
天使の祝福さんコンボありですか!?
◇◆◇◆◇◆◇◆
「つーかなんでミノさん魔石になってないの?」
「モンスター同士の戦いでは、なぜか死んでも魔石にならないのだ」
よくできたシステムだな!
「どうする?ゴーレムどもを倒しても、入り口の扉が開くかどうか分からない」
「奥のほうの扉。開いているみたいだけど?」
「ミノタウルスは倒されているからな。だが奴の食事の横を通って無事にすむとは思えない」
そう言うとメリ姉は、
「奴が食事中にゴーレム共を全滅させて、入り口の扉が開くのに賭けるか。食事中に襲ってこないことを期待して、奥の扉に飛び込むか…」
「ソーヤお前が決めろ」
殿下がそう言う。えっ、なんでオレが?
「あのワニを倒すってのは?」
「無理だ!奴のうろこはドラゴン並だ。今の我らの武器・魔法では傷もつけれん!」
「それに良く見てみなさい。あれほんとになんとかると思ってるの?」
遠くでよく分からなかったけど、ミノってたしか3~5メートルあるんだよなあ…ミノさんより一回りでかいんだが…
「あれもう地竜と違わないんじゃ…?」
「そう思っていいだろうな」
オレは少し考え込み…
「よし!奥の扉に飛び込もう!そんで奴がこっち来たら、ミノさんに攻撃魔法をぶっぱなすんだ」
「その心は?」
「料理が台無しになりそうならそっち守るだろ。たぶん」
「分かった!行くぞ!!」
「あ、ちょっとま…」
そう言うと殿下は走り出した。それに皆が続く。おい!まだ続きあるぞ!!このままじゃ…
「こっち来たわ、よし!」 『ファイアーストーム!』
「おい!待てって!!手加減!手加減をだな!!」
そう言うとアーチェは魔法をぶっ放した。ミノさんに向かって、ほぼ全力で…
おおい!手加減しろよ!!ほら炭になっただろ!!
……ワニさん超激怒なんですが…
「ちょ、ちょっとソーヤ、すごい勢いでこっち来てるんだけど!」
「アホかお前は!料理を守らす為の攻撃なのに、その料理を炭にしてどうすんだ!」
「えっ?だってえ…」
「だってもヘチマもありません!」
くっ、このお約束大魔王がっ!
人の話は最後まで聞こうな。このパーティ話を聞かない奴が多すぎる!というか常識どこいった?
と、ワニさんが居なくなった?あれ?
「まずい地面に潜った!下から来る!バラけるぞ!!」
ええっ!?潜るんか。ってことはここまで潜って来たと?そんなのありか!
オレ達はとっさにバラけた。
くっ、確かこういう時地面に潜る敵は、ゲームだと振動とか土煙とか…音爆弾!音爆弾はござらんか!!いや効かないだろうが…
って、こっちに来てないか振動?とその時、地面が割れた。
「ソーヤ!!」
うお!こえええ。オレはとっさに自分にエアハンマーを叩きつけ、上空へ逃げた。ちょーいてえ。
地面からギザギザの歯が生えてくるなんて、どこのホラーだよ!
やっこさんもジャンプしてるが届かない。ふっざまあ、と思った瞬間、グルリと体を回転さし、オレの目の前には丸太以上の尻尾が…
「あべし!」
オレは尻尾で地面に叩きつけられ、そのまま数回バウンド。なんとか意識は繋ぎ止めたが…
これはヤバイ、痛みで身動きができない。
奴が寄ってくる。背中には、アーチェとユーリの魔法が炸裂してるが物ともしてない。
が、その時、急に動きが遅くなったかと思うと、ドンっと地面に倒れ付した。
「よ、よし、なんとかなったか?」
そう、ただやられてた訳じゃねえぜ?
最初に地面に現われたとき、口の中に向かって、クロスボウでオレの全魔力をつぎ込んだ、デスポインズンを付与した矢をぶち込んだんだ。
まだ、死んでる訳じゃないが、動きは止まったようだ。
フッ、ワニには毒肉、シビレ肉が基本だからな。ゲーム知識だが…
「どうしたことだ?」
「毒を付与した矢をぶち込んだんですよ?」
「ただの毒で、ワンアリゲーターが?」
「一応デスポインズンって、毒系最高の魔法だしね。オレの魔力じゃ一発でもオーバーなんだけど、なんとか…。あっ、まだ死んでないから止めを」
そこまで言った瞬間、また地面が割れた。って、えええっ!
オレの意識はそこで闇に飲まれる事となった。
◆◆◇◇ 視点変更◇アーチェ ◇◇◆◆
「ソーヤァ!!」
「2体目だと…」
殿下達は呆然とソーヤを飲み込んだワンアリゲーターを見ている。
「ユーリ…私がやるわ…」
そう私は覚悟を決めた。ソーヤの居ない世界なんて今はもう考えられない。
前に一度、どうしても勝てそうにない敵が出たときの対処法は、私達はソーヤから教わっている。
「おい、これはマジな話だ。冗談や酔狂じゃないぞ。これは絶対遊びで使うなよ!」
そう、いつになく真剣な顔をして教えてくれたっけ…
「死ぬからな!マジ死ぬからな。ほんとどうしようもなくなった時だけだぞ!」
そう言って、
「身体強化の禁呪だ…その魔法の名は…」
『アポカリプス!!』「えっ!?」
ユーリがそう唱えた!何やってるの!?
「ボクが行く、アーチェはボクの剣に補助魔法を、それとボクとソーヤにリザレクションをいつでもかけれる準備を!」
「ユーリ…分かったわ!思う存分やってきなさい!!」
私はそう言うと、リザレクションをいつでも最大でいけるように準備し始めた。
「な!?ユーリの体が輝いている!どういうことだ!!」
「アポカリプス、人を強制的に、1ランク上の存在、そう神のレベルに引き上げる魔法よ!」
「なんだって!?」
「時間がないわ!、ユーリをサポートして!!」
そうアポカリプスは、発動時間中、全ての能力が飛躍的に向上する。ただ、人の体はそんな急激な変化に耐えられない。
「おい、ユーリの体から血が流れていないか?」
「だから時間がないの、早く!」
「よ、よし。メリンダ殿、我と奴を引き付ける役を」
「分かった!」
殿下達はワニの向こうに回り、ユーリの攻撃をサポートしている。
しかし、補助魔法をかけたユーリの剣でも、さほどダメージが与えれていない。
「傷はついているが…拙いな、どんどん時間が経っていく」
「ユーリおなかを狙いなさい。多少、中のソーヤがバッサリいっても私が直してあげる!」
そう必ず!私の命を賭けてでも!
「くっ、そうはいっても…どうやって」
『パワーボム!』
私はワニの腹の下へ、魔法を発動させた。
ワニは大きく仰け反る。
そこへユーリがすかさず駆け込む。
「ユーリ!危ないぞ!!」
「アーチェ!ちゃんとリザレクション用意しといてよ!」
「リザレクションならずっと発動中よ!」
「ってことは、同時発動?さすがアーチェだね。ボクも負けられない!」
そう言うとユーリはワニの顎に向かって、
『ホーリープロテクション!』『パワーアンチェリアス!』
二つの魔法を続けざまにかけた剣を突き刺した。
「っく、まだ、動くのか。顎から脳天まで突き抜けているのに」
殿下は絶望的な顔をしている。だけど、
「よくやったわユーリ、あの剣は鉄製ね!」
「うん、そうだよ!」
「よし、いくわよ!」「うん!」 『『サンダーボルト!』』
脳天から突き出した剣の先に、私達二人の魔法が炸裂する!
ワニの体がバチバチバチッと、激しく発光する。何度ももだえ狂った後、
ズゥンという音と共に倒れ付した。
「ユーリ!『パワーボム!』」
「殿下、剣を貸してください!」
「う、うむ」
私が魔法でひっくり返したワニのおなかを、ユーリが切り裂いていく。
「ソーヤ、ソーヤァ!」
ワニの腹から引っ張り出したソーヤと、ユーリにリザレクションをかける。
二人の傷がみるみるうちに塞がる。だけど…
「アーチェ…………、ソーヤの心臓が止まってる!」
◆◆◇◇ 視点変更◇フィフス殿下 ◇◇◆◆
「ソーヤの心臓が止まってる!」
なんだと…ここまできて…くっ我が、我がもう少し気をつけていれば…2体などとは…
なんのための前衛だ!後衛を守れずして、なにが剣士であるか!
我は地面にこぶしを叩き付けた。
「ソーヤ…」
メリンダ殿は放心状態だ。我ももはや呆然とするしかない…
気づけば背後のマッドゴーレムも居ない。あれらは我らを逃すまいと、ワンアリゲーターが呼び出した者であったか。
「すまぬ、二人とも。お主らの大切な者を守る事ができなかった…」
「ちょっとユーリ、なんであんたが人工呼吸役なのよ!」
「え、だってたまにはいいじゃない?」
「誰得よ!」
ん?二人はあまり悲観してないように見えるが?
「つーか私が電気ショックやったら、止めさすでしょ?」
「くっ、なんて説得力のある…」
「ちょっとあんた達、仏さんの前で…」
「それじゃ、ユーリは心臓マッサージと、電気ショックお願い」
「むう、分かったよ」
そう言うとアーチェはソーヤに口づけする。そうか、最後の口づけで揉めていたのか。うむ仕方あるまいな。
それにしても、ちょっと多すぎではないか?何度もそんなに?
というかユーリは何やっておるのだ?なんかバチバチ言わせながら、ソーヤを抑えておるが?
変わった悲しみ方だな。
「がっ、げほっ」
おお、ソーヤが!
「心臓が止まっておったのではないのか!」
「止まってたわよ!」
「ど、どういうことかね」
「蘇生させたのよ」
「は?」
馬鹿な、リザレクションでも死んだ者は生き返らない。たとえ神帝国の聖女であろうとも死者を蘇らすことなど…
……そう言えばさっき、なんか人を神とする魔法がうんたらとか言ってたな…
「あ、アーチェは死人も生き返らすことができるのか?」
「うーん、死んですぐなら結構な確立で蘇生できるとか言ってたような?」
「……聖女…聖女がここにおる!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ちょっと兄上、最近、巷で妙なことをおっしゃっておるでおじゃるな」
「ん?なんのことだ?」
ここは我が城、アステリア王宮の通路である。
「麻呂がせっかく止めを指して差し上げたというのに、今だ政界に執着でおじゃるか」
「だからなんのことだと」
「しらばっくれるでおじゃるか!そんな身なりの汚いカッコで、冒険者かぶれのロクデナシが!」
ここは通路である、したがって多数の兵や、侍女が居る。
そんなところでも我が妹様はおかまいなしである。
「今だ政界に戻れるなど、ばかばかしいにも程があるでおじゃる。まあ、何度戻って来ようとしても麻呂が許さぬがな。おーほっほ!」
うむう、我はもう政界とはおさらばしたはずだが。
「なんでも聖女とか…」
「うむ、あれは凄かった!まさしく神が如き!我がユーリが、兄上もかくやという動き、よく聞け、なんと、なんとあのワンアリゲーターをだな!」
「ちょ、ちょっと」
「ただの鉄の剣でもって倒してしまったのだぞぉ!」
うむう、あの神々しいユーリはまた見れるかのぅ。だがあれなんか命削ってるらしいからのぅ。
「うむ、確かあれなんと言ったか、人を神とする魔法、うむ、アホかブスだったかのう」
「誰が、アホで、ブスでおじゃるか!!」
「しかも!蘇生、蘇生を行ったのだぞ!リザレクションなどおまけでしかない!」
うむう、まさしく神が所業。こりゃあ迷宮の攻略も夢ではないな。ん?
「まったく自分の陣地に聖女がおるなどと。しかも大兄上以上の剣士?バカバカしいにも程があるでおじゃる!」
ん?我の陣地?
「いくら王宮で返り咲こうとしているにしても、まったく嘘までついてなどと、麻呂は情けないでおじゃる」
ん?ん?
もしかして我、やらかしたか?