第19話 異世界編聖女さん帰りたくないでござる、の巻
私の気持ち…ですか…?
私の気持ちをソーヤ様に伝える…それってどういう…なんでしょう、だんだん顔が熱くなってきます。
もしかしてこれが…!?
いえ!私は聖女です!聖女が特定の殿方を贔屓するなどあってはなりません!
でも…この世界では聖女もなにもない…ここにいるのは只のクラリッサであって…
いいえ、でも、いずれ元の世界に帰れば!そう、この手にある魔石が…この魔石が無くなれば…
「クラリッサ?ちょっとどうしたの?」
ハッ、また私は何を…!?只でさえ貴重な魔石を一つ消費してしまったというのに。
なんてソーヤ様に説明申し上げれば…嫉妬の余り、元の世界に戻れなくしようとしたなどと…
ああ、どうしましょう…こんなこと説明して、万が一にも嫌われることなどあったら!?
「ふう、なんだかその石が元凶みたいね」
と、お姉さんはおもむろに魔石を掴み―――森に向けてブン投げました!
「お、おいっ!」
「いいクラリッサ、あなたはいい女よ。あんなちゃちな宝石なんか目じゃないわ。ソーヤに伝えなさい、私と宝石、どっちか大切かかってね」
「うゎあ、嫌な女だなぁ・あががが」
私とどっちが大切かって…そんなの決まってます。
あの人には故郷に想う方が居て、そしてそのお方は私なんかよりよっぽど大切に想われていて…
「それでもダメだったらどうしたらいいのですか?」
「そのときは任しときなさい!私の全財力を持ってソーヤを繋ぎとめて見せますわ!結局最後にものをいうのは『OKANE』ですから」
「ひでぇ…あだだだ」
お姉さんが大きな自分の胸をドンと叩いて言ってくれます。
その言葉に少しだけ救われたような気がしました。
「ありがとうございます。なんだか少しだけ落ち着きました。少し待っててください、魔石を拾いますので」
「いいのよあんな石ころなんてって、え?石がこっちに向かってきてる?」
私は魔石に宿る魔力を少しづつもらい魔石を引き寄せます。
「えっ、なに?糸でもくくりつけてたの?これって忍術?ねえ忍術なの!?」
「いやほんと、お前のバカさ加減には助かるわ。そもそも、クラリッサ、日本人じゃねえだろに…」
「ねえ、その光ってる珠もなんかからくりがあるの?触っても大丈夫?」
「あっ、ダメです、それは危険で・」
私は咄嗟に輝く珠を避けようとして、謝って壁に当ててしまい…その瞬間小さな爆発が起こります。
「キャッ、ああ、びっくりした…」
「すいません、これ、先ほど失敗した魔法を開放するつもりでつけていたものでして」
先ほど、間違ってフレアを出そうとした魔石を、危険があるかもしれないので魔力を抜いているとこでした。
「ふむふむ、まあ、良く分からないけど、明かりがなくなっちゃったわね、そろそろ帰りましょうか」
「そうだな…まあ、これくらいの雨なら家まで辿り着くのも問題ないか。ほれ」
そう言って大地さんが自分の雨がっぱを差し出してきます。
「いえ、そんな…」
「子供が遠慮スンナ。お前が風邪でも引いたらまたぞろとばっちりがきそうだしな」
……私は、この世界に来て、本当に良かったと思います。
花梨はとても明るくて、ずっと私を引っ張ってくれる。こっちまで笑顔になってくる子です。
大地さんはとても優しく、不審者でしかない私達をここまで連れてきてくれて面倒までみてくれます。
おばあちゃんは、まるで本当の家族のように、私に色々教えてくれて、何一つ聞くことなく住まわせてくれて。
ヴァレリーお姉さんは、ちょっと、いやかなり?強引なとこもありますが、私の事を可愛がってくれます。
皆さん、私にとってかけがえのない人達なのです。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ソーヤ大変だよ!」
「ああ、ちょっと待ってくれ、大分体も動くようになってきたから」
「大地兄ちゃんから緊急通信だよ!」
ん、クラリッサが無事に見つかったって、さっき連絡入ったばっかじゃないの?
「それがねっ!突然山肌が崩れてきて、生き埋めになっちゃったって!」
「ええっ!?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ちっ、くそっ、かなり分厚い、電波も切れちまいやがった」
大地さんが毒づいています。
帰ろうとして立ちが上がったとき、突然山の上の方から土砂崩れが…
大地さんは私達を窪みの奥に突き飛ばし自分が壁になって隙間を作ってくれます。
「ちょっとゴリラ、なんか血がにじんでない?」
「今はそれどころじゃねえ!クラリッサ、いけるか?」
私はすぐにいくつかの魔法を思い浮かべます。
あまり威力のある魔法は…さらなる崩壊を招くかも。
土の魔法で採掘は…ダメです、土が軟らかすぎてすぐに崩れてきます。
大丈夫、大丈夫です、迷宮探索で土砂崩れなど茶飯事です。
確かマニュアルでは…
「ねえ、ほんとに大丈夫なの大地!?これ、なんとかなるの?」
「おっ、俺の名前知ってたのか?感心だなあ、おい」
「今そんなこと言ってる場合じゃ!」
「落ち着けってよ。大丈夫、大丈夫だ。今、スマホで花梨に連絡した、すぐに助けが来る。しかしまあなんだ、ちょっとは隠したほうがいいぜ。目に毒だ」
大地さんの言葉に慌ててスカートを正すお姉さん。
「こんなときにまったく…」
そう言ってジト目で大地さんを睨みます。
だけどその目は、怒っているというより、信頼しているってそんな感じの瞳でした。




