第18話
あ、あれ?どうしたのでしょう?
ソーヤ様からアーチェ様の名前が出たとたん、まるで鈍器で心臓を抉られたような感じがしました。
そして今もまともに思考が出来ません。
いったい私はどうしてしまったの?
なにかが頭の中をぐるぐる回っている不快な感じがします。
思わず吐き気を催し座り込みます。
元の世界に帰れる、そう聞いたときは、リサやカーリン様とまた会えると思い、嬉しくなったのですが…
よく考えると、ソーヤ様と共に元の世界に帰る…それは、私達の離別を示している訳で…
そして、あちらの世界にはソーヤ様の想い人がいらっしゃる…
そういえば時々、空を見て望郷の念に囚われていたような気も…あれはきっとアーチェ様達を想って…
そう考えたとたんまたしても心臓を締め付けられる感じがします。
ああ、そうだ、魔石だ…魔石さえなければ…
◇◆◇◆◇◆◇◆
あれは…クラリッサ?こんな夜中にどうしたのでしょう?
「クラリッサ…?」
私の呼びかけにビクッと反応したクラリッサは驚いた表情を見せます。
そしてそのまま林の方へ駆けていきます。
えっ、私なにかしました?クラリッサにそんな風にされると…傷つくんですけどー。
おっと、それどころではありません。
こんな夜中に山奥に向かって行くなど、危険にもほどがありますわ。
「ちょっとゴリラ、今、クラリッサが林の方へ駆けて行ったわよ」
「ゴリラいうなや!いやまて、クラリッサが?こんな雨の中?おいおい、こないだ地震があったばかりだから地盤も緩んでるぞ…」
私は急ぎゴリラに救援を求めます。
こんなゴリラでも居ないよりはましですわ。
「花梨、ちょっと見てくる。ソーヤに伝えといてくれ」
「うん、分かったよ!いってらっしゃい、ゴリラ」
「お前までゴリラいうなや!」
私達は急ぎ、クラリッサを追いかけます。
「まったく、お前がゴリラ、ゴリラ言うもんだから…定着したらどうしてくれんだよ」
「いいじゃないですかゴリラ。ゴリラかわいいよゴリラ」
「なにがかわいいんだが…」
あらちょっとテレてます?ほんとかわいいゴリラですわねー。
「何笑ってんだよ?」
「いえ、ナニモ?」
「おっ、GPS反応してるな。お前が与えたスマホがこんなとこで役に立つとわな」
ゴリラがスマホを操作しています。賢いゴリラでしゅねー。
「…いつか泣かしちゃる。つっと、居たな」
山肌の窪みの辺りが光っています?
懐中電灯にしては、明るすぎるような?
「おい、無用心だぞ、こんなとこで」
ゴリラが私の方をちらちら見て言ってきます。
そこには、手のひらの上に輝く光の珠を乗せたクラリッサが居ました。
「綺麗ですわー、これがジャパンの手品ってやつですか」
「…お前がバカでよかったよ」
誰がバカですか。ゴリラにだけは言われたくありません!
◇◆◇◆◇◆◇◆
しかしほんと、こいつがバカで助かったよ。
魔法なんて説明しても理解しねえだろうしな。
「私、ほんとはもしかしたら悪い魔女なのかもしれません」
クラリッサはぽつりぽつりと語ってくれる。
話を要約すると元の世界に帰りたくないらしい。
なんでも元の世界に帰るとソーヤと別れなければならないとか。
しかもソーヤ、元の世界にはすでにお嫁さんがいるとか…マジかよ、あいつまだ中学生くらいだろ?
異世界、早熟なのか?なんて羨ましい奴だ。
えっ、一人じゃない?10人以上居る…あいついったい何者なんだ…?
『ちょっとゴリラ、日本語難しくて分からないわよ。通訳しなさい』
『…ああ、お前はそのままのバカでいて・あががが』
いでっ、やめろ、おいって!そこは勘弁してください…
とりあえず俺は、ソーヤが国へ帰りたがってること、そして国に帰ると二人は引き裂かれるってことを説明した。
『えっ、なに?ソーヤがクラリッサを捨てて国に戻ろうとしてるわけ!?』
いだだだ、俺に当たるなよ。あと、微妙に解釈が違うぞ。
「クラリッサ!心配しなくていいですわ!あたなのことは、この私が、責任を持って面倒みますから!国になんて帰る必要はありませんわ!」
「私…ソーヤ様と別れたくありません」
「くっ、健気なクラリッサ…分かりましたわ、お父様にいいヒットマンを雇ってもらって剥製にしちゃいましょう」
なに物騒なこと言ってんだこのメスゴリラ。
「やめろバカ。クラリッサ、お前、ちゃんとそのことソーヤに言ったのか?」
「え…」
俺はぽんぽんとクラリッサの頭を叩く。
「一度ちゃんと話し合ってみろよ。そしてお前の気持ちもきちんと伝えてだな、それでどうするか相談するんだ。これはお前だけじゃない、ソーヤだけでもない、二人の問題だろ?だったら二人で決めなくちゃならない」
「私の気持ち…」
「このバカ、気づいてないものを態々知らせる奴がありますか」
誰がバカだよ?お前にだけは言われたくないわ!




