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第17話

 あれから一週間が経った。相変わらずテンコ達からはなんの音沙汰もない。これは完全にオレ、忘れられているな。

 あるいは…それどころじゃない状況になっているか…うぉっ、なんだか寒気がしてきた。深くは考えないでおこう。


「ソーヤ様、あの…これ!私作ってみたのです、食べてもらっても宜しいですか?」


 聖女さんがお弁当のようなものを差し出してくる。どうやら今日のお昼ご飯は聖女様の手料理のようだ。

 それにしても聖女さん、たった一週間で日本語をほぼマスターしてるってどういうこと?


「私、物覚えはいい方なのです。魔法の習得も誰よりも早かったんですよ」


 さすが聖女に選ばれるほどのことはある。

 顔ヨシ、頭ヨシ、性格ヨシってどこのヒロインだよ。

 こんな子がお嫁さんだったらな…

 ふとお空の上にアーチェや麻呂姫達の顔が浮かぶ。あいつら大丈夫かなあ…無茶してないといいがなあ…いやきっとやってるな。


「ソーヤ様…?」

「ああ、ありがとう。今日のお昼楽しみにしているよ」

「はいっ!」


『若いっていいですわよね』

『お前、いつまでここに居るんだよ?』

『あら、ゴリラが人間様に話しかけてこないでくれません』

『誰がゴリラだこのメスゴリ・げふう』


 大地さんと金髪の姉ちゃんが漫才を繰り広げている。

 あの二人、以外と馬があっているんじゃないか?

 年も近そうだし、もうくっついちゃえよ。


「ソーヤ、なんかよからぬことを考えていないか?」


 いえ、なにも考えてイマセンヨ?


「じゃあ、とりあえず畑にいくぞ」

「うぃっす」


 しかしほんとどうしたものか。宝石店、寄ってみたのだが、やはり魔素が入っている石はなかった。

 今や十数個の魔石を残すのみ。

 なんとか向こうと連絡をとる方法でも考えないと。

 なにか手紙か何かなら、ランダムワープでも可能か?


 とはいえ、紙切れ一枚向こうに送ったとして、テンコの手元に届く可能性ってのは限りなくゼロだろうしなあ。

 なにかいい案はないものだろうか。

 いや待てよ、逆転の発想がないか?こちらから向こうに送るのではなく、向こうにある魔石をこっちに…だが、どうやって…


「ソーヤ、そろそろお昼にすっか」

「うぃっす」


 オレは聖女さんが作ってくれたお弁当を広げる。

 うん、見た目はばっちりだ。味は…こういう場合、実は…てのがパターンだが…

 恐る恐る口に運ぶ。

 うぉっ、旨い!こりゃうめえ!

 あの聖女さんまじ何やっても完璧ですな。


「うらやましいなソーヤ、あんな可愛い女の子の手料理なんて。しかも旨そうだなって、おい?」


 オレは聖女さんの作ってくれた手料理をがっつく。

 空になった弁当箱をさらにつつく。うぉおおおおお!


「おい、ソーヤ…?」


 その後オレは泡を吹いてぶっ倒れるのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 これはアレだ、前にアーチェに補助魔法を過剰に掛けられたときに似ている。

 あのバカ、ありとあらゆる補助魔法を掛けてきやがって「これでちょっとはソーヤもましになるでしょ?」って。

 クスリも過剰に摂取すると毒になるんだぞ?


 ちょっと体動かすだけでも筋肉がびきっって。あれだ、アポカリプス、あの禁断の補助魔法を掛けられたような感じ?

 普通の補助魔法で伝説級の魔法を作り出すとは…

 あの時は一週間ぐらい寝込んだっけ。

 なにせ補助魔法、解くには時間経過のみ。もちろん怪我や病気ではないので回復魔法は効きません。

 そしてやっこさん、もちろん全力で掛けてきてるのでなかなか解けない。


 地獄の日々であった…


「申し訳ありません。私、心を込めて作ったつもりが…このようなことに…」


 聖女さんが申し訳なさそうに寝込んでいるオレに言ってくる。

 あれからすぐに家にとって帰って聖女さんに回復魔法を掛けてもらったらしい。

 しかしながら一向に快方に向かう気配がない。


「謝る事はない。これは大手柄かもしれない」

「えっ?」

「元の世界に帰る方法が開けたかもれない」

「本当ですか!?」


 そう、これが本当に補助魔法であるのなら、これは現状を打破する一手になるかもしれない。

 聖女さんは料理に魔法は使っていない、なんせ魔石は持ってなかったからな。

 だというのに、料理に補助魔法が掛かっていた。ということはだ…この世界に魔素はない、しかし、魔素に変わる別の魔法元素が存在するかも知れないってことだ。


 前にテンコも言ってたな。

 テンコの使う魔法は向こうの魔力とは本質が違うと。

 これを曲解すれば、こっちにはこっちの魔力があるということにならないか?


 料理の一つ一つに心を込めて作ったので、こちらの世界の魔力が付与されて、補助魔法が掛かったという可能性が。


「本当に元の世界に帰れるのですか!?」


 聖女さんが身を乗り出して聞いてくる。


「あー、いや、その可能性があるってことで、これから色々調べなきゃならないけど」

「可能性がある、ということだけでも希望ですよね」


 聖女さんはそう言って笑顔を振りまきながらオレの額の濡れタオル交換してくる。

 ずいぶん嬉しそうだ。やはり元の世界に帰りたいんだろうなあ。

 これは早急に調査せねばな。なにせ、


「ああ、早くアーチェ達の元に戻らないと何やらか・」


 と、その時、大きな音がしたかと思うと、聖女さんが手に持っていた洗面器を取り落としていた。


「ああ、すいません!すぐに魔法で乾かしますので」

「いやいや、あと8個しか残ってないよ?貴重なんだから普通に拭こうよ」

「いえ、まだ8個も残っているじゃないですか!」


 急にどうしたんだろう?なんか凄く慌ててる。


『フレ・』「ストップ、ストップ!あだだだ、何やってるの!?家が消し炭になっちゃうよ!」


 オレは急いで聖女さんの口を押さえる。

 フレアってあんた、燃やしてどうするのよ?

 まあ、魔石一個のフレアじゃ知れてるだろうけど。乾かすのに使うにはさすがにオーバーだと思いますぞ。

 どうしたんだ?こんな無茶するような子じゃないはずなのに?


「あ…ほんとですよね。私ったらどうして…、すいません、ちょっと席をはずします」


 そう言って駆けていく聖女さん。ほんとどうしちゃったのぉ?

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