第16話
私は今日、至上の天使を見つけましたわ!
透き通るような肌!天使のわっかがついているかのような艶やかな髪!まるで聖典の絵画から出てきたようなかわいいお顔!
西欧の現地でも会ったことがない、完璧な少女ですわ!ああ…お持ち帰りしたい…
聞けば先ほどの子の知り合いだとか。え、この子は男の子?え、男物売場を探ししている?何言ってますのこのゴリラ。
私は今、そっちのドレスを着た子のことを聞いてますのよ。そっちの子はどうでもいいのです!
「なんかヤバそうなねえちゃんだなあ…」
「おいソーヤ、お前このおばさ・ごふっ、お姉さんの言ってること通訳してくれ」
「えっ、オレこっちの言葉は日本語しか理解でないよ?つーか大地兄ちゃんが説明してくれるって言ったじゃん」
「それがなあ、言葉はなんとなく分かるのだが、言ってる意味が分からん」
「…まあ、言わんとすることは分かるけどさあ」
さあ、早くその子を私に紹介するのです!
英語もこんなゴリラが発音するととても酷い雑音に聞こえます。
いいですかゴリラ、私はヴァレリーといいます、早くその子に紹介を!
「なんかゴリラって言ってないかコイツ」
「…多少なりとも意思の疎通ができてなりよりですね」
「おいっ」
と、天使がこちらに近づいてくる。
『どうされたのですかソーヤ様』
『ああって、とんでもないもの着てるな。それ、ディスプレーに飾ってたウン千万とかする奴じゃね?あと、後ろのカメラマン達はなに?』
『なんでも、この服を着て写真?なるものを撮らせて差し上げれば、このコーナーの服を一着頂けるとか』
『…なんかモデルみたいなことしてるな。花梨までドレス着て。えっ、オレも着るの?いやだよぉ…』
ああっ、なんと耳に心地より言葉でしょう。
まるで鈴が鳴っているかごとき音色ですわ。天使にぴったりの音声。
私はゴリラでは埒があかないので、店員に話を聞きます。
ふむふむ、名前はクラリッサですか、いい名前ですわ。
なになに、パンフレットの表紙になってもらおうと写真を撮っている?
この店員見る目がありますわね。そのパンフレット100枚ほど頂こうかしら。
まあかわいい、もうひとりの子もお化粧すれば十分天使にみえますわね。
「いーやーめーてぇー」
◇◆◇◆◇◆◇◆
えらいめにあった…
服一つ買うだけでこんなに苦労するとは…異世界、オソルベシ。
しかし、
「なあ大地兄ちゃん、なんでこのおば・ごふぅ、お姉さん一緒に乗ってるの?」
なんか金髪の姉ちゃんがオレ達についてきた。
姉ちゃんは聖女さんを膝の上に抱いて離さない。
しかもなぜか、聖女さんの洋服、全部お金を出してくれたらしい。花梨ちゃんのも合わせて。
えっ、オレ?オレの分はちゃんと大地さんが払ってくれたよ?
「なんか金は出すから家に泊めろってしつこいんだよこのおば・ごふっ、運転中にやめろよな!」
「あなた、私、侮辱、ゴリラめ」
「俺がゴリラならてめえはメスゴリラだ・げふぅ、お腹は止めて下さい」
大地兄ちゃんよえぇ。
そうこうしているうちに家に辿り着く。
「おや、ご家族の方かえ?」
ばあちゃんが金髪の姉ちゃんを見てそう言ってくる。いえ、知らない人です。
「あっ、ばあちゃん、なんかこのお姉さんがね」
花梨ちゃんが本日の経緯を話してくれる。
それにしても、聖女さんデパートで大人気だったな。
ただでさえ、ここいらじゃ珍しい外国人、そして向こうの世界の人達、みな顔の整った人が多いんだよな。
その中でも聖女さんは、そりゃー、一国のアイドル、いわゆるトップスターって奴だからなあ。
将来はこの世界でアイドルデビューしたりしてな。
できればオレもイケメンに生まれたかったぜ。
「まあ、部屋はぎょうさんあるけん構わんよ」
「おばあさま、ありがとうございます。これ宿泊費として…」
「ええけん、しまっとき。うちは旅館じゃねえ、友人を泊めるのに金はとらんじゃろ」
「おばあさま、いいひと…」
ほんといいおばあちゃんだなあ…
「ねえ、おばあちゃん、このお姉ちゃんがね、明日ティアニーランド連れってってくれるって!」
「花梨、お前は夏休みの宿題全然済んどらんじゃろ、遊びほうけとる場合じゃなかろ」
「くっ、大丈夫、まだ半分も残ってるもん!」
そういうやつは大抵大丈夫じゃないんだよなあ。
「私、日本語、勉強したい」
宿題という言葉を聞いて聖女さんがそう言ってくる。
手には日本語マニュアルって書かれた分厚そうな本を抱えている。
「OH、じゃあ私と一緒に、勉強しましょ」
お姉さんがそう言ってスマホを操作している。
「ほら、これでバッチリ、よ」
ほうほう、日本語習得アプリとな。
でもそれ役に立つの?実際お姉さんの日本語いろいろおかしいんだが。
「私、コレ見たの久しぶり。覚える気、無かったからネ」
ああ、この人はテンコの同類っぽいなあ。




