第12話
「これはりんご、りんごな」
「りぃんご…」
オレは聖女さんの口に切ったリンゴを近づける。
『甘い!おいしい!』
聖女さんは満面の笑みを向けてくる。
「かわいいっ!これ、こっちはみかんね!」
「みかぁん…」
女の子が皮をむいたみかんを聖女さんの口へ持っていく。
「くー…、あ、ありがとう」
覚えたばかりの言葉で感謝を伝える聖女さん。
「かわいいっ!」
そんな聖女さんに女の子が抱きつく。
「こら花梨、失礼だぞ」
「大丈夫よ!外国の人はこれくらい普通なんだから!」
「えっ、そうなのか?」
オレに聞かれても…、そもそもオレ達は外国人じゃなくて異世界人だし。
「で、そろそろ事情を話してくれねえか?」
「実はオレ達は…」
オレは今までの経緯をかいつまんで話してみせる。
「ほうほう、異世界から転移魔法でこの世界に来たと」
「そうなのです」
「…じゃあなんでお前日本語話せてんだよ?」
「それはですね…」
オレは転生劇ををかいつまんで話してみせる。
「ほうほう、元々こっちの世界に住んでて向こうの世界に転生したと」
「そうなんです」
大地と名乗るお兄さんは頭に手をやって「これは警察より病院が先かな」とか言っている。
まあ、信じないよね。
「というのは冗談でして…」
このお方はとある宗教の教祖様で、自身の意思とは別に祭り上げられていたのをオレが助け出したってことにした。
「なるほどな、その宗教というのは?」
「外国のものなのでなにぶん詳しくは…」
納得はしてくれたようだ。
しかしこの設定、聖女さんにバレたら怒られそうだ。まあ、日本語できないし大丈夫だろ。
「それで、これからどうするつもりかえ?」
おばあさんが問いかけてくる。
この一家の構成はおばあさんと孫の大地さん、花梨ちゃんの3人暮らしらしい。
大地さんと花梨ちゃんのご両親はご不幸があったとか。
「助けていただいた上でぶしつけなお願いなのですが、なんでもしますからここに置いてくれませんでしょうか」
「ほうほう、なんでもするとな?」
「あっ、こっちの子は勘弁してください。その分オレが働きますから!」
おばあさんは考え込む仕草をする。
「ねえ、おばあちゃんいいじゃない。ほら、畑仕事も腰にくるっていってたじゃない!」
「お前は自分が楽したいだけだろ」
「バレたかー」
「ま、いいさね。暫くは雇ってあげるよ」
「ありがたい!一生恩に着ます!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
『ソーヤ様、これはどっちに運べばいいのですか』
『ああ、それはって、リサ、もう体は大丈夫なのか?』
『はい、もう大丈夫です。あと、私はもうリサではありません、クラリッサです』
『まあ近いしどっちでも』
『良く有りません!』
そう言って頬を膨らませる聖女さん。
どうやら体調はもう大丈夫みたいだな。
「え、クラリッサも手伝ってくれるの?やったぁ!」
「こら花梨、人を当てにしないでちゃんと手伝えよ」
「分かってますよーだ」
花梨ちゃんは大地さんに舌を出して応えている。
『それにしても、ここはいったいどこなのでしょう?』
『薄々感づいてるとは思うが…ここはオレ達の暮らしていた世界とはまったく違う場所、異世界だ』
聖女さんは目を伏せて両手を見つめる。
『…魔法が使えませんでした』
『この世界に魔素は存在しない。この世界に…魔法という概念は存在しない』
聖女さんが目に涙を湛えこちらを見つめてくる。
『それでは私達は元の世界に…』
『魔法という概念は存在しない、しかし、魔法が使えない訳じゃない。空気中に魔素が含まれていなくても、魔石には魔素が含まれている』
『しかし、その魔石は…』
『まだマジックバックにいくつか残っているはずだ。取り出すことができたんだからマジックバックの機能はまだ残っている』
そのマジックバック、こっちの世界に売り出せば天井知らずの値段になりそうだなあ。
それを資金にして色々買って持って帰るのもいいかもしれない。
『その魔石で足りますでしょうか?』
『まあ、テンコかリューシアが気づいてくれれば何とかなる…かな?』
どうかな?神様が二人もいりゃなんとかしてくれんじゃね?
何とかする気があるかどうかが問題だが。
『とにかく明日にでも、オレ達が墜落した現場にでも連れて行ってもらおう。マジックバックを回収しないとな』
『そうですね、捜せば未使用の魔石も落ちているかもしれません』
「もう二人とも!花梨のわからない言葉で話しちゃダメー!」
花梨ちゃんが聖女さんに抱きついてくる。
「ごめん、カリン」
「うん、ゆるしちゃう!」
すりすり頬を擦り付ける花梨ちゃん。
まるでリスみたいだな。
それにしても…
「クラリッサ、言葉覚えるの早すぎじゃない?」
まだ、昨日の今日なんだが。簡単な会話が成立しているでござる。
これは、あの設定がバレるのも時間の問題ではなかろうか…




