第五章 迷宮進入!
◆◆◇◇ 視点継続◇ソーヤ ◇◇◆◆
という訳で入学式です。
オレとアーチェは同じ特待生なのだが、アーチェは最上級教室、しかしてオレは最下位教室、なんせ魔力順だからな。
まあ下位のほうが気が楽でいいか。
とりあえず友達でも作って、オレの立派な戦力となってもらえるよう頑張ろう。
と、気軽に考えてる時期がオレにもありました。
「そ、ソーヤ君!ソソーヤ君は居ますか!!」
ソソーヤ君って誰だよ?もしかしてオレのことか?
なんか派手派手な格好のおばさんが、
「おばさんとは誰のこと!?ワタクシはまだ30過ぎたばかりですよ!」
「30過ぎれば十分…」
「くっこれだから近頃のガキは…ハッ、それどころではないです!至急ワタクシと一緒に来て下さいませんか!?」
なんなんだかいったい。いやな予感がひしひしとしたりするが…
「どこに行くのです?」
「アーチェスさんをなんとかして下さい!」
だろうと思ったよ!
「ホーネスト先生は?ホーネスト先生が担任じゃないの?」
「ホ…バシェード先生は…今年から研究所へ異動となりました。…変わってワタクシが最上級教室を担当する事になったのですが…くっ栄転とばかり思ってたのに、あのヤロウこれを見越してたでありますね!」
そうか逃げたか…まあオレが同じ立場でも逃げるか。
◇◆◇◆◇◆◇◆
辿り着いたそこでは…窓のガラスが砕けて、教室のメンバーは全員気絶していた。なにやってんのぉ?
「アーチェぇ…」
「ち、違うのよ。ちょっとこいつらが「なんだかいい気になってるみたいだけど、ほんとに雷なんて魔法で出せるの?はんっ、どうせ田舎娘がハクつけるために嘘でもついて…」とか言うものだからつい」
つい、でこの惨状かね?
「ちょ、ちょっとこの惨状はまずいでありますわよ!?ここは中心街一番の魔術学園、ここに倒れている子達は、ほとんど貴族ですのよ?ああ私の首もここまでですか…」
ほんと何やってんだか、いきなりこれでは皆に怖がられて孤立するぞ。
それにこれは、賠償金とか請求されたらしゃれになら…そうだ、いっそのことこいつら全員共犯にしよう。
「なんか悪い笑みを浮かべてるような…バシェード先生ほんとにこの子なんとかしてくれるのでしょうか…」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「さあみんな、先ほどアーチェが使った雷魔法、使ってみたいとは思わないか!」
とりあえず全員をアーチェの魔法で回復させた後、オレはクラスのメンバーにそう言った。
「実はコツがあってな、ここだけの話、簡単に雷魔法を使う方法がある。これは秘術で簡単には明かせない。だがしかし、先ほどのことをなしにして、使って見る気があるなら教える事もやぶさかではない」
そう言ってオレは連中の顔を見回した。
「どうだ!使ってみたいやつは手を上げろ!!」
おっ、さすが最上級教室、向上心があっていいことだ。全員が手を上げたな。
「フッ、さすがは向上心があるやつは違うな、ならば…」
ということで、一昨日作った呪文を早速教えてみることにしました。
おお、さすがだな、全員大小の違いがあるにしろ、バチバチいわせてる。
「ああ、私が雷を起こせるなんて…」
「これは、すごい、こんな簡単に…」
「もうほんとしびれちゃう!」
最後のやつほんとに痺れてるぞ。
「というか先生、ここなんで女子ばっかなの?」
「え?最上級教室は男女別ですよ」
「そうなのか」
「アーチェさんごめんなさい、私あなたが東の魔女なんて言われてるのが羨ましくて…」
「ううん、いいのよ。私もちょっとやりすぎちゃったしね。でもソーヤは私のだから、変な目で見てたらヤッチャウぞ?」
うんうん、青春だね。つーか反省しろよアーチェ!
「アーチェ」
「なに?」
「今日の事は、しっかりメリ姉に報告するから」
「えええっ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日オレが最下位教室へ入ろうとしたところ、ガシッと誰かに掴まれた。
あれっ昨日の先生じゃないか?
「なんです?」
「あなたは今日から最上級教室の顧問になったわ」
「えっ」
「子供達が親の貴族に掛け合ってくれたのよ」
「なんでそんなことに?」
「昨日の雷魔法の教え方といい、きっとあなたは教師に向いてると思うの」
そこで先生はいったん言葉を区切り、
「聞けばあなたがアーチェさんを育てたそうね。みんな、アーチェさんのように魔法を使ってみたいと思ったようなの。あと育てた責任はとろうね」
ええ?オレ育ててないよ?
アーチェはなるべくしてあーなったと思うんだ。
「言い訳はいいから、さあ行きましょう」
「ちょ、ちょっと待ってよ。オレまだ7歳だよ?さすがにありえないじゃ」
「魔術師にはね、幼い頃から早熟な子も多々居るのよ?大丈夫あなたならきっとできる」
それできない子に言い聞かせる常套句だよね?
「それに親達が乗り気になってしまってね。そりゃー、一日で雷魔法が使えるようになって帰って来たんだから、それはもう大騒ぎに。ワタクシの株もぐっと上がって大上昇」
「それはようございましたね」
「ここでワタクシが教えたって言えれば良かったのですけどねー。まあぶっちゃけたらその子を呼べって事になってしまいまして」
先生はいい顔で、
「大丈夫、年齢までは言ってませんから!」
全然大丈夫じゃないよ!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「えー先ほどご紹介に預かりました、ソーヤと申します」
まあ、このクラス可愛い子ばっかだな。イテッなにすんだアーチェ。電撃とばすなよう。
年齢はみんな7歳なのか?それにしては結構育っている子も居るけど。
「中には、魔法の才能が遅れて来た子も居ますからね。最年長は12歳になりますよ」
なるほど。そういやアーチェも9歳だな。
「これから魔法の授業は、ワタクシとソーヤ君で行うこととします」
ん?
「魔法以外の授業はどうするのです?」
「その時間は…そうですね、生徒と一緒に勉強してもらいます」
さては、考えてなかったな…
「そういや、なんで男女別にしてるの?オレこっちでいいの?」
「ああ…みなさんソーヤ君が一緒に勉強するのを反対の方はいらっしゃいますか」
そう先生が生徒達に問いかけたが、反対は居ないようだった。
「じゃあよろしいですね」
いいのかよ?
「じゃあそれでは、授業を始めましょう」
「それなんですが先生、実際授業ってどんな感じで行うんです」
「最初は呪文の暗記からね。それから徐々に下級の魔法から試していき、行き詰ったら、原因について研究するってとこかしらね」
呪文の暗記はめんどくさいなあ。時間も勿体ないし。
「よし、呪文の暗記はやめましょう」
「えっ?」
「かわりにオレの個人指導の時間にして下さい」
「いやいや大事よ呪文」
「オレの生徒なら、全員無詠唱で魔法を使ってもらいます!」
オレはドヤ顔でそう言った。
◆◆◇◇ 視点変更◇ワタクシ先生 ◇◇◆◆
「オレの生徒なら、全員無詠唱で魔法を使ってもらいます!」
ハア…また変な事言い出した…
ワタクシもやっと最上級教室の教師、いよいよバラ色の人生が巡ってきたですわね。などと思ってた頃が懐かしい。
ただいま30歳突破してそろそろヤバイ、未婚のヨークセリア・フォンシーズ、かっこいい彼氏募集中です。
「ソーヤ様…私達もアーチェさんと同じように無詠唱ができるのでしょうか」
「できる!いやできない筈がない!というか様付けはやめてね」
昨日一日ですっかり生徒達はソーヤ君の虜ですわね。まあ今まで散々苦労して覚えてきた以上の魔法を、たった一日で塗り替えてしまったのですしね。
「それじゃあまずは…」
このままにしていいんでしょうか?そこはかとなくヤバイ気はするのですが。
そう思いながらも彼に任せていると、自然と吸い込まれるように話を聞いてる自分が居ました。
「ふむふむ、すると、空気中の魔素がキーですね」
「ええ、この魔素ですが、詠唱なんてなくても十分に変換できます。いいですか?常識なんてポイですよ。これからオレが言う事こそが常識だと思って下さい」
ふむふむ、こうやって非常識な連中が作られていくのでしょうか。まあ、アーチェさん並みの魔術師が量産できれば元も取れますか。
自分ではアーチェさんを育てた自覚はないようですが、これじゃあ…あーなってしまうのも頷けますね。
というか彼はここに、常識を学びに来たのではなかったのでしょうか。いきなりポイしてますけど…
◇◆◇◆◇◆◇◆
そうこうしているうちに、桜の花も散って、夏に入り、今年も海開きが間近だなーとか思える頃。
「そ、ソーヤ様、私にもできました!できましたわ!」
「おお、頑張ったな。これで全員無詠唱完了だな」
…マジかよ?ワタクシ目を疑ってしまいましたわ。というか最後の方、わざと一緒に居たくてできてない振りしてませんでしたか?
「いえ、これもソーヤ様のご指導の賜物ですわ。ぜひ一度我が家に来て頂き、お礼をさせてくれませんか」
「いやいや、それほど大した事はしてないし、つーかアーチェがなんか怖いんだが…」
最近のアーチェさんは雷を身にまとう防御魔法を開発したようですわね。ますます手に負えなく…
ちなみにワタクシも、ソーヤ君のお話を聞いている内に無詠唱、できるようになりましたわよ。
ああ、ワタクシ授業してませんわね…
「よーし次はだな、便利系の魔法の習得だな」
便利系…ああその中には伝説級も入っていたりしないだろうか…
すこしは自重を…とか言いながらワタクシも少し楽しくなって来たのは内緒ですよ?
そんなある日、
「先生、少しご相談があるのですが…」
この子は確か、親がクラスの中で最も高い位にいる貴族の子供だったかしら。
「はい、なんでしょう?」
「ソーヤ様の身元を知りたいのですが…」
ああ、この子もか。
最近、毎日めきめきと力をつけてくる子供達を見て、大人達がいったい誰が教えているのか、きっと大層な人物に違いない。よし今のうちに娘をくっつけてしまえ。などと思っている方達が増えて来ました。
ワタクシ?ワタクシは…なんか知らないうちにソーヤ君の師匠として、生徒達の大師匠として、なんかとんでもない扱いを受ける事になりました。
なんでも王都一の教師だとか…毎日胃がキリキリしております。つーかワタクシには誰もいいよって来ないってどういうこと!
「あの先生…?」
「ああ、ソーヤ君ね。彼が言っているとおり、普通の村の普通の平民ですわよ」
「そうですか…」
今の世の中、貴族と平民の結婚はまあ、あまりない。後ろ指さされても構わないって方ばかりですわね。ええ、ワタクシ後ろ指さされても問題ありませんから、ぜひかっこいい方を…おっとまた話が逸れてしまいますね。
「あの、あの、アーチェさんとソーヤ様は…」
「今のところはただの幼馴染ってとこですわね」
そう今のところは…アーチェさんもまだまだ恋のなんたるかは分かっていない年齢でしょうしね。
ソーヤ君は…あれはなんか変なのですわね…恋について百戦錬磨のワタクシでもちょっと…なんだか大人が子供を見てるような、そんな感じがするんですよね。えっ百戦錬磨の癖に未婚?あらワタクシ急に魔法の練習がシタクナリマシタワ。
「いい?恋愛は早い者勝ちよ?躊躇してたら負けよ?いい男はいい女がもらう?ハンッ、そんなこと言ってるからいつまでたっても未婚なのよ!!」
ええ、決してワタクシのことではありませんわよ!
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
「ずいぶんいいお身分らしいな」
なにこのお方?スゲー立派な服着てるなー。
「今日はおまえ達二人を生徒会に勧誘にきた」
ええ?生徒会なんてあるのここ?
「ちょっとあなた、生徒会長様がお話しているのよ、なんとか言いなさいよ!」
「なんとか」
「ふざけてますの!!」
えー、オレ今回、からまれそうなことしてないよね…ないよな?…オイないよな!どうして目をそらすアーチェ!
今日は休みの日だったのだが、急遽学園に来る事となった。なんでもこのままでは常識がまったく身につかないと、メリ姉が先生に頼み込んだらしい。いわゆる補修だ。
で、学校に着いたとたんこれだ。なんかタキシードみたいなのを魔改造したような服を着てらっしゃる。隣のご婦人はゴシックドレスっぽいの…学校にドレスとかどんだけー。もしかして、こいつら例の厨二…
「なんか失礼な事考えてません!?」
しかし服装はともかく、顔は美形だな。二人ともアイドルばりのルックスだ。これがいわゆる残念系美形か?
「ほんとに失礼な事考えてません?」
というか、どうしてオレ達が今日来ることを知ってんの?
オレはふと疑問に思って聞いてみた。
「私達がフォンシーズ先生に提案していたのだよ。常識を弁えるのなら、生徒会へ入ったらどうかねとね」
「ええ、その通りですわ。さすが生徒会長様、生徒のことを一番に考えてらっしゃる」
「ハハハ、当然ではないか。なにせ私は生徒会長なのだからな」
「いえいえ、生徒会長というだけで、そこまで生徒の事を考えられている方などめったに居ませんわ」
「そうかね?いや副会長こそよく見ている。まさに生徒の鑑であるな」
「いえいえ」「ふははは」
なにこの茶番…もう帰っていい?
「それに引き替え君達と来たら、上級生に対しての礼儀も弁えない。せっかく物事を教えてあげようとしても「ソーヤが、自分以外の奴のことを聞く必要がないって言ってたので」とか無礼にも程がある」
おい!誰だよそんなこと言ったの。
「だって、言ってたじゃない。これからはオレの言う事が常識と思えって」
「それが、どうまかり間違って、オレ以外の奴の話を聞くなってことになるんだ?」
「なんか話聞いてても、ソーヤとは全然違うこと言うし…はっきりいって邪魔なのよね」
体のいい厄介払いに使っていたと。
「それに、君達はまるで自分達がこの学園で一番だと吹聴しているではないか」
「あら、事実じゃない?」
「フッ、君は誤解をしている。ただ力が強い、ただ知識がある、それだけでは世の中は渡っていけないのだよ」
世の中ときたかー。
「いずれ迷宮実習でも始まれば分かることだが…よし、どうかねこれから迷宮へ潜ってみるか。そうすれば私の言ったことがよく分かるだろう」
「ええ、名案ですわね。きっと生徒会長様の勇士を見れば、彼らもなにが正しいか分かることになるでしょう」
おお、マジでか。これは生徒会活動だよな?じゃあメリ姉にも言い訳がたつか?どう思うアーチェ?
アーチェは、生き生きした顔で何度も頷いた。
ふむ、アーチェも近頃はあまり無茶をしなくなったしな。…少なくともオレの目の前ではな。
「じゃあ体験入部ってことで」
「部活動ではないのだが…」
◇◆◇◆◇◆◇◆
やって来ました迷宮編。いよいよこれからオレ達の冒険が始まる!
が、しかし、即効で終わりそうな予感…
「ギャー、ちょっと何よあれ、どうしてたった3階層でジャイアントバットが出るの?あれ10階層の敵よ」
「いやいやそれどころか、2階層でオーガもありえん!」
「おい、ごちゃごちゃ言ってないで逃げないと死ぬぞ?」
「ねえ、反撃しないの?」
「いやムリだって。よく見てみろ」
そうそこには、オレ達の倍以上の大きさの蝙蝠の大群が飛んでいた…
「ちょっと無理そうね」
「ちょっとですめばいいんだけどねえ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
最初は良かった、そう最初は良かったのだ…
迷宮に入ったばかりの時は、どう戦えば分からないオレとアーチェは右往左往していたが、
「フッ、こんな雑魚に手間取るとはな」
ザクッ、バシッと、つぎつぎ敵をなぎ倒していく生徒会長。口だけではなかったらしい。
「キャー、さすが生徒会長様。そこにしびれるあこがれるう」
こっちはうるさいだけの副会長…
どうやら生徒会長さんは魔法剣士のようだ。
細身の長剣と魔法を交互に使ってる。参考になる戦いかただ。
ちなみにアーチェには攻撃魔法を禁止させている。初めてだし、メリ姉の言ったように崩落させたらとんでもないしな。
アーチェにはとりあえず迷宮に入る前に、土魔法でメイスを作らせた。オレは自作のクロスボウだ。
まあ自作って言っても既製品を色々いじって、レバーでガチャンとして、矢とセットするタイプに変えたぐらいだが。
連射はできないが、一発の威力はかなりのものだ。先端のみに魔力を集中させれば、岩にだって突き刺さる。
まあ、今回は会長・副会長の行動を見させてもらうつもりだけど。
あっというまに1階層を突破し、
「どうかね、自分がいかに無力か思い知ったかね?」
「よっ大将、さすがは生徒の頂点に立つお方、これほど凄まじい戦いは見たことないですぅ。ぜひもっと見てみたいでありますぅ」
オレは副会長にならって、会長をよいしょしてみた。なんかもっと色々見せてくれそうだしな。
「そうだろうそうだろう、よし、私に付いて来るがいい」
だが、それが間違いだった。
2階層に入ったんだが、敵が現われない。今回は初見なので、3階層にあるゲートまで行って終わる予定らしい。
ゲートとは、王都の騎士団が迷宮を攻略し、特定の階層に設置した物で、魔石を消費して入り口まで一気に戻れる装置らしい。
それがあれば村々間の行き来も楽にできるだろうと聞いたら、どうやらそれほどの距離は飛べないということだ。
訝しながら進んでいると、なんか赤い鬼のようなのが現われた。
サッと会長の顔が青くなる。
「なぜ、こんな浅い階層にオーガが…」
「あれ強いの?」
「……20階層のボスだ…」
「えっ?」
えっ、迷宮ってそんなこともあるの?
「いや、そんなことは聞いた事もない…とにかく刺激するな。少しづつ後退するぞ」
どうやら奴はお腹がいっぱいらしく、無理に襲ってくることもなかった。
「さて、どうするか。今から歩いて出口まで戻るか、3階層まで一気に抜けるか」
「問題は戻るほうの道じゃね、あっち」
おれはオーガが出た方を指差す。
「ああ、遠回りしてでもと言いたいが、あいつがどう動くかも分からん」
「こうなれば、少しでもオーガから離れた方がよろしいでしょうか」
「うむ、副会長の言う通りだな」
なんとか下に降りる階段まで辿り着き3階層へ着いた。降りた当時は普通にコボルトなどの雑魚だったのだが、もうすぐボス部屋に着きそうな頃、
「なんか、あれデカクネ?」
オレが指差した先には、でっかい蝙蝠の集団が…
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ひぃひぃ…」
なんとか蝙蝠の集団をまいたのだが、ここがどこか分かりません。
「困ったな…」
くっ、なんかオレにスキルでもあればなあ。こんな時こそ広範囲索敵スキルとかありゃあ…
スキルスキルなどと言いながら、自分にサーチして見たら…ありましたスキル!その名も!
『天使の祝福』
効果…天使に祝福されし者。レアモンスターが出やすくなる。やったね!(常時発動)
注…レアモンスターは通常の敵より2倍から10倍以上強力になります。ご利用は計画的に。
…これアカンやつや、ゲームでならともかく、現実で10倍越しのレベル差とか…死ぬだろ!つーかハードダンジョンにこれは致命的じゃね?
あと、常時発動でどう計画的に使えと?ザケンナヨ!
……ほんとこれ文字間違ってね?天使の祝福じゃなくて、悪魔の呪いじゃね?
「会長あそこに部屋があります。いったん中を覗いて、敵が居なければ休憩に致しませんか?」
「そうだな、よし私が見てこよう」
どうやら部屋の中には敵は居ないようだった。
しかし、ほんとどうするかこれ。うーんまあ、10倍強い敵が出るなら、こっちも10倍強くなればいいか?できるかどうか知らないが。
と、全員が部屋に入ったと同時、バタン!と戸が閉まった。
「なんかやな予感がするんですが…」
「奇遇だな私もだ…」
すると、部屋に落ちてた鎧が動き出した。
「リビングアーマーか!」
「強いの?」
「いや3階層のボスだ。ということはここはボス部屋か。なに、リビングアーマーはさほど強くない。魔法に弱いからな」
そうこうしてる内に、鎧が剣を地面に突き刺した。すると、土からゾンビが…ふむ雑魚ゾンビを呼び出したのか。
「…………」
「ん?」
会長が凍り付いてる。どうしたの?
「ゾンビは現状倒せない…」
「えっ、どうして?」
「ターンアンデットは使えるかね?」
会長はアーチェに問いかけた。
「ん?使ったことないわよ?」
まあ、教えてないしな。つーか使う機会ないよな普通。
「そういうことだ。死霊系の敵は聖職者ならびに高位の騎士でもなければ、戦闘経験もないだろう。わざわざ墓地に行かないしな」
「ということは、ここでゾンビが出るのもイレギュラー?」
「そうだ。ごく稀に出る事はある」
「スケルトンは?」
「あれはただの骨だろ?普通に剣も魔法も効く。だがゾンビには…まだ数体ならともかくこの数じゃ…」
死霊系に効く魔法か…
「とにかくリビングアーマーに魔法を集中させる。奴を倒せば後ろの扉が開く。そうすればゲートがあるからそこに飛び込め。あとは兵士に伝えてなんとかしてもらおう」
そう言うと会長と副会長は詠唱に入った。
とりあえずアーチェには、フォースウォールで敵を足止めしてもらってる。
と、詠唱が終わり二人の魔法が鎧に命中する。が、平気で立っております。
「ど、どういうことだ…」
「ねえ、そろそろ私もいいんじゃない」
「仕方がない。ちゃんと手加減しろよ」
「分かってるわよ『サンダーフレア!』」
鎧に雷の魔法が炸裂する。だが、やはりあまり効いてないようだ。
「まさか、マジックリビングアーマー…」
「なにそれ?」
「ようは、まとっている鎧がマジックアーマーのリビングアーマー。すなわち、魔法は効かん」
「………………」
天使の祝福さんまじ勤勉だな!
◆◆◇◇ 視点変更◇生徒会長 ◇◇◆◆
どうしてこうなった!このままでは全滅だ…
私はただ、おいたの過ぎる後輩を指導してやろうとしただけなのに!
私の名はゾディオック・デイスト、ここ中心街一の魔法学院、フォルテイシア魔法学院の生徒会長をしている者である。
「会長…」
副会長が悲しげな目で私を見てくる。
うむ、副会長はいつも私の補佐をしっかりこなしてくれたな…感謝してもしきれない。
このようなバカな私にいつも尽くしてくれた。
「副会長、君だけでもなんとかして見せる!いつもこんなバカな私に付き合ってくれて感謝している。こんな最後になってしまったが、君に祝福を!」
「会長…いえ私もお供致します。どの道私達は、この二人の後輩を守らなければなりませんですしね」
そういって優しげに微笑む。
「君は…そうだな、二人で少しでも多くの敵を道連れにしてやろう」
「こんな時ですが、会長ではなくゾディオック様と呼んでよろしいでしょうか」
こんな時にもいじらしい、ハネアス・レンストール君だな。
「…ハネアス君。そうだな、もうこんな場面では会長・副会長は関係ない。私達は一対の男と女だ」
「ゾディオック様…」
「ハネアス君…」
私達は死を覚悟し敵を見やった。
「おいこれが見えるかアーチェ」
「ふむふむ、これはあれね、トイレから出て清浄な空気を吸ったときの感じね」
「たとえがひどいなおい」
「君たち、私は今からリビングアーマーに特攻をかける!やつに食いついて鎧の隙間からコアを攻撃する!!」
私はハネアス君を見やり、
「ハネアス君は私に付いて来て、回復を常時かけてくれ…私達二人は助からないだろうが、彼らだけならなんとかなるかも知れん」
「はい、ゾディオック様のおっしゃるとおりに」
「すまぬな」
「いえ、あなた様と最後を共にすることができ、とても光栄に思いますわ」
「ハネアス君…」
「あのー、盛り上がってるとこ悪いんだけど、ちょっと試したい魔法があるんでそこどいてくれません?」
「は?」
そう言うとソーヤ君達は私達を押しのけ、
「おいアーチェ、この魔法なら崩壊の心配はない。どんだけ魔力を込めても周囲には影響は出ない…はずだ!」
「分かったわ!」
「ようし、今までの鬱憤を晴らすように、思いっきりいってやれ!」
「ほんとに、やったあ!」
そう言うとアーチェ君はとてもよい笑顔で、
「いくわよ!」 『サンクチュアリ!!』
とたん部屋中に、まばゆりばかりの光が輝きだした!
「うわっなんだこれ、目がぁー、目がぁぁー!おいちょっと威力落とせ、前が見えねえだろ!りざりざ…」
「えっ、だってソーヤが思いっきりいっていいって言ったじゃん。ひるひる…」
「いや言ったけど、ああ言ったけどさあ!」
いったいこの神々しい光は…
「つーか部屋がなんかびりびりいってね?これヤベエんじゃね?あっ鎧がガタガタ振動して止まってる。よし今のうちだ」
そう言うとソーヤ君はリビングアーマーに取り付き、クロスボウで一撃。
「おっ、当たったな。まあ動いてない的だしな。これだけ接射すれば当たり前か」
リビングアーマーはバラバラになった。
ちなみにゾンビ達はとっくに昇天している。
……………………あれ?私達は今まで何してたのだっけ?
たしか絶体絶命のピンチだったはず。
なんかサンクチュアリとか聞こえたけど…たしか私の記憶では、伝承として伝わる大規模戦闘時の穢れを払う、伝説の魔法だったような…
まあ、見た限りターンアンデットごときの威力ではないが…まさか、まさかね…
「おい、いいかげん止めろよ」
「どうやったら止まるのこれ?」
「…よし、扉が開いてるな。おい、行くぞ。ちょっとそっちの二人も、ポカンとしてないで、さっさと逃げないとヤバイっすよ?」
アーチェ君は逞しく魔石拾ってる。
「なにやってんのお?」
「もったいないでしょ?」
「いや、まあ。つーかサンクチュアリって、これこんなヤバゲな魔法だったのか」
「ほ、ほ、ほんとにサンクチュアリなのかね…?」
「そう言ってるじゃないですかー」
◇◆◇◆◇◆◇◆
なんとか迷宮を脱出し、私達は迷宮管理官に詳細を伝えた。
「は?オーガにジャイアントバット?ボスはマジックリビングアーマー?何を言ってるんだ君達は?まったく本官をからかうにも程々にしろよ」
そう言って笑っている。まあいいけど…もう疲れた…
「これ換金お願い」
「はいはい。えっ…」
そう言って魔石を手にして管理官は絶句した。
「まさかほんとにマジックリビングアーマー?これかなりの値打物…」
管理官はしばらく間をおいた後、
「先ほどの話本当かね?」
「ええ、彼女は例の東の魔女です。先ほどサンクチュアリの魔法を使われました。ちょっとボス部屋確認しといた方がいいですよ」
私がそう言うと管理官は慌てたように、
「えええっ、ちょっと君達はここで待っててくれ!」
そう言って慌しく出て行った。
それから数時間ほど後、
「確かに2階層でオーガを確認した。3階層のボス部屋は崩壊していた…まあ迷宮はほっとけば元に戻るが…しばらくは1から3階層までは出入り禁止だな」
「メリ姉の言った通りになったな」
「私のせいじゃないわよ!?」
「あと、その魔石は売らずにとっといた方がいいんじゃないか。君達は学院生なら使い道は色々あるだろう」
「えっ、こんなもん持って帰ったらメリ姉にばれるじゃないですかぁ」
「先輩達、これ要ります?」
そうアーチェ君は聞いてきた。
「いいのかね」
「まあ、私達は報酬が目当てじゃないものね。貴重な体験させてもらったしー。ソーヤに新しい魔法教えてもらってホクホクですよう」
「ほんとにな…おいあの魔法めったに使うなよ」
「分かってるわよ!」
「ほんとにだぞ、おいほんとだからな、おいって、ちょっとこっち向けよお」
東の魔女…あらゆる意味で規格外である…