第2話
「それにしてもコイツ、今なんの魔法放ってきたんだ?」
妹神様は村の人と同じように目に生気がなくなって突っ立っている。
テンコはその顔に手をヒラヒラとさせている。
「どうやら洗脳魔法のようねえ」
どうやらこの妹神様、オレに洗脳魔法を放ってきたらしい。
それをテンコが跳ね返したので、今はテンコのいいなりになってるようだ。
「どうすんのよコレ、私、こんな危険そうな眷属いらないんだけどぉ」
「そう言ってやるな。仮にもオレの妹、丁重に扱ってやってくれ」
「だったらあんたが面倒みなさいよ」
「イヤだよ?」
だってこの妹神様、思想が邪神じゃね?
「とりあえず神様の力だけでも封印できないか?」
「どうかしらねえ、今は私の方が力が強いから大丈夫だろうけど、ゆくゆく力をつけてきたら分からないわよ?」
神様の力ってあれか?信仰とかなんかの。
まあ、イーリス教もそこそこ広がってっから大丈夫じゃね?
「あんたは相変わらずお気楽ねえ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
くっ、油断いたしましたわ。
まさかあのお父様達が手紙を送るなど。基本放任主義でしたからほっといても大丈夫だと思っていたのですが。
テンコお姉様が少々力をつけすぎているようなので、私も対抗できるくらいは力をつけようと村の住民達を洗脳したのですが…どうやらさすがにやりすぎたようですわ。
「それじゃあ私はあのパネル止めてくるわね」
「ああ、頼むわ。いやまて、お前なんか細工しようとしてねえか?」
「ぎくっ、そ、そんなことないわよぉ?」
「お前が自分から何かしようとする場合は大概禄でもない。どうせ今度は自分が使おうとか思ってんだろ」
「ぎくっ、ぎくっ」
まあ、あれらは万が一の為に私しか動かせないようにしてますけどね。
「とにかく見てくるわねー」
「おいって」
なんか諦めたような表情でテンコお姉様を見送るお兄様。
そしてこちらに振り返り、
「さてと、またなんでこんなことしてんだ?」
と、私に問いかけてきます。
「私を甘やかせて下さい」
「は?」
「誰も彼もが私を不気味がるのですよ。ちょっと普通と違うぐらいで」
「ちょっとねえ…」
そう、ちょっと生まれてすぐに言葉をしゃべったりとか、ちょっと歩けない時期は空中に浮いて移動したりとか、ちょっと動物を操ったりとか…
「全然ちょっとじゃないような気もするが」
お父様達や一部のお人は、あの兄の妹なら仕方ないかぁとか言っていましたが…とにかく、誰も私を甘やかしてくれなかったのです!
「だから私は…私の理想とする世界を作り上げようと思ったわけです」
「…なんか以前と性格が違ってないか?」
そうですね…あのときはまだ生まればかり、使命感のみが私を突き動かしてました。
ただ、時間が経つにつれ肉体に左右されてきたのか、どうも情緒不安定になってきてるような気もします。
「普通の赤子のフリをしてれば良かったんじゃないか」
「神である私に人を欺けと?」
お兄様はしばらく考え込んだ後、大きなため息をついたあと、私の頭をぐしゃぐしゃとなでてきます。
「よおし、オレが存分に甘やかせてやる、さあこい妹よ!」
「お兄様!」
「ごふぅ、以外と重いな。ぶへらっ」
お兄様はほんとデリカシーというものが欠けてますわね。
「いいパンチ持ってるな…まあしかし、今のパンチは人間並みだな。良かったじゃないか、もう神の力は使えない、すなわちお前は普通の人間だ」
「えっ?」
また、頭をぐしゃぐしゃとなでてきて、
「だけどな、人を欺いちゃいけないのは神様も人間も関係ない、そして人を操っていいのも神様なら許される訳じゃない。ちゃんと後であやまろうな」
そう言って私を肩車してきます。
「この尖塔上にいけるのか?どうやって上がるんだ」
「そこの円盤に乗って上に行くように念じればいけますわ」
「じゃあ行ってみるか」
円盤に乗って頂上へ辿り着く私達。お兄様の肩の上から見える景色は今までと違って…少しばかり新鮮に思えました。
「いい景色だな。こりゃあれだ、女の子とか連れてきたらイチコロじゃね?あだだだ」
「まったくお兄様は、これ以上ハーレムを広げてどうしようっておつもりですか」
「言ってみただけだって」
信用なりませんわねー。
「それにしてもここにある操作パネルって…」
「町に設置してあるモニターの制御装置ですわ」
「ほうほう、なんかボリュームみたいなのがあるが?」
「それでモニターから音を出せますわ」
「ほうほう、それはあれか…あそこにいるお笑い天使を驚かせたリー?」
できますけど…
お兄様は悪戯を思いついた子供のような顔をしてボリュームをマックスにします…それマックスですと町全体に聞こえるくらいの…
その日お兄様は、鼓膜が破れるだろがゴラァ!って怒るテンコお姉さまに簀巻きにされていました。




