第1話 始まりの村、帰還
「何やってんのそんなとこで、柱に傷つけると怒られるわよ」
「いやーなんかさー、こないだユーリの目線がオレより高くてさー。心配になってここんとこ身長図ってんだが、まったく伸びてないのよ?まだまだ成長期のはずなんだがなぁ」
「………………」
「…お前、またなんかやってないだろな?」
「あっ、そんなことより手紙がきてるわよほらこれ!」
「おい、ちょっとこっち向けよぉ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
ある日、いつものようにテンコと漫才を繰り広げてるとこに、こちらの両親から手紙が届いた。
その内容は『そろそろ手に負えないので帰ってきてください』だった。
なんだよ手に負えないって!何が手に負えないんだよ!書いてよ!内容を!
いかんちょっと興奮しすぎた。
どうしよう、帰るべきか帰らざるべきか…
「まあ、あれじゃない?偶には里帰りもいいんじゃない?ほら、身長なんて気にしなくても生きていけるわよ」
「気になるのは身長だけではないのだが…ちょっとテンコ見てきてくれないか」
「えっ、イヤよ。ヤバイ匂いがプンプンしてるもの」
うん、こいつだけは連れて行こう。
何事も言うだろ旅は道連れ世は情けと。
「情けがあるなら連れてかないでしょ?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「まあなんだ、もうこれくらいじゃ驚かないよな」
「そうよねぇ」
「じゃあそういうことなんで、帰っていい?」
「あれほっといていいんだったらねぇ」
数年ぶりに戻った村は…村じゃなくなっていた。
まあなんていうか、ホーネスト先生がフラグをばしばし立ててくれてたおかげで大体の予想はついていた。
最初に城壁が自走していたのは驚いたがな。それ耐久度大丈夫なのか?
街中をジェットコースターが走っておる。あれ、列車の代わりなのかな?
クモの巣状に張り巡らせられた水路には色とりどりのお船が浮いている。近くに海も川もないんだがーどうやって水を引いてんだろな。
水は街の中央にある尖塔のようなものから流れてきている。
あと、街のあちこちにでっかい液晶パネルような看板があり、得体のしれない映像が流れている。
まあ、そこまではいい、そこまではいいんだ…問題は…街の住民達の目が全員死んでるってことかな。
なんか焦点があってない感じ?あと、言ってる言葉が理解できません。
この世界、どこいっても言語は一緒だったんだが…
そして極めつけは、街に入ったと同時、オレとテンコ以外の全員もそうなったことだ。
やべえ、アーチェの言ってることが理解できねえ。これからメテオ撃ちますとか言ってないだろうな?どうしよう、これ街から出たら治るかな?
こいつの言動、気いつけとかないと何やらかすか分からないのに。
「とりあえず、あそこまで行ってみたら何か分かるんじゃない?」
テンコが中央の尖塔を指さす。
やっぱいかないと駄目かなあ…
「仕方ない、行くだけ行ってみるか」
とりあえず、アーチェ達を引き摺りながら尖塔の中に入ってみたのだが、中はだだっ広いただの空間だった。
と、そのとき、上空から円盤のようなものが降りてきた。そこにはちっちゃな女の子が一人乗っていた。
「お久しぶり、いえ、初めましてと言った方がよろしいでしょうか、お兄様」
「…一応聞くけど、オレの妹様ですか?」
「ええ、そうですわ、あなたの妹として生まれてきた、この世界の神、リューリューシアですわ」
神とか言ってるよー。お久しぶりってことは…もしかしてあのときの出歯神か?
「いい加減出歯神はよしてください。うら若き乙女を捕まえて出っ歯はないでしょう」
「どういうことだよテンコ」
「あれじゃない?ほら、あんたこの世界に疎まれてんじゃん。あんたの後に生まれてくれば、魂の残滓?みたいなものが残ってて調べやすかったんじゃない?」
えっ、オレこの世界に疎まれてんの?初耳だよ!
「いやそれよりこれはどういうことだよ。この手紙をくれた両親は無事なのか?」
「それがですねー、聞いてくださいよー、どんな望みも叶えてあげましょうって言ってるのに、未だに畑耕してんですよぉ」
それはたぶんお前、厨二病がまたなんか言い出したと思われてんじゃないのか?
「いいのかよ、神様がそんなことしようとして」
「そもそもがですね、この世界は迷宮が中心として発達してきています。言語だって迷宮達が元となっているため、すべての国が単一言語です」
えっ、この世界の言語の始まりは迷宮語なの?
いや迷宮語ってのはおかしいか?
「なので、私は私の世界を作り上げようと思っているのです。私が作った言語、私が作った文化、そして、すべての人々は私のいいなりに!」
ちょっとまて、最後のはまずいんじゃないか?いや、全部まずいよな?
「反対ですか?反対ですよね?ならば仕方ありません」『ブレーンウォッシング!』
「テンコバリヤー!」
「またかよ!『リフレクション!』」
「ふぅ」
「ふぅじゃねえわよ!いい加減人を盾に使うのやめなさいよ!」
「いやあ、テンコさんには足を向けて寝れませんわー」




