第十一章 攻略、新たなる迷宮
◆◆◇◇ 視点継続◇ソーヤ ◇◇◆◆
と、勇んで向かった迷宮攻略だったが、即効で終わった。
なんせ、この迷宮を最難関にしてる主な理由であるランダムマップだが、
「いやー、毎日風呂に入れる迷宮探索なんてないわねー」
「そうでおじゃるなー、ソーヤの転移魔法でいつでも戻れて、いつでも再開。楽チンでおじゃるなー」
そうオレの転移魔法で、迷って餓死などありえない。そして、パーティを二つに分けて交互に探索することにより、休まずに進める。なにより、
「あっちあっち、あそこ次の階の階段あるよー」
こっちには迷宮のプロフェッショナルのシュリが居る。そもそも迷う事がないというオチ。
もう一つの問題、モンスターが強い上に多いだが、
『魔刃剣・一閃!』
『デビルダム!』
『サンダーバースト!』『ディスペル!』
「何すんのよソーヤ?」
「サンダーバーストは止めろつってんだろ!迷宮が崩壊すんだろが!!」
「だってぇ、私だって活躍したい…」
その気持ちは分かるが、そう俺たちのメンバー、
前衛、マッスル3人衆、ファ、セイカ、ユーリ、黒騎士さん。時々アルシュラン陛下とフィフス殿下。
中衛、オレ、メリ姉、シュリ。
後衛、アーチェ、麻呂姫、シルシィ。
その他、時々八星連中やら、王立特殊クラスのメンバー。
壮絶たる面々だな。これで倒せない敵なんて居ないんじゃね?
これらの面々で、疲れたり、眠くなったら交代で、不眠不休で侵攻した結果、2週間もかからずに終わってしまった。
「で、あったの?」
「どんなんだよ神の力?つーかほんとに残ってんのかよ?」
「そんなの知る訳ないじゃない?」
…こいつ一回、キュッて言わしたいなぁ。
「あんたの死んだとこいけば?」
「バッカお前、そんなん覚えてるぐらいなら、迷宮で迷って死なないわ」
「バカはどっちよ?」
こりゃもう駄目かねえ。ああ、はかない人生であったなあ。
「まあ、この世界の信仰が集まってる限り、寿命が0でも死にゃしないけど」
…何でお前はそんな大事なことを早く言わないんだ?なんの為の迷宮攻略だよ!
「そういやシュリちゃんだっけ?迷宮ってシュリちゃんみたいに意思あるんでしょ?捕まえて聞き出せば?」
「それだ!つーかもっと早くに言えよな」
「仕方ないじゃない。今思いついたんだし」
しかし、もう一回かー、めんどくさいな。問題無いんだったらもういいんじゃね?
「うーん、なんかお出かけしてるみたいだったよー」
「逃げ出したのではないのか?あの黒龍の様を見れば、ワシだって逃げ出しとるわい」
シュリと迷宮のじいさんが言う。
いや、あれはオレの所為じゃないよ?ないよね?ちゃんと黒龍さんには休暇を差し上げたよ?まあ、あの状況で魔力タンクになってって言えないよな。
と、なると、ここに居る理由ももうないかあ。
「しかし寂しくなりましたなあ…」
神父様が呟く。
あれから各国の騎士団が、こぞってうちの孤児院の子供達をスカウトに来た。
まだ子供だってのにVIP待遇だとか。
「そりゃねえ、騎士団の盾ごと真っ二つだもんねえ。誰のせいかしらねえ」
「…良かったじゃないか!うむ、いい就職先が見つかって。聞けばみな出世コースだとか!うらやましいかぎりだ!」
そういうことにしとこう。大丈夫、あいつらなら立派に育ってくれる!オレは信じている…決してアーチェのようになりませんように…。
「みなイーリス教を世界に広めるんだって張り切っておりましたぞ」
そこは張り切らなくてもいいんだがー。
「神父様はこれからどうされるので?」
「私ですかな?私はこれまでと変わらず、ここで暮らしていきますよ。あの子達にも帰る場所というものを用意しとかねばなりませぬしね」
さすが神父様、いいこと言うなあ。
「じゃあ、これお願いしてもいいかな?」
「なんですかな?」
「ギルド長のバッチ」
「………………」
いやだって、ここから離れるなら後任いるでしょ?
「なぜ私で?ギルド本部にもたくさん人は居るでしょう?」
「いやー、秘書さんはなんかうちの神殿の受付してくれるってんだよー、ハゲの係長は今度できた、冒険者を中心とした第2師団のまとめ役に立候補してくれたらしいし」
しかもその話、オレにはなんの相談もないんだよなー。でってことになったからって、全部コレだよ!
神父様はため息をつき、
「仕方ありませぬなあ。ソーヤ君には彼らの面倒を見る役割がありますからな」
えっ?なに、オレが面倒見るの?
「あんなチート連中がそこらにごろごろしてちゃ困るじゃない?ちゃんとやった責任はとろうね」
「もしかして、お前が主導したんじゃねえだろな?」
そういや、あれから満足に村の連中と会ってないな。ちゃんと救援に来てくれたお礼も言っとかないとな。
「とりあえず、話にでも空中神殿に言ってみるか。そこにみんな居るだろ」
オレがそう言うと、迷宮のじいさんがビクッとし、急に、
「い、いや、もっと先でも良いのではないか。いや、わしが行って連れて来よう。うむ、それがいい!」
「…今度は何やったんだよ?」
で、向かった空中神殿、…なくなってた。
いや、無い訳ではない。無い訳でなないのだ!ただ、ちょーとばかし形が違…
「そうそう、ちょーとばかし改良をしてな」
訂正、ちょーとばかしではない。そこにあったのは……空に浮かぶ大地!およびOSHIRO!…○ピュタの和風版?
「………………」
「いや、なにな。地上の城も完成し、他にすることもなくてな。その時!空に浮かぶ空中神殿を見、天からいんすぴれーしょんが!」
「………………」
「わしの最高傑作だ!大地部分は迷宮となっておる!うむ、空中迷宮だ!」
「………………」
「…なんか言ってください」
そんなとこに迷宮作って誰が攻略すんだよ?つーか、さすがにあの重量じゃ、アーチェでも厳しいんじゃないか、浮かすの。
「そこは問題ない。たしかにアーチェ一人では無理であったが、今回の迷宮攻略により質のいい魔石がいっぱいとれたしな」
「勝手に使ったのぉ?」
「ああ、私が許可したのよ。いいよねー天空城。かっこいいじゃない?」
アーチェ…。
「ち、ちゃんとみんなにも許可取ったわよ?」
オレは?まあ、いいけどさ。
「そしてその魔石を使い、なんか八星と呼ばれておる者達から、魔力を分けてもらう事にしたのだ」
「と、いうことは…」
「ソーヤ様、今お帰りですか?待ちわびていましたよ。これからは私達も一つ屋根の下に!」
委員長達が出て来てそう言う。まあ、そういうことになるわな。
「委員長…いつまでもその呼び方はどうかと思いますわ」
「あら、そうでしたわね。あ・な・た。かっこハート」
「は?」
そう言ってしなをつくる委員長?キャラが変わってね?
「ちょっと、はずかしいですわ。何か言ってくださいよ」
「いやいや、何がどうなって?」
「あら、コレにサインして頂いたのでしょ?」
そういって紙の束を…これベルガンディアの婚姻届、しかも…ばっちりオレのサインが入ったのが…
何これ?オレこんなのにサインした覚えは…
「妹のクリスが持って来てくれたのですが?」
あーそういやこないだオレの部屋に来たとき、5円玉っぽいのを吊るしてプランプランしてたな。
今時、こんな古風な催眠術にひっかかるバカは居ないだろうとか思っていたんだが…
「あっ、バカ発見」
うるさいよっ!
◇◆◇◆◇◆◇◆
うーん、なんか寝苦しいな。まさかまた誰か入って来てるのか?せっかく迷宮のじいさんに、オレのプライベートルーム作ってもらったのに。
「おや、目が覚めたようじゃの。そのまま眠っておけば良かったものを」
ん?しゃべりかたはじいさんに似てるが、まったく聞いたことない声だな。
目を開いたオレが見たものは…
「どちら様で?」
そこに居たのは、どこのモデルかってぐらい立派なお方が、これまた立派なお胸をされて立っていた。
「どこを見とるか。まったく人間というものは業の深い生き物じゃのう」
「で、ほんとに誰?ってここ寝た時と景色が違うような…」
「ここはわらわが作った迷宮のずっとずっと地下。そしてわらわこそがこの迷宮そのものじゃ」
とかおっしゃる。つーてーと、あれ?オレまた囚われのお姫様役?
「ようやく一人になったのじゃ。まったくお主がなかなか一人にならぬから苦労したではないか」
「オレが一人になる時を待っていたのか?」
「そうじゃ。お主一人ならばなんとでもなる。知っておるのじゃよ、お主一人では何もできないことを!」
まあ、その通りだが、もう少しオブラートに包んでもらえないだろうか。ほら、あいつらの中でも最弱は、とか。あれ?これオブラートか?
ただまあ、今のオレには転移魔法という、
「ここは迷宮の地下奥深く、出口も無い代わりに入り口も無い。完全密閉の部屋だ!魔素も無く魔法を使うこともできないぞ」
「えっ、じゃあ出れないの?」
「そうだ、お主だけではなくわらわもな。呪うのなら、ここまでわらわを追い詰めた自分を呪うがよい!」
自分も出れないの?どうすんのよそれ?
「なあに、千年、二千年もすれば、多少は魔素もたまろうぞ」
気の長い話だなあ。
「その間の食料は?」
「わらわは食べなくとも大丈夫」
オレは大丈夫じゃないんですが?
「ちなみに空気は?」
「わらわは空気がなくても大丈夫」
おい、これヤベエぞ。
テンコは首が取れても死なないとか言ってたが、苦しみは続くんだよな?生き地獄ってもんじゃねえぞ。
「随分余裕そうじゃの?仲間の救援を信じておるのか?先程も言ったであろう、入り口も無いとな!決してここに来る事は…」
と、その時、部屋が突然振動しだした。
「な、なんじゃ…地震か?」
ゆれは一瞬だったか結構揺れた。天井からぱらぱらと土が落ちてくる。
と、再び揺れる。
「な、何がおこっておるのじゃ?」
「なあ、なんかあんた縮んでないか?」
振動が起きる度になんかしぼんでいってるような。何がとは言わないが。
「ど、どういうことじゃ…わらわから力が抜けていく…まさかぁっ!」
まあ、あいつらがじっとしている訳ないわな。
「迷宮が破壊されておるのか!そんなバカな、そのようなことができる者など…」
アーチェなら可能じゃね。…そーかあいつ、迷宮破壊しにかかったか…その迷宮にオレが居るかもとか考えないのかな?…考えないんだろうなぁ。
「どんどん力が…このままでは、このままではぁあ!わらわの迷宮がぁぁあ!!」
「こんなとこで騒いでもどうにも」
さっさと緊急避難口で出れば?あるんだろ?
「そんな物は無い…ここは完全に独立した空間じゃ…なにせ向こうには同じラビリンスメーカーがおるからな…」
あいつらここまで掘って来れるかな?
「その頃には迷宮が…わらわの迷宮が!謝る、謝るからぁ。後生じゃ!このとおりじゃ!なんとかしてたもれ!」
そんなにDOGEZAされてもなあ、なんとかできるならとっくになんとかって、
「おい、これ普通に転移魔方陣できたぞ?」
「えっ?そんなはずは…そ、そうか、空気中に魔素が無くても、魔石には魔素が詰まっておるのか!」
…この人もおバカ系かな?
◇◆◇◆◇◆◇◆
「め、迷宮が…わらわの迷宮が…」
「おい、いいかげん止めてやれよ」
「あれっ?ソーヤ!?」
とりあえず転移魔法で外に出て、迷宮まで来たのだが、
「わらわのぉー!めいきゅーがぁー!」
クレーターみたいになっておられる。
「中に人が居たらどうすんだよ?」
「大丈夫よ、ちゃんとシュリちゃんとおじいちゃんに確認とってもらったから」
「そうでおじゃる。ソーヤが迷宮の主に攫われたようだって言ってたので、とりあえず迷宮攻撃したら出て来ないかと」
「なぜじゃ!なぜ迷宮が人間の味方をするのじゃぁあ!」
そう言って、じいさんとシュリに詰め寄る。
「パパはねー、シュリのパパだからとっちゃダメなの」
「わしとソーヤは同じパーティの仲間じゃからのう」
その設定まだ生きてたんだ。
「しかしお主もバカじゃのう、てっきり逃げ出したものだとばかり思っておったのに、ソーヤに手を出すとは。すっかり力も抜けて…」
幼女のように。
「おお、こんなとこに幼女が!」
やっぱり来たかアルシュラン陛下…
「だってひどいのじゃ!あれだけ引っ張っといて、たった一行で終わらすなどと!」
いや、それはオレのせいじゃ…
「わらわの迷宮は世界最難関と呼ばれる場所、冒険者どもの終着点じゃ!誰もが望み、誰もが目指す。『望まれる誇り』その名の通り誇り高き迷宮なのじゃ」
「え、あの迷宮そんな名前だったの?」
「…ひどい…ひどすぎじゃぁあ!名前すら知らなかったと申すかぁ!」
いや、だってぇ…
「そりゃ、ソーヤだもんね」
「ソーヤでおじゃるしなあ」
なんだよぉ。
「それにせっかく設置したラスボス、バハムートもあっさりと終わらせおって」
「あんな狭い迷宮にそんな巨大なもん設置するから」
「じゃからその部屋は広大にしておったのじゃ!」
そうか?そういや、即効終わって真っ暗になったから、辺りを見る余裕もなかったな。
「うわぁーん!」
とうとう泣き出した。
「おいソーヤ、幼女をいじめるとは何事だ!」
アルシュラン陛下が言ってくる。いや、いじめてはないぞ。
「そうよねー、ソーヤって鬼畜なのよー。こないだドラゴンのブレスに私を叩き込んだのよー」
「そうでおじゃるなー。麻呂との結婚式当日まで、名前を知らないとかありえないでおじゃるよなー」
ここぞとばかりに口撃してくる。なんでオレ責められてんの?命狙われてたのオレなんだが。
「ほ、ほら泣き止めって。な。そうだ!これやるから、泣き止めって」
「ぐすっ…なんじゃこの黒い物体は?」
「まあ、騙されたと思って食べてみ」
オレは幼女の口に放り込む。
「むむっ、なんじゃこれは、甘いような苦いような…砂糖とは違った甘みが…」
こないだ魔境に行った時見つけてな。形が似てたからサーチしたら…カカオって。
「何あんた、カカオなんて見つけてたの?」
「ああ、しかし、作り方がナア。煮ても焼いてもさっぱり、なんか黒い物体にしか。食べれるかどうかも怪しい」
「あら私、作り方知ってるわよ」
「マジか!」
「マジマジ」
テンコがそう言う。こいつ意外と物知りなのか?
「食べれるかどうかも怪しい物をわらわに…まあ、仕方ないのじゃ。ほれ」
「なんだこの手」
「わらわが毒見をしてやるのじゃ。もっとよこすのじゃ」
モンスターに毒見をしてもらってもなあ。まあ、失敗作ならいっぱいあるからいいが。
と、オレが出したチョコレートもどきを横からとっぱらうお方が、
「ほんとおいしーね、全然大丈夫、毒じゃないよー」
「ほんとでおじゃるか?じゃあ麻呂も」
「見た目は悪いけど、味は問題ないわね」
「ほんとねー。癖になりそうな味ね」
皆が次々と取っていく。
「ちょー、わらわのじゃぞー!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ほーら、これが板チョコ、こっちがチョコケーキに、そっちはチョコアイスな」
「フォー!これはまたうまいのぉ!」
「なにこれ、同じケーキなのに全然味わいが違う!」
「アイスとな?これは…!冷たい!おいしい!これチョコ関係なしにすごいでおじゃる!」
翌日、テンコに教わったチョコ作りで色々作ってみた。
女性陣には大変好評である。
「ふうむ、人間とはいつもこんなうまいもの食っておるのか?」
「そうなんだよー。シュリも、いーぱいおいしいもの食べたのー」
「それはうらやましいのぉ、ソーヤおかわりじゃ!」
「ん?もうないぞ?」
「「え?」」
女性陣がオレを凝視してくる。軽いホラーだな。
「誰の顔がホラーだって!?」
「あだだだ、いやだって、索敵中だぞ、そんなに取れる訳ないだろが。それに一本しか見かけてねーし」
なんか群生じゃなく一本だけだったから、たぶん気候があわないんじゃないか?モンスターに付いた種がたまたま、芽を吹かしたんだろ。
「もっと欲しいのじゃ!泣くぞ!また泣くからな!?」
やめろっ、またオレが責められんだろが。
「まあ、ほら迷宮はシュリとじいさんが直すの手伝ってくれるって言ってただろ。もう泣くなって」
「あのクレータの跡にか?」
「…土を盛れば」
「アステリアのが、クレータの底にお城を建てておったぞ。なんでも地底城とか」
じいさん…。
「あれよね、魔境に行けばあるのよね。この天空城で魔境へ侵攻すればいいじゃない」
「そうでおじゃるな。我が自衛軍にかかればモンスターなど、ものともせぬわ!」
…侵攻はしないぞ。おまえら自衛の意味知ってるか?隊を軍にすりゃ侵攻していいってもんじゃないんだぞ?
「ソーヤは黒征龍を従えたのであろう。ならば黒征龍の支配下はソーヤの物ではないか」
「え、あそこら辺のモンスター、オレの言うことを聞くようになったの?」
「なんでモンスターがお主の言うことを聞くのじゃ?」
土地だけあっても意味ねーだろ!上に乗っかってんのが攻撃して来たら入れないだろ?
「黒征龍の言うことなら聞くであろう」
…いやー、さすがにそれだけのことで起こすのもなー。なんせ自慢の黒鱗がすっかり剥げて、黒龍がピンク龍に。
もうちょっと寝かしといてやろうぜ。
「それにこの天空城、かじろうて浮いているが、どうやって動かすんだ?」
「わたしがメテオ撃って、ユーリが受け止めて」
「なんて物騒な動かし方だよ!しかもそれ、止まれねーだろ!!」
そのメテオ外したら地上が大惨事だぞ?
「それならばちゃんと考えとるぞ」
そう言いながら迷宮のじいさんが部屋に入ってくる。
「眠っておる黒龍を起こして引っ張らせて」
だから、止めてやれってよ。
「と、言うのは冗談で、ソーヤ、お主の転移魔法じゃ、進みたいほうの空気を正反対の背後へ転移させればよい」
「そんなんで動くのか?いやしかし、そんな大掛かりな転移魔法はオレの魔力じゃ無理だぞ」
「そこでこれじゃ」
そう言ってなんか輪っかのような物を取り出す。
「これは祝福のリングと言ってな…」
「あ!オレ用事を思い出した!!それじゃこれで!」
『マリオネットダンス!』
久しぶりに来たなソレ!
◆◆◇◇ 視点変更◇ファネス ◇◇◆◆
「ソーヤが凄いのは知ってたけど、その回りの人達も、もの凄いんだね」
「お父様ほどではありませんがね」
私とセイカちゃんは、アステリアで剣聖様の修行が終わって帰る途中、ソーヤが昔泊まって居たっていう宿屋に寄ってみた。
そこに居た人達が、次から次へとソーヤ達のことを話してくれる。
なんでもここの宿屋はイーリス教の聖地だとかで、その手の人がいっぱい集まって来てた。宿屋が聖地って…
一人目の奥さんであるアーチェさんは、聖女と呼ばれるぐらい凄い人で、死人すら蘇らせたことがあるとか。
二人目の奥さんは、世界最大級であるこの国の王女様。それだけでも凄いんだけど、なんでもオリハルコンですら破壊せしめる攻撃魔法の使い手とか。
それ以外の人も、各属性の頂点を極める戦いに勝利されてたり、どんな攻撃も無効化する魔法を持ってたりで、私なんかがとても敵う相手じゃなさそう…
「ハァ…私ってほんとにソーヤの一の配下になれるのかな?」
「大丈夫です。ファネスお姉さまならきっと皆に負けないくらい強くなれますよ」
そんなこと言っても、セイカちゃんにすら敵わないのに…
「あっ、ファネスお姉ちゃん。こんなとこに居たんだ」
「えっ、シルシィ?」
宿屋にシルシィが入って来て私の隣に座る。
「どうしてここに?」
「あ、おばちゃんいつもの定食2つお願いー。ん、この人に街の案内してたんだ」
そう言って、隣を指差す。そこには、
「どこのお子さん?というか、あんたこの街詳しいの?なんで?」
「ベヒモスの肉ばっか飽きるじゃない。ソーヤ兄ちゃんがこっそり抜け出してたの見つけて付いて来てたんだー」
ええっ、私、がまんして食べてたのに…
「ほぉー、これが定食というものか、うむ、上等じゃな」
そう言って、シルシィが連れて来た子供が私の定食を平らげていく。
ちょっ、まだ全然手をつけてないのに!
「だめだよ人のとっちゃー。この子はね、シュリちゃん達と同じ存在で、迷宮『望まれる誇り』その人本人だって」
それ人じゃないじゃ…
「なんでもソーヤ兄ちゃん暗殺しようとして返り討ちにあったとか」
「ええっ!そんな子連れて来て大丈夫なの!?」
「うーん、こっぴどくやられたらしいから大丈夫じゃない?」
「そうだ、ひどいのじゃ!わらわの迷宮がクレーターに」
迷宮がクレーター?
「ソーヤはどうしてるの?」
「なんでもおじいちゃんが持ってきた祝福のリングとかで、アーチェお姉ちゃんと新しい魔法を開発中とか」
祝福のリング?聞いたことないなあ。
「そのリングを介して手を繋げば、互いの能力が使えるんだって。ソーヤ兄ちゃんでもアーチェお姉ちゃんの魔力が使えるみたいな」
「へぇ、それはすごい魔道具だね」
「でもそのかわり、相手の考えが丸見えになるとか。心が一つになるみたいな」
…ソーヤ、奥さんに何か試されてるのかな?
「そうだ、ファネスお姉ちゃん。これからアステリアの迷宮に行くんだけど一緒に行かない?」
「迷宮に?なんで?」
「アステリアのがな。クレーターになったわらわの迷宮の上に、空中迷宮とやらを作るとか言い出しおってな。迷宮は地下だけではない。地上にだって作れる。実際作っておると言うので見に来た」
「迷宮の上に迷宮?」
「まあ、百聞は一見にしかずよ」
「あ、私は一刻も早くお父様のとこへ戻りたいのでパスします」
この子はぶれないよね。




