第十章 人類VS魔王
◆◆◇◇ 視点継続◇ソーヤ ◇◇◆◆
「おや、ソーヤか」
「何やってんの?」
「見て分からんか?城を作っておるのだ。攻城戦というのをしてみたくてな」
…モンスターと攻城戦?まともにやれんのかなあ。
「つーか反則だよなその見た目」
「なんでじゃ?」
この迷宮のじいさん、ドラゴンから人に戻ったとき驚いたの何のって、どこのハンサムボーイかと思うぐらいに若返ってた。
なんでも、迷宮から離れすぎて魔力がおいついてないとか。
魔力が無いから成長が下がるとのことだが、じじいになるのが成長と呼ぶのだろうか。
「あ、兄ちゃん」
「何やってんの?」
「見てわかんねーの?畑耕してんだよ」
攻城戦をしようかというとこの隣でか?
「なんかここの土いいんだよなぁ。作物が良く育つ」
「そうじゃろう、なにせわしがここぞという土地の土を持って来ておる」
どこの土地だよ?
「兄ちゃん、べへもんの肉もう飽きたよう」
ベヒモスな。
「あんだけ喜んでたじゃないか、肉だ!肉だ!って」
「つってももう何ヶ月もあればっかじゃねえか!いくらなんでもあきるよ!」
半泣きでそう言ってくる。うむ、オレも飽きた。こっそりアステリアに帰ってるのは内緒だ。
飢饉だなんだと困ってた国に大量にお裾分けしたのだが、いまだに余っている。なにせ山だしな。肉の山。うむ、ミートマウンテン。これからはそう呼ぼう。
「あんたまたバカなこと考えてない?」
あの戦闘から数ヶ月が経った。あれからモンスターどもはまったく姿を見せていない。
まあ、オレの転移魔法で、アステリア、ファンレーシア、ベルガンディアの連合軍を連れて来て陣を張ってるからな。おいそれと襲って来れないんだろ。
今は周辺の森を切り開いて平地を作っているところだ。後々城塞都市を作るとか何とか。
食料だけはたんまりあるからな。ベヒモス以外も大量に冷凍保存してある。
なに、戦闘はどうなったかって?そりゃオレ達の大勝利に決まってるだろ?詳しい内容はひどいんであまり言いたくない。
「ソーヤ!」「お父様!」
そこへ、馬?に乗ったファ、セイカが駆けてきた。
ファが乗ってる馬は普通の馬なんだが、セイカの奴のがナア。ちっこいの。なんでも、セイカの成長に合わせて大きさが変わるとか。神帝国の剣聖さんから貰ったらしい。ユニコーンの血が入ってるとのことだ。
なんでセイカはそんなにいい物もらえんだろな。聖剣といい聖馬といい。
「探したよ!なんか会議するらしいから、ギルド本部に集まれって」
ふむ、いよいよモンスターどもに動きがあったのかな。
「そういや、ファは魔刃剣出せるようになったのか?」
「うーん、セイカちゃんほどじゃないけどね。全然飛ばないのよ、せいぜい剣の長さの3倍程度?」
十分じゃないか。セイカみたいになんでもぶった切る心配も少なくてすむし。いやー、ベヒモスごと地面をさっくりいったのは驚いたわー。
「でも私よりファネスお姉さまの方が、威力が高いのですよ。それに剣技も素晴らしいですし。おじいさまも、うなっていました」
「私なんか全然よ、まだまだセイカちゃんには敵わないよ」
この二人、やけに仲がいいんだよな。なんか通じ合うものでもあるのかね。
「つーか、おじいさまって誰よ?」
「神帝国の剣聖様です。なんか私が亡くなった娘に似てるとかで、おじいさんと呼べと言われまして」
そんなんで聖馬くれんなら、オレにもくれよ。セイカはオレの娘だぜ?
「シュリお姉さま起きてください。ちょっとお父様を運んでもらえますか?」
「んーなにー、おやつの時間なのー?」
そう言いながらセイカの馬の鬣から顔を覗かせる。どこで寝てんだよ。
「私達はまだ寄る所があるので、シュリお姉さま、お父様をギルド本部までお願いします」
「りょーかいー」
そう言うとシュリはフェニックスに変わる。
「ほんとすげーよな兄ちゃん、伝説の神獣が騎獣だなんて。さすがていおーさまだけあるや」
ていおーさまはやめろな。
そうして向かったギルド本部、
「あら、ギルド長、じゃなかった国王陛下、お早いおつきで」
「…代理な。ちゃんとつけろよ」
なんでも、ベヒモスが集団で襲って来ることになったとき、オレがここを放棄するって話が伝わって、王都のえらもんさん連中がこぞって逃げ出したらしい。
そこへ、ベヒモスのお肉をお裾分けに、空中神殿で辿り着いた俺たちを見て、
「なにをおっしゃいますやら!代理などと!!今の国王はあなた様であらせられますぞ!」
なんかそういうことになったらしい。
「この爺、感動致しました!あの神々しい神殿から、見事に打ち倒した巨大モンスターを吊るした姿!そうして伝説の神獣フェニックスで降り立つ御身!!」
いい年なんだからあんま興奮スンナよ。この爺さん、王都のえらもんさんでも国の為に残った人らしい。
「辺境を見捨てていた我々を恨むどころか!あのような、あのようなぁ施しまで頂いて!!」
もういいから、落ち着けって。コワイヨ?
「まあ、この国のことは私にお任せ下さい。いいようにしときますわ」
ファンレーシアの女王様が言う。任せといていいのかなあ。とはいえ関わるのも嫌だしナア。
「ところでなんの会議で?」
「ああ、魔境でモンスターに動きがあってな、まあこれを見てくれ」
アルシュラン陛下がそう言って箱型の録画機を見せる。そこに映っていた物は…
「きしょっ!何これ、モンスターの波じゃなくて絨毯だな」
森を埋め尽くさんがばかりのモンスターが。
「なかなかに向こうも本気を出して来たと見える」
「そうじゃな、ふっふっふ、いよいよ我がベルガンディアの猛威を振るえる時が来た!」
ベルガンディアの王様は嬉しそうだなあ。
「そこでだ、我々も一致団結を示すためにソーヤに演説をしてもらおうとな」
「なんでだよ?そんなのアルシュラン陛下のお仕事じゃね?」
「何を言っておる。今回の大戦の旗印はソーヤ、お前になっとるんだぞ」
え?何?なんて言ったの?
「今ここに集まっているのは各国の精鋭達、今や魔境のモンスターと人類との決戦であろう」
「え、何言ってるの?50年周期でやって来てるんじゃ?」
「ここまで大事になったことはないぞ?今までのは、せいぜい、村を数個つぶすぐらいの規模だぞ」
「そうだぞ、これはもはや人類に対する、モンスターどもの侵攻である」
…もしかして、オレ達が波を撃退するたびに規模が膨れ上がってたのか。
「ソーヤ様は、人類の帝王としてモンスターを討伐することに!」
「なんでだよ!誰だよそんな風にしたの!…おい、アーチェこっち向けよ!」
アーチェは明後日を向いたまま、
「ここに来るまでにね、色々な国に寄って来たの。それでね、ついでに空からリザしたら結構喜ばれて。全部ソーヤの手柄にしといてあげたから!めんどくさいんで」
めんどくさいとか言いやがったなてめえ。オレだって面倒はごめんだよ!
「こないだ、ベヒーモスの肉をお裾分けに行ったときも随分喜ばれたでおじゃる。飢饉が発生してた国など、ソーヤのことを神かなんかだと」
「うちにはもう神様居るだろ!」
「大丈夫、ソーヤに集まる信仰もすべて私に流れてくるから!」
大丈夫じゃねえよ!そういやこいつ、時々蛍みたいに光ってたな。あれ、信仰が集まってたのか?
「うむ、ソーヤは各国で大人気であるぞ」
何言ってんだよ、オレ知ってんだぞ。アステリアじゃ国一番の嫌われ者だって。
「ああ、それちゃんと誤解といといてあげたから」
「うむ、ソーヤはモンスターが人類に対して侵攻してくるという情報を知り、麻呂達を巻き込まない為に、人知れず魔境へ向かった」
「という設定で」
………………現状の、結果だけなら間違ってないな。つーかお前らがそんなこと言ったから、フラグが立ったんじゃねえだろな?
「まあ、嘘から出た誠という奴か」
「ほんとですわね。今やたしかに人類史上最大の決戦の場。これ以上の戦いはないでしょう」
「そういう訳で、今ここには各国から大量に兵士達が集まっておるのだ」
そういや見かけない旗がいっぱい立ってるとは思ってた。なるべく気にしないようにしてたのだが。
「ソーヤの元にも各国の王が訪れただろ?」
「いつだよ?」
「ひっきりなしに会いに来ておったであろう」
もしかして、散々人に婚約を薦めて来た連中か?
「そう、それ!」
「言えよな!なんで王様連中が婚約薦めてくんだよ!?」
「なに、ソーヤが10歳で二人も嫁がおると聞いてな。みなお主の事をとんでもない女好きと誤解しておってな。ぜひ我が娘もとな」
そっちの誤解を先に解けよ!
「なにが誤解?あんた私達の居ないことをいいことに、こっちでも嫁見つけてたんだってね」
「そうでおじゃる。麻呂達が居るというのにどういうことでおじゃろうな」
あ、いや、それは…深い事情が……はい、ごめんなさい。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ソーヤ、こんな山の中に転移魔法で移転してどうする気?」
「たしかに敵の背後はとれておじゃるが。麻呂達だけでどうする気でおじゃるか?」
いよいよ、街から見えるぐらいまでモンスターどもが押し寄せて来た。今回は例のブラックドラゴンが先頭を切っている。
オレはモンスターの背後を取れる山に転移魔法を設置し、アーチェ、麻呂姫、ファ、シルシィ、テンコの6人で転送してきた。
「テンコさんはともかく、そっちの二人はそんなに強いの?え、えーと、ファ…ファックションだっけ?」
「だからなんでくしゃみなのよ!?ファネステール!それで、こっちはシルシィよ」
「ああ、結構な強さだぜ、なんせオレの一の配下と、大神官様だしな」
「やだソーヤったら」
「大神官…私が大神官…?」
二人は顔を赤くさせて照れている。
「その二人であれを全滅できるの?」
「そら無理だろ」
まあ見てろって。
「せっかく集まってくれた各国の兵隊さん達には悪いが、戦争はしません」
「「ええっ!?」」
危険だしな。命が、よりもモラルが。
と、ブラックドラゴンが街に向かって巨大なブレスを吐き出す。ブレスは街に一直線に飛んでいき、巨大な爆発を起こす。
「おー、まるででかい花火みたいだな。しかし、さすがユーリの防御結界、びくともしてねーな」
ブラックドラゴンは、ブレスでも傷一つない街を見て驚いているようだ。モンスターどもにも動揺が走っている。
まあなあ、恐怖のブレスがまったく効かないんじゃ、あのドラゴンも面目丸つぶれだろ。
するとドラゴンは一際大きな咆哮を上げて、街に向かって飛んで行く。さては、面目取り戻すために先行したな。
まあ、向こうにはユーリとセイカが居るから問題ないだろ。
「それじゃあ、こっちも準備と行くか。アーチェ」
「なあに?」
「あのモンスターの絨毯にサンクチュアリだ!聖戦付でな」
「ええっ!?」
「ちょっ、ちょっとソーヤ、モンスターを強化してどうする気でおじゃるか!?」
いいからいいから。
「知らないわよ?」
『サンクチュアリ!』『聖戦!!』
するとモンスターが居るあたり一面が輝きだす。
「麻呂姫、回復魔法が範囲魔法にできたんなら、補助魔法だってできるよな?」
「うむ、問題は無いでおじゃるが?」
「よし、ならばアーチェのサンクチュアリに乗せて…混乱魔法だ!」
「なるほど!分かったでおじゃる!」
『デュアルスペル・コンフュージョン!』
そう、こんだけモンスター居るのなら、モンスターどうして争ってもらおうとな。そもそもあいつら自体、別種族は全員敵のはずだしな。
「何も起きないでおじゃるぞ?」
「まあな。今は待機中、動いてない脳みそを混乱させてもさほど効果はない。0にいくらかけても0は0のまんまだ」
「ならどうして?」
「だから脳みそを動かすんだよ。でっかい花火を打ち上げてな。お、おあつらえ向きに戻って来たぞ…ぼろぼろだなあ、バカなドラゴン」
ブラックドラゴンはどうやらセイカ達の反撃を受けたようで、ヨロヨロで戻ってくる。
「アーチェまだいけるか?」
「まだまだいけるわよ!」
「よーしならば、フレアだ!あたかもあのドラゴンがモンスター共にブレスを吹いたように見せてな」
「なるほどね!」
『フレアバースト!』
こっちに向かって来ているドラゴンの前に巨大な炎の塊が!あれ、でかすぎね?ドラゴンよりでかいような…
と、慌てたドラゴンがその塊に向かってブレスを…
ドラゴンのブレスとアーチェのフレアが激突する。すると轟音を立てて破裂した!
破裂した炎の固まりは、無数の火の玉となってモンスター共の頭上へ降り注ぐ。これ擬似メテオだなあ。
「モンスターが同士討ちを始めたでおじゃる!」
降り注ぐ火の玉を受けたモンスターどもは慌てて暴れだす。うむ、ちゃんと混乱しているようだ。
その時!街の方から一陣の風が吹き抜けたと思ったら、ドラゴンの片方の羽がちぎれとんだ!
…あの距離でか。あれきっとセイカのアレだよな、こえー。こっちまで来ないだろうな。
ドラゴンはキリモミしながらモンスターの絨毯に落ちていく。そして落ちたドラゴンにモンスターが群がって…
「ひどいわねー、これ別の意味でモラル崩壊してない」
「…背に腹は変えられません」
そうだな、いつまでも見てるだけじゃなくて、こっちも切り札をだすか。落ちたドラゴンはさすがに群れのボスだけあって、群がってくるモンスターをちぎってはなげ、ちぎってはなげしてる。
「それじゃあ、ファ、シルシィ頼む」
「うん」
「まかせといて!」
二人が魔法の発動にかかる。と、ドラゴンが急にこっちを向き、
「ソーヤ、なんかこっちにブレスを吐こうとしてるわよ」
「隠蔽魔法かけてるのにか?」
「そこの二人の魔力の流れに気づいたでおじゃらぬか?」
仕方ない、転移魔法で一旦…
「ここから離れたら混乱魔法解けるわよ」
「それはまずいな…そうだ!テンコ」
「なによ?」
「お前って不死身だよな?」
「そうだけど?なにか」
「じゃあ、アレ頼むわ」
そう言ってオレはテンコをブン投げた。ブレスに向かって。
「ちょーッ!!『ゴッドハンド!』」
万能だなゴッドハンド、オレも欲しいな。
「何さらすんじゃワレェ!どこの鬼畜系よ!天罰くらわすんぞ!!」
「天罰ならもう貰ってるぞ?」
「なんのよ?」
「天使の祝福」
「なんで?レアスキルよ?ゲーマー垂涎の超人気スキルよ?」
そうだな、ゲームの世界では大人気だよな。でもよ、残念ながらこの世界ゲームじゃないんだわ。
おまえ、オレがこのスキルせいで一体、何回死にかけたと思ってんだよ?つーか一回死んだぞ?
「し、仕方ないわねー、こ、今回だけは許してあげる。というより事前に心読んでも察知できなかったんだけど」
「そりゃお前、考えずに行動するようにしたからだろ」
「いつの間にそんな高度なテクニックを…」
「四六時中、心の中を読まれてたらそれぐらい身につくわな」
「つかねーわよ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ソーヤ、2発目が来そうでおじゃるぞ!」
「ファ、シルシィ、いけるか?」
「いつでもいけるわよ!」
「まかせて!」
ファとシルシィは魔法を発動させる。
「私は回転する球体に引き付ける力を」
「私は重き一撃を乗せる力を」
『『デュアルスペル・グラヴィティ!』』
と、こちらを向いてたドラゴンの頭が急に下がり、地面に激突する。
体全体もなにかに押し付けられたように動かなくなり、これ幸いとモンスターどもがわらわらとのしかかる。
「何あれ?急に動かなくなったわね」
「ああ、重力って知ってるか?ほら、空に物を投げたら落ちてくるだろ、アレだよ」
「なんか分からぬが、すごいでおじゃるなー」
あとはモンスターどもに任せてりゃいいだろ。さすがに動いていなけりゃ、ドラゴンも無事では済まないだろう。
「そんじゃあ、あとは高みの見物かねえ」
「あ、私お弁当持って来たの」
「…アレ見ながらその発想はすごいわ。いくらモンスターといえども、グロ見ながらは食えないだろ?」
自分でやった事とはいえ、ちょっと同情してくるな。しかし、このまま激突させる訳にもいかないしなあ。
(グ、グォォ…人間よ…聞こえるか、人間よ…)
その時、どこからともなく声が。
(我は黒征竜、この辺り一体を支配している魔王である)
もしかして、あのドラゴンが語り掛けているのか?
「おいテンコ、あいつなんかしゃべってね?」
「そうなの?私、ドラゴンの言葉なんて知らないしね」
「まあ、お前に聞いたオレが間違いだった」
そういやこいつ、人間の言葉すら覚えようとしてなかったんだよな。モンスターの言葉なんて覚える訳ないか。モンスターの癖にな。いてっ。
「おお、やっと聞こえたか。…我が人間の言葉を解すようになるとは」
今度ははっきり聞こえるな。うむ、気のせいではないようだ。どうやらあのドラゴンがオレに話し掛けて来てるみたいだ。
「どうしたのソーヤ?独り言?」
「お前達は聞こえないの?」
「何が?」
ふうむ、オレだけに話し掛けて来てるのか?
「なんかあいつ、あんたをハメようとしてるっぽいわよ」
テンコがそう言ってくる。そりゃ注意しないとな。
「今回の戦争は我の負けだ。潔く敗北を認めよう。どうだ、今回はお互いに兵を引くということで決着しないか?このままでは膠着状態であろう」
「そうか?そっちそろそろ終わるんじゃね?」
「なにを、我を傷つけれる者などこやつらにはおらぬ。このままでは膠着状態に…」
何言ってんだ?結構傷つけられてんぞ?現実逃避はよそうな。
「なぜだ!?なぜ、こやつらがこのような力を?我は黒征竜、そこんじょそこらの奴らになぞ!今日はどうかしておる!」
そりゃ強化してるからなー。人間ですらあれなんだし、モンスターだったらもっと強力じゃね?
「先ほどだって…人間一匹に追い返されることすらありえるはずがない…夢だ、これはきっと悪い夢なのだ!」
「そうか。じゃあゆっくり眠れな」
「ま、待て、取引をしようではないか」
取引ねえ、こういうときに、そう言う奴は大抵信用ならないんだよなあ。
「どうだ、我と契約する気はないか?魔王である我を従えたとなると、随分箔がつくのではないか?」
いや、別に。魔王ならこっちにも居るしなあ。
「ねえ、ソーヤ。なんか失礼なこと考えてない?」
何を言ってるんですかアーチェさん。これっぽちも失礼なことなど。あなた様と比べると魔王すらちっぽけな存在ですよな。いでで。
「我と契約すれば、我が力使い放題だぞ。この世に比類なき我が力。どうだ惜しくはないか!?」
「なあテンコ、あいつなんか僕と契約してって言ってんだけど、どう思う?」
「なにあんた、魔法少女にでもなる気?きもいからやめてよね」
「いやなんか、我の力使い放題とか」
「あんたバァカア?ドラゴンの力なんて人が使ったらあっとういうまにポンよ?」
まあ、そんなオチだとは思った。しかし、魔力タンクか…オレにだって魔力さえあれば…ふうむ、
「シュリ、おーいシュリ聞こえるか。ちょっとこっちに来て欲しいんだけど」
(なあにぃ?)
しばらくして転移魔法陣からシュリが現われる。
「何パパ?おやつの時間なの?」
「…最近くいしんぼうキャラになってるぞ」
「大丈夫、シュリね、かっきてきなダイエット方編み出したの」
ふむふむ。
「ふぇにっくすになってしばらくするとやせるのー」
「…それは画期的だな。まつこもびっくりだよ」
人には真似できそうにないけど。
「それよりシュリ、なんかあいつがオレの眷属になりたいって言って来てんだけど、直接だとポンってなりそうなんだわ」
「あっちでへこんでるひと?」
人じゃねーがな。
「そこで、シュリを介して契約できないかなーと」
「うーん、大丈夫だとおもうよー」
「おーい、契約してもいいってよ」
「おお、やっと決心付いたか。フフフ、いいだろう我が力存分に受け取るがいい!」
「そういうことなんで先生、よろしくお願いします」
「うむ、まかせるとよいのだー」
そう言うとシュリはフェニックスとなりドラゴンの方ヘ向かう。
「な、なんだあんたは!?神獣だと…!バカなこんなとこに…」
「あなたをお父様の眷属として認めましょう。これからはお父様のため、しっかり励むのですよ」
「ま、待て、我は…」
「諦めた方が無難ですよ。いいかげん気づきなさい。私を従え、世界を従え、あなたの軍団が赤子の手をひねるよりたやすく成敗されている事実を」
なにを従えだって、おまえまで盛るなよ。
「我はいったい何と戦っておるのだ…?」
「お父様はこの世界の帝王、人間達のみならず、魔境、魔界すべてを統べる王となるお方なのです!」
おーい、盛るなよー。つーか魔界ってあるの?
「くっ、致し方あるまい。敗者はただ、勝者に従うのみ…」
そうして戦争の終結に。じゃあ帰って祝杯でもあげますかー。
「みんな納得するのかねぇこれ」
「何言ってんだ、どんなかっこだろうと勝ちは勝ちだろ?」
「そんなこと言って、あんた今回も見てただけじゃない?」
何言ってんだ、ちゃんと指揮してただろ?オレの機転を効かせた、この奇抜な戦法!
「全部アーチェ達が居たからじゃない?」
何とでも言うといいさ。今日のオレは機嫌がいい。なんせ念願の魔力タンクを!これでオレも魔法が使い放題に!夢が広がるゼ。
「おお、そうだった。我は暫く傷を癒さねばならぬ。うむ、誠に残念だが、本当に申し訳ないが、暫く休養させもらう。ざっと100年ほど」
そう言うと、ドラゴンは撤退しているモンスター達の方へ向かって飛び立つ。
「いやー、残念だなあ。世界の帝王に仕えるチャンスなのになあ。うむ、誠に残念である!ファーハッハッハ」
「ファ、シルシィ」
『『デュアルスペル・グラヴィティ!』』
「アベシィ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「そ、そ、そ、ソーヤ殿!あの話は誠ですか!?というよりそれ…」
「ん、あの話って?」
「そーよ!私達たった6人であのモンスター達を殲滅して来たの!」
「そうでおじゃる!ソーヤなど一騎打ちであのドラゴンを物にして来たのでおじゃる!」
「私はただ、ソーヤの言うことに従うので夢中だったので…」
「ソーヤお兄ちゃんは神様です!」
なに言いふらしてんのぉ!あることないこと、誰が一騎打ちだって?
「急にモンスターが暴れだしたと思ったら、そのようなことに…」
「たった6人でですか…さすがの私もこの展開は予想していませんでしたわ」
「ソーヤ…お前だけずるいぞ!せっかくの腕の見せ所だと思っておったのに!」
王様達が言い寄って来る。まあ、犠牲が出るよりましじゃない?
「そ、そんなことより、ほら今ならモンスターの素材集め放題だよ?死体がいっぱいだから」
「我らは死体処理班かよ!」
ちゃんと供養しとかないとね。化けて出られても困るし、ほっとくと伝染病の元にもなりかねない。
「あ、あと、やっぱみんな納得しないかなあと思って連れて来た」
「な、なにをだね?」
「見えない、ワシには何も見えない」
みんな首を上げようとしないなあ。
そこへ、地響きを立てながらドラゴンが一歩前にでる。
うん、みんな納得しないかと思って連れて来た。敵の御大将。
「冒険者達はみんな大層な被害を被って来たしね。ちゃんとごめんなさいしとかないとな。ほら」
「くっ、申し訳なかった人間どもよ。これまでのこと深く謝罪申し上げる。これからは、人間達の住処は襲わぬようここに誓おう」
ドラゴンが頭を下げる。これでみんな許してくれたらいいんだけどなあ。無理かなあ。
「あ、じゃあ私、この鱗で勘弁してあげる!」
「あっ、ずりーぞ。よしオレも!」
「オレこっちの爪を!」
「ねえ、ちょっと口開けてよ。私、牙がいい、お守りにするんだ」
…冒険者達は逞しいなあ。
「そ、そーやぁ」
天下の魔王様がそんな情け無い声だすなよ。オレでもそいつら止めれないからな。
「うっ、ブルブルブル。一つ間違っておったら、わしもあーなっておったのか…」
「良かったねぇおじいちゃん。運が良くて」
シュリが、震えてる迷宮の爺さんの肩を叩いている。
なにはともあれ、これで解決だ。よかったよかった。
「ソーヤァア…」
ドラゴンは冒険者達の剥ぎ取りの的だ。おっ、竜の涙だ。いい素材だな。…泣くなって、ちゃんと休暇はやるから。
◆◆◇◇ 視点変更◇アルシュラン陛下 ◇◇◆◆
「さて、今回皆様に集まって貰ったのは、事の顛末のご説明と思いまして」
ファンレーシアの女王がそう言う。
うむ、説明は必要だよな。説明は。ソーヤの奴もやる前に説明してくれていれば…いや、信じなかったか?いや、ソーヤだしなあ。
「それではアルシュラン陛下」
「うむ、皆もすでに承知のとおり、帝王ソーヤが直々に魔物どもへ天誅を食らわせた。これまでずっと沈黙を守っていたソーヤがだ」
「そうですわ。コレまで一切手を出してこなかったソーヤ様が動いたのですわ。その結果がアレですわ」
「これまで動いてこなかったのは、できる限り自分の力を示したくはなかったのじゃろう。あまりにも恐れられる力じゃからな」
でっていう設定にした。どうせ本当の事言っても信じんだろうし。
「の、のう。ほんとに誠なのか、たった6人でなど…」
「モンスターどものあれほどの死体…なかには原型を留めていないものも多数…」
「しかも返り血はおろか、まったく汚れてすら…」
各国の首脳陣はざわめく。まあ、我輩も未だに信じられんのだがな。過程はどうあれ、結果がな。
「すべて事実でございます。あなた方も見たでしょう。山ほどもある、ドラゴンの魔王がぼろぼろになってかしずくのを!」
「恐ろしい…今ここにいる兵をすべて集めて…」
「やめたほうが良いであろうな。今ここにいる兵をすべて集めても、勝てるかどうか分からないモンスターの集団を、傷一つ負うことなく殲滅したのだからな」
あれはもう人間の魔王だな。アーチェがでなく、ソーヤがだ。
「幸いソーヤには権利欲や金欲がない。適当にかついでおけばそうそう問題を起こすこともないであろう」
「そうなのか?しかし、色欲は強いと聞いたぞ?」
「そ、そーだ!我が娘を差し出すなど、断じてあってはならん!!」
それは誤解なのだがー、まあいいか。
「そのあたりも問題ありませんわ。すでにアステリアが身を挺して、ソーヤ様に与えていますから」
「おお、そうであったな。陛下も悔しいでしょう、大事な妹と、国のシンボルである聖女を両方とも!」
「まあ、女を与えておけば良いのであれば、それはそれで安いものだが」
リーシュは決して安くはないぞ!だが、今のリーシュやアーチェを制御しきることができるのは…もはやソーヤのみであろう。
「それでは皆さん、ソーヤ様は我らにとって象徴的存在として、帝王になってもらうということでよろしいですね」
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
「と、いうことになった」
「なった、じゃねぇよぉ!」
なにやんだよ帝王!つーか、まあいいかじゃなくて、ちゃんと誤解といてくれよぉ。
「まあまあ、帝王と言ってもあくまで象徴ですよ。今後、またこのようなことがあれば引っ張り出されるぐらいでしょう」
やだよ。なんで戦争に引っ張り出されなきゃなんないんだよ。
「良かったではないか、これでどこでも行き放題だぞ」
…まさか、厄介払いとか思ってないよね?
「後の問題は神帝国との摩擦じゃな。うむ、これはいよいよ、大陸を2分する大戦争の勃発か!」
ベルガンディアの王様が嬉しそうに言う。
やんないよそんな戦争!
「そんなことよりソーヤ、いつになったら私の力取り戻してくれるの?」
テンコが会話をぶったぎってそう言う。
「お前の力?なんのことだ?」
「あんた…まさか忘れてないよね?どうしてここに来る事になったかの理由を」
ん?お前が強制的に連れて来たんだろ?
「だから、どうして強制的に連れて来られたか!」
「ああ、すっかり忘れてたな。元の世界に戻る為に、神の力とやらを探しに来たんだっけか」
「なんで、そんな大事なこと忘れるのよ?」
いやだって忙しかったシー。そっちの方どうでもよかったシー。
「まあ、元の世界に戻るとかそれはいいんだけど。やばいのよ今のあんた」
「なにが?」
「いやねー、さっき思わずゴッドハンド使っちゃったじゃない?あれあんたの寿命犠牲にしてんのよー」
なに犠牲にしてんだよ!今明かされる衝撃の事実にも程があるよ!
「孤児院の子供助けた時にねー、8割持ってかれてたのよ。そんで残りの2割もさっきので…あんたの寿命あれよ、0なのよ」
「そんな大事なことはもっと早くに言えよぉ!」
「だってあんた聞きたくなさそうにしてたしぃ」
いや、そうだけど、そうだけどよ!
これはまずい、早急に迷宮攻略に乗り出さねば!
「アーチェ、ユーリ、手伝ってくれるか?」
「何言ってんの、ソーヤのピンチなら喜んで手を貸すよ」
「そうよそうよ、水臭いことは言いっこなしね」
ようし、オレは迷宮を攻略し、力を取り戻すぞぉ!!




