第四章 王都アステリア・バーム
◆◆◇◇ 視点変更◇メリンダ ◇◇◆◆
ふふっ、つい過剰演出してしまったかな?
私の名はメリンダ、ぴっちぴちの24歳(ちょっと盛ってる)独身、王都で冒険者をしている者だ。
「ぴっちぴちなどと言っておると、歳がばれるであるぞ」
うっさい!
「ちょっと子守を頼まれてはくれまいか」
遡ること数日前、久しぶりに訪れたホーネスト先生より急にそんな話をされた。
「近々、ハーヴェスト村より3人の子供達が王都に来ることになった」
「ふむふむ」
「私が面倒を見れれば良いのだが、忙しくてな」
先生が面倒を?いったいどんなVIPの子なんだい?
「彼らは最終的に冒険者を目指しておるらしいのである」
「まあ、子供なら一度は憧れるものだしね」
「憧れるですめばいいのだが、問題は冒険者になれる素質がある。というかそこらの冒険者よりは…」
ずいぶん難しい顔をするね。ちょっと面倒な連中なのか?
「あんまり変なのはお断りだよ」
「そう言わずに頼むである」
そんなに先生に頭を下げられると弱いね。まあ先生が連れて来る子なら最悪はないか。
「報酬はたんまりもらうからね」
「うむ、とりあえず報酬はこれだ」
そう言うとどさりと袋をおいた。
「随分くれるんだね」
「一応その中には、子供達の養育費も含まれておる」
「ええ?共同なの?」
「そうだ。それと、無事に成人した暁にはその倍の報酬を成功報酬として支払おう」
「いったい何年面倒見ればいいんだよ。それじゃあいくらなんでもこんだけじゃ…えっ!」
私は袋の中をのぞきこんで絶句した。
「…これ王金貨?え?なにこれ?こんだけあれば一生遊んで暮らせるじゃ…」
てっきり金貨とばかり思っていたのに、王金貨…ランクが2桁違うよ!
「良いかそれはあくまで報酬だ、養育費は必要と思った時だけ使ってくれ。子供達にはあまり持たせるでないぞ」
「ああ、そりゃもちろん…」
「特に3人ともちょっと常識がヤバイ、できれば常識を教えてやってくれ」
「というかキャンセルし…」
「あとは頼んだである」
ちょ、ダッシュで逃げんなよ!魔法は卑怯だぞ!
つーか詳しい内容聞いてないぞ。あ、袋の中に詳しい内容って書かれた封筒が…最初から逃げる気マンマンだったんだなアイツ…
◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃあお姉さんはスカウト職なの?」
「うん、そうだよ」
先生があんな状態だったからどんな子供かと思ったらいい子達じゃないか。
それから数日経ち、私は子供達を村に迎えに行き、今は王都へ向かう途中だ。
「これから向かう王都には、近くに5大迷宮の一つ『最も深き豊穣』がある」
「おおっ!」
「私はそこで冒険者をしている。スカウト職はその中で主に斥候、罠解除など、様々な場面で役に立つ職だ」
うん、3人ともきらきらした目をしている。
「とはいえ、最も人数が多い職でもあるがな。なにせ力、魔力などの素質がなくても、努力さえすれば誰でもなれる職だからな」
「むむ、オレもそれ目指そうかと思ってたんだけど」
「ソーヤ君はそれでいい。アーチェ君は魔術師だっけ」
「うん、敵の殲滅は私にまかせておきなさい!」
「いやいや、魔術師は最も仕事が少ないよ」
「えっ?」
「迷宮は地下通路だ、すなわち火の魔法は厳禁。水や氷だって水びだしにしちゃあダメだろ?地形を変える土魔法はもってのほかだ」
「えええっ!?」
「唯一風系ならまだましだが、威力が強いのはだめだな。崩落の危険がでる。魔術師の仕事は、せいぜい補助・回復を行うくらいだ」
「マジで!?」
「とはいえ、最も人数が少ない職だからな、どのパーティでもひっぱりだこだ」
「思ってたのと違う…」
まあ、みんな冒険者に夢を見ているが、実際は地味なものだ。
「迷宮で倒した魔物は魔石になるのは知ってるか」
「うん」
「外では魔物の部位が討伐証明でそれと引き換えで報酬が出る。迷宮では魔物は死ぬと迷宮に取り込まれ消えてしまう。その代わりに魔石を残すのでそれが報酬と引き換えになる」
「ふむふむ」
「魔石は様々な魔力・魔法を内蔵できる。王都ではその研究がさかんだ。きっと王都に着けば驚くぞ?」
私は貨幣を取り出し、
「ついでに貨幣の種類を教えておく、まず種類は、銅貨、白銅貨、銀貨、白銀貨、金貨、白金貨、王金貨がある。それぞれ10倍増しだ」
「銅貨1円、白銅貨10円…王金貨なら100万円ってことか…」
なんか変なたとえを使ってるが、分かっているようだ。村の子にしては教養が行き届いているな。
「後はそうだな、王都の構成だ。王都には3重の城壁がある。一番内側は王族や貴族が住んでいる。真ん中は商人などの裕福な平民、最後はそれ以外の人達だ」
「へー、それは暴動などの備え?」
「いや、王都が大きくなるにつれ、城壁を新設していったからだよ。治安は結構いいほうだと思うぞ。まあスラムもあるから気をつけなければならないがな」
いきなり暴動とか発想が物騒だな。
「それぞれ、貴族街、中心街、外場と言われている。私達が泊まるのは外場の宿屋になる」
「あんまり中の方には行きたくないわね」
「まあ、それなりの身分証がなければ行けないから気にするな」
「ボク、王立学園なんだけど…」
「ガンバレ!」
もちろん王立学園は貴族街のど真ん中だ。
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
「ようこそ、王都アステリア・バームへ!」
輝く城壁、その上空に浮かんでいた飛行船からはいっせいに人が飛び出した。なんか箒のようなものに乗って飛んでる。
箒からはキラキラした軌跡が描かれた。おおお、これはいったい何事なの!
「今日は前夜祭なのさ。明日はこの国ができた日、聖誕祭であるのだよ」
「お祭りカー。つーかどこのテーマパークだよこれ…現代日本でも見たことねえ」
「すごいわねー。ちょっとユーリ起きてる?」
「…………ボク、おなか痛くなってきた…」
メンタル弱いな。顔が真っ青だぞ。
と、その時、轟音と共に上空に真っ赤な火花が散った。
花火かあれ?いや魔法か!
どうやら上空を飛んでる魔法使い達が一斉に魔法を使ったようだ。あちこちで同様な光景が繰り広げられていた。
「おー、魔法をイリュージョンとして使ってるのかー」
「ここ王都ぐらいだな、こんなに派手な演出ができるのは。この世界で最も魔法使いが多い都市だからね」
「ほー、ホーネスト先生が薦めたのには訳があったんだね」
「ようし私も…」
「フッ、そう来ると思ったよ」
そう言ってオレはアーチェを羽交い絞めにした。
「甘いわね!すでに発動済みよ!」
「えっ?」
『サンダーレイン!!』
「えええっ!?」
なにこいつ、発動と起動を分けて使ったのか。まじパネエ。
…もちろん即刻タイーホでした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「なんでよ!?」
さあ、なんでだろうねえ…それを考える為の留置場じゃね?
ほんとこいつ、早くなんとかしないと。
「おお、やっと来たであるか」
詰所に着くとホーネスト先生が居た。なんで居るの?
「いや、たぶん来るだろうと思ってな」
どうしてそう思った!
「…ちょっと先生、私達もっと話をするべきだと思うのよ」
そう言うとメリ姉は先生の肩をガシッと掴んだ。
「どうして・私達が・詰所に来ると・思ったのか、詳しく聞きたいわね」
「ちょ、影縛りまで使って、衛兵、衛兵さんここに、無許可で魔法を使ってる方が」
「なにか?」
「いえ、本官は何も見てないであります!」
怒ったメリ姉は迫力あるな、衛兵さんもびびってる。
「まあまあ抑えたまえ、せっかくの美人が台無しであるぞ」
「思ってもないこと言うな!」
「ひぃ」
「ちゃんと子供達の特徴ぐらい教えておきなさいよ」
「いや、ここに来るまでに分かるかと思ってな。どうせお姉さんとか言われて、結構いい子ねとか思ってたんじゃないか?」
「見てきたように言うな!」
先生はぶるぶる震えながら、
「あれだけの報酬出てんだから、もっと注意するべきであるのだ」
「はあ、まあそうね。というかいったいなんなの」
「うむ、彼らは魔術師の根底をゆるがす魔法を編み出したのだ」
そう言うと先生はちょっと持ち直して、
「雷を魔法として使用できる方法を考えたのだ。知り合いの冒険者など「ひゃっはー!これで勝つる。日頃オレのことを回復薬かなんかと勘違いしてるあいつらを見返してやる」などと言って、それは大層なはしゃぎようだったのだぞ」
「雷の魔法とな」
「うむ。雷なら迷宮でも攻撃手段として有効であるからな。燃えないようにだけ気をつければ、状態異常付与にもなりとても便利に使える」
「ほう、まあさっき見せてもらったね。…あれなんとかしときなさいよ」
広場は騒然としていた。なんせ雷が降って来るんだからな、そりゃもう笑えるくらい大慌てだった。(ちょっと笑ってたのは内緒だ)
「面白かったわね」
こら!
「ボク達明日から無事に過ごせるかな?」
ムリじゃね?
「つーか、あれ、アーチェどうやったんだ?発動と起動を分けたんだよな」
「なに言ってんのよ、ソーヤが教えてくれたんじゃない?」
「???」
「ほら、魔法とは発動させた後、起動させれば発生するって」
それぞれ別の意味で受け取ったって訳か。オレの説明の仕方が…良かったのか、悪かったのか…
「うん?もしかしてユーリも発動後、任意に起動させることができるのか」
「できるよ」
マジか、オレできねえよそんなこと。
普通は、発動が終わったらすぐ起動する。
「いやいや、普通は発動じゃなくて呪文が必要であるぞ。呪文を唱え、それが終われば魔法が起動する。呪文もなしに魔法は使えるはずがないのだぞ」
先生は呆れたように、
「それをまったく…」
そう呟く。
呪文、うーん呪文か…よし、サンダーの呪文を考えてみよう。
「ちょっと先生」
「なんだね」
「今から言う呪文を詠唱して、サンダーって言ってみて」
「ふむ」
「ヒャッハー!こんな簡単に雷魔法が使えるとは、これはぜひ周りにも伝えねば!」
そう言って先生は喜び勇んで走って行った。ふむ、うまいこといったな。
「ちょっと先生!保釈手続きして行ってよ!身元保証人がどこ行ってんのよ!!」
オレ達はその日、祭り見物もできずに留置場で一夜を過ごしました。言うんじゃなかった…
◇◆◇◆◇◆◇◆
次の日、
「…まあ、そのなんだ、悪かったとは思っているである」
「「「…………」」」
4人の視線が突き刺さる。ずいぶん先生は居心地が悪そうだ。まあ仕方がないよね?
「まあ、終わったことは仕方ない。それより早く行こうぜ。祭りを楽しまないとな」
「そうね、昨日があんなんだったから、今日はもっと凄いんでしょうね!」
オレとアーチェはわくわくして早く行こうとせがむ。
だが、先生とメリ姉は困った顔をし、
「いや、その、なんて言うか…」
「実はね、お祭りは昨日で終わりなの」
「えっ?」
「今日は聖誕祭で、主に教会や家でお祈りを捧げる日なのである」
「お祭りはね、その1週間前から始まって前日で終わりなの」
えっ、マジで?
なんでもっと早く連れて来てくれなかったの?オレが先生をジトッと見てると、
「いや、違うからな。決して問題を起こしそうなので、できるだけギリギリにしたってことはないであるぞ」
そうゲロりやがった。
「…もう呪文教えない」
「ええっ、そ、そんなこと言わずに頼むである。ソーヤ君こそが頼りなのだ」
「ヤダ」
もっと異世界のお祭りを見てみたかったのに…
◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃあ行こうか」
宿屋に着いたオレ達は、早速迷宮に向かう準備をしようとした。
まずはどんなとこか下見をしないとな。
「どこに行く気だい?」
「ん、迷宮」
「…いやもう、聞いた私が馬鹿だったか…」
そう言うとメリ姉はオレ達の装備を片付けだした。
えっ何するの?
「迷宮は行かない。というか向こう1年ぐらいは入ることは禁止する。子供が遊びで入る場所じゃない」
「ええっ?」
「まずは1年くらい訓練してからだ、勉強もあるし、そんな暇もないだろう」
仕方がない、後でこっそりと…
「ああそれと、今後私の意向にあまりにも添わない事があった場合、村に突き戻す。二度と王都の門はくぐれると思うなよ?」
「えええっ」
くっ、こうなればオレ達の実力をメリ姉に認めさすしか…
「私達をそこんじょそこらの子供と一緒にしないでよ!」
「そこんじょそこらの子供ならまだましだ。君たちの実力ならいきなり魔法ぶっ放して、通路を崩壊させてゲームオーバーだ」
おお、まさに目に浮かぶ光景だ。やべえオレ、アーチェの行動を制御しきる自信がない。
「ソーヤもだ、調子に乗ってどんどん奥に行って、実力以上の場所になって戻って来れなくなるのがオチだ」
おお、まさに目に浮かぶ光景だ。やべえオレ、それ実際に経験してたわ。
「とりあえずは常識だ。常識を覚えてからでないと入ることは許さない」
「常識なんてすぐ覚えるわよ」
「私は1年以上かかりそうだと思ってたりするんだがなあ…」
オレもそう思う。前途は多難だ。
「そんなことよりまずは学園の準備だろ?なんせ入学式は明日だしな」
「えっ?」
「聞いてないのか…まあ先生のあの様子ならさもありなん」
ほんとにギリギリまで隠してたなあのヤロウ…