第八章 戦いの前にすること
◆◆◇◇ 視点継続◇ソーヤ ◇◇◆◆
「ほらな、中身は女の人だっただろう?」
「ほんとだー、立派なOPPAIだねー」
あれから誤解を解くべく、黒騎士さんに上半身の鎧を脱いでもらった。
「あだだだ、ちょっと、ファ、痛いって」
「一体いくら女を作ってんのよ!」
「違うって、黒騎士さんとは、ファンレーシアの迷宮攻略で一緒のパーティだっただけだって」
「ああ、そうだな。つい興奮して妙なことを口走ってしまったな」
黒騎士さんがすまなさそうに言ってくる。この人テンパルと碌なことしないなぁ。
しらふのときは随分まともだから、油断しちゃうんだよねえ。
「そんなことより、いったい何しにこんなとこまで?」
「ああ、そうだった。ソーヤが起きたと聞いたので、女王様に連れて来いと言われていたのだ」
いや、オレが聞きたいのは今のことじゃなくて、なぜこんな辺境まで来たのかなんだが。
「それではギルド本部まで行こうか」
えっ、なんでギルド本部?
「そこで女王様が居るからだ」
ということで、再びやって来ましたギルド本部。
「あ、ギルド長。もうお体は大丈夫なので?」
「これはこれはギルド長。おや、肩に糸くずが」
ハゲの係長と美人の受付嬢がオレにそう言ってくる。
誰がギルド長だって?
いかん、いかんぞぉ。ここで聞けば後に引けなくなる。ここはスルーで。
「あら、ギルド長。肩がこっていますわねー。私がほぐしてさしあげますわ」
そう言って美人の受付穣が背中に密着して肩揉みしてくれる。
ああ、背中にいい感触が…
「ちょっと何やってんのよ!さっきまで寝てたのに肩が凝ってる訳ないでしょ!それに何、なんでソーヤがギルド長なの!?」
うぉい!人がせっかくスルーしてんのに!
「スルーしたって意味無いでしょうが」
…少しは現実逃避をさせて欲しい。
「いえなにね、前職の方がね、逃亡しやがりましてね」
逃げやがったか、あのギルド長。
「そこでなんでオレなんだよ?」
「え、だって、すでに迷宮を2つも攻略しておられるのでしょう?それにあの映像とやら…」
攻略してりゃいいんならいっぱい居るだろ?
「5大迷宮は別格でさ。一つでも攻略すりゃ100年の英雄ですぞ」
ハゲの係長がそう付け加える。
「それに、ここは冒険者の街。最も強いものがギルド長となる。ああ見えても、前職の方もここでは一流の冒険者であったのですぞ」
「ん?オレは別に強くないぞ」
「何をおっしゃいます。見せてもらいましたぞ、真絶界!あれほどの魔術見た事もありませぬ!」
興奮して血管が破裂しそうだぞ。どうしよう、いまさら冗談でしたって言える雰囲気ではない。
「おや、やっと来られましたかソーヤ様」
「女王様…いったい何言いふらしたの?」
「いえ、別に私は事実しか言ってませんわ。ですよねプレミセンズ?」
「ものは言いようですなぁ」
…まあ、やっちまったものは仕方がない。おいおい修正していくとしよう。それより、
「モンスターの波について今どうなってるの?」
「冒険者の方が見たって言う、進軍準備中のモンスターなら蹴散らしましたわ。ただ、その奥ではさらにモンスターが集まって来てるようでしたが…」
ふむ、そういや入り口にもファンレーシアの兵士が立っていたな。
「私も外遊中でのことで、近衛師団一部隊しか引き連れていませんでしたの。偵察兵の言うことでは、現状の兵力ではこれ以上は無理だと」
「こっちに攻めて来るのはいつぐらいになりそう?」
「そうね、まだ準備を始めたばっかりみたいですし、3ヶ月から半年の間でしょうか」
アーチェ達がこっちに着くぎりぎりか。
「ちょっとアーチェ達に後どれぐらいでこっちに着くか聞いてみる」
オレは指輪に魔力を込め、
「麻呂姫ー、聞こえるカー。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
そう言って麻呂姫を呼び出す。
これ、こっちからは呼び出せないんだよな。せいぜい声を届けるくらい。テンコももっとサービスしてくれりゃいいのに。
あと、向こうからはいつでもオレを呼び出せる。お風呂中でもトイレ中でも。勘弁してください。
「なんでおじゃるかソーヤ?」
「ああ、後どれくらいでって、なんだそりゃ!怪我でもしたのか!?」
浮かび上がった麻呂姫の姿は…全身に真っ赤な血が!
「ああ、これでおじゃるか。返り血でおじゃるから大丈夫でおじゃるぞ」
なんの返り血?いやいや返り血でも大丈夫じゃないぞ。
「閣下、奴らが!奴らがやって来ます!」
「恐れるな!私の魔法を信じなさい!たとえ相手がなんだろうと、あなた達は我が最強の部隊なのよ!」
「グギャー!グゴァー!!」
何と戦ってるのぉ!?あたりには恐ろしげな咆哮が響き渡っている。
「サー、イエッサー。行くぞお前達、我が自衛軍の恐ろしさ、思い知らせて見せよう!」
「「オオー!!」」
なつかしい声が…。
「ソーヤと離れて麻呂達は考えたでおじゃる。このまま、ソーヤにおんぶにだっこでいいのかと!そう、このままでは良くないでおじゃる!なので麻呂達だけでどれだけやれるかを…」
―――プチッ
「あらなんで切るので?」
「…とりあえず、ここの冒険者達がどれだけ波と立ち向かうつもりがあるか確認だ。その後現状の戦力把握だ」
「ふむ、ここの冒険者達で波と立ち向かうので?」
「そうだ!ここの冒険者達”のみ”でだ!時間はない!!アーチェ達が来る前に終わらすぞ!」
あれはヤヴャイ。モラルハザードどころの騒ぎじゃない。きゃつらが来る前に終わらせねば!
◇◆◇◆◇◆◇◆
ということで、時間が無いので早速訓練と城壁の作成にかかりました。
「いいの、本当に?」
「そんなこと言いながらお前ものりのりじゃないか」
テンコはこれ幸いと布教に勤しんでいる。
「イーリス教、イーリス教をよろしくお願いします。イーリス教は虹の神、そして冒険者の神でもあるのです。ほら私のような子供でも…」
『リザレクション!』
「このように伝説の魔法を…」
いいのかな、このままほっといて…
「あの子達にリザレクション教えたのあんたでしょ?」
「いやだってアレは必要だろ?アレさえあれば死ぬことがないんだぜ?」
「伝説の魔法の大安売りねえ」
子供達も戦闘に巻き込まれる可能性があるから、まっさきに魔法を教えぬいた。
「さあみなさん、剣を取るのです。私たちが造った街、このままモンスターに蹂躙されても良いのでしょうか!」
神父様もおお張り切りだ。
しかし…
「なんであんなかっこなんだ?」
女の子達は分かる。イーリス教、こっちの世界の神様はよく知らないので、日本の神道を基にした。そのため女の子は巫女さん風の衣装になったらしい。
だが、
「どうして男は武士なの?」
ちょんまげこそないが、武士の着物、しかも浪人風。
「だって神主の服装ってなんかやぼったいもの」
お前の趣味かよ!いや分かってたけど。麻呂姫も喜びそうだなあ。脇差まで挿しちゃってまあ。
「大奮発よ。あの脇差と巫女さんの懐刀に私の力を宿してるの。人や物を切ることができない代わりに、虹色の防御壁を作り出せるようにしてるの」
「それ、刀である意味ねージャン?」
「ばかねえ。私の教えは不殺の教義よ。攻撃する力を持ちながら守りのみに使うって意味も込めてるの」
「マジでか。そんな深い意味があったとは…お笑い天使にしてはやるな」
「あんた、普通に人のことも褒めれないの?」
いや、だって、普段のテンコを見てるとナア。こないだ、うとうとしてて木から落ちてたし。サルも木から落ちるならぬ、天使も空から落ちるって感じ?ほんと人が気持ちよく寝てるとこを落ちて来やがって。
「ああ、あれ、わざと落ちたの」
「ええっ!」
「あんたの幸せそうな顔を見てると、つい」
「つい、じゃねえよぉ!」
なんでこの世界の存在はオレを攻撃したがるんだ?ほんと、どいつもこいつも。
「ソーヤ兄ちゃんこれすごいね、岩でもスッパリだよ!」
そういって孤児院の子供が近くの岩をまっぷたつにする。
「ああ、でも絶対刃の部分に触んなよ。引いてなくてもスッパリいくからなら」
「大丈夫だって、たとえそうなってもリザすりゃいいし」
そういう問題じゃないのだが…まあ、命にはかえられまい。
魔力の少ない子にはマッスル達に剣を鍛えてもらってる。が、そうそうすぐに上達はしない。その為、剣に補助魔法をかける方法を考えた。
魔力が少なくても威力のある攻撃。ってことで、はい、よくある超振動ブレードを。
刃の部分だけに魔力まとい、振動させることにより、たいがいのものは切断できるようになった。
なに、子供にそんな危ないもの持たせてだと?そんなことは百も承知の介だ。しかし、今はとにかくモンスターの波を生き残ることが最優先だ。
あとはテンコになんとかしてもらおう。
「ほんと他力本願ねえあんた」
しょうがないじゃないか。できる奴にできることをしてもらう。そしてオレもできることをできる限りやる。うむ、ういんういんの関係でござろう?
「どこがよ?」
「おい、これオレ達が畑仕事して、あの子達が迷宮探索行くようになんじゃねえか?」
「あ、私、イーリス教に入会したんだー」
「ええっ、おまえ卑怯だぞ!?よし、オレも!」
布教活動は大変順調みたいだなー。
「ギルド長、どうでしょう、今日の揉み具合は?」
「うむ、くるしゅーないぞ」
背中が極楽である。
例の美人の受付穣はオレの秘書をやってもらってる。ギルドなんて運営できないしな。全部なげっぱだ。
「ゲボォツ!」
「ちょっと目を放した隙に何やってんのよあんた!」
「ファか。い、いや、ほら市場の視察をだな…」
「なんの市場よ?ほら、もう魔力も回復したでしょ、城壁造りに行くわよ」
もう少し、もう少しお休みを!
「そんなに休みたいなら、私が肩揉みしてあげようか?」
「はいっ!今すぐ城壁造りに行きます!」
こいつの肩揉み、オレの肩がつぶれる。伊達にマッスル達に鍛えられてないよな。
◆◆◇◇ 視点変更◇神父様 ◇◇◆◆
「それで状況はどんな感じなの?」
「はい、冒険者達はほぼ全員、波との戦いに参加してくれるようですわ」
「うむ、皆、モンスターの波については歯がゆい思いをしておったのだ。国軍が動いてくれれば我々とて…だがこの国はここを放棄しておったからな」
ギルド長の秘書達がそう言う。そうですか。それは良い事ですな。
これもソーヤ君やファンレーシアの女王様のおかげですね。
私もイーリス教神父として微力を尽くしますぞ。
「そう言えば女王様、帰んなくていいの?ここ危険じゃね?」
「あら、何をおっしゃいますやら。今この世界で一番安全なのはここでございましょう。唯一不満があるとしたら、愛する夫と共に居れないことぐらいでしょうか」
「…その期待が重いんですが。あと旦那さんとはテンコに麻呂姫と同じ奴貰ったじゃない。イーリス教を国教とする代わりに…」
女王様はソーヤ君のことを随分信頼していらっしゃる。いったいどこにそこまで信頼を寄せる理由があるのか。
「神父様はまだお分かりになってませんわねえ。ほらこれをご覧に」
「やめてよ!そんないいとこだけ抜き出した映像なんて!いやそういう風に作ったのオレだけどよ」
おお、これは!世界の一部を記憶できる装置でございますか!興味深い。
「そういえば黒騎士さんは?女王様の護衛してないの?」
「…プレミセンズは…今は使い物になりませんわ」
「ふむ?」
そう言うと女王様はどこか遠い目をして、
「なんでも子供ができたとか…日がな一日中、小さな妖精さんに頬ずりして…大の大人が見ていられませんわ」
「あー、うん。黒騎士さんは居なかった。うん、そういうことにしておこう」
かってに亡き者してよいのですかな?
「ギルド長、城壁の方の進捗はどのようになっていますか?」
「ああ、もうあらかた完成だ。とはいえ、城壁まで辿り着かれたらオレ達の負けだがな」
「なにゆえですか?城壁を中心として守りを固めるのではないのですか?」
城壁に辿り着かれた終わり?それならなんの為に作ったのやら。
「戦闘は今、魔術師達で構成してもらっている防御結界を中心として行う。城壁よりさらに先で防御結界を張り、そこに穴を開けて、少しずつモンスターどもを入れて殲滅だ」
なるほど、数は圧倒的に向こうが上ですからな。侵入経路を点とすれば、その数も脅威とはなりますまい。
「城壁はその防御結界が破られたときの保険だ。もしそうなったら、街を放棄して逃げる!」
「逃げるですか。本当に迷宮に逃げ込むので?」
ソーヤ君の発想はほんととんでもないですな。
なんでも30階層のボス部屋が結構広いとのことで、そことこの街の中心とに転移魔方陣をセットしたようなのです。
そして、いざとなった時はそれを伝って、迷宮へ逃げ込むと。
「ああ、マッスル達と上級冒険者達に交互に30階層のボスは殲滅してもらってる。モンスター共も、まさか迷宮のそんな深いとこまで逃げ込んでるとは思わないだろう」
「でもそれですと、ここをスルーしたモンスター達が近隣の村々を襲うのでは?」
「それについては、神父様」
おや、私の番ですかな。
「ただいま近隣の村々には我が子供達が向かっております。説得を行った後、こちらへ来てもらう手はずとなっております」
「王都の方については、なんか立派な防御結界があるってんだから大丈夫じゃね?それに、あいつらたぶん、ここいらの人たちを生餌にしてんじゃないかと思う」
生餌とな?
「なんせ何度もここらへん滅ぼされてんだろ?まあ、この街は冒険者が立ち上げてるからともかく、近隣に村を作るなんてありえねーだろ。しかも防備はさっぱりだし」
なんと!そのようなことが…言われてみれば…
「まあ、その頃にはアーチェ達もこっちについてんだろ。なんかあっても天罰ってことで。大丈夫、死人は出ないと思う。思いたいな…」
「死ななきゃいいってもんでもないけどねぇ」
「…今日のお前が言うなよスレはここですか?」
テンコ様とソーヤ君は仲が良いですなぁ。
「で、こちらからの攻勢についてだが、それは一度交戦してから考える。向こうの戦力とその時点でのこちらの練成度を考慮してからだ」
「そのままずっと防衛に徹しないので?」
「時間が経てばきゃつが…きゃつらが来る!それまでになんとしてでも終結させねば!なんかすごく嫌な予感がするんだよ…」
きゃつとな。ソーヤ君は震えながらそう言う。それほどのモンスターが向こうにおられるのですかな。
「それでは本日の会議は終了と致しましょうか。ほらギルド長何も怖いことなんてありませんよ。ほら私に掴まってください」
「あんたはどこの麻薬中毒者なのよ?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おや神父さん、会議は終了なの?」
「ああ、あなたはマッスル達のお師匠殿の…」
「ええ、この子達が神父さんを探してたようだから連れて来たのよ」
おお、それはありがたい。
「神父サマー、近隣の村々の人の説得は大体終わったってー。今、転移魔法で続々とこっちに来てもらってる」
「ふむ、まだ来るのは早いのでは?」
「とりあえず、転移魔法の効力のお試しだよー。夜には帰るって。でもみんな驚いてたよー」
そりゃそうでしょうな。
「あと、今は簡易魔方陣なんで、ちゃんとしたのソーヤ兄ちゃんに作ってって」
「ええ、伝えておきましょう」
「ふむふむ、なるほどそういうことになってるのね」
テンコ様がお師匠殿に先ほどの話を説明しておられる。
「まずは守り、そして逃げるルートの確定、そうやって初めて攻める方法を考える。うーん、ソーヤってあれね、なんか男らしくないというか」
「そうよねー、ほんとチキンハートって言葉がぴったり」
「慎重派って言えよな!」
おや、ソーヤ君、体の震えは止まったので?
「人を麻薬中毒者みたいに…そうだ、お師匠さん、メテオは出せるようになったの?」
「さっぱりね。詠唱中にぶったおれるわよ」
「フレアは撃てるんだっけ」
「連発はできないわよ?」
メテオですか。聖女様は撃てるのですよね?それならば、やはり聖女様達をお待ちした方が…
「そのメテオがオレ達の頭上に降り注がない保障がないからなあ…そうだ、アブソリュート・フレアは?」
「あんたバアカァ?原始の炎ですべてを焼き尽くすって?そんなの人類で使える奴が居る訳ないじゃない」
「そうなのか?あのじいさんくさっても最古の存在ってとこか…まあ、ユーリはなんともなしに受け止めてたけどな」
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
「えー、ただいまより戦闘についての注意点を発表しまっす」
「どこの学芸会よ?」
うっさいなー、人前で話すの苦手なんだよ。
つーか初めてじゃね?こんな大勢の前で話すのって。やばいトイレ行きたくなって来たぞ。
「ほんと、しまらない奴ねえ」
「まあ、いいや。とりあえず対策についてだ」
「あんたのその切り替えの速さは感心するわー」
「ごちゃごちゃうるさいぞ、邪魔すんなら向こう行けよ」
「じゃあそうしましょうか」
「あ、やっぱり一緒に居てください」
こんなとこに一人ぼっちにするなよぉ、心細いだろぉ。
「おーい、俺達は漫才を見に来たんじゃねえぞう」
冒険者の一人がそう言うと、回りに笑いが広がる。
「おい、お前のせいで笑われたじゃないか。あだだだ」
「へらず口をたたくのはこの口かしら?」
オレがギルド長になって数ヶ月、いよいよ、モンスターの進軍も始まろうかという頃、戦闘参加メンバーに城門に集まってもらった。
「いいのか、あんなんがギルド長で?」
「まあ、いいんじゃねえの?実力はお前も知ってるだろ」
「ああ、俺の攻撃がかすりすらしないとはな」
冒険者の連中、俺がギルド長なのが不満なので、何かっていうと攻撃してくんだよな。模擬戦までやらされて。
「ああ、私が文句あるなら一発入れれてみって言ったのよ」
「お前が原因か!」
まあ、模擬戦では、立体映像と隠蔽魔法を駆使して、観客席で見てただけなんだけどな。
いやー、立体映像で映したオレの映像に向かって、いくらブンブン剣を振り回してもあたる訳ないじゃない?
「あんた、そればれたら袋叩きになるんじゃね」
「しー、黙ってろよ」
ばれなきゃ大丈夫。偉い人は言ってた…っけ?
「まず、戦闘方法だ。冒険者達や兵士など実戦経験のある奴は初戦はサポートに徹して欲しい。まずは今回の訓練で、初めて戦う奴らを表にだす」
「お、おい、いきなりかよ?」
城門に集まった人達はざわめく。だってお前ら言う事聞かないだろ?
ここ数ヶ月の訓練ですっかり自分達は強くなったって勘違いしたやからが急増して、戦闘に立候補して来た。
こないだまで畑耕してた奴がモンスター狩れる訳ねーだろ?
仕方ないので、いっぱつ痛い目を見てもらうしかない。後々になるととんでもない事しでかしそうだしな。
「その代わり、少しでも傷を負ったら転移石で即効転送させること」
孤児院の子供達は医療室で待機、転送されて来た人をリザで治す役割だ。よほどのことがあっても大丈夫だろ。
しかし、今回のオレ働き者だよな。城壁に、転移石に。ちょっとは褒めてくれよぉ。
「はいはい、えらいえらい」
「…バカにしてねーか?いいけどよ」
と、そこへ馬に乗った兵士が駆け込んで来て、
「ソーヤ殿、モンスターの進軍が開始されました!」
そう言ってくる。いよいよ来たかぁ。
「細かい話は各部隊長に説明してある。後はその指示に従うように」
オレは台座より降り、早速城壁の会議室へ、
「魔術師達の防御結界は?」
「すでに発動作業中です。あと10分もすれば可能かと」
「部隊配置はあと30分ぐらいだな。敵の襲来には十分間に合う」
「医療班配置済みです!」
うむ、オレが居なくてもいいんじゃねこれ?
「じゃあオレは前線に行ってくるわ。うまくモンスターどもの攻撃で結界に穴が開いたって感じに見せないとな」
「あんたの三文芝居で大丈夫なんかね」
向こうはモンスターだし大丈夫じゃね?どうせ脳みそは大してない、と思う。
そうしてやって来た前線。
「あれ、ソーヤ兄ちゃんが先駆けやんの?」
「いやいや攻めないからな。今回は守るだけだぞ?つーかなんで居るのお前」
そこには孤児院の子供の一人が。
「ソーヤ兄ちゃんでもやれるんだ。オレだって!」
いやいやダメだろ。
「なかなかに筋はいいぞ。ファネスほどではないが、そこそこいけるのではないか」
「そういう話はこの戦いが終わってからな。つーか子供を参加させちゃだめだろ?」
「お主もファネスも子供ではないか?」
いやまあそうなんだけど。
「ソーヤ、敵はあと30分程で来るわ。見たところ今回は雑魚ばかりよ」
そこへ、馬に乗ったファが駆け付けて来た。
「お前、どこ行ってんだと思ってたら斥候やってたのか。あんま危ないことすんなって」
「なに言ってんの、今の私ほどの適材な人物は居ないでしょ。テンコ様にもらったこの天羽々斬。これがあるかぎり、私に傷一つつけられやしないわ」
それ作ったのオレだけどな。そこへテンコが例のレインボーな防御結界を張れるようにして、攻撃力も倍増させたらしい。そのシリーズで唯一攻撃にも使える刀だとか。
それにしても天羽々斬カー。あいつどういう意味でこの名前付けたんだろな。たしか剣の始祖とか?これから多くの神々が作られたとか?妙な事考えてなければいいが。




