第四章 天使の加護
◆◆◇◇ 視点変更◇テンコ ◇◇◆◆
「分かった、お前と契約しよう。これからは俺たちのパーティの一員だ」
「良いのか?」
「これだけのことができるのだ。もはや年齢は関係ないだろう。それにほっとくと一人でも行きそうだしな」
「いや一人は無理だって。じゃあ契約祝いに魔法を一つ教えとくよ。オレが居ない時にやられたら困るし」
「魔法?はっはっは、我らマッスル3人衆に魔法など使える訳がなかろう」
「やっぱり、マッスル3人衆って呼ばれてんだ…大丈夫、魔力はかぎりなく少ないけど、0じゃない。命中のみに特化する補助魔法ぐらいなら覚えれるって」
「それは誠か!?」
あの子またチートを量産しようとしてるわねー。まあ、いいけど。
「テンコ姉ちゃんそんなとこに上ったらあぶないよう」
子供達が木の上に居る私に向かって言ってくる。
最初は子供なんてって思っていたけど、相手してると結構楽しいものね。
私が生まれたのは、ずっとずっと森の奥。最初、ゴッドパワーでさっさと成長して探しに行こうとしたら、力が無いんでやんの。ほんと焦ったわねえ。
結局、他の兄弟達と一緒に成長するしかなくて…ほんとあいつらったら、私のことつつきまわりやがって!ちょっと容姿が違うぐらいでハブにしなくてもいいでしょ!わたしゃみにくいアヒルの子か!?
まあ、なんだかんだ言っても情も沸いたし、少しずつ溜めたゴッドパワーも、出て行くとき半分ぐらい置いてきてあげたんだけどね。あの子達今ごろ何してるかな。回りのモンスター鬱陶しいのが多かったからねえ。
そうして辿り着いた人間の町では、私のこと剣や槍でつついてくるし、変な信仰の仕方ねーとか思ってたら、あれ攻撃してたのねえ。まあ、現地の人間と交流する気がなかった私が悪いんだけど。
そうして見つけたターゲット、これで元の世界に、とか思ってたら、まさかのワンキル。一回死んでるとは。しかもそこで私の力を置いて来たとカー。
神の力を持ってながら何やってんだが。普通ならこの世界を支配していように。さっさとこのつまらない世界からおさらばしたかったのに。
と、今まで思ってた訳だけど。
「おいテンコ、そんなとこ登って何やってんだ。あれか?なんとかは高いとこが・あべしっ」
失礼な奴にはとび蹴りね。
「うぉい!木の上から加速してとび蹴りとか死ぬだろ!」
「大丈夫よ。あなたには私の加護がついてるから。死ぬこと”だけ”はないから」
そう、たとえ首が取れても死ねないから。
「…お前、前世は拷問官か何かだろ?あだだだ」
でも、なんかこいつと居ると楽しいのよね。少しぐらいは寄り道もいいかね。
「そんなことより、またチート増やしてるの?」
「…まあ、大人だし大丈夫だろ」
「そんなこと言いながら、こないだ子供達にも教えてたじゃない」
「よく見てんな」
そりゃー、あんたの行動監視するのが私の生きがいだしー。
「嫌な生きがいだな。攻撃魔法じゃないから大丈夫だろ。回復、浄化は必須だ。何はともあれ、命あってのものだねだしな」
「そうね。あの子達もあなたと離れて過ごす事になって、少しはましになるでしょ。私に感謝しなさいよぅ」
「何言ってんだか。恨みならあるが感謝など。いや、結果だけなら感謝しないといけないんだろうが」
そうよ、そうよ。崇め奉りなさい!
ああ、そうね。あの子達にもちゃんと言っとかないとね。フラグも折っときたいし。
「それじゃ、ちょっくら行って来ますか」
「どこに行くんだよ?ちゃんと夕飯にはって、食べなくていいんだっけ」
「そのときには帰って来るわよ。下僕からの奉仕を受けないとね。ちゃんと私の分も用意しときなさいよ」
「だれが下僕なんだか。ようし、たっぷりと唐辛子を…あだだだ、羽飛ばすなって!」
ということでやって来ました、アステリア王都、アステリア・バームへ。
「ちょっと誰よ、私の結界破って入って来るのは?」
「私よ!」
『サンダーバースト!』『デビルダム!』『魔刃剣・一閃!』
うぉっ、こわっ!リミッターかけといて良かったわぁ。
「ちょっ、ちょっと三人ともぜんぜん懲りてないよね?」
うん、このユーリって子だけはちゃんと成長してまあ。いいんじゃない?ヒロインが男の娘でも。
「モンスターよ?それも結界破ってきた侵入者よ?私達間違ってないよね?」
「そうでおじゃる。ここは王族の寝室でおじゃるぞ。無断で入ってくる方が悪いでおじゃる」
「ぎりぎりぎり。お父様をお返しなさい!」
「まあまあ落ち着きなさいって。今日は話し合いに来たのよ」
「話し合い?」
そうそう、話し合いね。
「あなた達、ソーヤと別れたくはないよね?」
「当然でしょ!連れて帰るってんなら、たとえ神様だろうと闘うのみよ!」
…この娘の全力なら、私も危ないかも?あの子、ほんととんでもない化け物作ったわね。
「そこで相談なの。ソーヤは私を神として認めたわ」
そう、どういう経路、内容であるにしても。
「あなた達にも私を認めてくれることができれば、別に帰らなくてもいいかもなのよ」
「えっ、それじゃあ連れて帰るってのは…」
「なしにできるわね」
子供達はひそひそ相談し、
「その話本当なのよね」
「ワタシカミサマ、ウソツカナイ」
「あやしいわねえ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「本当の話よ。私とソーヤは本来この世界の者ではない。だからいつか世界から排除されることになる。でも、多くの人が私を信仰してくれるなら、私はこの世界の存在となることができるのよ。そーなれば私の使徒として、ソーヤもこの世界に居続けることが可能となる」
「分かったわ、あなたに賭けてみる」
「アーチェ!?」
ふむ、この娘…
「私実は、ソーヤとの結婚式の夜、不思議な体験したの。そこにはこの世界の神様とか言うのが居て、その人の言うことには…いずれソーヤは世界から排除されるかもしれないって」
「それでこないだ慌ててたのか。なんかアーチェらしくないとは思ってたんだ」
「あなたならそれをなんとかできるかもしれない。そういうことね」
この娘がソーヤに執着してるってことはそんな理由もあった訳ね。
「私、アーチェス・アングローバーは…えーと、テンコと言う神…テンコはないわよねえ」
そうでしょう!あの子ほんとネーミングセンスないよね。
「んー、イーリスとかどう?」
「あら、いいわね。確か虹の女神だっけ」
「そうね。巷では私のこと、破壊神の聖女とか言ってるのよ。失礼しちゃうわよねー」
うん、それは間違ってないかも。
「ここらで、私は虹の聖女ってことにしたいのよ」
「アーチェが虹?そんなかわいらしいのは…」
「なによう」
虹、虹ねえ。そんじゃこんなのいってみましょうか。
「うわぁ、なにあれ、神殿の上空に無数の虹が!」
「どう?すごいでしょう。これぞ私のゴッドパワーよ!」
「ゴッドパワー…すばらしいわね!」
「ちょっと、アーチェとあのエンジェル、やけに意気投合しておじゃらぬか?」
「そうだね。…根本的なとこが似てんじゃない?」
「それは…お父様も大変ですね」
なにようあんた達、陰口はだめよぉ。
「じゃあ、あらためてよろしく!私はアーチェス・アングローバー」
「麻呂はリーシュフェール・フォン・アステリアでおじゃる!」
「ぼくはユーリ」
「セイカです」
「シュリだよー」
よし、それじゃあ4人とも私の加護を与えるわね。シュリちゃんはこの世界と密接に関わってるから無理だけど。
「私の真名はテンコ。あなた達を私の眷属とします。っと、これで正式に加護がついたわよ」
「それはリミッターのことでおじゃるか?」
「それもあるけどね」
この娘の信仰を得られたことで、随分力が溜まったから奮発したわよぉ。
「まずはユーリ」
「ぼく?」
「あなたには、16歳になったとき……性別を選べる権利をあげたわ!」
「ええっ!?それはホントに!…テンコ様一生付いていきます!」
ふっふっふ、そうよ、崇め奉りなさい!
「つぎにセイカちゃん」
「はい」
「あなたの聖剣をゴッドスレイヤーにしてあげたわ!」
「は!?それはいったい…」
もしもの時の為にね。
「万が一、この世界の神とか、それに順ずる者にソーヤが狙われたとき、その剣ならそういった者を滅ぼすことができるのよ。それ以外じゃ歯がたたないでしょうしね」
「それは誠ですか!?」
「でも、私に向けちゃやーよ。私が居なくなったらその力も無くなるからね?」
一瞬抜こうとしやがったなこいつ。
「次にリーシュ姫」
「麻呂の番でおじゃるな!」
「あなたの持つオリハルコンの指輪。それに魔法をかけてあげたわ」
「ふむふむでおじゃる」
さすがオリハルコン、大概はいけるわね。
「どんなに離れても、どんな状況でも…それと対になっている相手と繋がることができるようにしたわ!」
「なんと!?それでは麻呂は、どんなに離れていてもソーヤと一緒に居ることができるでおじゃるか!」
「そうよ。その指輪にソーヤと繋がるよう念じてみなさい」
リーシュ姫がじっと指輪に念じる。すると、半透明なソーヤが浮かび上がり、
「うぉっ、何だ急に!指輪が光りだしたかと思ったら、麻呂姫…?なんだこれ立体映像か?」
「ほんとに繋がったでおじゃる!」
「これでいつでもソーヤとお話ができるわよぉ」
「わが国の国教はイーリス教にするでおじゃる!」
あら、悪いわねえ。
「なんでテンコがそっちに?さっきまでそこに…あれ?あれ?」
私のゴットパワーをなめちゃあ困るわね。こんぐらいおちゃのこさいさいよお。
「なになに?え、テンコに加護を貰ってるって?おい、あんま変なことすんなよ!お前も責任もてよ!?」
うっさいわねえ。ちゃんと考えてるわよ。大丈夫、大丈夫。
「そう言う奴は、たいてい大丈夫じゃない」
「それじゃあ、最後にアーチェ、あなたには…」
「私には…」
「どこでも、どんな形にでもできる、虹を出せるようにしてあげたわ!」
「え、ほんとに!?やったあ!」
「また微妙な…」
この娘には微妙なぐらいがちょうどいいでしょ?
「うわっなんだこれ、目がぁー、目がぁぁー!おい、なんか視界がレインボー!ってこれ前にもやったような…」
「ソーヤの瞳の中に作ってみたの」
「みたの、じゃねえぇえ!!」
…この娘さっそく攻撃型に使ってるわね。そういえば静電気ぐらいから、核爆発並みの威力に昇華させたんだっけ。…もしかして早まった?
「早く解除しろよ!これ、まぶた閉じてもレインボー。目が疲れるというより、気が狂う」
しかも結構な威力なこって。
「なんかそのうち不可視のレインボーとか言って、すべてを切断させたりしないだろうな」
「ちょっと、何フラグ立ててんのよ!私知らないわよ!?」
「…これでアーチェが何かやっても責任は半分こだな」
あ、ずるい。
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
「そうだ、テンコ。アステリアに居るんだったら、セットしてる転移魔法の魔石持って帰ってくれないか」
「何言ってんの?私自分のこと以外じゃ働かないわよ」
そんぐらいいいだろ!ほんと神様ってやつぁ融通が効かないのな。
「ねえあなた達、ここからソーヤが居るとこまでどれぐらいかかるの?」
「パルテニアス・エードまででおじゃるか。普通に行けば一年以上かかるでおじゃる。さすがに地の果てておじゃるからのう」
「一年ねえ、ちょうどいいんじゃない。あんた達が魔石運べば」
え、そいつらに運ばすの?
「ソーヤと1年も離れ離れなの?」
「遠く離れたことによって見えて来る物もある。近すぎて分からなかった大切さが。そして燃え上がる二人の恋心!」
「ほんとに!?」
そんな訳ねーだろ。あんまからかうのはよしてやれよ。
「まあ、リーシュ姫のあれでいつでも会えるじゃない。ソーヤと少し離れて、自分達の力という物を、一度見つめ直した方がいいわよ」
「いつでも会えるって言っても、触れることはできないでおじゃるが」
「そうやってじらしておけば、会ったときに厚い抱擁を!」
「ほんとでおじゃるか!?」
しねーよ!お前、適当なことばっか言うなよ。
「まあ、私にもいろいろ制限があんのよ」
「もうお前そっちで暮らしたら?」
「いやよ。なんかあったらやばいじゃない」
やばいことした認識はあるんだな。
「ほんとにそっち大丈夫か?あんま無理スンナよ」
「ソーヤってほんと心配性ねえ。大丈夫!しっかりこの虹進化させとくから」
アーチェがそうだからよけいに心配なんだが。
まあユーリが居るからそうそう変なことにはって、ユーリがなんか変だな。
「あと6年…あと6年経てば!まっててねソーヤ」
壁に向かってなんか呟いている。テンコ、お前ユーリに何やったんだ?
「ねえ、シュリにはー?シュリにはないのー?」
「シュリちゃんはねえ、私と似たような存在だから、無理なのよー」
「えー」
ん?シュリがテンコと似たような存在?どういうことだ。
「なにをやっておるのだ?」
そこへアルシュラン陛下が入って来て、
「む、ソーヤ帰って来ておったのか。…少し見ないうちに薄くなって大変だな」
人をハゲみたいに言うなよ!
「なに?半透明なのは別の場所?パルテニアス・エードからだと!ソーヤ…いい加減、変な魔法をリーシュに覚えさすでない」
違うぞ、オレじゃないぞ。疑う気持ちがよく分かるが、今回はオレじゃないぞ。
「まあ、ちょうどいい。実は今度、聖女親衛隊を組織しようという話になっておってな」
「ええっ!?なんでそんなことに?」
「貴族どもが組織化が必要と言って来てな。ちょうどいい、訓練も兼ねてそちらへ向かわすことにするか」
体のいい、厄介払いとか思ってないよね?
「パルテニアス・エードか…虎の子の魔石を出すか。そこに在るのは、世界最難関とも言われている迷宮、それとアステリアがつながればとてつもない発展が望めるな」
「虎の子の魔石?」
「こないだの迷宮攻略のラスボスの魔石だ」
ええっ!?そんなにいいもの使わなくても…
「一個師団が送れるくらいの範囲で頼む」
「戦争でもする気?」
「その街はな、一応パルテニアス国に属しているが、見捨てられているのだ」
見捨てられてる?
「魔境から定期的にモンスターに襲われている。にも関わらず国軍を置かない。その都度その街は滅び、また、冒険者により再生されているのだ」
「ええ、滅ぶの?ここそんなヤベーとこなのか」
「うむ。今のわが国なら十分守れるだろ。ソーヤも居るしな」
オレが居てもどうにもならんぞ、それは。
「おい、テンコ。ぐだぐだ言わずに魔石持って来いよ。襲われたらひとたまりもないぞ」
「いやっぷー」
「…寝てる時に、頭の輪っか飛ばして遊んでやる。あだだだ、なんでここまで羽が届くんだ?」
羽の変わりに魔石飛ばせよ!
「まあ、こないだ襲われたのは20年前と聞く。だいたい周期は50年だ、しばらくは大丈夫であろう」
そうかなあ。こういう時に限って来そうな気もするが。




