第一章 新たなるステージへ
「りーママー、これもおいしいねー」
「そうでおじゃろう、そうでおじゃろう。なんせ取り寄せるのに100万かかったでおじゃるしな」
高価なおかしだな。そのうち、パンがなければケーキを食べればいいじゃないとか言いださないといいが。
前回の迷宮での一件、麻呂姫がシュリに知らない人って言った発言が尾を引いて、シュリが麻呂姫に冷たく当たるもんだから、麻呂姫がご機嫌取りに世界中のうまいお菓子を集めてシュリに与えご機嫌取りをしだした。
その甲斐もあってすっかり仲良くなり、りーママとか言われて慕われだした。すると調子に乗って、王族パワーでどんどん高価なモンも与えるようにもなった。
あんまり子供を甘やかしちゃダメだぞ?麻呂姫はあれだな、超過保護の母親になりそうだな。
「次はこれなんでどうでおじゃるか?」
「うん、食べたいー」
しかし、まあ、
「シュリ」
「なあに、パパ」
「ちょと、空飛んでみて」
「急にどうしたのぉ?よいしょ」
パタパタパタ、ポテッ、ゴロゴロゴロ。
「「………………」」
「りーママー、りーママー、パパがシュリのことDEBUっていう」
「ダメなパパでおじゃるな。めってするでおじゃる、めって」
いや、やせろよな。
うちの妖精さん、ピクシーって感じだったのが、ノームっぽく。
「ほらソーヤ、シュリちゃんいじめちゃダメじゃない。子供はね、少々ぽっちゃりしてるくらいがちょうどいいのよ」
アーチェがそう言ってくる。少々ねえ…まるでボールみたいに転がったんだが。
ん?そいうやアーチェの顔も少し丸くなったような?
オレはおもむろにアーチェのお腹を掴み、
「………………」
ついでに麻呂姫のお腹も掴み、
「………………」
「おいっ、やめろよ!二人してオレのお腹を掴むなよ!オレはお前達みたいにDEBUってないぞ」
「「誰がデブだって!!」」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ソーヤ兄ちゃん、どうしたのそんな顔して。私が直してあげようか?」
「ありがとな。でもこれ魔法で直んないんだわ」
「ああ、またアーチェなのね」
ほんとあいつの攻撃どうなってんだろな。
ちなみにこの子は元宿屋の娘で、今はオレ達の住処、そう空中神殿のお手伝いさんをやってもらってる。
空中神殿ですよだんな。浮いてますよ?街の郊外で浮いてて、ほんといつ落ちるかひやひや物だったが、今のとこその兆候は見られない。
むしろ、アーチェの魔力を吸い取って浮いてるから、最近アーチェの無茶振りが減って、空中神殿様々である。
気になるのはそのアーチェの魔力だか、空中神殿に吸い上げられ始めて暫く経ったころ、オレのサーチで判定不能になった。今どんぐらい魔力が上がってるのか分からない。こええなあ。
もしかして、使えば使うほど増えてたりしないよな?
「じゃあ、これ湿布ね」
「おお、気が効くな。さすがおかみさんの娘だな」
「えー、そうでもあるかもー」
うん、連れて来て良かったな。
オレ達が神殿に居を移すとなったとき、随分暴れてな。結局お手伝いさんとして一緒に来てもらうことになった。
「かあちゃんと一緒じゃなくても不便してないか?」
「うん大丈夫だよー。お城から来た人も私のこと大切にしてくれるし」
この子、気立てもいいし、オレが生活用の魔法を教えまくったおかげで、神殿内どころか、王宮まで引っ張りだこらしい。
「あ、お父様これからお出かけで?」
「セイカか、アルシュラン陛下の訓練はもう終わったのか?」
「はい、最近は免許皆伝とか言われて、あんまりすることがないのです」
免許皆伝って…セイカの歳いくつだっけ?
「こないだ8歳になりました」
8歳でかー。たしかアルシュラン陛下ってこの国のトップクラスの剣士だったよなあ。セイカ大人になったら何になるんだろなー。せめて人であって欲しい。
「あ、でも来月には、神帝国から剣聖様が来られるらしいです。そうなればもっと強くなれますよね」
…それ以上強くなってどうするんだ。君はいったい何と戦うの?やめてよ変なフラグは。異世界人とか、魔王とか、神様とか、そんな連中と戦うとか勘弁して下さいよ。あ、異世界人はオレか?
「そういや、ユーリはどうしたんだ?一緒じゃなかったのか」
「ユーリさんは、なんか街中にモンスターが出現したとかで、そちらに向かいました」
「えっ、街中に?セイカは行かなかったのか」
ここって確かモンスターが入って来れないように、大層な結界を張ってるとか聞いてたが。
「ユーリさんが…」
ユーリが?
「街中は危険だから帰るようにと言われまして」
危険…危険かあ。そうだな、セイカが街中でアレぶっ放したら、街が危険だな。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「それじゃあ、ちょっくら見てくるわ」
「えっ、お父様が行かれるので?それなら私も」
「いやいや、危険だろ?(街が)大丈夫、向こうにはユーリが居るし、万が一もないから」
と、元宿屋の子が、
「あっ、そういえば街に買い物があるんだった。ソーヤ兄ちゃん一緒に行っていい?」
「おー、じゃあ一緒に行くかー」
「…なぜです?なぜ私だと危険で、なんの力も無いその子なら大丈夫なのですか?」
危険な物が違うからな。
「わー、久しぶりだね。二人っきりなんてまるでデートだね!」
「ギリギリギリ」
「せ、セイカも今度どっか連れてってやるから」
そのすぐ、剣に手が行くのやめような。
オレと元宿屋の子は地上への転移魔方陣に乗り、王宮へ転移した。
「あら、ソーヤお兄様。これからお出かけで?」
王宮では、委員長の妹さんが大きな旅行バックを携えていた。
「ん?そっちもどっか行くのか?ずいぶん大げさな格好だが」
「はい。ベルガンディアに少々用事がありまして」
ベルガンディアに?なんかいやな予感がするなあ。
「えっと何しに?いやいい、やっぱ聞かない!」
「お姉さまとお兄様の婚姻の日取りを」
「聞かないつってんだろ!誰だよそのお兄様は?」
「そりゃー」
―――ダッ
『マリオネットダンス!』
なんでお前まで使えてんだよその魔法!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「まったく勝手なこと言う子ねー。ソーヤ兄ちゃんの3番目は私なのにね」
なんだよ3番目って、いやもう聞かない。
なんとか委員長の妹さんを巻いて街に向かったのだが、
「ずいぶん慌しいなあ。そんな大物が来てるのか?」
街の中では、衛兵さんが大声を出しながら走り回ってる。
「とりあえず先に買い物すませるか?」
「この状況で店開いてるかなあ?」
ふむ、そういやどこのお店もCLOSE状態だな。
しゃーない、さきにモンスター見物に行くカー。
と、野次馬根性まるだしで見に行ったのだが、
「なんだあれ?天使…?」
そこには、街の兵隊さんに囲まれた、羽根付き、輪っか付きの天使風の姉ちゃんが居た。
「ちょっとそこの子、今天使つったわよね?ね!?」
その天使のコスプレした姉ちゃんがそう言いながらこっちに来る。って、日本語?今、日本語で話しかけられたぞ。どういうことだ。
「ああ、やっぱり…やっと見つけたわ…苦節11年、やっと…やっと元の世界に帰れる!」
「ちょっとソーヤ危ないよ。そのモンスター、まったく攻撃を受け付けないんだ」
「えっ、モンスターってこれのこと?ただのコスプレしたねーちゃんじゃねえか」
「誰がコスプレよ!」
ユーリがオレの前に立ち盾を構える。が、
「なっ、ボクのアイギスが!?」
おお、核爆発クラスですら堪えれる、ユーリの盾が易々と突破される。
「あんた本当にモンスターなのか?」
「なんでモンスターなのよ!こいつらもしかして、私のことモンスターって言ってたの?失礼しちゃうわね!」
そう言って背中の羽を見せ、
「ほらほら、どう立派な羽でしょ?それにこの天使の輪っか。どう見ても神の御使い、エンジェルでしょうに」
「うん、良くできたコスプレだな」
「だからコスプレじゃねーって言ってるだろ!」
ずいぶんドスの効いた天使なこって。
「ソーヤ…そのモンスターと会話できてるの?」
「ん?そういや久しぶりに日本語使ったなあ。何年ぶりか。なんか自称天使って言ってるぞ」
「天使?エンジェルだよね?」
ん?エンジェルだが?
「エンジェルといえば、アンデット系でも高位にいるモンスターで…」
そういやこの世界じゃ、神様の使いが天使ってのは聞いたことないな。まあ、背中に羽生えて、魔法使って襲って来たら十分モンスターだわな。
「ちょっと何言ってるのよそいつ。通訳してよ」
天使の癖に他言語分からねーのかよ。
「こっちの世界じゃ、背中に羽生えて、頭に輪っかがある奴は、モンスターなんだってさ。あと神様は偶像崇拝じゃねえから、御使いもいない」
「マジでぇ?」
「マジ」
天使の姉ちゃんは辺りを見渡し、
「じゃあこいつら、私を崇めてんじゃなくて…」
「うん、抹殺しようとしてる」
「不敬な奴ラメー」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「なんだその者、お前の知り合いだったのか?」
「フィフス殿下も居たのか」
「…居たのかはないであろう。いくら最近出番が減ってるといったって」
知り合い?知り合いかあ…うーん、前世の記憶を漁っても、こんなコスプレ娘会ったことないかなあ。
「で、どちら様で」
「天使ってつってんだろ?ほんと、話を聞かないわねえ」
そういうことを聞いてんじゃないんだが。
「私はね、あなたの居た世界の一部なの。急に異世界なんてもんに連れ出されると困るわけ。分かる?」
どっかで聞いた話だなー。お前まさか出歯神?いてっ。
「人を出っ歯の神みたいに言わないでよ。つーかなに出歯神って」
違う人?みたいだな。
「じゃあなに?お前、オレが居た世界の神様な訳?」
「その通りよ!あなたの魂を持って帰る為に、わざわざこの世界の住民に転生したのよ」
「住民じゃなくてモンスターな。あだだだ、オレに当たるなよ!」
間違ってモンスターに転生とか笑える神様だな。だからオレに当たるなって。羽飛ばすな!それ攻撃魔法だろ!!
「よし、お前達引き上げるぞ」
殿下が兵隊さん達に引き上げの合図を送る。
「殿下、よろしいので?」
「ソーヤの知り合いだろ?どうせ普通のエンジェルでもないのであろう。我々の手に負えぬしな。ソーヤに任せておけばよい」
「なんか異世界の神様だってさ」
「……よーし、それでは我々も引き上げるぞ。うむ、無駄な時間を浪費したな。ほらユーリも行くぞ」
あ、聞かなかったことにしやがったな。
「ほんと、ソーヤは誰とでも仲良くなるね」
「そうか?」
「こないだも自分を襲って来ていたアサシンさんと仲良く歩いてたじゃない」
全然仲良くないぞ。3歩あるくごとに1発攻撃されてたぞ?
「じゃあ、帰るわよ。ほら寄越しなさいよ」
天使もどきがそう言ってくる。
帰るってどこに?あと、何寄越すんだ?
「元の世界に決まってるでしょ?何あんた帰りたくないの?大丈夫よ、帰りたくなくても帰らすから」
それ、全然大丈夫じゃねえだろ!強制送還かよ!!
「ほらいい加減観念して寄越しなさいって」
「だから、何寄越せばいいんだよ?」
「この世界に来たときに、私から能力を吸い取っていったでしょ?」
誰ガだよ?そんな記憶は…ん?もしかして、ここに着いたばかりのチートって、異世界人補正じゃなく神の力だったっていうのか?ってことは…
「えっ、なに?一回死んで力をなくした?ハァ?あんた神の力持ってながら死んだの?ばっかでー」
「モンスターに転生した、お笑い天使には言われたくないなあ。あだだだ、だから羽飛ばすの止めろって!」
しかし、元の世界に強制送還かあ…なんとかならんかね?
「困ったわね、その力がないと帰れないじゃない」
おっ、それはいいことを聞いた、無いものは無いしな。おまえもこの世界を満喫すればいいじゃない?
「じゃあ探しに行きますか」
「えっ?」
天使もどきはオレを担ぎ上げ上空に飛び立ち、
「んー、魔力が濃いのはあっちの方かな。まあ、とりあえず行ってみますか」
「おいっ、どこ行くんだよ!ちょっ、びえええぇぇぇぇ・・」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「どこ?ここどこ!?つーかさぶっ、魔力切れて超さぶっ!おいっ、人間は空飛ぶようにできてないんだぞ!風圧やらなんやらで凍えるだろが!!」
天使もどきはオレを担いで超スピードで滑空した。とっさにシールド張ったが、魔力が切れたときはもう死んだかと思ったよ。痛いやら、凍えるやら。
「この辺りかねえ」
そう言って地面にオレを降ろす。どの辺りだよ?ん、なんか地面が生暖かいんだが。
「ここらがこの世界で一番魔力が強いとこねえ」
「どこに連れて来てんだよ!」
ここ魔境じゃねえか!うわっ、木よりも高いモンスターがうようよと。ジュラシックパークだなこれ。
と、突然地面が揺れだし、
「うわわぁああわ。ひー、地面が盛り上がるー」
「飛べばいいじゃない?」
なんでオレが飛べるんだよ!いいかげんにしろよお前!!
オレは天使もどきの足をガシッっと掴み、
「ちょっ、急に掴まないでよ!」
「なんだこれ?てっきりモンスターの背中とばかり思ってたのに…塔?」
少し離れたオレ達が見たのは、地面から隆起している塔のような人工物っぽい何かだった。
その塔はオレ達が離れた所為か、今度は徐々に地面に潜っていってる。
人間が乗ると隆起する塔かー、どんなトラップだよ!
「あの中にあんたの死体があるの?」
「死体捜してんのかよ!自分の死体なんて見たくないぞ。つーか、もう風化してんじゃね?」
「それじゃ、ちょっと入って」
「ないぞ!あんなとこ行ったことないからな!ほんと、どこだよここ!?」
魔境には違いなさそうだが。少なくとも人が住んでる気配がない。おお、向こうの方で怪獣大決戦してるや。
「じゃあ次は…」
「まてまてまて、別に飛んで行かなくても転移魔方陣でって、この距離を飛べるほどの魔石がないか?せめて魔力が回復するのをま・」
「向こう行ってみましょー」
「お前も人の話聞ない奴かー!」
オレは再び空の旅へ。生身で。




