第十章 迷える冒険者
◆◆◇◇ 視点継続◇ソーヤ ◇◇◆◆
それから二ヶ月ほどが経った。
「パパー、パパー」
そう、うちのシュリたんが言葉がしゃべれるようになりました。え?シュリたんて誰だって?やだなあ、うちの妖精さんですよう。
やー、かわいいのなんのって。
「パパー、みてみてー」
「んー、なんだいー」
と、突然体が輝いたかと思うと、鳥の姿に。
「え?元の姿に戻れるようになったの?」
鳥は、ブンブンと首を振って元の人型に戻り、
「ぷくー、違うもん。シュリこっちが元の姿だもん」
そう言って頬を膨らませる。かわええー。
「ママー、パパがシュリのこと鳥って言うー」
「ダメなパパねー。めってしましょ、めって」
「なんでおじゃるかあの甘い雰囲気は!」
「ちょっと姫様、アーチェさん出入り禁止にできないですの!?」
「くっ、もう少し、もう少しすれば麻呂だって…兄上!兄上ぇ、式はまだでおじゃるか!」
「うむ、今少し待つと良い。立派な式にしてみせよう」
なんで居るの兄上?ここ学園の教室ですよ?
「たまには良いではないか。父兄参観もアリであろう」
全然たまにじゃねーよな。このところずっと来てるような。
「おお、シュリよ。ソーヤに苛められておるのか。よし、今日から我輩をパパと呼ぶが良い」
「あ、変なおじちゃんだ」
「ん?我輩は変ではないぞ」
「パパがねー、変なんとかだって」
変態な。
「ソーヤぁああ」
「ひぃいいい」
「む、やはりここにおられましたか兄上」
殿下、助けて殿下!
「ダメですぞ、1人で王宮を離れられては。早急にお戻り頂きたい」
「仕方あるまい。それではセイカの教室にでも…」
「兄上…」
この陛下、もうつける薬が見当たらない。
「フィフスもどうだ。父兄参観もよいぞ?ユーリの教室になど」
「ふむ、それは宜しいですな!」
こっちもダメだった。あと、セイカもユーリも父兄にならないぞー。
「おっと忘れるとこだった。ベルガンディアの王よりソーヤ宛に荷物がな」
「クーリングオフで」
もうずっと忘れてればいいのに。出さなくてもいいよ。出すなっつってんのよ?
オレの心の声を無視してアルシュラン陛下は机の上に馬鹿でっかい箱を置く。
開けないからな?オレは開けないからな!
「そう言うと思って、我輩に開封許可を出していたぞ」
「無駄に用意周到な…」
陛下が箱を開けると、そこには…
「ウェディングドレス…?タキシードもあるな」
「まあ、叔父様ったら気の早い」
え?あの王様、委員長の叔父さんなの?親族って王様!?
「少し着てみても宜しいでしょうか」
委員長がそう言ってくる。いや、まて、このパターンは…
『サーチ!』
『祝福のドレス』
効果…愛する者と式を挙げるまで脱げることがないドレス。
注…愛する相手にもセットのタキシードが自動で着装されます。もちろん脱げません。
…きっとこの世界じゃ、祝福と呪いは同意語なのな。つーかあの王様、なんでこんな呪いグッズいっぱい持ってんだ?
「大丈夫ですわよソーヤ様。ちょっとだけですから」
そう言いながら委員長達がにじり寄ってくる。どうやらこの服の効果を知ったようだ。まあ、みんな普通にサーチ使えるしな。
「し、仕方ないなあ。ベルガンディアの王様からの品だしな。ちゃんと貰っておかないとな!オレに、そうオレ宛ての荷物だしな!」
そう言ってマジックバックに仕舞う。ふう、これ委員長宛じゃなくて良かった。
「ねえ、アーチェさん」
「なあに?」
「ソーヤ様、あのマジックバックいつも持ち歩いてるので」
「それがねー、しょっちゅう置き忘れるのよー。大事な物なのにねー」
「そこが狙い目ですね」
今度から置き忘れないようにしないと!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「え?麻呂姫が居なくなったって?」
式は明日じゃないの?せっかくベルガンディアまで行って、転移魔方陣セットして来たのに。
ベルガンディアから帰って来てくつろいでたところに、殿下が飛び込んできた。
「うむ、実は式を行う神殿の件でな」
「ふむふむ」
「この式の為にわざわざ新築したのはいいのだが」
「ふむふむ」
「式後の神殿の使いかたがバレてしまってな」
「ふむふむ」
「実は、式後はアーチェに篭ってもらうことになっておってな」
「ふむふむ、えっ!?」
なに?アーチェの神殿?なんでそんなことになってるの?
「歩くリーサルウェポンを放置しておく訳にもいかんでな。とりあえず建前上だけでも、そこに居るってことにしときたいのだ」
なるほど。隣に歩いている人が核ミサイルのスイッチを持ってるようなもんだしな。しかもかるーいの、そのスイッチ。
「まあ、閉じ込める訳にもいかんだろうし、出歩くときは変装とか、魔力を抑える道具を持ってとか考えていたのだが、これがリーシュの耳に入ってしまってな」
「麻呂姫にとっては、自分の式場だと思ってたのが、実はアーチェの神殿でしたということか」
「そういうことだ。もちろん最初はリーシュの為に建造してたのだ。ただその後の使い道を考えていなかったので、たまたまそういうことになった訳なのだが」
「まあ、納得はいかんわな」
殿下が難しい顔をして腕を組んでいる。そればっかはどうにもならんな。
「おいアーチェ、麻呂姫の居場所分かるか」
「ひっかからないわねー。きっと迷宮じゃない?」
1人でか?いや、オレ達から探査できない場所と言えば迷宮しかないか。
「リーシュはなんでも1人で抱え込んでしまう傾向がある」
そうだな。ああみえて大事なことは、結構ぱんぱんになるまで我慢してるたちだな。
「日に日に仲の良くなっていく二人を見て、本当は自分はただのお邪魔虫ではないかと考えていてもおかしくはないな」
「………………」
そうなると、早急に救出しないとまずいな。
「よし、アーチェ、ユーリ、迷宮に行くぞ!セイカは…今は王宮か」
「待ってくれ!」
迷宮に行こうとしたオレ達を、殿下が待ったをかけてくる。
「できれば…ソーヤ1人で行ってくれぬか」
「えっ?」
「結局のところ、リーシュは不安なのだ。神殿のことなどおまけでしかない。どうせ、式後は別の用途に使うのは当たり前だしな」
「私もそう思うわねー」
「ソーヤ、お主との確かな証が欲しいと思うのだ。うむ、我もユーリとの確かな証が欲しいな」
男同士は無理かトー。
「そういうことで1人で迷宮に行って、リーシュを連れ戻して来て欲しい」
「いやいや、1人は無理だって。死ぬよ?」
「なに、ソーヤなら余裕であろう」
なんでそう思うの?オレ、一般人と大して変わらないよ?
「仕方ないわねー。ちゃんと連れ戻して来なさいよ」
「ソーヤなら大丈夫でしょ?」
「みんな、オレを過大評価してないか?」
迷宮だぞ?一般人が行ったら即おだぶつだぞ?なんで皆そんなにオレの評価高いの?
「なーに、いざとなれば転移の魔法があるだろう」
「そうか、いざとなったら転移の魔法使えばいいのか」
どうせなら使い捨て魔方陣を試して見るかな。一つの魔石を親と子複数に分けて、一回こっきりの転移を行える魔方陣を開発中だ。迷宮に魔方陣いっぱい設置する訳にもいかないからな。
「じゃあ、行ってくるわ」
「いってらっしゃいー、頑張るのよー」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ひぃいい!死ぬー!ひぃひぃ…」
なにがいざとなったら転移魔法だ!いざとなった時に転移魔方陣書いてる余裕がある訳ねーだろ!
そもそも隠蔽の魔法で魔力切れてっから、魔方陣が書けん!
つーか入る前に気づこうなオレ。
「麻呂姫ー、麻呂姫どこだー!助けてー」
もう恥も外聞もねーな。
もういいかげんクロスボウはやめようか。矢セットしてる時間ねーしな。しかも単発だし。
「ハァ、ハァ、まずい、このままでは追いつかれる…」
と、その時、目の前を光るボールのような物がふわふわと浮かんで、
「あれ?あれもしかしてシュリか?どうやってここに?」
そこには妖精さんが手招きしていた。
「パパ、ここ、ここ押してー」
シュリは壁の一部を指差している。そこ天井だから届かねーよ?
「はやくー」
くっ、なけなしの補助魔法で…オレは自分に補助魔法を掛けジャンプし、シュリの指差す壁を押す、と、
「うわっ、なんだ、壁の中にめり込んでいく!抜けねー!」
すわっ、これはシュリの姿をとった罠だったのか。そう思いながら天井に飲み込まれていった。
◆◆◇◇ 視点変更◇メリンダ ◇◇◆◆
「ほんとに1人で行かせて大丈夫なのかねー」
「メリンダ殿は心配性だな。ソーヤだぞ、何食わぬ顔で、ついでに迷宮の裏面解いて来たんだーとか言って帰って来るであろう」
迷宮に裏面なんてあるのかね?ゲームじゃあるまいし。まあ、ソーヤならそんくらいしそうではあるけどね。
「ちょっと追い詰めすぎたのかもねー」
「うん。このところのアーチェとソーヤ見てると、ボクでもむかむかしてたしね」
「そ、そう?」
めずらしくユーリが自己主張してるね。
まあ、最近のアーチェ達は、おままごとにしては過ぎてた感もあったのは確かだね。ソーヤもなんだかんだいって、子供ができたら変わるもんだね。
「まあ、ソーヤはともかく、おじゃる姫は心配よね」
「ソーヤが向かったのだ。リーシュも問題ないであろう」
「だといいけど」
「そんなこと言って、実は姫様が居なくなったら、ソーヤ独り占めとか思ってるんじゃ」
「馬鹿ねえ。ここでおじゃる姫になんかあってみなさい、それこそソーヤの心の一部は一生おじゃる姫のものよ?」
この子、頭はいいんだよねえ、なのになんであんなことばっかりするのか。
「それに私、おじゃる姫には結構感謝してるのよ?」
「え?アーチェが?」
「おじゃる姫が居なかったらたぶん、ソーヤとはずっと幼馴染のままで終わってたかもしれないのよねー。ソーヤってあれでしょ、掴もうとしてもするりするりと逃げて行っちゃうから」
まるでうなぎだね。そう言われればどことなく、人と距離をとるようなとこもあったような気がするね。
「結局、私が本気を出してぶつかっていけたのは、おじゃる姫が居たからだと思うの」
「…そうだね。アーチェは頑張ったんだよね。うん、なんかいじわるなこと言っちゃったね。ごめん」
「そんなの気にしなくていいわよ。私もやりすぎてた自覚あったしー」
「あったんだ…」
ふふ、ほほえましい場面じゃないか。さてと、
「なにをしてるのメリ姉」
「ん?迷宮に行く準備だよ」
「迷宮はソーヤに任したんだぞ?」
殿下が問いかけてくる。そんなことは分かってるわよ。でもね、スカウトって奴は常に最悪の場面を考えて動かなくちゃならないんだよ?
「まあ、なんとかなるなら別に手をだしゃしないよ。万一に備えて準備をしとくだけさね」
「そうね、万一の準備は必要ね!」
そう言ってアーチェも立ち上がる。
「あ、ボクも行くよ!」
「ならば我も」
「殿下は明日の準備をしなければならないんじゃないの?」
「しかしこの事態では…」
なら、尚更だね。ほら、王宮に戻ってみんなのケツを叩いてきな。大丈夫、ソーヤが必ず明日の式までには間に合わせるから。
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
うっ、ぶるぶるぶる、なんだ急にプレッシャーがってここどこだ?
「パパー、パパおきてー」
「ん、やっぱシュリなのか?」
「うん、シュリだよ」
なんだ、真っ暗だな。
「ここは?」
「壁の中にいる。だよー」
「えっ、らめー!ロストしちゃう!!」
それにしては息できるし、体も動くな。また幽体離脱でもしてんのか?
「ここの迷宮の壁の中にはね、通り道があるのー」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「だってシュリ、迷宮のえきすぱーとだもんー」
そういや迷宮のラスボスだっけ。すっかり忘れてたな。
「パパがね、助けてって言ってたのが聞こえたから」
「え?シュリどこに居たの?」
「やどやー」
「え?そんなとこまで声届いてた?」
シュリはおれのほっぺに手をあてて、
「なんかね、シュリとパパはつながってるの。だからパパの声はどこにいても聞こえるし、パパもシュリの声が聞こえるはずだよ」
マジか?そういやテイマーってそんな感じだったか。つーか、今の今までテイマーしたってこともすっかり忘れてたな。
オレはじっと、シュリを見つめ…お、なんだ、オレの顔が見えて…
「それはねー、シュリの見ているものが視えてるんだとおもうー」
なるほど、うちの娘は優秀だな。
「えへへー」
オレはシュリの頭をなでなでし、
「あ。そういや、迷宮のエキスパートなら、麻呂姫の居場所分からねーか?」
さっそく裏技を使うことにした。
◆◆◇◇ 視点変更◇リーシュ ◇◇◆◆
兄上なんてダイッキライでおじゃる!
アーチェなんてダイッキライでおじゃる!
ソーヤなんて…ソーヤなんて大、大、ダイッキライでおじゃるぅう!!
うっ、ぐすっ…ここは…?そうでおじゃった。迷宮に入って魔力を使い果たして眠ってしまったでおじゃる…
その間、麻呂はモンスターに襲われなかったでおじゃるか?
麻呂はソーヤ達だけでなく、モンスターにも嫌われているでおじゃるか…
「結局、どこに行っても麻呂は要らない子でおじゃるか…」
「何言ってんだよ?また、そんなこと考えてたのか?」
「え……ソーヤァ!」
振り返るとそこには、ぼろぼろになったソーヤが…モンスターに襲われていなかったのはソーヤが守ってくれていたでおじゃるか!?
「まったく、どこまで潜ってんだよ。いくらなんでも81階層はねーだろ?普通に死ねるぞ?」
「ど、どうやってここに…というかその傷は?」
「…ここに来るまでに色々あってな」
ソーヤ…麻呂の為に…
「ほら、帰るぞ。みんな心配してるぞ」
「…いいでおじゃる。もう思い残す事はないでおじゃる」
「何言ってるの?」
ソーヤが来てくれた。麻呂の為に、こんなにぼろぼろになってまで…もうそれで十分でおじゃる。
「式は中止するでおじゃる…もう麻呂の事はそっとしておいて欲しいでおじゃる」
「麻呂姫…」
「分かっていたでおじゃる…モンスターが現われるたびに、なにか問題があったたびに、ソーヤはいつも真っ先にアーチェの方を向くでおじゃる」
「いや、そりゃ、なんかしでかすのはアーチェだし…」
「分かっていたでおじゃる…ソーヤはいつも真っ先に、アーチェの元にかけつけ守ろうとするでおじゃる」
「…………」
そう、分かっていたのでおじゃる…
「それでも良かったでおじゃる。王族ともなれば、どこの誰とも分からぬ者と結ばれるのが定石でおじゃる。好いた相手と結ばれる事などめったにない。片思いでも良かった、ソーヤと、好きな相手と一緒になれればそれで良かったでおじゃる」
そう、そう思ってた…思ってたはずでおじゃった。
「良かったはずでおじゃる…」
「…………」
いつからでおじゃるか。ソーヤとアーチェを見るのが辛くなったのは。いつからでおじゃるか、ソーヤを見るたびに胸を締め付けられる思いをするようになったのは。
このままだと、いつか麻呂は壊れてしまうでおじゃる。きっと、ソーヤやアーチェにきつくあたってしまうでおじゃる。
嫌われるのは嫌、嫌うのはもっと嫌でおじゃる!麻呂は、もう麻呂は!!
「昔々、ある所におじいさんと、おばあさんが住んで居ました」
ん、なんでおじゃるか?
「ある日、おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川に洗濯に…」
突然どうしたでおじゃるか?なんのお話でおじゃる?桃?きびだんご?
「……めでたし、めでたし」
ソーヤは、なんか桃太郎とか言うお話を麻呂に聞かせ来たでおじゃる。そんなもの今聞かされても…それに、以前ソーヤに見せてもらった立体映像より、さっぱり面白くなかったでおじゃる。
「よいしょっと」
「なにするでおじゃる?麻呂の事はもうほっといて欲しいでおじゃる!」
ソーヤは麻呂を担ぎ、そして天井に向けてジャンプし、
「な、なんでおじゃるか!?壁のなかにめり込んで行くでおじゃる!抜けないでおじゃるー!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
…ここは?ソーヤと供に壁の中に入って、手を引かれて、暗い、暗い通路を通り、辿り着いたそこには、見たこともない材質の壁で覆われた広い部屋に出た。壁はほのかに光ってるでおじゃる。
「この壁つるつるでおじゃる。なんでおじゃるかここは?」
「この迷宮の88階層だよ」
何を言っているでおじゃるか?ここの迷宮は87階層が最後でおじゃるぞ?
「あったんだよ続きが」
「…ほんとでおじゃるか!?」
ソーヤは壁にもたれかかって座り込んでいる麻呂を膝の間に抱え込み、
「一件、もう終わりだー、と思っても、続きがあったりすることって結構あるんだぜ?」
続きでおじゃるか?
「さっきの桃太郎の話な、オレの生まれた世界のオレが生まれた国では、ほとんどの人が知ってる話なんだ」
え?さっきの話など聞いたこともないでおじゃるぞ?ソーヤはアステリアの生まれであろう?どういうことでおじゃるか。
「オレが生まれた場所な、ここではなく、まったく違った世界で、こっちには召還されて来たんだよ」
「それは、本当でおじゃるか?」
「ああ、そんでな、調子乗って初心者のくせに、最難関の迷宮に挑戦して道に迷っちまってなあ…」
ソーヤは自分が、この世界に召還されてからのことを麻呂に話してくれる。そうであったのか、ソーヤは別の世界の住人でおじゃったか。いろいろ納得がいくでおじゃる。
「で、食料も尽きて、どうやら迷宮で餓死したらしいんだわ」
「ええっ!?でもここにこうして居るでおじゃる」
「ああ、きづいたらここで、こうして、生まれ変わってたんだよ」
なんと!そんなことが…
ソーヤは麻呂の髪を優しくなでながら、
「もう駄目だー、このままお陀仏だーって言っても、実は続きがあったんだよ」
「そんなのソーヤだけでおじゃる…」
「そうか?よく思い出してみろよ。麻呂姫にもあっただろ、人生の続きって奴が」
人生の続き…そうでおじゃった、麻呂はあの日、あの時、一度死んだのでおじゃった!武闘大会のあの日、麻呂は地竜に噛みつかれて…
あの時、そうあの時、麻呂は生まれ変わったのでおじゃる。そして、生まれ変わった麻呂は、これからはずっとソーヤと一緒にと…
「この迷宮だってそうだ。みんな最後は87階層だってばかり思ってただろ。だけど実際88階層は存在していた。人生も迷宮も一緒さ、終わったと思っても続きがある。途中で全部投げ出すなんてもったいないぜ?」
ソーヤは麻呂をぎゅっと抱きしめ、
「特に麻呂姫なんて、まだまだ人生の初心者だ。迷宮で言えば10階層をやっと突破したばかりの、これから中級者になろうかという、まだまだ駆け出しの冒険者だ」
ソーヤは麻呂をじっと見つめ、
「人は誰しも、人生という名の迷宮を攻略する冒険者なんだよ。その迷宮では罠もある、強大な敵も居る。そして挫折だってある。つらいことや、苦しいことは盛りだくさんだ」
「つらいでおじゃる…苦しいでおじゃる…」
「でもな、それ以上に、楽しいこと、嬉しいこといっぱいあっただろ?」
あったでおじゃる。ソーヤと出会って、迷宮に入って、そこで経験した事、全部楽しくて、嬉しくて…
「まだまだあるぜ、楽しいこと、嬉しいこと。それは今までに経験した物よりずっと、ずっと大きく、多く。なんせあと70階層以上あるんだしな」
「その分つらいこともあるでおじゃろう?」
「じゃあ、武闘大会の日に戻って、そのまま死んでた方がいいと思うか?」
「それはないでおじゃる!生まれ変わった麻呂は…確かに、楽しかったでおじゃる。こんだけつらい思いをしても、麻呂は生きていて良かったと思うでおじゃる」
ソーヤは麻呂に優しく微笑みかけ、
「よーし、それじゃこっから出るか。お、あそこに扉があるな。ちょっと覗いてみっか。この先どうなってるか見てみよーぜ」
いつもの能天気なソーヤに戻ったでおじゃる。なんかもったいないでおじゃる。あと、その扉開かないほうがいいと思うでおじゃるよ。
ソーヤは、そんなことはお構いなしに奥の扉を開ける…そこには、狭い部屋でちゃぶだいを囲んだ一組の男女が座っておった。
「なんだコレ?なんでこんなとこに人が住んでんの?」
こっちが聞きたいでおじゃる。
「あら、終わりましたか、父上様」
「えっ、誰が父上?いででで」
女性の方がソーヤに向かって父上って言う。今度はどこでこさえて来たでおじゃるか!?
「つねるなよ。知らないって、ほんとだって」
「あら、薄情ですわね。先ほどまで、なでなでしててくれてたじゃありませんか」
「どういうことでおじゃるか、ソーヤ!」
「ひぃいい」
しかし、よく見てみると目元とかソーヤにそっくりで…どことなくアーチェにも似てって、以前これと同じセリフを口にしたような…
「シュリーフェルトですわ。父上様」
「「ええっ!?」」
えっ!?あの妖精サイズの?どこからどう見ても大人の女性でおじゃるぞ?
「うちのシュリたんは、そんなアダルトなお方では…」
そう、そんなボンキュッバンな体形では…って、どこを見てるでおじゃるかソーヤ!
「いででで、だからつねるなって」
「ふふふ、ここは迷宮の中心。最も魔素の集まっている所です。ですから私も本来の姿を現すことができるのですよ」
そう言えば迷宮のラスボスとか言ってたでおじゃるな。くっ、なんか卑怯でおじゃる。麻呂だって、麻呂だって!大人になれば!!
「で、そっちのお方は?」
ソーヤがもう1人の人物に向かって問いかける。
「わしか?わしはこの迷宮そのものだ。つい最近も会ったばかりであろう」
「えっ?迷宮そのもの?最近会った?」
「お主らに即効でチンされた、エンシェントドランゴンだ」




