第七章 パラレルステージ
◆◆◇◇ 視点継続◇ソーヤ ◇◇◆◆
「いきなり現われたと思ったら人にキスして、なにこの変質者!」
ちょっ、蹴るなって、やめ、金的は止めろよ!
「ちょっ、ちょっとアーチェやりすぎだよ。それにほら、地が出てるよ。ちゃんとお淑やかにしとかないと追い返されるからね」
「あら、わたくしとしたことが、ほほほ」
そう言いながらも蹴るのは止めないのな。
「それにしても君だれ?急にあんなことするなんて、アーチェじゃなくても怒るよ?」
「なに言ってんだ?オレだよオレ」
「…オレオレ詐欺の方ですか?」
なんでだよ!?え?マジで知らないの?いくらサプライズと言ってもこれはないだろ!
「女王様…ちょっと女王様!これいったいなんの冗談!?」
「うわ…上空に向かってなんか叫んでいる…ちょっとユーリ、病院連れて行った方がいいんじゃない?」
「そ、そうだね。ちょっと君、そこまで一緒しようか。大丈夫、いい医者知ってるから」
病気じゃねえよ!やめてよ、オレ正常ですよ?
「あ、逃げたわね」
「何事だ?」
「あら生徒会長さん、もう準備はよろしいので?いえ、先ほど変質者に…」
「なんと、そんなことが、最近暖かくなって来たからな。注意せねばな」
「そうですわねー」
◇◆◇◆◇◆◇◆
ハァ、ハァ、いったいこれどうなってんだ?魔法にしてはリアリティがありすぎる。魔素の動きもないし。
とりあえず宿にでも…
「は?ソーヤさん…うちにはそんな人は泊まってませんが?」
「何言ってんだよ。オレだよオレ」
「…オレオレ詐欺の方はご遠慮させて頂いております」
マジか。宿屋のおかみさんまでオレのことを知らないときた。
これはあれか、パラレルワールドってやつか?異世界のパラレルワールド…もうわけわかめ。
「まいったなあ。今のオレ無一文だぞ?せめて服装が元の冒険者のに戻ってりゃなあ」
そうなのだ、今のオレのカッコは例の結婚式で着替えさせられたタキシードのまんまで、荷物がなにも無い。武器も無い、財布も無い。女王様、せめてぽっけにお金入れてくれてたら良かったのに。
とりあえずお金を稼がねば、迷宮にでも行けばいいのか?あ、身分証も無いや。まあ隠蔽の魔法で…いやいやいや、武器もねーのに、死ぬよな。
学院にでも行ってみるか、1人くらいオレのこと知ってる奴が居るかもしれねーし。
「ちょっ、ちょっとそこの君、今ここに、学生が4人ほど通りかからなかったであるか?」
「え、4人?見てないなあ、って、ホーネスト先生!?」
「ふむ、私のことを知っておるのか?」
「オレだよオレ」
「…オレオレ詐欺の方に知り合いは居ません」
「もうそれはいいから!」
ずいぶんと慌ててるな。
「何かあったので?」
「うむ、学院の方で揉め事があったらしくてな。我が校の生徒が迷宮に行くとか言ってたらしく、それを止めようと探しておるのだ」
「詳しく」
「なんでも、我が校に優秀な生徒がおってな。まあ、ちょっとばかり派手にやらかして、生徒会長に目をつけられたらしく、直々に指導に当たるとゆう話になったらしくてな」
どっかで聞いた話だな。あれは確かオレ達が入学して間もない頃だっけ。そういえばアーチェの身長がやけに低かったような…
「ちなみに今は何年何月で?」
「2022年7月であるが?」
2022年ってオレが学院に入学した年だな。そんで7月ってーと、生徒会長に連れられて迷宮行った時か、オレが居なくてもアーチェは相変わらずなのな。
「その生徒って、アーチェ?」
「ふむ、君は彼女の知り合いなのかね?いや、生徒会長の方か?」
オレのカッコを見ながらそう言う。
「いや、これは違うんだ。ちょっと結婚式から抜けだ…って、アーチェ達ならもう迷宮着いてるんじゃないか?」
あの時、迷宮に行く準備してたとするともう入ってる頃か。
「なんと!これは早急に迷宮に行かねば!」
「あ、オレも付いて行っていい?」
そしてあわよくば魔石を拾って…
「いや、迷宮は危険であるぞ。君のような子供が…」『サンダー!』「は?」
「ふふふ、なにを隠そうこのオレは、雷の魔法の伝承者なのであーるぅ!」
「な、なんだってぇえ!」
そう、この世界が、オレの居なかったと仮定された世界なら、まだ雷魔法は普及していないはず。ということは、雷魔法はオレの専売特許!あれ?これで食っていけんじゃね。ようし、パパ、雷魔法塾作っちゃうぞう。
「ぜひ!ぜひ!雷魔法の伝授をぉぉ!!」
やっぱ食い付きがいいなホーネスト先生。研究バカは今も変わらずですね。でも、今それどころじゃねーだろ?
「こんなとこで何やってんの?」
「おお、メリンダ殿。いや、雷魔法の伝授をだな」
「子供達が迷宮に向かったって聞いたんだけど、違ったの?」
「いや違わないであるが?」
「だったらなんでそんなことしてんの?いっぺん死んどく?」
そこには息を切らしたメリ姉が立っていた。
「あ、メリ姉」
「オレオレ詐欺の方は…」
「まだ何も言ってないだろ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「こんなとこでオーガ?」
うむ、以前と同じだな。以前と違うとこは、
「ガァアァア!!」
こんなに好戦的じゃなかったってとこかな。迷宮に入って2階層に着いたと同時にオーガが現われた。以前は満腹状態で襲って来なかったが、今は随分お腹が減ってるらしい。ホーネスト先生とメリ姉の二人とで、攻略速度が速かったからかな。
「まずいね!ちょっと時間かかりそうだよ」
「せめて足止めができれば、私の魔法で…」
相も変わらず前衛不足。ホーネスト先生とメリ姉は二人掛かりでオーガの攻撃を受け止めている。しかし、足止めか。
「ちょっとホーネスト先生。魔石少し分けてくんない?」
「今は報酬の分け前の話をしている場合ではなかろう」
「違うって、ちょっと試してみたい事があるんだって」
そう言ってホーネスト先生から魔石を貰う。よし、こいつで…
「ほら二人ともこっち来て」
「なんだい?」
二人を魔方陣の上に乗せ、
「なんだ!景色が変わった?なんと!一瞬でオーガとの距離が…」
そう、転移魔方陣の出番だ。オーガの背後の少し距離を取った地点にオレ達は転移した。ほんと便利だな。視界が届く範囲なら魔方陣も飛ばせるし。設置に時間がかかるのがネックだが。
オーガは急に居なくなったオレ達を探してキョロキョロしている。
「ほら先生、今の内だよ?」
「う、うむ」
先生はオーガに向けて魔法を放つ。おお、一撃か。そういや先生が攻撃魔法使うとこ見たの初めてだな。
「すごいなー、先生、実は強かったの?」
「うむ、私はその昔、冒険者にこの人有りと…というか、今いったい何が…」
「これは…ファンレーシアの転移魔方陣?」
メリ姉が魔方陣の上を行き来しながら分析している。さすがメリ姉だな見ただけで分かるのか。
「ああそうだよ。ファンレーシアの迷宮行って、転移魔方陣を解析して使えるようになったんだ」
「「はぁ?」」
二人ともあごが外れてますよ?
「ちょ、ちょ、ちょっと待つである。転移魔方陣を使えるとな!?そんな話聞いたことないであるぞ!」
「これ自由に設置できるの?」
「ん?魔石がありゃどこにでも。ああ、そういや外に脱出用の魔方陣設置しとくんだったなあ」
失敗したな。外に設置しとけば危険があればいつでも出れたのに。
「ば、馬鹿な。これが自由にだと…これは…この世界の常識を塗り替えるであるぞ」
「この子いったい何者なの?道中も変わった魔法使ってたし…」
「ぜひ、ぜひに!この魔方陣の原理を!!」
だから今はそれどころじゃないって言ってるだろ?またメリ姉に睨まれるよ?あと、その原理オレもよく分からねえから。
「そんなことより、次の3階層、ジャイアントバットが群れをなして居ると思うけど、なんとかなる?」
「どうしてそんなことが分かるのだ?3階層だぞ、ジャイアントバットなど居る訳が…」
「まあ、居ないならそれに越したことはないけど」
あいつら数多いからな。空飛んでるし。オレの転移魔法だと上空はあまり高いと効果を発しない。思わぬ弱点だな。
「まあ、居ると仮定して対策を取っていても損じゃないね。なんかこの子の言うこと、下手に聞き逃さない方がいいような気がして来たし」
メリ姉が答える。さすが一流のスカウトは違うな。
「そうであるか。なら風の防備魔法を発動させておこう。ジャイアントバットならこれだけで近寄れぬしな」
そうなんか?生徒会長ももっと勉強しとけよぅ。
「よし、ボス部屋まで急ぐよ」
3階層に着きさそっくジャイアントバットがお出ましになったが、近づくそばからバタバタと落ちていく。でかくても所詮蝙蝠、空気の気流には弱いみたいだな。
それらを一匹づつオレとメリ姉が止めを刺していく。いやー楽チン楽チン。
「しかし子供達は、これらと出会わなかったのだろうか」
まあ、オレのスキルのせいだし。アーチェたちは普通のモンスターと戦ってたと思うよ。
ようやっとボス部屋が見え始めたころ、
「む、あそこに居るのは子供達ではないか?」
そこには今、ボス部屋に入ろうとしているアーチェ達が見えた。間に合わなかったか。
「まあ、ここまで無傷みたいだし、大丈夫なんじゃない?」
メリ姉がそう言う。まあ、オレが一緒じゃなきゃボスもレアじゃないだろうし。
「いや、そうとも言い切れぬのだ。ここ最近、この迷宮ではレアモンスターの発生頻度が増しているである。先ほどもオーガやジャイアントバットが居たであろう。万が一という可能性もある」
「しかしもう入っちゃったよ」
「まいったであるな。こうなればレアモンスターでないことを祈るしか…」
最近レアモンスターの発生頻度が多くなってる?いや、オーガやジャイアントバットはオレの所為だろうが。なんか嫌な予感がするな。
とりあえずボス部屋の前まで来て、
「これ入れないの?扉ぶっ飛ばすとかしたらダメなの?」
「迷宮のボス部屋の扉は特に頑丈に作られているであるからな」
うーむ、転移も向こうに魔方陣をセットしてないと意味ないし。
おれはそっと扉に手を当てて、ふうむ、意外と薄そうだな?いけるか?魔方陣を扉に描いてっと、これを向こう側に出力するように…
「何をしておるのだ?」
そんでこっちにもっと、おおお!やべっ、いきなり転移した!
扉を挟むように転移魔方陣を描いたらうまくいった。しかし、魔方陣に手をついていたので、設置と同時にボス部屋に…
「やはり、マジックリビングアーマーか!?」
そこには、いつぞやのマジックリビングアーマーと、取り巻きのゾンビ達がひしめいていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「おい、生きてるか?」
4人とも無事のようだな。モンスターたちと睨みあっている。まだ、無謀な突っ込みはしてないようだな。
さてと、こいつらどうするか…無視してさっきの魔方陣でって、消えてる?
扉に設置した魔方陣が消えているぞ。もしかして、オレがこっちに来た事で新たに扉が生成されなおされたとかか?
まずいな、また作るとなると時間かかるぞ。
「あなたはさっきのHENTAIさんではないですか?」
蹴るなよ!言葉遣いは丁寧でも、乱暴さは変わってないな。
「な、なんだね君は!?ここには4人しか居なかったはず。はっ、まさかモンスター!」
なんでだよ!いや、何回か死んでっから、アンデットって言われても仕方無いかもしれないが。つーかいい加減蹴るの止めろよ!
「おい、冗談言ってないで、ここを突破する方法考えなくていいのかよ」
「どうしろというのだ…もはや絶望的ではないか…」
よーし、今度は間違わないようにしないとな。
「おいアーチェ、見とけよ、これが『ターンアンデット!』」
とりあえずゾンビの一体を魔法で浄化する。つもりだったが、オレのじゃ大して効いてねーな。
「ほらアーチェ。今のがターンアンデットだ。間違ってもサンクチュアリすんなよ?」
「ほらって言われましても、いったいわたくしにどうしろとおっしゃるので」
「いや、アーチェならできるだろ?」
無言で蹴るなよ…そういや今のアーチェの魔力、たいして高くないな。あれ?まじでピンチじゃね?
「私とハネアス君で血路を開く!君達は扉が開き次第、中のゲートに飛び込むんだ!」
ん?ゲート?そうか!なにも自分の魔方陣に転移しなくとも、ここなら、王宮が作ったゲートへ転移できるじゃないか。
「おい、ちょっと待てって。こっちにみんな集まって」
「なんだというのだ」
オレは生徒会長を引っ張って、
「これから1階のゲートへ転送するから」
「は?」
そう言って生徒会長を転送させる。
「な!?生徒会長様!」
「ほら次は副会長」
「どういうこと?君はいったい…」
副会長とユーリも転送させ、
「ほらいいかげん蹴るのやめてこっち来いよ」
「いかがわしい場所に転送したりしませんわよね?」
「なんでだよ!」
よし、アーチェも転送させてって、あれ?転送しない!?
「どうしましたの?」
「いや、なんか転送しないんだよ?重量オーバーか?ぶへらっ!」
「誰が重いって!?」
いいパンチ持ってるな…まずいぞ、だんだんゾンビがこっち寄ってくる。会長達が居なくなって魔法障壁も弱くなっている。
「ちょっと、わたくしだけでは、これだけの…もう、持ちませんわよ」
しかし、なんでだ?なんでアーチェだけ?
「おまえなんか拾い食いとかしてないか?ぶへらっ!」
「ほんと失礼な奴ね!なんなんのよあんた!」
口調が戻ってるぞ。つーかなんでお嬢様言葉なんだ?
「仕方ないでしょ、お淑やかにしとかないと村に突き返されんだから!」
なるほど、そういうことになってんのか。
「試しにさっきのターンアンデット、使ってみないか?」
「その間、誰が魔法障壁はるのよ?」
「そういや、もうアーチェしか居ないか…」
まあ、魔法障壁はできないが、
『インビジブル・セカンド!』
「もう魔法障壁が!って、あれ?襲ってこない?」
これまたオレのオリジナルだ。インビジブルって隠蔽魔法を2種類に分けてな。セカンドは魔物のみ、ファーストは人間のみ隠蔽できるようにして。少ない魔力で、かつ効果も抜群な、とてもエコな性能となっている。
「よし、今の内に部屋の隅っこに行くぞ。そこで魔力回復だ」
オレ達はいそいそと部屋の隅に行き、
「どうだ、魔力は回復しそうか?」
「そんなに簡単に回復する訳ないでしょ?」
ふむ、回復の速度遅いな…オレの知ってるアーチェだと即効で回復していたが。何が違うのやら…
「そんなことより、ほんとあんた何者なのよ?妙に馴れ馴れしいし」
「ん?オレか、そうだなー、前世で夫婦だったとか?」
「は?」
いや、前世になるかどうか知らないが。
「あんた、あの生徒会長の仲間なの?服装もアレだし」
「ちげーし。オレは決して厨二病ではない。そんな風に呼ばれたことは決してない!」
そう呼ばれたことはない。呼ばれたことはな…嘘は言っていない…はずだ!
「ほんと調子狂うわねー。いきなり現われたと思ったらあんなことして。そして前世は私の夫?あんたもしかして私の隠れファンなの?」
「オレが?アーチェの?ハハハ、ワロス。いででで」
「ほんとむかつく奴ねえ」
そのすぐ手が出るの直せよ?全然お淑やかじゃねーぞ?
「ところで、残念なお知らせです」
「なによ?」
「魔力が尽きそうです。やべえ、敵に見つかるぞ」
「なんでもっと早く言わないのよ!」
くっ、アーチェの魔力も全然戻ってないな。もう一回全力で転移を試すか?魔力無いから体力減るが…オレの分まで残るかな?
一か八か…
(無駄な事はおやめなさい)
その時、突然頭の中に声が響いた。やべえ、幻聴が聞こえる。魔力の使いすぎか?
(幻聴ではありません。わたくしはこの世界の意思より生み出された者。いわゆる神の意思を代弁する存在と申しておきましょうか)
自分で自分のこと神って言ってるよ、この幻聴。オレもいよいよ…
(…今、あなたが経験していることは、本来この世界としてあるべき姿、異世界人のあなたが居ない、本当のこの世界でございます)
本物なのか…
(世界は異世界人のあなたに影響され、多くのことが変動してしまいました。その中でも…アーチェス・アングローバー…彼女は聖女と呼ばれることもなく、ここで…)
 




