第六章 救世主現る!
◆◆◇◇ 視点変更◇黒騎士さん ◇◇◆◆
まさか私の代で、私の手で、迷宮攻略を成し遂げられようとは!こんなに嬉しいことはない。
うむ、この調子でこの黒鎧も脱いでカミングアウトも良いかもしれん!
ソーヤとか言ったか、この子供。よく見るとなかなかの男前ではないか!将来が楽しみだな。どうだ姉さん女房とか!
「なんか、随分はっちゃけて来てるようだけど、まだ、続きありそうよ?」
ん?そう言って扉の向こうを指差す。む?扉の向こうに扉とな。メドゥーサより強力なモンスターが?ハハハ、そんなはずなかろう!
「あれはきっと報酬への間につながる扉に決まっている。ほらお姉さんに付いて来なさい!」
「お姉さんとかー。随分先程までとは雰囲気が…良くなったのか、悪くなったのか」
「なんか気持ち悪いですね。カッコは男性ですし…」
「しっ、聞こえるだろ?」
よいよい、今の私は天にも昇る気持ちだ。多少のことは許そうではないか。
「しかし、どう見ても…これからもう一戦闘始まりそうな扉だなー」
「そうですね。なんか扉にモンスターの絵柄も描かれていますし。お父様、私が先に入りますので、離れないで下さいね」
「おー、まかせた」
まったく心配性な子供達だな。なーに今の私達なら、何が来ようと無問題だ!
「そおっとな、そおっと」
そして、扉を開けたその中には…
「何もいねーな」
「そうですね、生き物の気配がしません」
「また地面から生えて来ないだろうなあ…」
私達は恐る恐る中に入ってみた。
「なんか向こうのほうに反応があるな」
そう言ってソーヤは奥の方へ進み、
「なんだこれ?卵?」
部屋の奥には、鳥の巣のような物があり、そこに2個の卵が乗っていた。
「また判別不能?いったいなんの卵だ?しかし、これはアレだな、こないだのグリフォンのテイマーの失敗。あれは成長したのをテイマーしようとしたからダメだったんだ。そう、卵から孵せばきっと!」
なんか、テイマー、テイマー言っている。
「竜かな、グリフォンかな。それともペガサスとか?あれ?ペガサスって卵からできるんだっけ?」
「それをいったいどうするつもりなのだ?」
「これたぶんモンスターの卵だろ?こんなとこにあるってことは結構高位のモンスターと見た。んで、卵のうちに契約でもこなして、オレの立派な戦力になってもらおうと思ってな。ちょうど2個あるし、1個どう?」
どう?と言われても…いったいどうすればいいのだ?
「えーと、どうすればいいだろな?とりあえず血でもたらせばいいのか?なんかそれらしい魔法なかったけかなあ…モンスターテイマー…夢が広がるぜ」
そう言って色々と試している。なに?私にもしろと?なんか変な黒魔術みたいで嫌なのだが…
そうしてると、突然卵が光だし…
「お、うまいこといったようだな」
「ほんとか?」
殻にひびが入り、中から…ヒヨコ?
「なんだこりゃ?普通の鳥?しまった、餌用意してないぞ。あ、ほらそっちもひびが入ってるよ」
私のほうの卵も殻を破り、中からヒヨコが現われた。
私は思わずヒヨコに手を差し伸べ…なんだこれは、急に体が重く…
「魔力吸ってんなー。こいつらの餌は魔素か。そりゃモンスターだもんな。って、ヤメッ、おい!オレの少ない魔力吸うなよ!」
「大丈夫ですか、お父様」
「セイカ…タッチ、ちょっとタッチ、ヤバイ意識が…」
魔力を吸われるにしてもすごいスピードだ。私も結構魔力はあるほうだと自負していたのだが。
「ふう、こりゃ、アーチェの出番だな。アーチェなら十分いけるだろ。そっちは大丈夫で?」
大丈夫な訳なかろう!いいかげん止めさせてくれ!これ、普通にモンスターに攻撃を受けてるのではないのか?こうなったら…
「なにやってんの剣持ち出して!」
「しかし…」
「こんなかわいい動物にそんなことできるの?」
くっ、確かに、生まれたばかりの雛はとてもかわいらしい。まるで私のことを親か何かと思っているようだ。
「たしかにできぬな」
「まあ、生まれたばっかだからな。そのうち落ち着くじゃない」
「お父様…私もう…」
「おおっと、そこまでだ。家に帰ったらたっぷり与えてやるから、ほら、暫くの間我慢しろって」
ヒヨコにそんなこと言っても…って、止まった?なんと、よし私も!
「おい、暫くストップだ。とにかく迷宮を脱出が先なのだ」
よし、止まったな。ヒヨコは暫く首を傾げたあと、また吸い出した。
「なぜに!?」
「こりゃ、しつけ大変そうだなー」
「人事ではないであろう!」
◆◆◇◇ 視点変更◇女王様 ◇◇◆◆
「これはまた、派手に壊れてるねえ」
そうですわねえ。まあ、迷宮なんていっそなくなってしまえばいいですのにね。
転移かなんだか知りませんが、到死率の高いのなんのって。まったく家命かなんだか知りませんが、勝手に死なれるこっちの身にもなって見やがれってんですわ。
おっと、汚い言葉になってしまいましたわね。私としたことが。え、私ですか?私はこの国、ファンレーシアを治める女王、サテラ・エウスティ・ファンレーシアですわ。
「この中にソーヤが居るでおじゃるか?」
「さすがに私の探知魔法でも、迷宮の中までは無理ねー」
二人とも呑気げに会話してますわね。これ、中に居たら助かりませんわよ?
「この角材、鋭利な切り口、うむ、セイカの魔刃剣であろうな」
アステリア国王がそう言う。しかしそれですと、この宮殿を両断したと?
「これ、中の人の救出作業は?」
メリンダさんが聞いてくる。
「今日明日は、聖女様の結婚式ですので、迷宮の侵入は禁止にしておりましたわ」
「アーチェ、どうだい?」
「下敷きになってる人は居ないようねー。だれも居ないなら、どう?いっそのことこれ全部吹っ飛ばすとか?」
「なにが、どうでおじゃるか!そんなのダメに決まっておるでおじゃろう!」
「あら、いいですわね」
「えっ!?」
そうですわね。いっそのこと更地にしてしまえば、入り口の魔方陣を探すのも楽かもしれませんわね。聖女様の魔法なら一発でしょうし。
と、その時、急に迷宮の瓦礫が輝きだして…
「ちょ!ダメでおじゃるぞ!アーチェやめるでおじゃる!後でソーヤに怒られるであるぞ」
「え?私じゃないわよ?」
「またそんなこと言って、ダメだよアーチェ」
「ユーリまで?私じゃないってば」
「さあ、聖女様!どかんと一発!」
「だから、私じゃないって言ってるでしょ!?なんで信じてくんないの?」
「「「日頃の行い?」」」
「どうしてよ!?」
それにしても、どんどん光が強くなっていきますわね。
「聖女様。ここに居ても大丈夫でしょうか?」
「…もう私のせいでいいわよ。とりあえずユーリ、結界張っときなさいよ」
「ほんとにアーチェじゃないの?分かった、張っとくよ」
私達は薄い膜に囲まれる。こんな薄いので大丈夫なのでしょうか。
「分厚いと衝撃を逃がしにくいですから。ボクの結界は受け止めるではなく、逸らすことに重点をあててます」
「ユーリのは凄いわよー。なんせ私の最強魔法ですら傷もつけれないしね」
そうですか、聖女様の攻撃すら…そういえば、アステリアの守護者と言われてるのでしたわね。
そしていよいよ、目も当てれないほど輝きだし…そこから光の柱が立ち上った。
「絶景ねー。こういう時なんて言うんだっけ?たしか、たーまやーだっけ?」
「それ花火じゃない?って、なんなのこの光の柱?」
「すごいでおじゃるなー、これなんて魔法?麻呂にも教えるでおじゃる」
ん?なんですか?なんだか宮殿がさっきと形が違うような…
「おお、瓦礫が元の宮殿に戻っておる。再生魔法か。さすがアーチェだな」
アステリアの国王様がそう言ってますが、これ知りませんわよ?ここの宮殿、こんな形じゃありませんでしたわよ?
「聖女様?これ元の形と違う宮殿なんですが?」
「どうしてみんな私に言うの?なんでそんなことができる訳?どう考えてもあり得ないでしょ」
聖女様はそう言って宮殿を指差し、
「これ絶対ソーヤの仕業よ。こんなことするのソーヤくらいじゃない?」
「言われてみれば…」
「そうでおじゃるな。こんな常識外なことはソーヤの専門でおじゃるな」
「どうして常識外がオレの専門なんだよ!」
「「ソーヤ!?」」
光輝く宮殿から3名の人影が出てきた。あれは、ソーヤ様と…プレミセンズ!どうしてあなたが?
「ああ、地上だ!水の中じゃない!おお、地上だぁあ!」
なんか、性格が変わっているような?プレミセンズと言えば、寡黙で、近寄りがたい雰囲気があったはず。今の変な踊りをしながら叫び回っている人は誰?もしかして別人?
「あなたは、プレミセンズ・オルトファンですか?私の義理の兄である?」
「はっ!そこにいらっしゃるのはもしかして…」
プレミセンズは硬直して、
「もしかして、今の見てらっしゃいましたか?」
「ばっちり」
「おい、何しようしてんだよ?」
「離してくれ!私はもう生きてはいけない!」
「馬鹿な事やってんなよ。お前が居なくなったら、このモンスターたぶん暴れるぞ?言っとくが迷宮のラスボスだぞ?あのメドゥーサより強いぞ?」
「なんでそんなの私に任せたの!?」
これがあのプレミセンズ…?子供にすがり付いて泣きそうになっているのが?
「ちょっと何それ?ヒヨコ?かわいいわねー」
「ああ、これな、この迷宮のラスボスでな。たぶんフェニックス」
「何持って来てますのお!!」
今、なんと言いましたか!?ええ?ラスボス?フェニックス??えええ!?
「ちょっとソーヤそれ本当?持って来て大丈夫なの?」
「ユーリか。まあ見てみろよ。よく懐いてんだろー。テイマーだよ、モンスターテイマー、成功したんだよ」
「迷宮のラスボスを?さすがソーヤだねぇ」
「ほら常識外でおじゃるでないか」
常識外にも程がある。
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
「迷宮が攻略された!迷宮が攻略されたぞー!!」
「なんと、それでは先ほどの光は!」
「おい、アレを見ろ、なんだあの輝く宝石は!」
おお、凄い騒ぎだな。ファンレーシアの王宮では人があふれんばかりに集まっている。
「この魔石、ほんとに頂いても…」
「ああ、そこの黒騎士さんが止めさしたやつだからね。どうするかは黒騎士さんに任すよ」
「綺麗ねーこの魔石。キラキラ光る魔石なんて始めて見たわ。これなんのモンスターだったの」
「ん?メドゥーサ」
「は?」
女王様さっきからあごが外れてばっかだよ?
「それは本当の話で?」
「ああ、なんなら戦闘シーン見てみる?例の立体映像で見れるよ」
「…分かりました。それでしたら是非式典でお見せください」
「式典?」
なんやらこれから式典を行うらしい。ちょうど貴族どもも集まってて、今すぐにでも始められるとか。ん?なんか忘れてるような?
「それではこれより、迷宮達成及び…」
ん?なんだっけかな?かなり重要な事だったような気がするんだが。
「聖女アーチェス・アングローバーと迷宮達成の功労者…」
ん?
「ソーヤ・アングローバーの婚姻式を始めます!」
「「おおー!!」」
―――ダッ!
「ほら、逃がさないわよ?」
「なんだこれ?体が!?」
どうなってんだ。体が自由に動かない、どころか勝手に…
「どう?女王様が秘蔵の魔法を教えてくれたの。その名も『マリオネット・ダンス』」
それ操りの魔法じゃねえか!何やってんの女王様、アーチェにそんなの教えるなよ!回避できないだろ!?女王様はいい人だと思っていたのに。
そうだ。麻呂姫、麻呂姫ぇ、なんとか。
「くっ 今だけのしんぼうでおじゃる…今だけの…」
「実は私達、協力することにしたの」
えっ!?
「だってソーヤ、あれでしょ?転移の魔法使えるようになったんでしょ?それで逃げられたらたまったもんじゃないしねー」
「そうでおじゃる。ここだけは不干渉をつらぬくでおじゃる。そして、帰ったら麻呂と結婚でおじゃるぞ」
マジで?
「ソーヤ、たしか麻呂を置いて行かないって約束したでおじゃるな?あれはいつのことでおじゃったかな」
いやー、下見に行ったつもりが…
「ソーヤはいつもそうでおじゃる!だから麻呂は置いてかれると思ったのでおじゃる。きっと「気づいたら知らない土地に居た」とか言って麻呂を置いて行くでおじゃる!」
いや、さすがにそれはないだろ…ない…よな?
「心配で心配で、寝れなかったでおじゃる。きっと今後もこの繰り返しでおじゃるか?また麻呂を泣かせるおつもりか?」
…返す言葉もありません。
「じゃあ帰ったら結婚でおじゃるぞ。逃げたら兄上に言いつけるでおじゃる」
「まあいいじゃない結婚のひとつやふたつ。私は未だに相手が居ないよ?早い内にしとくに越したことはない」
メリ姉…早いにも程があると思うんだけどなー。
「ふふふ、しかしバカなアーチェでおじゃる。今ここでソーヤと結婚しても、迷宮攻略はもう終わったでおじゃるのに。すぐにでもアステリアにとって帰ってそうそう戻って来れないでおじゃる」
「聞こえてるわよ?なんか忘れてない?たしかにアステリアには戻るけど、こっちにはいつでも来れるようになるわよ。ソーヤの転移魔法で」
「なんたる盲点!いや、しかし、ほんとにこことアステリアを結べるでおじゃるか?」
それは、やってみないとなー。結構距離あるからそこそこの魔石が必要じゃないかな。
「それでしたら、これまで当王宮で飾っていた物をお渡ししましょう」
「それはどんなの?」
「あそこにありますわ」
そう言って女王様はホールの天井を指差す。その天井には…
「アレ落ちてきたらみんなぺっしゃんこじゃね?」
そこには、直径10メーターはあろうかという程の、巨大な魔石が吊るされていた。
「でけーなあ、あれ使っていいの」
「アレは大きいだけで実は…まあ、ですから飾りに使っているのですけどね」
「あの大きさだと、このホールいっぱいに魔方陣書かないと無理じゃね?え、オレがやるの?」
「他に誰が?」
マジかー。いったい何日かかるやら。つーか吸うなよ!オレの魔力吸うなよ!!
どうやら腹が減ったらしく、例のヒヨコがオレから魔力を吸い取っている。
「ちょっとアーチェ、こいつに魔力あげてくれ」
「え?どうすればいいの?」
「ちょっと手をかかげてだな…」
ひとまずヒヨコはアーチェに預けて、
「しかし、あんなのどうやって運び出したんだ?」
「そりゃ、王家の秘宝のマジックバックですわ」
アステリアの迷宮でも大活躍だった例の四次元ポケットか。そういや黒騎士さんも持ってたな。オレにも一個くれねーかなー。
「ファンレーシアはマジックバックいっぱい持ってるの?」
「私と迷宮管理者のプレミセンス、それと、宝物庫に一つの合計3個ありますわ」
「えーと、迷宮攻略の報酬とか出たりとかー…」
「あら、いよいよこの国を?」
「いらねーよ!やめろよ!!回りの貴族がえらい顔してるだろ!」
こんなとこでとんでもないこと言うなよ!また闇討ちされたらどうすんだ!
「それでは何をお望みで?」
「いや、ほら、そのマジックバック一個余ってんなら貰えないかなーと」
女王様は一瞬驚いた顔をし、それからすぐ微笑みを浮かべ…やっぱ望みが高すぎか?
「ほんとに欲のない方ですね…よろしいですわよ。なんならそれ一個といわず」
「いや、それだけでいいから、もう変な事言わないでよ?」
それからオレは上空の魔石を見上げ、
「それにしても、あの魔石使って魔方陣仕上げるとなると数日掛かりそうなんだけど、どっか泊めてくれるとこある?」
オレの魔力少ねーからなあ。
「あら、もちろん王宮にお泊り頂きますわ」
「しかし、このホール全体か、となると我がアステリアも同等の広さが必要ということだな。ふむ、どこがいいか」
アルシュラン陛下がそう言って思案する。
「同じ王宮のメインホールでいいんじゃない?ついでに誰にでもメインホールまで入れるようにしたらどう。せっかくいいもの飾ってるのに皆に見てもらえなきゃ宝の持ち腐れじゃね。もちろん治安には気をつける必要はあるけど」
「ふむ、そうだな。ファンレーシアがメインホールなら、我が国も同等にせねばな。しかし、ファンレーシアと我が国が自由に行き来できるようになるか…」
人と物の行き来が多くなれば経済が潤う、どっかのえらもんさんがそう言ってたぜ?せっかくの移転装置、どんどん使わなきゃ損だろう。
「じゃあさっそく、アレ落とさないとねー」
「おい、やめっ!「あれ?魔法が発動しない…」」
発動したらやってたのかよ!やめろよ、下の人死ぬだろ?
しかし発動しないとな?おお、魔力が0になってら。
これは…このヒヨコのおかげか!?ピヨ子様!これからは救世主ピヨ子様とお呼びせねば!!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「あれがメドゥーサ…いまいち脅威が分からんな」
立体映像でメドゥーサとの戦闘シーンを上映したのだが、登場シーンこそ盛り上がっていたのだが、実際の戦闘シーンになるとみんな静まり返っていた。
「ずいぶん余裕そうではないか」
「えっ、最初にセイカが石化しそうになっただろ?」
「それ以外はピンチらしいピンチもないし…」
そういやそうだな。メドゥーサって結局強かったのかどうか不明だな。邪眼無効にして、安全地帯から弓撃って、弱ったところをたこ殴り。うむ、改めて見ると、ひでーなこれ。
「まあ、ソーヤだもの仕方がないわねー」
「そうだな」
どういう評価だよ?今回オレ頑張ってるだろ?
「安地から弓撃ってるだけじゃない?」
「いやいや、ほら魔方陣セットしたり」
「それ、苦労したの?」
あれ?オレあんま頑張ってないか?あれ…?
「まあ、この魔石が神話級モンスターのメドゥーサの物だとはっきり致しましたね」
「そうだな。あと、たぶんラスボスと思われる2匹のヒヨコだけど、1匹はオレが貰うんでいいよね」
「と言うより2匹とも預かって欲しいのだが」
ダメだよ育児放棄は。それ黒騎士さんがテイマーしたんだからきちんと最後まで面倒みないと。
「私の意志でなかったような気がするのだが…?」
「ちゃんとテイマー、テイマーって言ってただろ?」
「テイマーってなんだ?」
…まあ、終わったことは仕方ない。ガンバレ!
「そうですわね。ぜひプレミセンズには、頑張ってその子を我が国の守護獣として育ててもらいませんとね」
「できるのだろうか…」
諦めたらそこで終わりですよ?えらい人が言ってたよ?
「それではいよいよ、本日のメインイベントへ移りましょうか!」
いい笑顔で女王様が言ってくる。
「やっぱ、やるの?」
「もちろん!」
そして、急にホールが暗くなったかと思うと…オレとアーチェにスポットライトが照射されてきた。
目の前には真っ赤なバージンロード…その両サイドを輝く光のオーロラが囲んでいる。演出すげーな。
オレとアーチェが一歩進むごとに、足元から波紋のように輝く円が描かれていく。
「すごいでおじゃるな。兄上!麻呂の式はもっと立派なのして欲しいでおじゃる!」
「まかしておけ。我が国の技術の粋を集めた式にして見せよう。どうだ空中神殿とか」
変なフラグはよして下さい。それきっと落ちるフラグ。
と、中ほどまで来たとき、不意にオレとアーチェが光に包まれ…光が収まるとそれまで来ていた冒険者風の服装でなく、立派なウェディングドレスとタキシードとなっていた。
これも魔法か、うわ本物だ、どうやったんだろ。
「綺麗ねー。私こんな服着るの初めて」
そう何回もあるもんじゃねーだろ?しかし、服装の所為か、アーチェがやけにかわいく見えるなー。こいつちゃんとすれば結構な美人なんじゃ?
「アーチェはいいなあ…ボクも着たいなぁ」
男は着れねーからな。
そしてとうとう神父の前まで着き、
「それでは互いに永遠の愛を誓って頂きます」
神父さんがそう言ってくる。
「アーチェス・アングローバー、あなたは、ソーヤ・アングローバーを永遠に愛することを誓いますか」
「誓います」
「ソーヤ・アングローバー、あなたは、アーチェス・アングローバーを永遠に愛することを誓いますか」
「ねえ、ソーヤ。ほんとに嫌ならやめてもいいのよ。私は別に一緒にさえ居れればそれでいいんだから…」
そう言って不安そうな顔を向けてくる。アーチェの不安そうな顔って始めて見たな。いつも自信満々で、やることなすこと…まあ、オレはそんなアーチェが好きなんだがな。
「別にアーチェとその…一緒になりたくないなんて一回も言ってないだろ?」
「じゃあ、どうして嫌がるの?」
「まだまだお前も子供だろ。子供の頃の想いってのは、シャボン玉のようにふわふわしてて、簡単にはじけて消えるもんだ。きちんと大人になったとき、そのときに改めて思い直してからでも遅くはないんじゃないかと思ってな」
「バカねぇ。はじけて消えるくらいの想いなら誰も苦労しないわよ。ソーヤって大人びているようで、女心ってものが分かってないわねー」
そうか?まあ、今も昔も彼女なんてできたことないしなあ。
「誓うよアーチェ、オレも…その…アーチェのこと…好きだと思ってる」
「ソーヤ…!」
アーチェは目に涙を浮かべ、
「それでは誓いのキスを」
そして、オレとアーチェの唇が重なり…殴り飛ばされた!
「何すんのよ!!」
ええっ!なんで?どうして?
さっきまでのいい雰囲気はいったい?
あれ?なんかアーチェ縮んでないか?というより服装が変わって…いや、景色も…ここは…アステリアの王都じゃないか!どうなってんだ?
これも魔法の仕業か?女王様、これはいったいどんな演出??




