第二章 バトル開始!
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
だいぶ文字の読み書きもできるようになったある日、
「けっ、村長の家は裕福でいいよなあ!」
その日の勉強も終わり、魔法の練習してアスレチックで体を鍛えてたところ、これぞ猟師ってかっこした子供の一団が現われた。
「こんな立派な遊び道具買ってもらって、俺らが仕事してる時に遊びほうけてるってなあ!」
その一団のリーダーらしき人物が声を張り上げている。
10歳は越えているか?まだ成人はしてないよな。
「おい、なんとか言えよ」
「なんとか」
「ふざけてんのか!!」
「うるさいわね、あなた達何?」
「俺達はこの村の猟師をしているものだ。猟だけじゃなく、村の守りを担ってんだぜ」
リーダーの取り巻きらしい奴がそう言って胸をはった。
これはあれか?オレ達が村長権限でこの道具を買ってもらって遊んでいると思っているのか。
まあ、遊んでいる事は否定しないが。
「俺達から巻き上げた収入をこんなことに使ってるってなあ、まったくたまったもんじゃないぜ」
そう言うと近くの遊具を蹴り上げた。
「いてっ、なんだこの硬さは…土じゃねえのか?」
さて、どうしたものか。
どうせオレらが作ったっていっても信用しないだろうし、魔法を見せるのも良くないしなあ。
二人には魔法が使えることは回りには内緒にしてもらっている。
ばれると碌な事になりそうにないしな。
と、悩んでいると、
「何すんよの、せっかく私が作った物に蹴り入れるとはいい度胸ね!」
そう言うとアーチェはリーダーを蹴飛ばした。…身体強化の魔法を使って。
おい、リーダーすっ飛んだぞ。子供の喧嘩に魔法を使うなよ。
「ちょ、ちょっとアーチェやりすぎだよ」
ユーリが慌ててリーダーを助け起こす。うん、ユーリは優しいな。
アーチェももっとこう、なんていうか…嫁の貰い手なくなるぞ。
リーダーさんもまさか女の子に吹っ飛ばされるとは思ってなかったらしく、目を白黒させている。
「まあ、なんていうか、これはそう、遊んでいる訳じゃないんだよ」
オレは一拍おいて、
「これは訓練なのだ、先ほどのアーチェの蹴りを見ただろ?この設備を使って村の発展に尽力できるよう、訓練を行っているんだよ」
「えっ、そうだったの?でも遊んでるのと変わらないよね」
「おい、いらんでいいこと言うなよ!」
ほんとアーチェはもう、ほんとにもう。
ほら、せっかく納得させれそうな雰囲気が台無しじゃないか。
「いやさすがにアーチェじゃないんだから、あれでごまかせないんじゃ…」
「なによ、私だとごまかせそうないい方ね!?」
「ふざけんなよ!どちらにしろ俺達から巻き上げた金でこんなの作ってんじゃねえか!」
「なんだったら君達も使う?」
「えっ、いいの」
取り巻き連中が期待した感じでそう言ったが、リーダーは、
「誰が使うかよ、おまえらも何言ってんだ」
「だっておもしろそうだったし…」
「俺の言うことが聞けねえのか!」
「いや、ごめんなさい…」
おいおい自分がそうだといって、回りまで巻き込むのはどうかと思うぞ。
おいまてアーチェ、それ以上動くなよ。
「だっていくらなんでも失礼すぎじゃない?あいつらまったく勘違いしてるし」
そう言ってアーチェがリーダを睨むと、
「ちっ、怪力女が…」
とか言いながらすごすごと退散していった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
それからしばらくして…
「こりゃまた派手にやられたな…」
今日もいつもの訓練場に来たら、みごとに遊具達がぼろぼろにされていた。
「…………っ」
「泣くなって、また作ればいいんだし、また土魔法が練習できると思えばいい」
オレはアーチェをなでながら、
「それに今度はどうやっても壊されない、もっと強度の高い物を作ればいい。以前ならこの程度だが、今ならもっといい物が作れるだろ」
そう続けた。
「…うん」
「元気のないアーチェは見ていて辛いな。ほら大丈夫だって、せっかくだからもっといい物作ろうぜ」
「…うん、うん」
「アーチェばかりずるいよ、ボクだって落ち込んでるんだから」
オレは両手で二人をなでて、
「そうだな、よし、土魔法以外にも結界魔法を勉強しよう。結界を張ってオレ達以外が入れないようにすればいい」
「えっ、新しい魔法教えてくれるの?」
急に元気になったな。
しかし、どうやって壊したんだこれ。ちょっとやそっとじゃ壊れないぐらい硬かったんだが。
オレは壊れた遊具をよく観察してみた。
「ん、なんだか動物の毛がいっぱい落ちてるな。というかこれ歯型じゃないか」
壊れた遊具には無数の歯型や爪痕がついてた。
こないだのガキどもの仕業かと思ったんだが、動物の仕業か?
そういやこのあたりの魔物状況ってどんなんだ?
「これは…もしかして魔物の仕業…」
ユーリも同じ考えみたいだな。
「このあたりって魔物が出るのか?」
「出ないこともないけど、さすがにこんなに村の近くに出ることはめったにないよ」
「なにがめったにないだ?誰のおかげでめったに出ないと思ってんだ!」
突然こないだの猟師の子供達が現われた。
「俺達が猟と同時に魔物退治をしてるからここは平和でいられんだぞ!」
「そうだ、そうだ、遊んでばかりいるお前達とは違うんだよ」
「これは、あなた達のせいなの…」
「な、なんだよ、お、俺たちのせいって証拠があるのかよ」
リーダーさんは随分アーチェにびびってるな。しかし、これ魔物にしても数が尋常じゃないぞ。
この数が村に入り込んでるってことは、やばいんじゃないのか?
と、その時、
「「グルルル…」」
「「グギャギャ…」」
「おい、お前達すぐそこを離れろ!」
くっ、間に合うか、『エアブラストっ!!』
突然狼のようなモンスターが子供達の後ろから現われた。
先頭の狼もどきが子供達に襲い掛かりそうになったところを、かじろうてエアブラストで迎撃する。
しかし、オレの魔力じゃそんなに深い傷にはなっていないようだ。
「な、なんだこれ、俺達が追い込んだのは子供ワーウルフ一匹だけだぞ」
「おい、お前らなんてことしてんだよ!」
魔物の好物は魔素だ。魔素は空気中に散布されている空気に含まれている。
だがそれ以外に、魔法で作った物、すなわちオレ達が作った遊具にふんだんに含まれている。
たぶん味を占めた子供が親を連れて来たか…
くっ、あいかわらずオレは考えなしか…
「まずいな、おいこっちに固まれ、とりあえず結界を張る」
「結界、何言ってんだお前…」
「いいから言うことを聞けって!」
とりあえず子供達を集めて結界を張る。しかし応急処置にしかならない。
「アーチェ、今ので結界の魔法の原理分かったか?」
「分かる訳ないじゃない」
「だよな」
こうなると今まで攻撃魔法を教えていなかったのが裏目に出たな。
ちなみに今のでオレの魔力はゼロだ。
「おまえら魔物退治とかしてんのか?あれを倒す事とかできるか?」
「むむむ…ムリ。俺達まだ魔物なんて倒したことないんだ。おれの父ちゃんならなんてこともないんだろうけど…」
そうだと思ったよ。しかしこの結界いつまでもつか。奴等の体当たりでだいぶ明滅してるな。
「ううう…、俺が出る!俺が奴らをなんとかするから、その隙に逃げろ!」
お、いいこと言うね。伊達にリーダーしてないな。
「元はといえば俺のせいだ、こんなことになるなんて…」
泣きながら言うなよ。これはオレのせいでもある。というかこのままだったらいつかとんでもない奴らをおびき寄せたかもしれない。
むしろこいつらには感謝しないとな。
だから、この場はオレがなんとかする!
自分の馬鹿さ加減にも辟易するが、それに巻き込む訳にはいかない。
魔力はゼロ。武器無し。敵は多数。今オレにできることは…
「アーチェ、ユーリ武器を作ってくれ」
「えっ、どうやって?」
「長い棒を作って先端を尖らせてくれ。それをそうだな、それぞれ2本づつ作ってくれ」
「う、うん」
「で、できたよ」
「よし、それじゃ次に、村長さん家の2階にある東の本棚にだな…」
「う、うん」
「メガヒールの魔法の書がある。リザレクションほど万能じゃないが、ある程度の欠損も補える」
「う、うん?」
「メガヒールはヒールの上位版だ、ヒールは何度も使ったな。基本は同じだ、後はありったけの魔力をつぎ込み、詠唱も本に載ってるからなんとかなるだろ」
詠唱は魔法をサポートしてくれる。多少理解が追い付いてなくても、魔法が使える所以だ。
「よし、頼んだぞ」
そう言うとオレは結界を飛び出した。
敵は4対、それぞれの頭にこいつをぶっさしてやる。
一匹がオレのふくらはぎに噛み付いた。
そうだろうよ、まずは足を狙って来るよな。
オレは躊躇せず先端に魔力を集めた一撃を頭に突き刺した。
こっちに噛みつくってことはそっちの足も止まるってことだろ。
もう一匹がのど元に迫る。
さすがに急所はやばい。とっさに横に交わし倒れながら頭を狙う。
なんとか二匹目も倒し、残り二匹。
さすがにやたらに飛びかかって来ないか…。
「おい、お前らちゃんとアーチェとユーリを抑えとけ。内側からのダメージでも結界は壊れるぞ」
「ソーヤ!バカ、このバカ!!」
「ちょっと、離して、離してよ!」
その時、突然結界が壊れた!
「な、後ろにもまだ居たのか!」
そこには、後ろからアーチェに飛び掛ろうとした狼もどきが。
オレはとっさに、エアブラストを力の限り発動させた。
発動したエアブラストはなんとか狼もどきの首を切断した。
しかし代償は大きい。魔力ゼロから魔法を使うと魔力の換わりに体力、いわゆる生命力を消費する。
しかもとっさで結構ごっそりいった。
ふらつき倒れるオレに、残り二匹がここぞとばかりに食いついて来る。
どうにか急所ははずしたが、右肩と左腕に食いつかれて、動きが取れない。
「ソ、ソーヤ!っく、『エアブラストー!!』」
「ソーヤを離せっ、このっ」
アーチェが見よう見真似でエアブラストを発動させた。さすがアーチェだな。
ユーリもオレがやったように槍の先端に魔力をまとい狼もどきに攻撃する。
『ヒール!ヒール!!』
狼もどきを倒した二人はオレにヒールをかけてくる。
しかし、肩の傷は大きくただのヒールでは止血にもならない。
「ど、どうすればいいの!?」
「とにかく家まで運ぶぞ!」
そう言うとリーダーはオレを担ぎ走り出した。
そこでオレの意識は途切れることとなった。
◆◆◇◇ 視点変更◇村長さん ◇◇◆◆
こ、これはなんということだ。
娘達が帰って来たと思ったら、みんな血だらけになっている。
「何があったのだ!?」
「ワーウルフが出たのです!」
「な、なんだってぇ!?」
私は慌てて子供達の状態を見る。
「アーチェは!アーチェは大丈夫なのか!!」
「うん、私は大丈夫。でもソーヤが大変なの!」
「ボク、メガヒールの魔法書を取ってくる」
「うんお願い。私はこのままヒールを続けてる」
えっ、ヒール?えっ、なにそれ、どうして光ってんの?
私はとても混乱していた。
「村長さんすまない!、俺が馬鹿なばかりに!」
「君はローバンさんのとこの…」
「村長さんがせっかく作った訓練施設を遊具と勘違いして壊したばかりか、魔物まで引き入れてしまった…」
ん?私が作った訓練施設?なんのことだ?
というかどうして娘が魔法使えてるの?誰か説明して?
「持ってきたよアーチェ、これでどう?」
「ありがと、とりあえず見てみる。ヒールお願い」
そういと娘はユーリ君が持ってきた書物を読み出した。
えっ、君も魔法使えるの?
「どれ、どれがそうなの…っく、もう見たこともない魔法なんて当てにできないわね…」
そう言うと娘は、
「ユーリちょっとどいて、リザレクション試してみる」
「えっ、できるの?」
「さんざん見せてもらってんだよ、ここで使えなきゃ何のための魔法なの!」
えっ、リザレクション?神帝国の聖女だけが使えるといわれる、あの伝説の魔法の事?違うよね?うちの娘がそんなことできるはずないよね?
娘に光が集まって来る。とても神々しい。
「ちがう、こんな感じじゃない。これはヒール。もっと違った…そうこんな…」
「よし、ボクも試してみる」
「「いくよ」」 『『リザレクション!!』』
娘達からソーヤ君に光が注がれる。すると時間を戻したかのように傷口が閉じていく。まさに語り継がれているリザレクションの魔法のようだ。
あっというまに傷がふさがり、同時に血でよごれた体も綺麗になっていく。
これこそまさに状態を戻す魔法、リザレクションそのものだ。
「で、できたあ…」
「いやいやできたじゃないよ?どうしてできるの?」
「「なんとなく」」
魔法の原理形無しである。
……私も若い頃は魔法が使えないか、色々試行錯誤してみたものだ。
「というと、いつも勉強の後は魔法の練習をしていたと」
「はい、お父様」
「おまえが、お父様なんていう日が来るとなは…」
「あらやだ、ほほほ」
「お嬢様言葉はもういい!それよりこれからどうするかだな」
ほんとにどうするか。魔法が使えるということはこの村に置いておく訳にはいかないな。王都がそれに順ずるとこで匿ってもらうか。
「よく聞けアーチェ。魔法が使える子供というのは大変貴重なのだ」
「はい」
「このような村に居る事がばれれば、まず人攫いにあう」
「はい」
「ユーリ君も使えてたな、ということはソーヤ君も使えるのかね?」
「というか、ソーヤが魔法の師匠になるわね」
「えっ」
「ソーヤがいちばん最初に覚えて、それを私達が教わるって感じかな」
「そうなのかね?」
ユーリ君も頷いている。
「そう言えば君達が言ってた訓練施設というのは何かね」
私は猟師の子供達に問いかけた。
「森に入ったばかりのところにある、まるで遊具みたいなものをいっぱい置いている場所です」
ふむ、そんな物は私の記憶にないが?
「私は訓練施設など作った覚えはないぞ」
「ええ?ソーヤがそう言ってましたけど…?」
「どういうことかね」
「ああ、あれほんとは私達が作ったの」
「ええっ」
「ほらこんな感じで」
そいうと娘は先がとがった棒のようなものを丸い円盤のように変えていく。
「土魔法か!?」
「うん、そう。私達が2番目に教わったのがこれね」
「2番目?1番目は?」
「「回復魔法」」
そんな馬鹿な、回復魔法は最も難しいとされているのだぞ。
…まあ今更か、なんせリザレクション使えてるんだしな。
「ところで、アーチェたちが魔法が使えるの知っているの君達だけかね?」
「うん、ここに来るまで誰にも会わなかったしね」
「そうか、とりあえずは魔法が使えることは誰にも言わないでくれ」
「分かりました。おい、お前達もいいな」
「「はい」」
「もし何かあれば俺達が全力で守ります!」
「そういえば肝心なことを聞き忘れていたな。ワーウルフはどうしたのだ?至急討伐隊を組まなければな」
「ああ、それはもう私達が片付けたから。後は今後入ってくる可能性があるので、防備だけは調えないと」
え、倒したの?マジで?子供達だけで?
見回すとみんな頷いた。
「それは魔法とかで?」
「うん、私今日初めて攻撃魔法使ったの。今までずっと教えてくれなかったんだよねー」
そ、そうか、娘は攻撃魔法が使えなかったのか。うんグッジョブだなソーヤ君。しかし今後は使えるようになったんだよね…。
なんとかに刃物にならなければいいが…。
「よ、よいか、回復魔法が使えるといって、簡単に人を傷つけてはならんぞ」
特に父をな!!